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[ 本格 ]
ネロ・ウルフの事件簿 アーチー・グッドウィン少佐編
ネロ・ウルフ、中編集
レックス・スタウト 出版月: 2016年11月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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論創社
2016年11月

No.2 6点 nukkam 2021/10/23 23:27
(ネタバレなしです) 国内独自編集のネロ・ウルフシリーズ第3短編集として2016年に出版されました。アーチー・グッドウィンが第二次世界大戦中に軍務についていた時代の作品を収めたためか、米国本国での第2短編集(1944年)の全2作が丸ごとと第3短編集(1949年)の全3作から2作と執筆時期の近い中編4作が集められました。どうせなら米国版第3短編集の「証拠のかわりに」(1946年)も収めて2つの短編集の合本版にしてくれたらと思わないでもありませんが。米国版第2短編集のタイトルにもなった「死にそこねた死体」(1942年)が断トツの面白さです。ウルフを呼びだせとの軍上層部の命令を受けて依頼人側に回ったアーチーがどうするのかと思ったら、そこから予想の斜め上展開になってぐいぐい読ませます。ウルフの切れ味鋭い推理が暴いた真相はとてつもない「嘘から出た真(まこと)」でした。「ブービートラップ」(1944年)ではついにウルフが軍からの依頼を引き受けます。警察相手でも自分の流儀を押し通すウルフですが戦争で愛国心が燃え上がって軍には恭順姿勢なのが異色です。タイトルに使われているようにトラップで犯人を特定しているのが本格派推理小説好きの私としては物足りないですけど。ウルフに殺人予告状が届けられる「急募、身代わり」(1945年)はプロット展開の面白さは「死にそこねた死体」に匹敵しますが、推理の根拠となる手掛かりは後出しだし説明があまり論理的でないのが惜しいです。ウルフが「親しみをこめて軽く笑った」に仰天させられる「この世を去る前に」(1947年)は裏社会の大物が登場することもあって非常にハードボイルド色の強い作品。本格派らしさもありますが論創社版の巻末解説で触れられているように手掛かりが感心できないのは残念。個性豊かな作品揃いでいつもと違うウルフとアーチーが見られるのは貴重でもありますが、初めてこのシリーズを読む読者はいつもの2人が描かれている他のシリーズ作品から先に手に取ることを勧めます。

No.1 6点 人並由真 2017/02/17 14:34
(ネタバレなし)
 ネロ・ウルフものの、第二次世界大戦中の期間に生じた4つの事件をまとめた中編集。一本一本がほぼ100ページ前後と綺麗な紙幅で配列されている。書名は、おなじみの「ぼく」ことアーチー・グッドウィンが徴兵されて軍人となった時期の事件という意味。実際に全4編のうち最初の3編ではアーチーが、ワシントンとウルフ探偵事務所のあるニューヨークを何度も往復。政府からの<高名な名探偵の協力を仰げ>という指示を、当人と縁故の深い軍人という立場で承っている(なお第4話のみアーチー=少佐の設定は希薄だが、食料統制のなかで食材の肉を渇望するウルフの図など、いかにもこの時代ならではの描写が見られる)。
 
 日本にも熱心な読者の少なくないウルフ&アーチーものだが、筆者はそれなり程度のファン(邦訳された長編はほぼ持っているはずだが、まだまだ未読も多い)で、どちらかというとこのシリーズは、長編より日本版EQMMやHMMとかに訳載された中短編の方が好み(あえて自己分析するなら、アーチーのポップな一人称の地の文が、長編より中短編の方で、より付き合いやすいからだろうと思う)。

 それで本書の中身は、第1話が長編『シーザーの埋葬』のヒロイン、リリー・ローワンが再登場し、一方でウルフを軍の相談役にスカウトしたいワシントンの意向もからむ中での殺人事件、第2話が軍需産業関係の汚職を背景にした手榴弾による爆殺事件、第3話が謎の脅迫者がウルフに殺人予告を送る中、影武者を仕立てて対抗を図る事件、そして第4話が裏社会の大物の隠し子(美人の娘)にからむ殺人事件…とバラエティに富んでいる。どれもウルフ&アーチーファンにはたまらなそうな内容だが、個人的にも全体に楽しく、特に第3話は娯楽ミステリとして絶品だった(たぶんそう来るかな…というとこも、あったけど)。次点は第4話。
 
 なお翻訳者の鬼頭玲子氏は素でウルフシリーズの大ファンみたいで、作品解説も兼ねたあとがきは愛情に満ちていて、さらに内容も充実しており、読んでいると本当に気持ちがいい。
 ただ第1~3話は共通する登場人物も多く(ワシントンの軍人勢のライダー大佐やフィフ准将など)たぶん初出は同じ雑誌だったんじゃないかなと思うので、その辺の書誌的な言及が欲しかった。
 あと巻末のウルフシリーズ一覧だけど、さすがに日本に翻訳された長編は、邦訳題名の記載が欲しいよね。こういうもので邦訳名をいっさい載せない作品リストって、もしかしたら初めて見たかもしれん(苦笑)。


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