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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
兵士の館
アンドリュウ・ガーヴ 出版月: 1964年01月 平均: 6.00点 書評数: 3件

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早川書房
1964年01月

No.3 6点 クリスティ再読 2024/06/20 20:38
ガーヴといえばローカル色の強いネタに強みを発揮する、という美質があるわけだから、「ご当地ミステリの巨匠」とか言ってみたら面白いかも(苦笑)

今回の舞台はアイルランド。でケルト文明の遺跡を使った一大ページェントの陰に隠れてトンデモない陰謀が進行するこの話、巻き込まれ政治スリラーと言うカラーからは「地下洞」とか「レアンダの英雄」に近い話かもしれない。でも実際読んだ印象だと異常な脅迫者に操られる話に近いと見れば「道の果て」とか「黄金の褒章」に近いのかなあ...いや、ガーヴって話のバラエティはかなりある作家だけど、タッチにガーヴらしい共通点な「関心」が見えて、そういうあたりでも「安定のガーヴ」って感じがする。

けどさ、この作品の悪役は、アイルランドの愛国的独立運動になるから、IRAの過激派といえばそうかもしれない(まあ、IRAを当時名指しするのは政治的にマズいという判断もあるんだろうが)。それ以上に、評者が連想したのはアラブ過激派に脅されていいなりになるアンブラーの「グリーン・サークル事件」かもしれないな。でも、ガーヴらしさはそんな中にもファンタジックな味わいがあることで、これは「ガーヴらしい甘さ」とやや欠点のように語られがちな部分なんだけど、ヴィランらしいヴィランを立てるという面では、007とも近いかもしれないし、また本作の場合にはとくにケルト民族主義文化の背景で描かれることからも、ブラックバーンの「小人たちがこわいので」との共通性も感じたりする。

いや言いたいのは、イギリスの「スリラー」って、日本人は「中間的なジャンル」みたいに捉えがちで、曖昧なジャンル観でしか認識されないものだけども、こうやってガーヴ・アンブラー・ブラックバーン・007って横断して見た場合には、ちゃんとした「ジャンルとしての実態」があるものだとも感じるのだ。

No.2 7点 人並由真 2022/09/30 07:30
(ネタバレなし)
 アイルランド最大の考古学の宝庫といえる「タラの丘」。ダブリンの大学「ユニティ・カレッジ」の教授で35歳の考古学者ジェームズ・マガイアは、そこに眠る10世紀前後の遺跡「兵士の館」の発掘が悲願だった。だがそのためには相応の予算と人員の確保が必須であり、現実にはなかなか困難だった。そんなとき、地方紙「ダブリン・レコード」のハンサムな青年記者ショーン・コナーが登場。マガイアの話に関心を抱いた彼は、同紙の編集長リーアム・ドリスコルを動かして、発掘作業を後援するキャンペーン企画を提唱、推進。マガイアが夢見ていた発掘を現実のものとした。現地には資金が導入され、各地から作業員が集まる。だがそんな順風満帆に見えたマガイアには、想像もしていなかった現実が待っていた。

 英国の1962年作品。ガーヴがこの名義で書いた16番目の長編。この少し前の作品群が『レアンダの英雄』(大傑作)、『黄金の褒賞』(優秀作)、『遠い砂』(佳作)とおおむね良作揃いの時期だが、個人的にはこれも当たり。

 ちなみにガーヴのファン、あるいはとにかく素で本作を楽しみたいヒトは、ポケミスの裏表紙とか「ハヤカワ・ミステリ総解説目録」の本作の項とか、そういう余計なものはいっさい見ない方がいい。
 とにもかくにも「あのガーヴの、面白いかもしれない? 一冊」程度の認識が生じた方は、いきなり本文から読み始めることを、絶対にオススメする。

 そして読みながら思うのは、あー、これキングやらクーンツやらの後年の大冊系の作家に、この作品の話のネタで書かせたかったな~ということ。
 本当なら、急転直下の展開があるまで、もっともっと地味目に地味目に話を転がし続け、いい感じまでにテンションをタメておいてから、そのタイミングでストーリーをハジけさせたかった、そんな思いがほとばしるタイプの筋立てだ。
 
 とはいえもちろん、そういう構成の作劇では、もはやガーヴ作品の形質じゃなくなってしまうだろうし。ガーヴは2~3時間でサクサク読めて、それなり以上にほぼ一定して楽しめる職業作家。そっちでいい。
 で、改めて、ガーヴ作品はガーヴ作品らしく読もうと、そういう尺度で考えるんなら、個人的には本作は(本作も)けっこう面白かった。

 犯罪を企む者の思惟に関しては、当時の欧州の世相とかその手の事情が背景にあることは読み取れるが、かたや主人公マガイアとその周囲の者を動かすのは、雑駁な現実は現実として、ギリギリのところで流されかけるところを踏みとどまり、まっとうな人間として残りの人生を送りたいという、いかにも英国人の背骨めいた希求。これがいいじゃないか。

 さらに中盤以降の(中略)も、あらら……ガーヴって、こういう(中略)もできるんだね。これまでの諸作でアレだのナニだの、あまりにも強烈な(中略)が印象的だから、虚を突かれた思いだった。しかしそれがとても自然に決まってる。
 で、一番最後の(中略)。これがまた実に効果的な(中略)ですんごく心に響いた。某メインキャラクターの(中略)が劇的に(中略)するそのインパクトが絶大で、そしてそれが作品全体の味わいを大きく変えてしまう。

 読後に試みにTwitterで感想を拾うと、ガーヴの作品の中でこれがトップクラスにスキ、と言っている人がいて、自分はソコまではいかないものの、わかりますよ、その気持ち、という心情くらいにはなる(笑)。
 個人的にはガーヴの中では、けっこう上位の方だね。評点は、8点に近いこの点数で。

 ちなみに本作は深町さんの、ちゃんと本人の名前(「眞理子」じゃなく「真理子」だが)が最初に出た訳書だったらしい。はあ、最初から、デキる人のお仕事は達者なものですのう、という感じであった。もちろん原語=英語はわからないので、日本語としてのこなれ具合の意味でホメてるんだけど。

No.1 5点 ことは 2020/03/01 18:08
意識して読むと、これも3部構成。ちょうど転換点の事象が1/3,2/3で起きる。
今回の舞台設定はアイルランドの遺跡で、他の作品と比べると、ちょっと魅力が薄い。
他に今まで読んだ作品と少し違うのは、心理サスペンスというより社会派サスペンスといったほうがあう作風ということ。社会派風の部分が、ガーヴはつくりものめいてるなぁ。
主人公が戦うモチベーションが正義感だけなのも弱い。
ガーヴの中では、下の方だなぁ。


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アンドリュウ・ガーヴ
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