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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
クラウド・テロリスト
ブライアン・フリーマントル 出版月: 2017年07月 平均: 4.00点 書評数: 1件

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新潮社
2017年07月

No.1 4点 Tetchy 2017/09/20 23:50
御歳81歳のフリーマントルが2015年に発表したのはなんとサイバー空間を利用した対テロ工作を駆使するNSAのエリート局員ジャック・アーヴァインが率いる面々の活躍を描いた本作だ。当時79歳の高齢にもかかわらず、最先端の情報端末を駆使したこのような作品を書くフリーマントルの創作意欲の旺盛さにまず驚いた。

冒頭でも語られているがオサマ・ビン・ラディンが率いていたアルカイダが情報交換のツールとして使用していたのは今や誰もが利用しているSNSのフェイスブックだった。この全世界数億人が利用するSNSは彼らにとって絶好の隠れ蓑になっていたことが本書でも語られている。なんとアメリカの一企業が、正確には一青年が開発したSNSが敵対者であるアラブ系テロリストにとってこの上ない便利な通信手段になっていたとはなんとも皮肉なことである。

さて物語の中心に据えられている<サイバー・シェパード作戦>。これはサイバー空間でテロリストの一味に成りすまし、テロリスト同士を情報操作によって戦わせて共食いさせるという、いわば現代版『血の収穫』である。しかしそのためには政府の職員であるNSA職員が隠密裏にハッカー行為をして他国のサーバーに侵入するという違法行為を犯すという実に危うい作戦であり、その事実が発覚すれば各国からの非難は免れない代物だ。本書ではイランの諜報機関のサーバーに侵入してテロリストの動向を監視し、CIAが取り逃がしたテロリスト、アル・アスワミーの足取りを探っているが、これは実際に起きたCIA、NSA局員であったエドワード・スノーデンによる2013年にNSAや英国のGCHQがマイクロソフト、グーグル、フェイスブックを監視していたことが発覚した<プリズム計画>、<テンポラ作戦>事件に着想を得ていることだろう。作中でもそのことについては言及されているが、それを踏まえながらも同様のことをしていることが結局米英政府は懲りていないということで、我々は今なお監視下に置かれていることが仄めかされている。

しかしこんなにも短気な連中ばかりが出てくる小説だっただろうか、フリーマントルの作品は。ディベートや会議のシーンでは常に自分の保身のために相手を罵倒し、責任転嫁の怒号が飛び交う。会話文にはエクスクラメーション・マークが散見され、心中で悪づく地の文が必ずと云って挟まれている。ほとんど建設的な意見が見られず、失敗が起きた時のために着かず離れずの状態にしておきたい連中ばかりだ。それはアメリカ側のみならずイギリス側も同様で、自分を通さずに話が上に成されることに腹を立て、足を引っ張ろうと画策する。外部に敵あれば内部にも敵ありの状態。更にお決まりの如くCIA中心の捜査にFBIも介入してきて水を差し、更にCIAの面々の頭に血を登らせ、怒鳴り声が乱舞する。そんな中、失敗の責任を取らされ、無能の烙印を押され、権力の座から落とされる者、有事の時の責任転嫁のためだけに事務屋として窓際にいることを強いられる者と落伍者たちが増えていく。
内部抗争と、ライバル視する国同士の争いに筆が注がれ、本来の敵であるアルカイダのリーダーはなかなか捕まらないという、なんとも不毛な展開が続く。フリーマントルも歳を取って癇癪が過ぎるようになったのだろうか。とにかくページを捲ればケンカや諍いばかりで、正直読んでいて気分が良くなかった。

しかしサイバー空間での諜報活動とテロリストとの攻防を描きながらも、上に書いたように内部抗争の権謀詐術の数々に筆が割かれているのはいつもと同じである。いや逆に今回は情報戦であるがゆえにいつもよりも情報が多く、それに下らない抗争が上乗せされている分、かなり苦痛を強いられた。敢えて苦言を呈するならば、やっていることは同じで題材と登場人物を替えただけであるとの思いが強く残ってしまった。

80歳を迎えて健筆を振るうフリーマントルの創作意欲には感服するが、もし次作があるなら、爽快な、もしくは少しは心温まる結末を迎える物語を読みたいものである。


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