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[ 本格 ]
腰ぬけ連盟
ネロ・ウルフ
レックス・スタウト 出版月: 1960年01月 平均: 5.00点 書評数: 4件

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早川書房
1960年01月

早川書房
1978年06月

早川書房
1978年06月

No.4 5点 クリスティ再読 2023/04/12 17:22
クイーンの「最後の一撃」の中で、スタウトの処女作がヒネクレた純文学だった話が出ているんだけど、ミステリ第二作の本作って、そういう片鱗が窺われる。ケンブリッジの学寮で起きた事故で障害を負った男と、その原因を作った寮生たちの間でできた「贖罪同盟」。障害を負った男は作家として成功するが、「贖罪同盟」の人々はこの件で負い目を負いつづけて...で、この「同盟」のメンバーに変死が立て続けに起き、それを嘲笑うような戯詩がメンバーに送り付けられた!メンバーたちはビビって、ウルフにその作家からの脅威を取り除くように依頼する...
この「腰抜け同盟」のメンバーは、中にはドロップアウトしたのもいるが、大体はインテリで成功者たち。しかもこの作家チャピンのヒネクレ具合といったら、本当に手におえない。このチャピンと、それに連れ添う妻ドーラが極めて個性的なキャラなのが、この小説の読みどころ。で...なんだが、直接に描かれてはいなくて匂わせているだけだが、チャピンはその事故で生殖機能を失っているみたいなんだね。その代りちょいとしたヘンタイな趣味も発揮している。そりゃ妻のドーラも相当変わってる。マゾ?

まあ、ミステリとしての興味が絞られてくるのは相当遅いし、「贖罪連盟」のメンバーのキャラは数が多いだけであまり書き分けられているわけではない。結構読み進むのが大変だったが、訳文がアタマに入りづらいところがある気がする。佐倉潤吾氏だからそう下手な訳者じゃないんだがなあ。
ウルフ物としては、ウルフが珍しく外出する。しかもこの外出について、ちょっとしたギミックがある。またウルフが受けた依頼に「殺人犯を探せ」がないために、ウルフ物らしいヒネった策略もあったりする。そういうあたりは楽しい。ミステリとして悪くはないんだが、どうも不完全燃焼感がある。
ミステリとしての仕掛けがキマってはいるからか、代表作に挙げる人もいるようなんだが、ウルフ物らしい楽しさ全開..とまではいかないなあ。いや良い点いろいろリストアップはできるんだけど、あまり推したくないところがある。

No.3 5点 虫暮部 2022/05/15 11:52
 幾つか名場面は確かにあるのに、それらをつなぐ部分が文字通りツナギの役目しか果たしていない。作品の性格を考えれば、そこからもっとユーモアを汲み取れて然るべきだと思うが、私が鈍いのか。
 ネロ・ウルフは依存症のようにビールを空ける。アーチーがミルクばかり飲むのは何らかのキャラクター付けなのか、当時の米国の普通の食習慣なのか(“何か飲みますか” “ではミルクを” って人、現代日本にはあまりいないと思う)。

 訳文で気になったところ。原文に当たりました。
 問題の作家の『悪魔は最後の人をさらう(Devil Take the Hindmost)』と言う書名。これは “早い者勝ち” みたいな意味の諺で、take が原型なのは命令文だからで、従って訳はちょっと間違い。
 13章(HM文庫版192ページ)。“燕を掘ったあとの穴” とは? 原文を見ると turnip =蕪、を掘ったあとの穴。
 18章(284ページ)。“栗鼠のシチュー” は squirrel stew で、間違いではなさそう。検索していたら “米大統領某氏の好物だった” なんて記事も。美食?
 そして原文では判らないこと。Chapin の発音はチャピンでいいのか? 洋楽リスナーならメアリー・チェイピン・カーペンターの名が浮かぶところ。まぁ固有名詞だからね……。

No.2 5点 人並由真 2020/05/01 03:34
(ネタバレなし)
 1910年代の初頭。アメリカのハーヴァード大学で、新入生ポール・チャピンが学友たちの悪い冗談の結果、重傷を負った。それからおよそ四半世紀が経ち、チャピンは小説家としてひとかどの人物になっていたが、過去の事件の後遺症で現在も左脚に障害が残ったままだった。学友たちは事件の直後からチャピンに対して「贖罪連盟」を結成。当時の悪事に参与した総勢35人の学友が連盟に参加し、障害者となったチャピンへの大小の支援を続けながら、さらに連盟の一部のメンバーは当人と友人としても交流していた。だがその連盟メンバーの一部の者が変死。チャピンは彼らの死を悼むような、もしかしたら自分の癒えない憎しみを語るかのような、そんな文言を残りのメンバーに送ってくる。さらにまた一人、今度は連盟の中から行方不明の者が現れた。消息を絶った心理学者アンドリュー・ヒパードの姪のエヴリンは、もしかしたらチャピンが殺したのでは? と、ヒマをもてあましているネロ・ウルフ探偵事務所に調査の依頼をしにくるが。

 1935年のアメリカ作品で、『毒蛇』に続くウルフシリーズの第二弾。
 評者は『毒蛇』は未読だが、すでに何冊か後年のウルフシリーズの長編も短編も既読なので、まあいいだろうと気が向くままに読んでみた。

 そもそも本作は『毒蛇』と並んでヘイクラフト&クイーンの名作表などにも選出される「名作」。実際、読み始めると、本当に存在するのかそうでないのか判然としない復讐計画で、ある種のホワットダニット的な興味のひき方はなかなか面白い。キーパーソンとなるチャピンも過去の事件を経て性格がいささかとんがっており、なかなか腹を割ろうとはしない。実際に復讐を考えてるのかもしれないし、あるいは勝手に「連盟」のメンバーが戦々恐々とするのなら、それもまたおまえさんたちの勝手だな、という構えのようだ?
 こんな中でウルフ陣営は連盟のメンバーを調査、ガードしつつ、事件の核心に迫るわけだが、いかんせん、ムダに登場人物が多い、また、話の表に出て来るキャラたちもあまり書き込まれておらず、大半が小説的な魅力のある人物でもない。(まあさすがに中心人物のチャピンと、ドブスヒロインとして設定されたその妻ドーラの存在感だけは並々ならぬものがあるが。)
 
 発端はなかなか面白い、「ぼく」ことおなじみアーチー・グッドウィンの一人称ワイズクラックもところどころニヤリとさせる……ではあるのだが、正直言って、全体の4分の1から4分の3くらいまでは非常に退屈(涙)。
 作者だけはわかってるつもりで、キャラの薄い登場人物を順番に動かして、実際の進展以上にページを稼ぐストーリーを、形だけ転がしてるような感じだ。
 HM文庫の訳者あとがきに「いろいろな人間像を、例によって、作者はよく書き分けている」なんてあるけれど、ウソだよ、そんなの。
 同じ大学を出ても社会的に成功した者もいればそうでもない者もいるという<設定>だけは、連盟のメンバーの職業をバラバラにすることで一応は押さえてあるけれど、ただのそれだけじゃ(笑)。

 というわけで全体的には期待ハズレ、楽しめたとはとてもいいがたいのだけれど、終盤で明らかになる大ネタのひとつ。これって後年の「あの〇WA賞受賞作品」のメインアイデアの先駆だよね? 向こうではずっと外連味豊富に見せているネタを、かなり朴訥にいわば天然に放り出している。少なくともその点だけは面白かった。

 正直、ウルフものって長編か中短編かっていえば、絶対に後者なんだよな、自分の場合は。たぶん今回あらためて感じた、一部の長編作品のような弱点が薄れて、中短編は良いところだけが残るからかもしれない。
 まあ懲りずにまたそのうち、長編ももうちょっと読んでみる気はまだあるけれど。

No.1 5点 mini 2014/10/02 10:00
昨日1日に論創社からジョルジョ・シェルバネンコ「傷ついた女神」とレックス・スタウト「黒い蘭 ネロ・ウルフの事件簿」が刊行された、シェルバネンコのは珍しい伊産ノワールらしいがこれはちょっと便乗企画が難しい(苦笑)
スタウトのはオリジナル編集の短編を含まない完全な中編集らしいが、”ネロ・ウルフの事件簿”という語句は単なる副題に非ずでシリーズ名じゃなくて題名に組み込んで登録すべきなんじゃないかなぁ、実際にAmazonでも込みの名称で登録されているし、でないとおそらく中編集で有る事を強調したかったであろう版元の論創社の意向が反故になってしまう

ところで短でも長でもない”中編”の意義とは何ぞや?
良く解釈すれば、ワンアイデアの短編では書ききれない芸当や、逆に長編では間延びしてしまいそうなプロットを綺麗に纏める事が可能である
それは裏返して言えば、どっちつかずの中途半端に陥る危惧も有り、案外と難しい長さなのかも知れない
”中編”の分量的なテーマについては、例えばクイーン「新冒険」の書評書く時にでも深く掘り下げてみようかな、今回はこの程度にしておく
スタウトは短編も書いてはいるがガードナー等と並んで中編に定評の有る作家であまり短編には有名作が無い、例の『世界短編傑作集』でも他の作家に比して中編に近い長さの作が選ばれていた
スタウトの”中編集”というのは論創は良い所に目を付けたと思う

「毒蛇」で登場したネロ・ウルフシリーズ第2作が「腰抜け連盟」である
例の森事典ではシリーズ最高傑作の1つとの評価で、またシモンズ選サンデータイムズベスト99でも代表作的にこれが選ばれている
たしかに複雑なプロットや助手アーチーとの絶妙な絡みなど、2作目とあってデビュー作よりは進歩が見られる
ただ私が感じるには複雑なというよりゴチャゴチャしたプロットに感じられ、特に腰抜け状態の連盟のメンバーの人数が多過ぎて上手く描き分けられてない気がする、結局のところ重要な連盟メンバーはごく一部なわけだし
スタウトは早熟の天才で早くから小説を書き始め作家キャリアは積んでいたがミステリー分野に手を染めたのは意外と遅く、前作「毒蛇」でも真相解明が中途半端に早過ぎる欠点が有ったし、どうも初期のウルフシリーズはミステリー小説というものを書き慣れていなかった印象が有る、やはり本領発揮は中期以降なのだろうか?


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