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ミステリの祭典

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Tetchyさんの登録情報
平均点:6.73点 書評数:1604件

プロフィール| 書評

No.704 8点 誓約
ネルソン・デミル
(2010/03/03 22:33登録)
正直、読書中はあまりにも冗長すぎやしないかと何度も洩らした。それは読後の今でも変わらない。この真相に至るまでに果たしてここまでのプロセスが必要だったのか、これは今でも疑問である。世に蔓延る世評を見ると、重厚壮大だが読み苦しくないというのがほとんど感想として載っている。しかしやはり私には長いと感じた。

読んでいる最中は映画『戦火の勇気』が頭によぎった。タイスン中尉がベトナムの病院でどのような指示をしたがために大量虐殺に至ったのか、この事実についてあらゆる人が本で語り、軍事裁判にて証言し、そして主人公自身も語る。小隊の中の人間関係の歪みが生んだ大虐殺の事実はそのまま同じように歪められ、タイスンを追い詰める。

最後の最後でタイスンに下される裁定は、これ以上の結論は無いというべき見事な裁定である。この最後の救いで読者もまた救われた。恐らく元ベトナム従軍兵の彼らも。デミル、天晴れだ。


No.703 4点 グルメ警部キュッパー
フランク・シェッツィング
(2010/03/02 22:13登録)
どうもこの作家の文章は私には合わないようだ。
一番感じるのは、本書で作者が前作にも増して散りばめているウィットやユーモアがこちらに頭に浸透してこない事。そのため、各章の最後に書かれた締めの台詞が私にはビシッと決まらず、頭に「?」が浮かんだり、もしくは「ふ~ん」という程度で終ってしまう。

「グルメ警部」と謳われているように、主人公キュッパーは美味い物に目がないが、この手の作品にありがちな料理に関する薀蓄が展開されるわけでもないため、際立って美食家であるという印象は受けない。むしろ、普通に美味い物が好きで料理も出来る男が警部だったというのが正確だろう。

しかしこの作者はきちんとクライマックスシーンをアクションで見せるところに感心する。動物園を舞台に追跡劇とライオンの柵の中での攻防ありと、サービス満点だ。広告業界で働いた経歴を持つ作者だから、こういったお客に“魅せる”手法を常に意識しているのだろう。


No.702 4点 黒のトイフェル
フランク・シェッツィング
(2010/03/01 22:24登録)
13世紀のドイツ、ケルンを舞台にした貴族の陰謀に巻き込まれた盗人の物語。『オリヴァー・ツイスト』のような物語を想像したが、濃厚さに欠けるように感じた。
痛いのは物語の主役を務めるヤコプがさほど聡明ではなく、偶然の連鎖で身に降りかかる災難を避けているに過ぎないことだ。こういう物語ならばやはり社会の底辺でしたたかに生きてきた盗人が狡猾さと悪知恵で大いなる陰謀を乗越えていく姿を見たいものだ。

しかしあとがきによれば、本書は本国ドイツでベストセラーを記録したらしい。ドイツにはよほど面白いミステリ・エンタテインメント小説がないのだろう。まだ見ぬ傑作が山ほどあるドイツ国民はなんとも羨ましい限りだ。


No.701 5点 赤き死の炎馬
霞流一
(2010/02/28 02:57登録)
死体の周囲に足跡のない不可能犯罪、密室殺人に、袋小路で消え失せた犯人と、本格ミステリの王道を行くものばかりでしかもそれらは実に明確に解き明かされる。
その真相は島田の豪腕ぶりを彷彿させるような離れ技が多いのだが、霞氏のコメディに徹した文体が不可能犯罪の謎を薄味に変えているように感じてしまった。
キャラクターも設定がマンガ的に留まっており、個性的であるものの、読者の共感や憧れを抱くような血が通った者は皆無だった。


No.700 10点 ゴールド・コースト
ネルソン・デミル
(2010/02/20 01:31登録)
いやはや、デミル、貴方は上手い、上手過ぎる!!これぞ小説なのだと醍醐味をとことん味わわさせてくれました。最後の一文なんか、もうシビレまくりです!!
哀しいラストに一縷の希望を託す、非常に美しい最後だ。だから最後の最後まで俺の心の隙間にピースがカチッと嵌ったのだ。

人物がイメージとして湧き上がるほどの性格付け、また夢の中の世界として描かれる金持ちの敷地やリトル・イタリーのレストランの描写が非常に素晴らしく、小説を読みながら映像を思い浮かべることが出来た。特にこの小説は映画好きが読めば読むほど映像を喚起できると思う。

またサッターの独白で明かされるベラローサの、サッターを自身の弁護士として取り込む手練手管の精緻さ。これが何とも懐が深く、本当にマフィアならそうするだろうと思わせるほどのリアリティがある。こういった構成が結末の悲劇への十分な裏付となっている。
しかもプロットは堅固なのに人物が前述の通り、個性豊かで単なる駒として機能しているわけではない。これらの人物ならばそれぞれこのように行動するだろうと納得させるだけの筆力があるのだ。いやあ、神業ですよ、これは。デミルを読むと私も含め、作家を目指す人はしばらく創作意欲が無くなるのではないのだろうか。
豊穣なるワインを飲んだ心地ですな、特に読後の今は。


No.699 7点 片腕をなくした男
ブライアン・フリーマントル
(2010/02/18 18:39登録)
騙し騙され、嵌め嵌められ。全く諜報活動の世界とは何が真実で何が虚構なのか全く予断を許さない。最後まで読んだ今はそんな思いでいっぱいだ。

しかし本当にこのシリーズは一流のエスピオナージュ小説でありながら世のサラリーマンの共感を得る、中間管理職の苦労を痛感させられる作りになっているのが面白い。

しかしこの大どんでん返しは読了直後ではあまりの急転直下の展開に創りすぎだという感慨が否めず全面的に首肯できない。
訳者あとがきによれば本作は新たな3部作の第1作目であるとのこと。
とにかくフリーマントルのライフワークとも云えるこのシリーズの恐らく掉尾を飾る三部作の最終作が訳出されるのを愉しみに待つことにしよう。


No.698 7点 オッド・トーマスの受難
ディーン・クーンツ
(2010/02/15 23:45登録)
今回オッドが対峙する敵はダチュラという名のテレフォンセックス業者。オッドを殺し、その血肉を得ることで自ら霊視能力者になるという妄想を抱いたダチュラは、なんだかコミック物の悪役そのものである。どうやらクーンツは初のシリーズでアメコミ物に挑戦しているように思える。

オッドが捜している人や物に引き寄せられるように目的へ達するシックス・センスを持っているのも大きな特徴だが、今回はその能力を逆手に取ってスリリングを増しているのが素晴らしい。

とにかく全編自虐的なまでのオッドの自戒の念に覆われている。それ故、最後に至ったオッドの選択はなかなかに興味深い。


No.697 10点 オッド・トーマスの霊感
ディーン・クーンツ
(2010/02/14 22:28登録)
死者が見えるという特殊能力を持った青年オッド・トーマスの物語。
よくよく考えるとクーンツ唯一のシリーズ物か。

最近のクーンツ作品に見られる主人公オッドの饒舌振りには辟易するものの、本書は非常に素晴らしい仕掛けと物語性に溢れている。
従来のクーンツ作品の定型を打ち崩したゆえの傑作となった作品だと云えるだろう。

あれこれ云うよりもここは単純に、オッド・トーマス、君に幸あれ。思わず読後、こう声を掛けたくなる作品だと一言云っておこう。


No.696 9点 善良な男
ディーン・クーンツ
(2010/02/14 00:52登録)
真相は陳腐といえば陳腐だが、今回は悪役クライト含め、主人公、ヒロインのキャラが際立っていた。
それに加え、最後に明かされる主人公の秘密が『ウォッチャーズ』以来の感動を私に与えてくれた。
これについては多分他の人は、「それほどかぁ?」と思うだろうが、私には強烈に胸に響いてしまった。
昨今のクーンツ作品の中では快作だ。


No.695 7点 チックタック
ディーン・クーンツ
(2010/02/13 00:54登録)
とにかく今回の作品は、いきなりクライマックスから始まる。今までのクーンツ作品と違い、今回はなぜトミーの許に呪術を施されたような人形が送りつけられ、彼を襲うのか、その経緯がまったく解らないまま、最終章の前章まで逃亡劇・闘争劇が続く。
訳が解らない物ほど怖い物はないということだろうか、今回のテーマは。

そして下巻の最後の辺りで明かされる化け物の正体がなんとも腰砕けな内容だ。

昨今のクーンツ作品では、こういった地球外生命体や神の恩恵を受けた者といった、人智を超越した存在を登場人物に配している設定がやけに見られる。これはクーンツが現代社会に絶望を抱いており、もはやこの状況を打破するには救世主が必要だと訴えているのかもしれない。

ところで作中、日本人は毎日豆腐を食べるから前立腺癌の発症率が低いという叙述があるが、本当だろうか?


No.694 7点 対決の刻
ディーン・クーンツ
(2010/02/11 21:54登録)
とにかく苦痛の強いられる読書だった。途中何度も投げ出そうと思った。プロットに比べその書き込みの量ゆえに物語の進行が途轍もなく遅い本書はクーンツ作品には珍しく疾走感を欠いている。

今回は『ドラゴン・ティアーズ』でサブテーマとして語られていた“狂気の90年代”という、本来抱くべき近親者への愛情が個人の欲望の強さに歪められ、異常な行動を起こす精神を病んだ人々が主題となっている。つまり本書で語られるのが全編胸の悪くなる異常な話ばかりだ。

上下巻1,130ページも費やして語られる物語は至極簡単な物で、70%は長ったらしい主張で埋められているかのようだ。しかも1つの物語は決着がつかないままだ。

こういう説教事で埋め尽くされた作品を読むと、今後のクーンツはどの方向に進むのか不安でならない。


No.693 7点 ハズバンド
ディーン・クーンツ
(2010/02/10 22:34登録)
いつもと変らぬ日が続くものと思っていた矢先の突然の異常事態。今回のクーンツは怪物が登場するわけでもない、超能力を持った人間が出るわけでもなく、妻の誘拐という日常を襲う突然の凶事をテーマにしているので、逆にいつも以上に逼迫感があった。

主人公ミッチェルはどんどんのっぴきならない状況に陥り、窮地に追い詰められながらも、常に物語はハッピーエンドに締めるのがクーンツの特徴なのだが、今回はその物語の収束の仕方があからさまに唐突だったのにビックリした。

そして今作品のタイトル『ハズバンド』に込められているのは、妻が愛の誓いを立てた者は夫のみなのだという思いだ。これは結婚式によくある誓いの言葉なのだが、これを単なる台詞でなく、主人公の行動の原動力としているところがすごい。あんな常套句を元にこういう物語を考えるのだから、それはそれでクーンツの非凡なところなんだろうけど。
とどのつまり、ひっくり返せば本作においては愛の名の下では、何をやっても許されるのだと開き直っている感じがしないでもない。だから最後に物語を剛腕でねじ伏せたのか。それともこれはクーンツが実の妻に宛てたラヴレターの一種なのか。う~ん、変に勘ぐってしまうなぁ。


No.692 8点 ドラゴン・ティアーズ
ディーン・クーンツ
(2010/02/09 22:03登録)
なんともまあ、クーンツはとんでもない恐怖を考え出したものだ。
最初は身長2メートルを超える巨大な浮浪者。そいつが忽然と現れ、抗いようの無い膂力で獲物を嬲り殺す。もちろん銃も効かない。
その後は無数の蛇の大群。どさどさっと部屋中を埋め尽くすその有様は、想像するだに恐ろしい。
そして手に汗握る<一時停止>のゲーム。時間の流れをものすごく緩慢にし、ハリーとコニーだけを獲物に命を賭けた鬼ごっこが始まるのである。

90年代以降のクーンツの作品に特徴的に見られるのがこの“時間”を使った能力者が出てくること。それは今回のように実際に時間を停めるだけでなく、催眠術を使って、時間を忘れさせる恐怖、次元の歪みに入り込んで、実世界の時間軸とは違う世界を出入りする能力など、ヴァリエーションは様々だ。

そして本作の影の主役が犬のウーファー。犬好きのクーンツがまさに犬の気持ちになって第一人称で語るそれは、なかなか面白い。一種、着地不可能と思われた本作がどうにか無事に着陸できたのも、このウーファーの御蔭だ。物語の設定としてはギリギリOKとしよう。


No.691 8点 災厄の町
エラリイ・クイーン
(2010/02/08 23:59登録)
扱う事件は妻殺し。夫であるジムは金に困り、飲んだくれ、しかも殺人計画を匂わす手紙まで秘匿していた、と明々白々な状況証拠が揃っていながら、当の被害者である妻が夫の無実を信じて疑わないというのが面白い。
そしてその娘婿の無実を妻の家族が信じているというのも一風変わっている。この実に奇妙な犯人と被害者ならびにその家族の関係が最後エラリイの推理が披露される段になって、実に深い意味合いを帯びてくる。

渦中のジムを取巻く真の人間関係についてはすぐに察したが、それ以降のジムがなぜ真実を告げないのかと終始いらいらしながら読んだ疑問が最後に哀しみを伴って明かされるのは秀逸。

『スペイン岬の秘密』でも見られた、真相を明かすこと、犯人を公の場で曝すことが必ずしも正義ではないのだというテーマがここでは更に昇華している。知らなくてもよいこと、気付かなくてもよいことを知ってしまったがために苦悩している。興味本位や己の知的好奇心の充足という、完全な野次馬根性で事件に望んでいたエラリイが直面した探偵という存在の意義についてますます踏み込んでいる。

ただ残念なのはクイーンが最後に披瀝する真相を裏付ける物的証拠が何らないことだ。状況証拠を積み重ねた帰納的推理に過ぎない。
やはり犯罪を扱い、犯人捜しをするのならば、肝心の証拠・証人を押さえて然るべきではないだろうか。


No.690 2点 トワイライト・アイズ
ディーン・クーンツ
(2010/02/06 23:26登録)
物語はゴブリンを見分ける特殊な眼を持つ主人公スリムの一人称で語られるのだが、これが17歳の言葉とは思えないほど、格式張っており、しかも回りくどい表現が多くて、かなり疲れた。作者としてはイメージ喚起を促したつもりだろうが、読み手の方としては感情移入を許さない文体だなと思うことしばしばで、なかなかのめりこめなかった。

そしてやっぱりやってくれたよ、クーンツは。
上下巻合わせて770ページあまりを費やして最終的に物語を放り出してしまった。
色々散りばめたキャラクターたちは絡むことなく、放りっぱなし。
しかもあれほどゴブリンを全滅させるのにこだわった主人公がなにか吹っ切れたかのようにゴブリン退治を諦めるのだ。この180度転換した意趣変更は正直面食らった。作者は炭坑で繰り広げられる洞窟探検譚に似た襲撃場面に筆とエネルギーを費やしすぎて燃え尽きてしまったのだろう。


No.689 6点 サイレント・アイズ
ディーン・クーンツ
(2010/02/04 21:50登録)
本作品ほど、クーンツは傑作を物するのに仕損じたと大いに感じたことはない。

クーンツの長所として

①ページを繰る手を休ませない物語の展開の早さ
②読者を退屈させない斬新なアイデアの数々
③どんなに窮地に陥ってもハッピーエンドに終わる

という3点が挙げられるが、今回はこのうち③を特化して物語を閉じればかなりの傑作になったのではないだろうか?なぜテーマを1本に絞れなかったのか?

やはり西洋人の作家だなあと感じたのはジュニアが寝言で知りもしないバーソロミューの名を連呼することに対する答えを論理的に用意していたというところ。恐らく日本のホラー作家ならば説明のつかない超常現象めいたことを種にするだろうが、クーンツはしっかりとその理由についても論理的に用意していたのが興味深かった。

正直な話、今回は物語がどのような展開を見せるのかが全然検討がつかなく、これがページを繰る手を止まらせないといったようないい方向に向かえば文句なしなのだが、迷走する様を見せつけられているようにしか受け取れなく、何度も本を置こうと思った。
1965年から2000年にかけてのバーソロミューの半生を描くサーガという趣向なのは解るけれども1,200ページ以上をかけて語るべき話でもなかったというのは確か。最後の最後でじわっとさせられるものがあったけれども終わりよければ全て良しとはいかず、やはりそれまでが非常にまどろこしかった。クーンツ特有の勿体振った小説作法がマイナスに出てしまった。


No.688 3点 汚辱のゲーム
ディーン・クーンツ
(2010/02/03 21:55登録)
長い!長過ぎる!!全てにおいて冗漫でしょう!!
しかもクーンツ特有のどうしてそんな風になったのかを後々になって明らかにする引っ張り手法を用いているものだから、何がなんやらで、もうどうにでもなれって感じになってしまった。
上下巻合わせて1,100ページ余りで語るべき話ではないのではないか?あまりにも肉付けが多すぎて推敲がされていないように思われる。この内容だと恐らく半分は削れるだろう。小説の長大化を決して厭うわけではないが長大な話にはそれ相応のスケールの大きさがあるのに対し、今回はただ単純に登場人物が多く、それら一人一人を不必要なまでに描いた、これだけのような気がする。


No.687 7点 嵐の夜
ディーン・クーンツ
(2010/02/02 23:49登録)
5編の長短編が含まれた作品集。
「ハードシェル」はクーンツお得意の異形物サスペンス。今回はこの主人公も実は宇宙人だった(しかも敵よりもかなり優れた!!)という内容。読んでいる途中で解ったから驚きはなかったが、敵を倒す方法がアイデアとして優れている。

次に「子猫たち」は奇妙な味の短編とでも云おうか。正直、最後のオチはよう解りません。

「嵐の夜」はこれまたSF。しかしこれは設定が非常に優れている。ロボットが地球の最高知能生存者として生活する未来。二世紀を寿命として作られているため、非常に頑丈でスリルを味わうのを何よりも欲している。そんなロボット達が従来得ている能力を最小限のものとし、山中へ狩に出た際に遭遇する最強の獣“人間”。しかしクーンツは最後までこの“人間”を今ある人間として描かない。だからこれは実は猿かもしれないし、実は宇宙人かもしれない。そんな得体の知れない物として描いたまま終わる。自分としてはこれがベスト。

作者お気に入りの「黎明」は実は各評論でも評価が高いもの。無神論に固執する父親が最愛の妻と息子を亡くす話。そういう過程を経て最後に神はいるという結論に達するのだが、そのあまりにも無神論を妄執するこの父親像がクーンツ作品らしくかなりしつこく、ねっとりした粘着感を備えている。思っていたよりも後味がすっきりしなかったせいか、私としてはさほどいいとは思えなかった。

最後は長編『夜の終わりに』の改稿版「チェイス」。数ある初期作品の中でこの作品を改稿する物として選んだ動機は最後のあとがきに詳しいが、それを読んでも何故この作品を?という疑問は拭えなかった。


No.686 9点 真夜中への鍵
ディーン・クーンツ
(2010/02/01 23:44登録)
京都を舞台にしているが、この作品を書くに当ってクーンツは京都への取材はせず、日本に関する膨大な資料と日本に詳しい知人への訊き込みで書いたという。
とても信じられないほどの緻密さである。凝った日本料理についても日本人であるこちらが知らないような、もしくは食べたことないような高級な物だが実在する物として容易に想像できる物である事も更なる驚きであった。

さらに『雷鳴の館』に匹敵する豪腕サプライズもあり、これは隠れた逸品だ。


No.685 3点 ミスター・マーダー
ディーン・クーンツ
(2010/01/29 22:15登録)
主人公マーティは作家クーンツをどことなくタブらせる存在で何にせよキングの『ミザリー』に触発されて書いたのは間違いない。キング作品は未だに読んだことがないので比べることは出来ないのだが、世評の高さを鑑みるに軍配はキングに上がったようだ。
サスペンスの盛り上げ方としてクーンツはこの上なく、物語の核心を出し惜しみして最後まで明かさない。この小説作法がずっと残っており、今回もまたそうである。
この手法は読者を最後まで飽きさせない、最後まで付き合わさせる方法としてはかなり有効なのだが、明かされる真相が読者のじれったさを解消するカタルシスを伴うか、もしくは読者の度肝を抜く衝撃の真相でなくてはならない。『ウィスパーズ』然り、『雷鳴の館』然り、最近では『バッド・プレース』がそうであった。
しかし今回は設定が’70年代SFの領域を脱していなく、ある物語の典型を活用にしたに過ぎない。作中やたらと『スタートレック』が出てくるのも作者もそれを知ってのことかもしれない。
物語に絡んできた「ネットワーク」の連中も主人公に降りかかる色々な災厄を連想させつつ、結局何もしなかったというのも肩透かしだし、マーティとアルフィーの最初の対決と最後の対決で何が変わったのかと云えば実は何も無く、子供が攫われそうになった分、初回の時の方がスリルがあった。最初の対決だけで物語は終えるべきだった、そう思わせる駄作でした。

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