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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
メグストン計画
アンドリュウ・ガーヴ 出版月: 1958年04月 平均: 7.00点 書評数: 5件

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早川書房
1958年04月

No.5 7点 人並由真 2021/11/24 15:22
(ネタバレなし)
 1954年11月のロンドン。「わたし」こと38歳の海軍省の役人クライヴ・イーストンは、戦時中の知己だった今は40代半ばのウォルター・カウリイと再会する。クライヴは戦時中は海軍中佐で潜水艦の艦長であり、ウォルターはその艦に暖房装置を設置した技術者で、戦後は暖房器具業界で成功していた。クライヴにはかなり美貌のまだ20代の妻イザベルがおり、互いに情欲を覚えた彼女とクライヴはウォルターの目を盗む不倫関係になった。クライヴはイザベルを寝取って伴侶としたい欲求に駆られるが、それには多額の金が必要だ。クライヴはイザベルの提言から、自分が海軍省の機密書類を抱えて、わざと人里離れた場所に遭難し、マスコミのスパイ疑惑を誘導、のちに無事に帰還してマスコミ各社に名誉棄損の名目で多額の賠償金を請求する計画を思いつく。

 1956年の英国作品。
 早川書房の名ミステリエッセイ集『深夜の散歩』でも、ガーヴの当時の代表作(翻訳刊行リアルタイムでの話題作にして秀作)として取り上げられた長編。
 少年時代に初めてその「深夜の散歩」の当該の文章に触れた際には「要は主人公が(マスコミの誤解の舌禍に遭った)被害者を装う訳だな? ずいぶんややこしい事をする」と思った記憶がある。さすがに現在ではそんなに複雑な詐偽計画だとは思わないが、このアイデアの妙なインパクトは今でも変わらない。

 そういう意味で読む前から印象の強い「名作」なので、今日までなんとなく大事に? とっていたが、気が向いたので手に取り、一晩で読了。まあ紙幅はポケミスで200ページ足らずだし、福島正実訳のガーヴだからリーダビリティは最強ではある。
 
 本サイトの先行レビューをうかがうに、評価のポイントは中盤の作為的な遭難状況での冒険の日々、その描写が買われているようだ。で、評者も、もちろんその部分の読みごたえに関して、異論はない。
 ただし個人的には、ガーヴの作品をそれなりにすでに数読んで、作者のいかにも英国作家らしい冒険小説志向の部分は知悉しているつもりなので、さほどのインプレッシヴは感じなかった。
 むしろ本作の妙味は、やはりこのハナシの大設定となる、スキャンダルの被害者を装った詐欺犯罪の遂行とその顛末、という倒叙・クライムストーリー的な流れの方にある。実際、周到に念入りに、(ある意味ぶっとんだ)犯罪計画の細部を詰めて組み立てていくあたりは、ほとんど出来がいい時のクロフツの倒叙もの。(自分は、本サイトでのジャンル投票で迷わず「クライム/倒叙」に一票を投じたが、これまで誰もソコに投票してないのにビックリした!!)
 そーいえば、物語の後半に特に大きな筋立て上の必然も感じられず「クロイドン」の地名が登場した。作者ガーヴから先輩作家への表敬のアイコンと見るのは勘ぐりすぎか?

 後半に登場する<悪事を暴く探偵役>のキャラクター造形もなかなか面白く、主人公クライヴとの妙に生々しいというか、変にドラマチックな関係性も印象的だった。そしてそんな相手の疑念を深めるきっかけになる、とある作中のリアルな事項も、実にクロフツの倒叙ものらしさ満点(もちろん、具体的にどういうものかは、ここでは書かないが)。
 終盤のシメとなるドラマ部分も他の作家が書きそうでなかなか書かない、という感じの妙なリアリティがあり、スナオに納得。
 多用なジャンルのミステリの興味を組み合わせたようなバランスの良さも含めて、たしかに名作といっていいだろう。まあガーヴの諸作の中では、これをあんまり早めに読むのではなく、ほかのフツーの巻き込まれ型サスペンススリラーとかを何冊か楽しんでから、これを手に取ってほしいというところもあるけれど。

 評点は8点でもいいけれど、まとまりの良すぎる面が妙に優等生感を抱かせる部分もあり、それでこの評点で。シンプルに面白いかつまらないかと言ったら、十分にオモシロイ。

No.4 7点 ことは 2019/08/29 00:54
きれいな3部構成。計画、実行、実行後。どこもよどみなく楽しく読める。
2部の冒険小説風の味がカーヴなんだろうなぁ。冒険小説はそんなに好きでない私でも楽しめた。
(ジャンル投票は冒険小説にしました)
ラストは、ささっと終わる。これもカーヴ印。
うん、楽しい。ガーヴの特徴がでているという意味で、確かに代表作。でも、これが代表作だとインパクトは薄いかなぁ。ガーヴがメジャーにならないのはその辺りにあるのかなぁ。

No.3 7点 クリスティ再読 2017/03/19 17:14
1950年代ってのは、パズラーは時代遅れだし、ハードボイルドも大衆化しちゃって拡散しているし、スパイ小説のビッグウェーブはまだ少し先..と谷間のちょっと難しい時期(その代わりSFが黄金期。本作の訳者は「SFの鬼」福島正美だ。ポケミスでのガーヴ紹介はどうやら福島正実が力を入れていたようだ)だったわけだけど、いろいろとジャンルミックスとかあって面白い作品は面白かったわけである。そういう50年代ならではの面白作品の定番として、挙げる人が多いのがガーヴの本作と「ギャラウェイ事件」という印象がある。
本作はガーヴお得意の悪女+海洋冒険小説+コンゲームというジャンルミックスで、鉄板の面白さを誇る。久々再読したけど、ツルツルと読めること読めること、あっという間に読了。ストーリーテリングのうまさは天性で、ノンストップで楽しめるタイプの作品。
ガーヴは面白いけど、今は出版に恵まれない(本作もポケミスで出たきり。再版はある)のは、やはり日本のミステリファンの過剰なジャンル意識によるもののような気がする(「ヒルダ」が文庫で何度も出てるのは「ミステリらしい」からね、あれは)。ジャンルミックスでジャンルを決めづらい作品ってどうも不利なんだね。

No.2 7点 斎藤警部 2016/09/20 09:56
“それは、私にとっても、空前絶後のモノローグだった。”

ちょいワルのクロフツみたいな。。海洋(近海)をマタにかけた、悪女に唆されての名誉毀損詐欺サスペンス。昔「ロス疑惑(三浦和義事件)」が世間を賑わせ始めた頃、この作品(粗筋だけ知ってた)が脳裏を掠めたものである。。。 読後振り返りゃ色んな所が随分甘いんだけど、読んでる間、特に主人公が無人島で過ごす一つのハイライトシーン(孤独な営為の描写はなかなか)の間は、読者にも見えない「対岸側」の経緯がふんだんに溢れている様に思えてしまうが故に、主人公を待ち受けるありとあらゆる陥穽の可能性が妄想花吹雪ファストクルージング状態、なわけで中盤のサスペンスは充分。だからこそ面白い。「ヒルダ」と違ってこれは好みだ。

エンディングは意外や意外ですね。。。ミステリ的にグッと来る類のとはちょっと違いますが、飽くまで小説として、なかなか。


【ちょいとネタバレ】
タイトル”THE MEGSTONE PLOT”は見え見えのダブル・ミーニング(それ以上の深い踏み込みはこの作家には無さそう)に違いない、とずっと思っていたら、、まさかそこすら行かないまんまのシングル・ミーニングだったとは!あらためてガーヴさんの心地よい甘さを実感。しかしサスペンスは充分だったから文句は無い。


関係ないけどMEGって歌手かなり好きだったなあ懐かしや、、 というか中田ヤスタカの楽曲が良かったんだけど。ガーヴの作風じゃないけど「甘い贅沢」なんてのが代表曲。

No.1 7点 こう 2008/09/10 23:45
 これも推理の余地のない展開、ストーリーを楽しむ類の作品ですが面白かったです。
 第二次大戦で勇名を馳せるも戦後は一介の役人で一攫千金をただ夢見ている男クライヴが主人公で彼は大金と金のかかる愛人を両方手に入れる方法を思い付く。
 「仕事上手に入る機密を置き忘れ、船で失踪する。新聞社にソ連に情報を売った、と書きたてられてから無事生還し名誉棄損の巨額の賠償請求をする」という奇策を思い付き実行に移すが、というストーリーです。流石に1956年の作品でテレビではなく新聞が主流であり東西冷戦が小道具に使われネタとして古すぎるのは難点でしょうが数あるスパイものとは違い現代でも通用するのでは、と個人的には考えています。
 スリラーといっても本当にのんびりしていますし恐怖感も感じず「甘い」展開などの難点はガーヴの他作品同様ですし本格的要素は全くなく推理の余地はありませんが、逆に全く推理せずに読むには十分面白いストーリーだと思います。
 悪女ものの一面もありますが典型的な悪女ものに比べれば大したことはありません。端的に褒める所が難しい作品、作家ですが昔のスリラーが合う方にはどれも合うのでは、と思います。


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