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[ 本格/新本格 ]
砂の碑銘
森村誠一 出版月: 1976年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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実業之日本社
1976年01月

角川書店
1979年04月

集英社
2010年04月

No.1 6点 人並由真 2021/05/09 15:20
(ネタバレなし)
 若手OLの貴浦志鶴子は両親の愛情を実感しながらも、幼いころのおぼろげな記憶から、もしや自分は養女では? との疑念をひそかに抱き続けていた。そんな志鶴子はある朝、満員電車のなかで女スリが男性の懐中に手を伸ばす現場を目撃。男性に犯行を気づかれた女スリは痴漢の被害者を装うが、男性は志鶴子の証言で潔白が認められた。男性=露木捨吉は志鶴子にお礼を言うが、その口調のなかの方言は、志鶴子の秘めた記憶に結びつくものだった。露木から改めて情報を得ようとする志鶴子だが、そんな矢先、彼が何者かに殺害される。

 角川文庫版で読了。
 本作はやや短めの長編で、元版の実業之日本社版の時点から、中編『殺意の航跡』が併録されている。
(のちに角川文庫、飛天文庫、廣済堂文庫、青樹社文庫、集英社文庫と5つの版元から刊行されるが、廣済堂文庫と青樹社文庫は『殺意の航跡』を収録しないで『砂の碑銘』単品のみ。)

 新宿署警察の刑事コンビが、捜査に介入したい志鶴子の希望に非公式に融通を利かせたり、遠方の地に赴いての突発的な事件の発生など、いくつか大小の局面において作劇の強引さは感じる。
 とはいえフィクションだからいいんじゃない、の一言でギリギリ片付けられる範疇……かもしれない?
 ジェットコースターのような展開で、最後のまとめ方を含めて、ああやっぱりモリムラ作品だなあ、という印象。好き嫌いをあとから言うのなら当初から手に取らなければいいのだし、少なくとも作者的には、最後までやりきった作品ではあろう。
(まあその上で、強引な力技を随所にやっぱり感じるんだけどね。)

 今回いっしょに読んだ『殺意の航跡』は一種の倒叙ものだが、途中でいきなり物語の視点が変わってお話に弾みをつける辺りは、やはりちょっとうまい。日本版ヒッチコックマガジンに掲載されていた、やや長めのオチがある(スレッサー風の)作品という食感で、推理小説要素は薄いが、ミステリとしてはそれなりに面白いかも。

『砂の碑銘』と『殺意の航跡』ともにある主題が似通うようで、元版の時点からその共通項ゆえにいっしょにまとめられたんだろうね。


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森村誠一
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