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ミステリの祭典

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暗闇へのワルツ

作家 ウィリアム・アイリッシュ
出版日1958年01月
平均点7.57点
書評数7人

No.7 9点 クリスティ再読
(2022/10/08 15:16登録)
ウールリッチでも最長、だよねえ。いや~ほぼ一気読み。リーダビリティが半端ない。としてみると、美文調はやや抑え気味? というか、地の分の詠嘆は抑えて、セリフや行動で泣かせる作品だと思う。スタイリッシュなウールリッチ調というよりも、一般的なノワールに近い印象。

でもね、ウールリッチの固執的なテーマが「結婚」で、その「結婚」がもたらす男女の愛憎のドロドロに正面から立ち向かい、「変化」をベースに最後は純愛に転じちゃうという、プロットの綾が泣かせる。ウールリッチも書いていて、プロットに呑まれるような気持を持っていたんじゃないかな。

もちろんウールリッチの「結婚」ってどの作品でも「呪われた」と付けたくなるような不吉さがあって、それがウールリッチらしいロマンチックとサスペンスの原動力なんだけども、そういう「結婚」が持つ原始的で荒々しい男女、いや雄と雌の宿命的な結びつきを描き切った傑作だと思う。このテーマを生かし切るための納得の大長編。
ウールリッチの最高傑作が「幻の女」って大嘘。本作とか「死者との結婚」の方がずっといい。

No.6 8点 人並由真
(2020/09/22 04:46登録)
(ネタバレなし)
 1880年5月のニューオリーンズ。37歳のコーヒー輸入業者ルイス(ルー)・デュランドは多額の財をなしながら、15年前に恋人マーガレットと結婚直前に死別した辛い過去があった。心の傷を抱えたまま独身を貫いてきたルーだが、ついに彼は一念発起。結婚斡旋所が紹介したセントルイスの年増女ジュリア・ラッセルと数回に及ぶ文通をへて、婚約を果たした。かくしてニューオリーンズの港に、花嫁となる女性を迎えに行くルーだが、手紙で写真を送ってきた女性は姿を見せない。かわって、私がジュリアだと名乗る、謎の美しい若い娘が現れた。

 1947年のアメリカ作品。
 評者が未読でとっておいた、残り数少ないアイリッシュ=ウールリッチの長編の一本(……と思いきや、少し前に再確認したら、手つかずのウールリッチの長編は、まだそれなりに残っていた・汗&笑)。

 少年時代(まだHM文庫版も刊行されていない時分)に、どっかの古書店で買ってそのままだった、当時絶版のポケミスで本日、読了(おしりの方の遊び紙に鉛筆で170円という古書価が書かれている)。
 
 そのポケミス版は370ページ以上の厚みで、ウールリッチ=アイリッシュ作品としては比較的長めの方だと思う。それゆえにこっちも読むのを気構える面もあり、ついに今日までウン十年間手つかずのままにしていた。が、実際に読み始めるとやめられず、一晩で読み終えてしまった(笑)。
 いや、評判が高いことは聞いていた作品だが、とにかくメチャクチャ面白い。

 内容についてはそのポケミスの裏表紙のあらすじも、本当にかなりごく最初の展開だけを記述。前半からストーリーが弾みまくる作品なので、なるべくネタバレにならないように、ポケミス初版の刊行当時から書きすぎないように心がけた編集部の気遣いがうかがえるような気もする(だからこのレビュー冒頭のあらすじも、なるべく序盤だけ記述)。大体、どんな方向に流れるか語るだけで、ある種のネタバレになってしまうような内容だ。
(とはいえポケミス巻末の解説で、ツヅキは「この作品はどーのこーの」とそれなりに具体的に作品の性格を語ってしまっている。まあツヅキのその解説は、本文の読了後に目を通してくれという意向かもしれないが。)

 というわけで、本作はウールリッチ(アイリッシュ)長編のなかでもかなり(中略)の趣が強いもの。
 しかしそれでも「黒シリーズ」の一環たるノワールサスペンス味は強烈で、いつもの作者の作風を期待して裏切られることはない。

 そして長丁場の物語を起伏豊かに、そして大きな破綻なく読ませる筆力の面だけ言うと、これは何というかシェルドン、キング、クライトンあたりのA級職人作家みたいな大衆小説っぽい面白さを感じた。
 そんな一方で前述の(中略)ジャンルらしいミステリ味、ウールリッチらしい作風も兼ね備えているのだから、つまらない訳はない。
 ファンによってはウールリッチのベスト作品に推す人もいるみたいで、ああ、さもありなん、という感じ。
 評者も『喪服のランデヴー』の不動1位はゆるがないものの、ウールリッチの長編ベスト3候補なら、この作品を十分に勘案したい。

 後半で絶えず微妙に変遷し続ける主人公コンビの関係性、テンポよく読み手をあきさせない劇中イベントのつるべ打ち、最後の二転三転を経た余韻のあるクロージング、随所にとびだす警句の妙。
 すべてが骨太な、大衆小説なサスペンスミステリの風格を築き上げていく。印象的な名シーンも実に多い。特に後半。

 最後に、1940年代後半の作品なのに、なんで作中の時代設定が半世紀近くも前なんだとも思ったけれど、読んでいくうちになんとなく分かってくる。なにしろ男の心情が純朴すぎて、これは「むかしむかしあるところに……」的な大人のお伽話っぽいデコレーションを設けなければ、照れ臭くってやってられない。たぶんそれは、読む方も書く方も。

 とはいえ、ウールリッチがこんな球を放るのか、と驚愕したほどの豪速球。
 たとえばスティーヴン・キングなら『IT』がもし内容的に成功していたのなら、きっとこんなボリューム感と作品の完成度の足並みが揃った名作になっていたんだろうな、と思わせる作品である。
(実際の『IT』は、とてもそんな高みに及んでいるとは思えないけれど。)

 もし誰かがこれを「ウールリッチが生涯にただ一本だけ書いた、本気でボリュームを武器に勝負した一冊」というのなら、自分は黙って頷くでしょう。9点にかなり近い8点。 

No.5 6点 ボナンザ
(2014/11/27 21:20登録)
ありふれた題材、たった二人の主要人物を用いてここまで引き込まれるのはアイリッシュならではだろう。
最後の展開などくさすぎる気もするが、彼だからこそそれを感動的に表現できるのである。

No.4 7点 蟷螂の斧
(2014/04/28 16:38登録)
「音のない音楽が流れ、踊る人影二つ そっと寄り添い、ワルツがはじまる。」「音のない音楽が絶え、踊る人影は崩れるように床に落ちて、ワルツが終わった。」・・・「俺たちに明日はない(ボニーとクライド)」(1967主演フェイ・ダナウェイ)を思い起こしました。主人公の名前も同じですしね。ほぼ2人だけの心理描写で、これだけの長編を書き上げた筆力に感心しました。

No.3 8点 測量ボ-イ
(2014/04/12 09:40登録)
これは悲しいお話しですね。
悪女として描かれているボニ-は、僕の求める女性像とは
だいぶ異なるので、いわゆる感情移入はできませんが、そ
れでも読ませてしまうのはアイリッシュ筆力でしょう。
そんなに有名な作品でないかも知れませんが、某著名評論
家はアイリッシュのベスト作品にこれを挙げています。

No.2 5点 江守森江
(2010/11/18 07:13登録)
文庫の表紙に本作の映画化作品「ポワゾン」のポスターを転用したメディア・ミックスでの販売戦略は成功に至らなかったと思う。
その映画化作品「ポワゾン」をAXNミステリーで放送した時に録画したが放置状態だった。
昨日やっと視聴したので毎度のごとく原作のおさらいもした(図書館には古びたポケミス版しかなく毎度のごとく物理的読み難さに閉口した)
原作はエロチック・サスペンスな映画(アンジェリーナ・ジョリーのベッドシーンはレスリングの様で全然エロくない)とは別物で、ひとりの女性を描き尽くした転落恋愛小説の側面が強くミステリーを期待すると肩すかしだろう。
原作、映画共に悪くはないが、方向性も含め別物の認識で接しないと両方を楽しむのは難しいだろう。
女主人公役をアンジェリーナ・ジョリーにした事が、映画と原作の乖離が大きくなる逆相乗効果を生み出し、楽しみを減じた最大要因な気がする(映画か原作の好きな一方だけに接すれば被害は少ない)
※補記
最初に映画化した作品は未見だが世評は高い。

No.1 10点 Tetchy
(2008/08/02 20:22登録)
まさかアイリッシュがこんな悲恋の物語を書こうとは思わなかった。

とにかく花嫁、ボニーの造型が素晴らしい。
時には天使のような、時には状況の犠牲になったか弱い乙女のような、そして時には人生の酸いも甘いも経験し尽くした売女のような女として描かれ、しかもそれが全て違和感なく1人の女性としてイメージが分散しない。

恋は惚れた方が負けである。しかしアイリッシュは最後までその愛を貫くことで人間は変わる、そんな美しくも儚い物語を綴った。

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