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ミステリの祭典

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Tetchyさんの登録情報
平均点:6.73点 書評数:1626件

プロフィール| 書評

No.306 7点 黒いカーテン
ウィリアム・アイリッシュ
(2008/08/03 19:18登録)
実にアイリッシュらしいサスペンス溢れる幕開け。
たった200ページ足らずなのに、物語は二転三転する。
とにかくページを捲る手がもどかしいのだが、最後はなんとも消化不足。
色んな謎が棚上げされた形で物語は終わる。
期待していただけに残念!


No.305 10点 暗闇へのワルツ
ウィリアム・アイリッシュ
(2008/08/02 20:22登録)
まさかアイリッシュがこんな悲恋の物語を書こうとは思わなかった。

とにかく花嫁、ボニーの造型が素晴らしい。
時には天使のような、時には状況の犠牲になったか弱い乙女のような、そして時には人生の酸いも甘いも経験し尽くした売女のような女として描かれ、しかもそれが全て違和感なく1人の女性としてイメージが分散しない。

恋は惚れた方が負けである。しかしアイリッシュは最後までその愛を貫くことで人間は変わる、そんな美しくも儚い物語を綴った。


No.304 8点 ぼくのミステリな日常
若竹七海
(2008/08/01 20:10登録)
みなさんが云うように、正直な感想を云えば、各短編それぞれの謎のクオリティと、物語としての面白さには出来不出来の差がはっきりあり、全てが手放しで賞賛できるものではない。
しかし、この一種未完成とも筆足らずとも思える短編が最後になって一枚の絵を描く時、それらが単なるある1つの事件を告発する材料に過ぎないことが解る。
そういった意味で云えば、やはりこの短編集は普通の短編集にはない1つ秀でた何かを持っているのは認めざるを得ない。

最後、私はゾクリと来たのだが、意外とそういう感想がないのに驚いた。

そんでもって作中で出てくる「ぼく」のニックネーム、「ちいにいちゃん」がどうしても解らないのだが、誰か解る人いるだろうか?


No.303 6点 赤毛のレドメイン家
イーデン・フィルポッツ
(2008/07/31 20:38登録)
かの江戸川乱歩が『Yの悲劇』、『ナイン・テイラーズ』と並んで名作10傑として選んだだけに評価が先行している感は否めない。
彼自身、これを翻案にして『緑衣の鬼』を書いているくらいだからよほど気に入ったのだろう。
しかし、今読むとやはり古めかしく感じてしまう。

読んだのは当時大学生の頃で、あの頃はまだミステリ初心者だったから面白く読めたのかもしれない。
印象に残っているのは主人公の刑事が夕焼けか朝焼けをバックに事件の当事者の婦人と出会うシーン。
あのシーンの描写はさすがアメリカ文芸の大家だなと思わせる鮮烈さを感じた。


No.302 6点 闇からの声
イーデン・フィルポッツ
(2008/07/30 19:00登録)
本格物の『赤毛のレドメイン家』とは違い、最初から犯人が解っていて、それを証拠立てて犯人を追い詰める、刑事コロンボシリーズに代表される倒叙型サスペンス物。
探偵役の元刑事リングローズと犯人のバーゴイン卿との心理戦はけっこう読まされる。
『赤毛のレドメイン家』よりも面白く読めた。

この元刑事が事件を手がける発端となる「闇からの声」の正体は、読んだ当時は、ちょっと無理があるなぁと思ったが、野沢雅子氏や大竹のぶ代氏が現役として頑張っている今、かなり説得力のある真相だと考え改めた。


No.301 7点 骨の城
アーロン・エルキンズ
(2008/07/29 20:39登録)
スケルトン探偵ギデオン・オリヴァーシリーズ13作目。ここまで来るとよくもまあ骨でネタが続くものだと感心する。

今回の舞台は『断崖の骨』でも舞台になったイギリスで初めてシリーズで舞台が重複してしまった。
今回は妻のジュリーがある富豪が開催する研究発表会に同行したギデオンがそこの博物館々長に浜辺から出てきた骨の鑑定を依頼されると、その骨が実は数年前以内にバラバラにされた死体のものだということが解って・・・というもの。

シリーズもこれくらいになると、もはやギデオンがスケルトン探偵だということはつとに有名になってしまっており、登場人物が骨を持ち出して鑑定を依頼するというパターンになっている。
つまりギデオン行くところ白骨あり、ではなく、ギデオン来たりて白骨差し出すといったところか。

今回は地元刑事のマイク・クラッパーの造形が秀逸。ホント、この作家の描くキャラクターは印象的なものばかりだ。

13作目にして新たに死体に関する知識も得られ、また骨が事件に密接に絡んでいるのもいい。

そしてなにより今回は犯人を言い当てる事が出来たのがなお良かった。


No.300 7点 水底の骨
アーロン・エルキンズ
(2008/07/28 21:01登録)
スケルトン探偵ギデオン・オリヴァーシリーズ、なんと第12作目である。

今回の舞台はハワイ島でハワイの地で牧場を始め、一財を成したスウェーデン移民の子孫の間に残された遺産問題が今回のテーマになっている。
例によって骨が絡んでいるのはこのシリーズの定石(というよりこれがなかったら主人公がギデオンである意味がない)で10年前に墜落した飛行機から出てきた遺骨の鑑定を頼まれる。

本作では前作に感じた骨の鑑定と事件との乖離性は感じなかったものの、やはり少々ネタ切れかなと思った。

特に目新しい趣向が凝らされていたり、斬新な設定が導入されていたり、シリーズの大転換が起こるような事件も発生しないけれど、逆にこのマンネリズムが楽しい。


No.299 6点 断崖の骨
アーロン・エルキンズ
(2008/07/27 19:15登録)
前作でジュリーと知り合ったギデオンは本作において新婚旅行でイギリスへと行く。この辺り、シリーズ物の定石である。

で、そこで3万年前の人骨を見るために博物館を訪れるが、なんと展示されていた人骨は別の骨で、いつの間にか盗まれていた。
近くで発掘作業をしている旧友ネイトの許を訪れたギデオンは、彼の学生から相談があると持ちかけられる。しかし彼は約束の時間には現れず、後日死体となって発見される。
折りしも発掘調査の査問が行われており、そこでネイトが提出した骨はなんと無くなったとされた3万年前の人骨だった。旧友の冤罪を救うためにギデオンが乗り出す。

本作は傑作『古い骨』の1つ前の作品にあたり、総じて地味な印象を受ける。しかし物語においてギデオンが猛犬に襲われるというサスペンスを加味しているところは次作に繋がる構成が見られる。
骨の鑑定家ギデオンが、白骨は好きでも死体はダメだという事実が発覚するのが面白い。


No.298 7点 暗い森
アーロン・エルキンズ
(2008/07/26 20:36登録)
スケルトン探偵ギデオン・オリヴァーシリーズの第2作目だが、本書こそ真の第1作目とも云うべき作品。
本作で最愛の妻ジュリーとの出会いが描かれる。

本作では本国アメリカのワシントン州の国立公園を舞台にしており、そこに絶滅したネイティヴ・アメリカンの生き残りがいる可能性が高まる。それは行方不明になったハイカーの死体から出てきた凶器が一万年前に絶滅したはずの種族の物だと判明したからだ。

本作では後のシリーズを彩るエイブ・ゴールドスタインやジョン・ロウが既に登場して、もうキャラクターが確立されている。
そしてギデオンのキャラクターすら本作にて完成されている。なにしろジュリーを見て皮膚の下の骨格の美しさに惹かれる、そんな変な学者なのだ。

今回の事件の真相は、実は登場人物表を眺めていると解ってしまった。しかし、シリーズの開幕に相応しい佳作であることには間違いない。


No.297 7点 偽りの名画
アーロン・エルキンズ
(2008/07/25 20:18登録)
美術学芸員クリス・ノーグレンシリーズ第1作。
ベルリンで開かれるナチスに略奪された名画展のためにクリスはドイツに飛ぶ。
ところが着いてまもなく、上司が「展示品の中に贋作がある」と告げたあと、謎の死を遂げる。

クリスは贋作捜しと上司を殺した犯人捜しに巻き込まれる。

フェルメールが扱われているが、これは画集を手元に置いて読みたいところだ。
そして贋作の正体が意外。

美術を扱ったマンガ『ゼロ』を熟読していただけに、それに繋がる部分があって面白かった。
ただよく『ゼロ』で使われる鑑定法、炭素14法が一切出てこなかったが何故?
真贋を見極めるテーマだったので、さあ出て来い!と心待ちにしていたが、とうとう出仕舞い。

でもかなり楽しめるミステリ。
主人公のクリスは意気地ないけどね。


No.296 6点 略奪
アーロン・エルキンズ
(2008/07/24 20:25登録)
絵画ミステリでもこちらはベン・リディアが主人公で、今のところこれ1冊のみ。
恐らくクリス・ノーグレンシリーズ1作目で扱ったナチスが大戦時に略奪した絵画をテーマに扱っていることから主人公を代えたのではないだろうか。

どちらかといえば、他のシリーズに比べるとサスペンス色が濃くなっているのが違いといえば違いか。
しかし、この主人公、1冊のみしか出ていないこともあってか、すごく印象が薄い。
続編が書かれていないようだから、エルキンズも手応えを感じなかったのかもしれない。


No.295 8点 画商の罠
アーロン・エルキンズ
(2008/07/23 19:33登録)
ギデオン・オリヴァーシリーズと一緒でこのシリーズも世界各国を主人公が巡る趣向だが、やはり美術品を扱っているため、著名な美術館があるところに限られるみたい。
今回の舞台はフランス。

怪しい画商がレンブラントの絵を寄贈したいという申し出を受け、クリスはフランスに飛ぶ。
画商ヴァシィは小道具屋で手に入れたものなので来歴がわからない上に、科学的鑑定をしてはいけないというとんでもない条件を出す。
しかもこのヴァシィ、色んなところで問題を起こしており、悪評高い。
寄贈するとは云え、贋作を展示しては美術館の沽券に関わる。
果たしてこのレンブラントは本物なのか?

今回はこの来歴不明の作品をレンブラントの物としたのがさらにミソ。
この作品でオイラも知ったが、レンブラントはいわゆる絵画工房のような形で作品を量産していたらしく、作品の中には弟子が描いてレンブラントがサインしたなんて物もごろごろしているらしい。
だから贋作が非常に多い作者だという。

こういった美術史も盛り込んで謎は否が応にも盛り上がる。
ああ、もうこういうの、好きですわ♪

でもこのシリーズ、これで打ち切りなのか、続編が書かれていない。非常に勿体無い。
ぜひとも復活してくれないかな、エルキンズ。


No.294 7点 一瞬の光
アーロン・エルキンズ
(2008/07/22 21:12登録)
美術学芸員クリス・ノーグレンシリーズ第2作。
今回の舞台はイタリア。
シアトルの輸入会社の倉庫でなんとルーベンスの名画が見つかり、シアトルの館長の依頼でクリスはイタリアに飛ぶ・・・。

イタリア=マフィアの国という悪いイメージがあるが、確かに本書ではイタリアが名画の盗難事件が多い場所だというのが書き込まれてる。

クリスの愚痴を読むと、本当に美術品って大丈夫なのか?と心配になる。

ギデオン・オリヴァーと違ってクリス・ノーグレンは離婚したやもめ暮らしで、愚痴が多く、度胸もさほどない。
しかし両者は自分の仕事が大好きで、夢中になると周りが見えなくなるという点で共通している。

絵画の薀蓄たっぷりでそういう知識を得るのが好きな人はたまらない作品だろう。

エルキンズは骨だけではなく、美術に関する知識も一級品だと思わせてくれる作品。


No.293 5点 骨の島
アーロン・エルキンズ
(2008/07/21 20:52登録)
本作からミステリアス・プレス文庫からハヤカワ・ミステリ文庫へ引越しして訳出再開された。
やっぱ、待ってた読者がいたんだね~。

今回の舞台はイタリア。ギデオン夫婦は純粋にバカンスで来ていたのだが、やはり事件に巻き込まれる。
誘拐事件というショッキングな幕開けで、他の作品と一味違うなと思い、また久々に出たこともあって期待が高まったのだが、ちょっと今回は質が落ちたかなぁ。

お得意の骨の鑑定と事件があまり密接に響いていないような気がした。
そして今回のサプライズはオイラが想定した真相の方が、驚きが大きかったように思う。

あのサプライズは(ネタバレ注意!)、専属医の日記と身体的特徴からも判るように思われ、必ずしも必要であるとは感じなかった。だから骨を盗みに入る話、ギデオンが襲われる話などがどうも宙に浮いているような印象があった。
むしろ、オイラの考えた展開、「実はドメニコは無精子症だった」とか「先天的に生殖遺伝子が弱く、Y遺伝子を持っていなかった」などがカルテから判明する方がインパクトが強かったと思う。

ま、でもやっぱりキャラクターが面白いね、このシリーズ。
読んで、損はありません。


No.292 7点 洞窟の骨
アーロン・エルキンズ
(2008/07/20 19:57登録)
今度の舞台はフランス。
洞窟から現れた旧石器時代の骨が、ギデオンの鑑定により死後数年しか経っていないことが判明する、と、もう骨から解る新事実が関係者の人間関係にきな臭いムードをもたらす、定番の設定だ。

しかし、それでも飽きないこのシリーズ。
登場人物のキャラクターとエルキンズのウィットとユーモアに富んだ文章にのめり込んでしまうからだ。

でも続けて読むとさすがに飽きるとは思う。
本作もミステリとしては佳作の部類に入るし、可もなく不可もなくといった水準作だ(これはこれですごいことなんだが)。
私は幸いにリアルタイムで読んでいるので、インターバルが空いて、ちょうど読みたいなぁという頃に刊行されるから、逆に渇きが癒されてちょうどいいのである。


No.291 8点 楽園の骨
アーロン・エルキンズ
(2008/07/19 20:53登録)
今度は南の島タヒチが舞台。ホントこの主人公達は役得が多いと思う。

プロットは今までのシリーズに比べても、特に目立つような驚きやどんでん返しがあるわけではないが、これはやはりストーリーとキャラクターの勝利でしょう。
ジョン・ロウの親戚が出てきて、更にキャラクターは膨らみを増すし、最後の終わり方がなんともほっこりしてよろしい。


No.290 6点 死者の心臓
アーロン・エルキンズ
(2008/07/18 20:19登録)
今回の舞台はエジプト。形質人類学者という特殊な職業であるのも解るが、ホント色んなところに行く夫婦である。

で、今回は事件が起きるまでが非常に長く、なかば世界観光小説のようになってきている。
とはいえ、このシリーズの売りである骨の鑑定もしっかりあり、その結果も新たな知識を得られ、ひとまず満足感は得られる。

しかし邦題はあからさまに煽情しすぎであろう。
原題は“Deadman's Heart”で素直に訳せば“死者の気持ち”であり、こっちの方が内容的にしっくり来る。
でも確かにこの題名だと売れそうにないな。


No.289 6点 遺骨
アーロン・エルキンズ
(2008/07/17 20:24登録)
今回は自国アメリカオレゴン州が舞台。
司法人類学会の権威ジャスパーの遺骨が盗まれ、さらに埋められた死体まで発見してしまうというお話。

そして骨の鑑定による意外な死体の正体と、定番を抑えるしっかりとした作りです。


No.288 7点 陸の海賊
アーサー・コナン・ドイル
(2008/07/16 20:08登録)
今回は非常にバラエティに富んだ内容となっているのが特徴だ。
それぞれテーマがボクシング、狩猟、クリケット、海賊物とに分かれている。

本作の約半分を占めるボクシング小説はドイル自身ボクシングをしていたこともあって、実に描写が活き活きとしており、選手の内面まで写実的に描いている。しかも単純にボクシングの試合をする話ではなく、ミステリ風味が加味されており、舞台設定も様々なところにドイルの作家としての矜持が見られる。

クリケットを材に採った「スペティグの魔球」も日本人には馴染みはないものの、十分楽しめる1編だ。映像化に適した作品だともいえる。

狩猟小説である「狐の王」の狐を追うシーンの場面の移り変わりゆく描写の確かさは目の前に映像が浮かぶかのようであった。

また海賊シャーキー物も最近放映されたジャック・スパロウ物が頭に浮かび、自然と物語にのめりこむことが出来た。

ドイルはホームズだけではない、そんな風に思わせてくれる短編集だ。


No.287 7点 氷の眠り
アーロン・エルキンズ
(2008/07/15 21:52登録)
今回の舞台はアラスカ。
スケルトン探偵、世界中を飛び回りますな。
そして氷河から出てきた30年前に遭難した調査隊員たちの骨の鑑定を行う。
遭難死したと思われた隊員の骨にピッケルで殺害された跡を見つけてから、疑惑が生まれる。

今回はジョン・ロウが再び登場。このキャラクター、かなり好きだなぁ。
まずFBI捜査官に見えないほど、あっけからかんとしてる。
物語の作りとしてはオーソドックスだが、水準はきちっと保っているので、安心して読める。

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