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[ 警察小説 ]
猟鬼
ダニーロフ&カウリーシリーズ
ブライアン・フリーマントル 出版月: 1998年09月 平均: 8.00点 書評数: 1件

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新潮社
1998年09月

No.1 8点 Tetchy 2009/04/17 22:32
ダニーロフ&カウリーシリーズ第1作目。
アメリカの政治原理とロシアの政治原理が交錯するやり取りは正にフリーマントルの真骨頂なのだが、今回はそれだけでなく、全編に事件解決の手掛かりが周到に散りばめられている、一種本格ミステリの要素も含まれている。
ここにフリーマントルのこのシリーズに賭ける意気込み、並々ならぬ創作意欲の迸りをびしびし感じた。まさに記念すべき新シリーズの幕開けだと云える1作だ。

今回、作者フリーマントルがロシア民警の警官とFBIエージェントを組ませて捜査を行うこの設定を思いついたのは単純に犬猿の仲とも云える相反する両国のミスマッチの妙と、水と油の関係の二国のそれぞれに属する者同士が国の利害を超え、結ばれる友情を描きたかった、それだけではないだろう。
90年代後半に起きたソ連の民主化政策、グラスノスチとペレストロイカという二大ムーヴメントによってもたらされた欧米的生活様式と価値観。それはまた同時に犯罪の欧米化を促す事でもあったのだ。
従って、今まで官吏が独裁的に行う犯罪捜査では解決しえない類いの犯罪も頻発する可能性があり、それを解決すべく東側もアメリカ式の犯罪捜査システムの導入が必要になる。こういった洞察からこの二国間のそれぞれの腕利きが協力し合うという構想が具体化していったに違いない。これこそ、フリーマントルの素晴らしき慧眼だといえる。

しかしそれにも増して物語に深みを与えるのが主人公2人の私生活に落とす翳だ。
英雄足りうる彼らも人並みに失恋し、不倫もするし、家庭内の不和という問題も抱える。それらがビシバシ情感に訴えてくる。

猟奇殺人事件のみならず、ロシア・アメリカ両国の政府に歴然と存在する政治原理のギャップ。そして主人公2人の苦悩など、読み応え抜群の1冊。


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