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[ サスペンス ]
遠い砂
アンドリュウ・ガーヴ 出版月: 1963年01月 平均: 6.40点 書評数: 5件

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早川書房
1963年01月

早川書房
1980年01月

No.5 6点 クリスティ再読 2022/12/11 20:43
つるつる読めて、安心・安定のガーヴ印。

いやどれ読んでもこの感想が変わらない(内容は全部違う)というあたりで、ホントの意味で凄い作家なんだけどもねえ。ガーヴと言えば「悪女」なんだけども、自分の得意ネタ「悪女」をうまくサスペンスのネタとして「使って」書いているあたり、さすがなものだと思うのだ。

(妻の一卵性双生児の姉)フェイは殺人者である。キャロル(妻)はフェイとまったく同一である。ゆえにキャロルは潜在的な殺人者である

この三段論法で主人公とキャロルの夫妻が、フェイの冤罪を晴らさなくては夫婦生活を続けられない事態に陥るのだけども、主人公が100%妻を信用できるわけではない(キャロルも夫殺しをする可能性?)疑惑から、一緒に捜査をしても意地悪なくらいに仮説を念入りにチェックすることになるのが、実のところガーヴの「本格っぽさ」に貢献していたりする。でもさあ、キャロルの推理って「妄想」といえば妄想だし、それに主人公が戸惑うのが興味の焦点。
いやいやそうしてみると、結構ガーヴって「パズラーっぽい論理」というものをやや皮肉な目で見ていたりするのかな...なんて感じるところもあるんだよ。

面白いのは間違いないし、オリジナリティもしっかり。サスペンスもイケているし、最後は例によって追っかけ。サクッとした軽さがいいといえばいいんだけども、ああそうか、「狙い」とはいえ、アマチュアの捜査があまりにすんなり行き過ぎるのが、貫目の軽さみたいなものなのかな。
「ガーヴ畢生の大作」なんての、読んでみたかった気もするんだ。

No.4 6点 人並由真 2020/08/13 22:56
(ネタバレなし)
 うーん。読み終えて、後味が良かったとも悪かったとも言えないタイプの作品だな、こりゃ。それで一種のネタバレになってしまうので(笑)。

 というわけで大ざっぱな言い方のみするのなら、それなり以上に面白かった(3時間でイッキ読み)が、中盤からの展開は力技すぎる。
 いやたぶん作者も、その辺の強引さは百も承知で、だからこそ前半~中盤にかけて、仮説のトライアル&エラーの積み重ねを前もって丁寧にやって、のちのちのための布石を張っておいたのだろうが。

 黄金期のヒッチコックが映画化していたら面白いものができたろうな。いや、映画独自の潤色であんまり付け加えるものがないから、ヒッチの食指が動かなかったかもしれない。

 ハヤカワミステリ文庫版271ページ目(最後の最後の方)の一幕は、とても良かった。

 評点は実質6.5点というところで。

追記:同文庫版209ページに登場する脇役の名が、ジャック・フィニイw 
 そして本書(このガーヴの『遠い砂』)の翻訳者はズバリ福島正実であった。なんか笑った。

No.3 8点 ことは 2019/08/29 01:07
これはいい。冒頭の出会いから風景描写がよくて、事件が起きるまでも楽しく読める。
事件発生から捜査の過程もスリリングで、主人公ふたりの葛藤も味がある。特に主人公のモチベーション(それは読者のモチベーションにも直結するけど)が、明快なのがいい。
「遠い砂」を読んで、「メグストン計画」「ギャラウエイ事件」を思い起こすと、あれらは主人公のモチベーションが弱いと思う。こっちのほうが好き。(福島正実訳好きとしては、それで数割増しているとは思うけど)
それに、ラストシーンはツボ。「ギャラウエイ事件」にもこういうエピローグが必要でしょ!
今のところガーヴで一番いい。

No.2 6点 pachio 2014/02/28 17:38
 双子姉妹の一人キャロルと結婚した外交官ジェームズ・レニスンは、妻の姉夫婦が不思議な状況で死んでしまう事件に遭遇する。警察は、姉が夫の財産目当てに殺害を企んだものと結論を出すが、そんなはずは無いと言い張るキャロルは、ジェームズと共に真相を探ろうとする。一方、ジェームズの脳裏には、姉と同様に妹のキャロルも財産目当てで結婚したのではないかと言う疑惑が沸き起こる。妻に対する疑惑と事件の真相究明、このふたつの要素が巧みなストーリーテリングで優れたサスペンス小説に仕立て上げられている。しかし、私は作品の舞台となるノーフォークの荒涼とした風景描写、終盤の潮流の中での格闘シーン、そして最後に明かされる事件の真相に、英国の冒険小説の香りを感じてうれしくなってしまった。

No.1 6点 2010/11/01 22:11
事件が起こって警部が説明するのを読んですぐ、そんなバカなことはあり得ないと思いました。ハンドバッグがヨットに置かれた経緯の問題で、これは誰でも気づくでしょう。その後その点について疑問を提示され、さらに説明を思いついた後でさえ、その自分自身の思いつきを主人公が信じず不安を感じているのには、少々あきれながらも読み進めることになったのですが。そんなわけで、サスペンスは渚での対決シーンを除いて全く感じませんでした。
フーダニットの原則からは大きく外れたところがありますが、写真についてのアイディアや犯人を絞り込んでいくところなど、意外に謎解きの捜査小説的な面も感じられる作品でした。そうは言っても、犯行方法にはやはりかなり無理があります。
なお真犯人の設定は、ホームズ(『生還』)の某作品の登場人物を思わせます。ガーヴ自身それは意識していたのかもしれません。


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アンドリュウ・ガーヴ
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