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アンドリュウ・ガーヴ 出版月: 1964年01月 平均: 5.67点 書評数: 3件

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早川書房
1964年01月

No.3 6点 クリスティ再読 2024/03/12 17:33
初読。皆さん同様、このトリックは知ってたな。しかし「どの作品で?」は知らなかった....それでも読んでたら、気がつくよ。ああ、あのトリックね、って。

でもねガーヴに甘い評者はそう印象が悪くない(苦笑)。原題が「Frame-Up」だから、これを「罠」と訳題にしたのは、時代柄仕方ないかもしれないが、あまり良い判断ではない。「でっちあげ」「フレームアップ」の虚実として読むと面白いし、またトリックのちょっとしたミスディレクションになっている個所もあって、妙味も感じる。
シンプルな謎解きストーリーだけど、ブレア警部とドーソン部長刑事が会話でしっかり推理を闘わせるあたりや、女性たちの悪女っぽさとか、抑え気味ではあるけども「ガーヴらしさ」はそれなりに出ている。

だから、ミステリを「トリック小説」として読んでしまうことで、作品としての面白味がかなり薄れてしまうというのを、評者は危惧する。宰太郎本の問題というのも、乱歩が始めた日本の「トリック偏重」の悪習の結果なんだと感じる。また、ガーヴが代表する英国スリラーと、日本では「クロフツ流」と捉えられる捜査小説と、「本格ミステリ」概念との微妙な関係性を評者は重視したいとも思うんだ。

No.2 6点 ことは 2020/04/19 23:05
これは驚き。完全に謎解きミステリ。
クロフツ風……、というより、鮎川哲也のほうが空気感が似ているかな。ガーヴ、こんなのも書けるんだ。
全編、会話が主体で軽快に読める。
トリックは確かに有名なのかも(知ってるし)。軽い謎解きミステリとして、なかなか好感触。
とはいっても、ガーブの味がなく、個性が薄いといえる。埋もれていってしまうのは、しかたないのかも。

No.1 5点 人並由真 2020/04/15 04:17
(ネタバレなし~途中まで)
 1963年11月のある日曜日の夜。ロンドン近隣の町ラドレッドで、65歳の画家ジョン・エドワード・ラムズデンが何者かに絞殺される。38歳の家政婦ケイシー・ボウエン未亡人の通報で警察が到着。やがてスコットランドヤードの主任警部チャールズ・ブレアと部長刑事ハリー・ドーソンが捜査を進めるなか、殺されたラムズデンが画家としては才能もなく稼ぎも乏しかったが、死別した妻の遺産をかなりの額、相続していた事実が明らかになる。さらにラムズデンはケイシーと再婚の予定だったこと、また甥の青年マイケル・ランスリーと、友人で画商のジョージ・オトウェイにそれぞれ万が一の場合、遺産を半分ずつ遺すつもりらしかったことも確認された。ブレア警部たちは複数の容疑者の動機と機会を洗っていくが、嫌疑の濃い者のなかにはどうしても崩せないアリバイがあった……!?

 1964年の英国作品。
 ガーヴらしい冒険小説、もしくはスリラー要素は皆無。サスペンス性も希薄なガチガチのパズラー(ただしライト級)で、クライマックスまではフーダニットの興味でひっぱり、最後の最後では嫌疑が固まった被疑者のアリバイ崩しものになる。





【以下、もしかしたらネタバレ~なるべく気をつけて書くけれど~】

 本作は前述のとおり、かなりストレートな謎解き捜査&アリバイ崩しもの。
 だが肝心のトリックが、藤原宰太郎の著作(「世界の名探偵50人」など)で、そこだけ抜粋して紹介されてかなり有名でもある。さらにこのトリックは日本でも一時期かなり話題になったようで「はたして本トリックは現実に実行可能なのか」と実験(テスト)を試みた推理文壇関係者もいたという記事を、別の場で読んだ覚えもある。
 本書『罠』を未読で、今後読むかもしれないor内容に関心がある人は、藤原センセのその手の著作を中心に、しっかり警戒することをオススメする。

 かたや評者なんかは中学~高校の少年時代からそんなネタバレの災禍に晒されていたため、もはや読む気もあまり湧かないなあ……という恒常的な気分だったが、そろそろまあ……くらいの心根で、このたび実作を手にとってみた。
 結局、やはり、トリックを先に知っていると真犯人は一瞬でわかってしまい、その辺をさっぴくとあまり賞味部分もない、全体的に痩せた作品。
 とはいえ素で読むと、最後までそのトリック=ハウダニットの興味に絞り込んでいく後半の盛り上げ方はけっこううまいんじゃないの? という思いも生じたりした。
 だからこれはもう本当に、まずは白紙の状態で手に取り、どうやって犯行したんだろうとハラハラし、そして最後に作者が用意したトリックを教えられ、「え、そんなことホントにできるの!?」と驚き感心する(いや、ムリだろとツッコんでもいいが)のが正しい読み方の作品なのだった。
 
 それでもって、あたりまえだけど、トリックをネタバラシしたのは藤原宰太郎(あるいはその同類のヒト)であって作者じゃないのだから、ガーヴにまったく罪はない。
 むしろとにもかくにも、よくもまあこんな印象的(確かに!)なトリックを創造し、盛り上げた演出で読ませてくれたと本作を書いたガーヴをホメるべき……なんだけど、そんな一方で、トリックしか価値がないような一発ネタ作品を「あの」ガーヴが書いたってのもなあ……という思いもある(笑)。
(だってガーヴのサプライズ作品っていったら、ほかにもアレとかアレとかあるけど、その辺は決して、そのサプライズやトリックオンリーの作品じゃないものね?)

 そういうわけでいささか評価に困る作品。とにもかくにもまだ読んでない、トリックを知らない方はさっさと読むことをオススメする。くれぐれも藤原センセのその手の本とかは、警戒するように。
(とはいえ、個人的には往年の「藤原本」を100%否定はしないけれどね。「世界の名探偵50人」がもしもこの世になかったら、絶対に今のミステリファンの自分は存在していないと、胸を張っていえるので~笑&汗~。)

【追記】
 登場人物のひとりに、家政婦ケイシー未亡人の姉で、エイリーン・マーチャントという主婦が出てくるが、この人は巻頭の登場人物一覧では「妹」と記載されている。当然原文では単にsister表記だから、姉にするか妹にするかは翻訳上の判断であったのだろう。
 それで、本文を読むとケイシーは15年前に夫と死別した未亡人とあり、なんとなく年季のある女性っぽいので、たぶん当初はケイシーの方を日本語で姉設定にしたのだろうが、しかしさらに読み進めていくと今度はエイリーンの方が大家族で子だくさんという作中の情報が判明してくる。それで最終的には、本文内でエイリーンの方を姉設定にしたのだと思う。
 以上のような流れで、混乱の事情はなんとなく見えてくるような気もしないでもないが、この辺はきちんと早川の編集の方で、整備しておいてほしかったところ。万が一、再版や文庫化の機会でもあったら、統一しておいてください。


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アンドリュウ・ガーヴ
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