Tetchyさんの登録情報 | |
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平均点:6.73点 | 書評数:1631件 |
No.731 | 6点 | 本格推理④殺意を継ぐ者たち アンソロジー(国内編集者) |
(2010/04/01 22:12登録) いやに密室物、館物が多い短編集だった。 しかし、今回は前回に比べ、突出した物が無かったように思う。 目から鱗が落ちるような快感や新しい知識を得たような知的好奇心を満たす物、謎解き以外にも心に残る何かがある物、つまり理のみに走らず、情にも訴えかける物が無かった。おまけに今回はトリックやプロットが途中で解る物も多く―それはそれで面白いのだけれど―レベル的には低かったのかもしれない。 |
No.730 | 7点 | 本格推理③迷宮の殺人者たち アンソロジー(国内編集者) |
(2010/03/31 21:44登録) 素人の手遊びという印象が読書前にあった。 実際、最初の方は変に凝ったペンネームの人や、無闇に捏ね繰り回した表現を使う文体が散見され、やれやれといった感じだったのだが、後半の数編にはこれは!!と瞠目させられる物もあり、結果的には満足した次第。 しかし、館物、山荘物、密室物が非常に多く、食傷気味である。また40ページ前後の作品にもかかわらず連続殺人が起きたりと贅沢に盛り込みすぎた作品もあり、この辺が逆に素人ぽさを醸し出しているのが皮肉だ。 しかし、現在ミステリ作家として活躍している柄刀氏の短編は、最後に人情のスパイスを仕込むなど、他の作品にないサムシング・エルスがあり、感心した。最も驚いたのは新麻氏の「マグリットの幻影」。何よりも実体験的にトリックを実証する趣向が抜群で、正直度肝を抜かれた。正に「目から鱗」である。 |
No.729 | 7点 | 本格推理②奇想の冒険者たち アンソロジー(国内編集者) |
(2010/03/30 22:20登録) 当時既にミステリ作家であった司凍季氏が作品を寄せているだけで、これといった感慨は無い。 が、近年になって短編集として刊行された田中啓文氏の「落下する緑」が93年刊行の本書に掲載されているのが特色といえば特色か。 第1集はやはり購入者を惹きつけるためにそれなりの作品を集めたようで、また出来不出来の激しい玉石混交感もあったことで逆に特色が出てたが、第2集の本書は全体的に一定の水準の作品(プロ作家の司氏の作品も含めて)が揃えられており、可もなく不可もなくといった感じか。しかし田中氏の「落下する緑」は頭一つ抜きん出た感がある。近年になって編まれた田中氏の短編集の表題に同題が使われており、そのとき、既視感を感じ、『このミス』の解説を読んで「ああ、やっぱり!」と思ったものだった。 |
No.728 | 7点 | 砂漠のゲシュペンスト フランク・シェッツィング |
(2010/03/29 22:04登録) ケルンで起きた拷問の末の殺人事件が91年に起きた湾岸戦争で仲間に置き去りにされたスナイパーの復讐劇の始まりのように思わされる導入部。これに纏わって当初は謎めいた捜索願が女探偵の許へ依頼されるという形を取っている。 しかし冒頭のプロローグから連想されるプロットに反して、ヴェーラの捜査が進むに連れて、登場人物はどんどん増えていく。お宝に関わった3人以外にも外人部隊、それもZEROと呼ばれる精鋭たちで構成された部隊に所属していた戦争の亡霊たちが次々と事件に関わっていく。 シンプルがゆえに騙されてしまった。これはなかなか気持ちがいい。 そして今までは平板でプロトタイプ的な登場人物ばかりで、物語が上滑りしているように感じられたのがシェッツィングの欠点であったが、本書では登場人物の過去が因果となる性格形成をプロファイリングで説明するという手法を取っているからだろうか、なかなか厚みがあった。 |
No.727 | 7点 | 本格推理①新しい挑戦者たち アンソロジー(国内編集者) |
(2010/03/28 21:45登録) 光文社が本格ミステリを一般公募して鮎川哲也氏を選者として文庫型マガジンとしてシリーズ化されたアンソロジー。 その記念すべき第1集目の本書にはこのアンソロジーをきっかけにデビューした村瀬継弥氏と後の鮎川賞作家北森鴻氏の作品が掲載されており、その他には前述の島田氏と編んだアンソロジーのうち『奇想の復活』という巻に作品が載せられていた津島誠司氏、すでにプロ作家となって2、3作発表していた二階堂黎人氏、そして一昨年作品集が刊行されたアマチュア作家山沢晴雄氏の作品が盛り込まれている。 総体的な出来はまあまあというところ。今読むともっと評価は低くなるだろう。なんせこの頃の私は未来の本格ミステリ作家の登場に立ち会えるかもしれないと、かなり新本格にのめりこんでいたのでがむしゃらに手を出していたから、そのときはそれなりに楽しんだ記憶がある。 |
No.726 | 7点 | 推理短編六佳撰 アンソロジー(国内編集者) |
(2010/03/27 22:51登録) 平成七年の鮎川短編賞は受賞作無しという結果に終わった。しかし、その選に洩れた中でも、そのまま落選させるのには勿体無いと思うものがいくつかあったらしく、これはそれらの佳作を集めた短編集。一読して、本格推理小説の賞である鮎川賞になぜ落ちたのかがよく解った。 この6編の中で読ませるのは遠田緩氏の「萬相談百善和尚」、釣巻礼公氏の「崖の記憶」、永井するみ氏の「瑠璃光寺」、次点で植松二郎氏の「象の手紙」だろう。 共通しているのはアイデアとして光るもののはあるものの、大賞を授賞するには何か足りない。この年の応募者の中に西澤保彦、三津田信三の名も上がっているのが興味深い。選に洩れたということはこれらの作品よりも更に出来が悪かったってことだろう。 |
No.725 | 7点 | スペシャル・ブレンド・ミステリー 謎001 アンソロジー(国内編集者) |
(2010/03/27 22:43登録) 毎年日本推理作家協会がその年に発表された全ての短編の中で優れた物を纏めて「ザ・ベスト・ミステリー」としてアンソロジーを出しており、此界を代表する作家達がその中から更に選んで編むという企画本。第1回は東野圭吾だ。 小杉健治の「手話法廷」、松本清張の「新開地の事件」、日下圭介の「緋色の記憶」と連城三紀彦の「ぼくを見つけて」が特に印象に残った。 どれもこれも確かに水準以上。確かに読ませる。しかし、思わず膝を叩くような驚天動地の真相といったものが無かったので、突出した物がないといった感じ。これがアンソロジーの難しいところ。玉石混交の方が優れた作品が目立ち、逆に際立つのかもしれない。 |
No.724 | 6点 | ミステリーが好き アンソロジー(国内編集者) |
(2010/03/25 21:59登録) 今もあるのか知らないが、宮部みゆきや小杉健治ら同年代の作家達が集まった雨の会のメンバーが短編を寄せたアンソロジー。 クオリティ的には中くらい。 「異説『羅生門』」が個人的にはよかった。 |
No.723 | 7点 | 競作 五十円玉二十枚の謎 アンソロジー(出版社編) |
(2010/03/24 21:35登録) 若竹七海氏が書店バイト時代に遭遇した実際にあった不思議な事件(?)を当時新進気鋭の新本格ミステリ作家たちがこぞって真相を推理して短編に仕上げちゃうという、アイデア満点のアンソロジー。 ちなみに倉知淳氏のデビュー作も載ってます。 結局謎は藪の中という結果は残念ながらも、個人的には有栖川氏の短編が面白かった。 法月氏の作品は悪乗りしすぎだね。あの作品に挙げられた作品名と作者の元ネタがどれだけ解るかで、その人の本格ミステリ度が解る!? |
No.722 | 7点 | 雨の殺人者 レイモンド・チャンドラー |
(2010/03/23 21:24登録) 収録作は表題作、「カーテン」、「ヌーン街で拾ったもの」、「青銅の扉」、「女で試せ」の短編5編。 本作では『大いなる眠り』と『さらば愛しき女よ』というチャンドラーの2大傑作の原型となった作品が読める。長編と読み比べてどう変わったのか確認してみるのもまた面白いだろう。 従ってベストは「女を試せ」。次点は変り種「青銅の扉」か。 この東京創元社が編んだ短編集には抜けている作品もあり、これらを全て補完したのが後年早川書房から出た文庫版短編集である。ただあちらはこちらと区別するためか題名が原題のカタカナ表記であり、なんとも味気ない感じがする。チャンドラーの持つ叙情性は日本語の美しさと通じるものがあると私は思っているのだが、それが見事に損なわれている。 表紙も含め、チャンドラーのイメージに合うのはこちらの短編集なのだがチャンドラーの作品を網羅しようと思うと物足りない。チャンドラリアンにとって日本の出版事情とはなんとも具合の悪いことだろうか。 |
No.721 | 10点 | 待っている レイモンド・チャンドラー |
(2010/03/22 21:01登録) 収録作は「ベイ・シティ・ブルース」、「真珠は困りもの」、「犬が大好きだった男」、「ビンゴ教授の嗅ぎ薬」、表題作の短編5編。 実にヴァラエティに富んでおり、収録作には外れがない。通常のプライヴェート・アイ物もそれぞれの探偵に特色があり、面白い(特に「真珠は困りもの」のウォルター・ゲイジが秀逸)。チャンドラーらしくない「ビンゴ教授~」もアクセントになっていて、全4冊の短編集の中でこれがベスト。チャンドラーも意外と手札を持っているのが解る作品集だ。 |
No.720 | 9点 | 事件屋稼業 レイモンド・チャンドラー |
(2010/03/21 23:12登録) 収録作は「事件屋稼業」、「ネヴァダ・ガス」、「指さす男」、「黄色いキング」の短編4編にエッセイ「簡単な殺人法」。ベストは「ネヴァダ・ガス」、「簡単な殺人法」。 「ネヴァダ・ガス」は他の短編に比べ、いきなり毒ガス車で人が処刑されるシーンという読者を惹きつける場面から幕が開けるのがまず印象深い。この導入部はハリウッド・ムービーを想起させる。この時既にチャンドラーはハリウッドの脚本家として働いていたのだろう。 歴史に残る名エッセイは何かと問われれば私はこの「簡単な殺人法」を挙げる。これはチャンドラーが探偵小説に関する自らの考察を述べた一種の評論。論中で古典的名作を評されているA・A・ミルンの『赤い館の秘密』、ベントリーの『トレント最後の事件』、その他作家名のみ挙げた諸作についてリアリティに欠けるという痛烈な批判をかましている。 その前段に書かれている「厳しい言葉をならべるが、ぎくりとしないでほしい。たかが言葉なのだから。」という一文はあまりにも有名。 本論では探偵(推理)小説とよく比較される純文学・普通小説を本格小説と表現している。そしてこの時代においては探偵小説は出版社としてはあまり売れない商品だと述べられており、ミステリの諸作がベストセラーランキングに上がる昨今の状況を鑑みると隔世の感がある。 本書はこの「簡単な殺人法」を読むだけでも一読の価値がある。世のハードボイルド作家はこのエッセイを読み、気持ちを奮い立たせたに違いない。卑しい街を行く騎士など男の女々しいロマンシズムが生んだ虚像だと云い捨てる作家もいるが、こんな現代だからこそ、こういう男が必要なのだ。LAに失望し、LAに希望を見出そうとした作家チャンドラーの慟哭と断固たる決意をこのエッセイと収録作を読んで感じて欲しい。 |
No.719 | 7点 | 遠い約束 光原百合 |
(2010/03/20 22:58登録) 主人公吉野桜子は作者が光文社の『本格推理』シリーズに投稿していた時のペンネームである。 従ってこの吉野桜子作者自身を投影した人物であるのは想像に難くない。従ってその文章からは自身がようやく憧れのミステリ作家になれた歓びが満ち溢れているのだが、いささかはしゃぎすぎて苦笑を禁じえないのも確か。 ミステリとしての難度はかなり低いが、ミステリへの愛情はひしひしと感じられた。最後の大叔父の手紙には、胸を打たれた(こういうのにホント弱い)。 ミステリ好きな高校生が読むと堪らんのだろうな。 |
No.718 | 7点 | 赤い風 レイモンド・チャンドラー |
(2010/03/19 22:54登録) 収録作は「脅迫者は撃たない」、「赤い風」、「金魚」、「山には犯罪なし」の4編が収められている。ベストは「金魚」、次点で「赤い風」となる。 正直、1作目の「脅迫者は撃たない」は十分に理解できていないほどの複雑さ、というよりもチャンドラー自身も流れに任せて書いているようで、プロット的には破綻しているように思われた。 「赤い風」もプロットは複雑な様相で物語が流れる。物語の終盤、マーロウの口から語られる事件の顛末は実にシンプルな物であることが解り、チャンドラーのストーリーテリングの妙味がはっきりとわかる。 「金魚」はこれぞハードボイルドだといわんばかりの作品。大人しい題名に舐めてかかると、かなりショックを与えられるハードな好編だ。 「山には犯罪なし」はもう典型的なチャンドラー・ハードボイルド・ストーリー。最後の結末はなんなのだろうか?ちょっと理解できない。 しかし短編でこれだけこねくり回したプロットを使うとは思わなかった。ただ中には果たして最初からこんな複雑な構想だったのかと疑問を感じるものがあるが。 |
No.717 | 8点 | ワイルドファイア ネルソン・デミル |
(2010/03/18 21:39登録) 正に狂信者達の戦争とも云うべき皮膚泡立つ恐ろしい物語だ。 本作のタイトルとなっている「ワイルドファイア」とはレーガン政権時代に考案された対テロ報復作戦である。「全てを焼き尽くす燎原の火」という名のこの作戦はアメリカがテロを受けた際、自動的に核ミサイルが発動してイスラム諸国の主要都市―油田及び主要港湾都市を除いた―を襲撃するという物だ。そして本作で掲げられている<プロジェクト・グリーン>とは9・11同時多発テロを受け、アメリカが次のテロを受ける前に自身の手で核を自国のどこかで爆発させ、大義名分を得た上でイスラム諸国を襲撃するという、権力者達の狂った作戦なのだ。 さて作者は冒頭のはしがきでこの「ワイルドファイア」は作者の創造による作戦である事を述べているが、同時に類似の作戦は作られるべきだとも述べている。このコメントにはかなり幻滅した。結局デミルもアメリカ至上主義者の1人に過ぎないと解ったからだ。 今までのコーリーシリーズでは結末の付け方に消化不良感が残ったが、今回はカタルシスがきちんと得られた。それだけでもよしとするか。 |
No.716 | 6点 | 一年でいちばん暗い夕暮れに ディーン・クーンツ |
(2010/03/17 18:44登録) クーンツの犬好きは非常に有名だが、とうとう犬をテーマに小説を著したのが本書。何しろ主人公はエイミー・レッドウィングといい、<ゴールデン・ハート>というドッグ・レスキューを経営しているのだ。このドッグ・レスキューとは、その名のとおり、ペット虐待が日常化している家庭などで育てられている犬を買い取ったり、繁殖犬として劣悪な環境で育てられ、生殖機能を酷使され、人間の愛情すら受け付けられなくなった犬を保護したりする職業だ。このような仕事が実在するのか、はたまた犬好きのクーンツの生み出した願望の産物なのか、寡聞にして知らないが。 ペット虐待と幼児虐待をテーマの主軸として、今回も狂える大人が敵として現れるのだが、徐々に盛り上げていった割にはその対決は呆気ない。 あと謎めいた存在を醸し出すゴールデン・レトリーバーのニッキーの謎が最後まで明かされないのも消化不足気味。 |
No.715 | 7点 | ナイトフォール ネルソン・デミル |
(2010/03/15 21:33登録) 題名の意味は『黄昏』。物語の結末にあの事件を持ってきたこの作品にはそれがよく似合う。 1996年に起きたTWA800便の旅客機が墜落した事故の一部始終を収めたと云われるビデオテープの在り処とそれを撮った不倫カップルを捜し当てるのがメイン・テーマとなっているが、ジョンがカップルの片割れ、ジル・ウィンズロウに辿りつくのは下巻の中盤で、それ以降は派手派手しい争奪戦というより、宿敵ナッシュとの諜報戦となり、「動」よりも「静」の闘いといった展開で期待外れだった。 物語はこの後の展開を予告するような形で終わるため、非常に興味深い。どうも今作はその次回作のための長大なプロローグのような気がしてならない。でないと、あまりに単調すぎる。 次回作こそ、ベトナム戦争に区切りをつけたデミルが21世紀にして新たに出会った驚異に立ち向かう渾身の作品になるに違いない。 |
No.714 | 7点 | ニューヨーク大聖堂 ネルソン・デミル |
(2010/03/14 12:17登録) ページ数の割には物語が雑だったという印象が残る。 実際、ニューヨーク大聖堂籠城事件をテーマとして扱った本書は上下巻合わせて約1,070ページもあり、下巻の350ページ目でようやく銃撃戦の幕が開くのだ。それまでは発端と犯人とネゴシエイター及びバークとの頭脳線を中心として物語が流れるのだ。これはアクション巨編としては読者にストイックさを要求する構成で、確かに途中、人質となったモーリーンとバクスターの数度の脱出劇が挟まれるものの、物語の持続性を保つのにはいささかエネルギーが欠けている。そういった意味でもエンターテインメント作家デミルとしての青さが目立つ。 そんな忍耐の読書の末に迎えるラストもただ何となく色々なことがうやむやにされた終わり方が非常に座り心地が悪い気持ちにさせられた。 |
No.713 | 9点 | アップ・カントリー 兵士の帰還 ネルソン・デミル |
(2010/03/13 19:56登録) ポール・ブレナー心の旅路、この小説を一言で称するならばこれに尽きるだろう。帯に書かれている『将軍の娘』続編という謳い文句は全く正しくない。今回現れるポール・ブレナーは『将軍の娘』で登場した彼は別人のように精彩を欠く。作者自身がポールの人と為りを忘れているかのようだ。 ヴェトナムに訪れ、手紙の主を見つけ出し、真相を暴く、これだけの話に1550ページが費やされる。物語の骨子はこの事件だが、実は内容としてはヴェトナム戦争時代の兵士の回想、それもアメリカ側とヴェトナム側双方の苦い思い出がメインなのだ。 『誓約』でヴェトナム戦争の過ちを大胆に描いたデミルはこの作品を以ってヴェトナム戦争に対して総決算をつけたのだ。だからミステリというよりも冒頭で述べたような回想録というのがこの小説を評するに当たり最適だろう。もちろん冒頭のブレナーをそのままデミルに置き換えれるのは云わずもがなだ。 結末は濁されたままで終わり、またブレナー自身の去就も詳らかにされないままヴェトナムを発つ辺りで物語は閉じられる。恐らくブレナーは二度とデミル作品には登場しないだろう。登場すればアメリカがどのような正義を行ったかが判るが恐らくはそこまでは作者は書くまいと思う。それが作者の、アメリカの良心だからだ。 旅は目的そのものよりも過程が大事、最後にデミルはブレナーの口からそう述べさせる。まさにこの小説の内容そのものを云い表している。 |
No.712 | 9点 | 王者のゲーム ネルソン・デミル |
(2010/03/12 23:15登録) ページを繰る手が止まらないとは正にこのこと。デミルの面目躍如たる本作は一級のエンタテインメント小説だ。 しかしこのデミルという作家は生粋のエンタテインメント作家であり、ミステリ作家ではない、いやミステリ作家にはなれないのだろうなということ。はっきり云ってこの物語は転がし方次第では第1級のミステリに成りえたのだ。 暗殺者ハリールの動機をなぜ早々に第2章で明かすのだろうか?これを謎として持っていけば、第1級のミステリに成りえたのに。 しかし本作はデミル作品の中でも抜群の語り口の上手さが存分に発揮されている。皮肉屋コーリーのキャラクタ性が前作よりもさらに磨きがかかったことが特に大きい。 それだけにこの消化不良感が非常に勿体無い。 本当に勿体無い。 でも面白かった。 |