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ミステリの祭典

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平均点:6.73点 書評数:1604件

プロフィール| 書評

No.744 7点 鯉沼家の悲劇(アンソロジー)
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/17 23:38登録)
目玉は表題作の「鯉沼家の悲劇」、横溝正史の未完短編を岡田鯱彦、岡村雄輔がそれぞれ補完させた「病院横丁の首縊りの家」、そして狩久氏の短編「見えない足跡」「共犯者」の2編。

「鯉沼家の悲劇」は序盤、田舎の旧家の因縁めいた話が訥々と語られる辺り、横溝正史作品を髣髴させ、むごたらしい悲劇の幕開けを今か今かと忸怩たる思いで焦らされたが、最初の殺人があってからあれよあれよとこちらが推理する暇を与えずに鯉沼家の人々が次々と死んでいき、解決も呆気なく、ぽかんとしてる間に終わってしまい、いささか消化不良。使用人が犯人というのは当時のヴァン・ダインの十訓に反する行為であったろうから、どういう風に巷間に受け入れられたかが気になる所。

「病院横丁~」は2者の解釈は違うのは当たり前だが、真犯人がどちらも劇団座長の弟子だったのは興味深い。文体や語り口は岡田氏の方が好みだが、トリック、特に妹が盲目だったという設定を設けた岡村氏の仕掛が秀逸だった。

狩氏の短編は今となってはもはやヴァリエーションの1つに過ぎないもの。両編のメイントリックはどちらも平凡なものだったが「見えない足跡」は最後に探偵役の推理が二重構造になっていたのが救い。「共犯者」は真相を知った後のまゆりの行動に力点が置かれていたが、古さは否めなかった。

やっぱり「幻の名作」というものはそうあるものではないのだろう。


No.743 7点 本格推理⑪奇跡を蒐める者たち
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/16 22:42登録)
打率は5割といったところ。野球の記録ならば大記録だろうが、アンソロジーでは上のような点数になる。

今回の作品の中では「キャンプでの出来事」と「暗い箱の中で」が良かった。前者はキャンプに同行した友人が遠く離れた人にメッセージを伝えるといった稚気溢れる好編で、真相はアンフェアぎりぎりだが、小説として愉しめたのが大きい。後者は今をときめく石持浅海のアマチュアデビュー作で停止したエレヴェーターの中で起こった殺人を扱ったもの。この頃から現在の萌芽が垣間見れるのが興味深い。

その他笑い話のような「イエス/NO」、クリスティの『オリエント急行の殺人』を髣髴とさせる「黄金の指」、ショートショート並に短いながらも強い印象を残す「この世の鬼」などがよかった。

最後の3編はガチガチの本格過ぎてパズル以外何物でもないという印象が強い。とくに最後の「つなひき」はあまりにも高等すぎ、また作中作も冗長で途中でどうでも良くなってしまった。


No.742 8点 本格推理⑩独創の殺人鬼たち
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/15 21:25登録)
珠玉の短編集だった。
特に文章の巧い作者が多いのが特徴で、単なるパズル小説に堕しておらず、小説として、読物としての結構がしっかりしていた。13作品中「手首を持ち歩く男」、「エジプト人がやってきた」、「飢えた天使」が白眉で次点で「ダイエットな密室」、「紫陽花の呟き」、「夏の幻想」、「冷たい鍵」を推す。

「手首を持ち歩く男」は全てが間然無く納まり、最後に冒頭のプロローグが二重の意味を持っている事を示して終わるのが心憎い。
今回は次点の「ダイエットな密室」もそうだが、最後に心憎いオチを用意している辺りが今までの作品よりも頭1つ抜き出ている。
現在ミステリ作家として活躍する大倉崇裕の「エジプト人がやってきた」も前代未聞のトリックでよくこんなの書けたなぁとしばらく呆然した。それぞれに散りばめられた布石には気付いてはいたが、それらが最後のオチにこんな形で納まるのかと非常に感心した。今までのこのシリーズの中でトップに推す面白さである。
「飢えた天使」も現在ミステリ漫画の原作者として活躍する城平京の作品で、まず文章が非常にしっかりしており、読み応えがある。最後のペシミスティックな終わり方といい、ストイックな物語運びが非常にツボに嵌った。
次点の作品も通常の同シリーズでは1、2を争う出来だが、今回は相手が悪すぎたという思いが強い。それぞれの作品の文章もしっかりしており、クイズの正解だけではない何かを胸に残す。
その他残念だったいくつかの短編について。「鉛筆を削る男」は最後の真相が最も純文学的で抽象的だったのががっかりした。これを真相とするならばそれまで繰り広げられた他の推理を選んだ方がマシだった。
読者への挑戦が挟まれた「肖像画」はちょっと奇抜すぎる。驚愕の真相を狙ったのは買うが、ちょっと極端に行き過ぎた感がある。


No.741 7点 硝子の家
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/14 21:47登録)
表題作の『硝子の家』。
一番初めに驚いたのは昭和25年に書かれた本作が平成の世においても読みやすかった事。また風景描写に違和感が無かったことだ。作者島久平の筆致は隙が無く、しかも読み易い。この作品においては4つの殺人が成されるわけだが、それらが全て何らかの形で『ガラス』が関わっているのが特徴。4つの殺人の内、加戸雲子(しかし、なんというネーミングだろう…)に成された遠隔殺人については容易にトリックは判ったが、大峯幸之進と黒部医師の殺人のトリックはあまりこちらのカタルシスを誘わなかった。
しかし、一番最後に明かされる大峯幸一郎の殺人は密室が成立する真相が非常に面白かった。
なぜ被害者は自ら密室を作ったのか?
なぜ被害者は犯人を二度と入れさせまいとしたのか?
このロジックの畳掛け、そして身の凍る、これならば絶対に犯人の入室させたくないであろうという理由が平成の現代においても読んだことの無いほどのおぞましい内容で脱帽した。しかもこの真相も『ガラス』に纏わるもので、題名にダブルミーニングを持たせている。この作品の評価は9点。

中編『離れた家』。
解る人は存在しないのではないかというぐらい複雑さを極めている。鮎川哲也の序文に寄れば元々短編だったのを複雑すぎて解りにくいという事で中編に改稿してもらったのが本作で、鮎川氏が短編のままだと掲載を躊躇したのも頷ける話だ。真相部分に付されたタイムスケジュール表がなければ30%ぐらいしか理解できなかっただろう。これは7点。

しかし最後の短編『鬼面の犯罪』は2点。天城氏の作品はその文体のペダンチックさがどうも私には性に合わなく、内容の10%―事件の謎と解明の部分だけ―しか理解できない。最後に付されたあとがきもこの傾向はあり、気障な印象を受け、苦手だ。

第2部として掲載されたヴァン・ダインの『探偵小説作法二十則』、ノックスの『探偵小説十戒』はなぜ載せられたのか、意図が不明である。現代本格の下においてはその内容はもはや古典的であり、失笑を禁じえない。この論文に基づいて本格をものする人が果たしているのだろうか?


No.740 7点 死者との結婚
ウィリアム・アイリッシュ
(2010/04/13 21:57登録)
ひょんなことから富豪の息子の未亡人に成りすますのだが、主人公がこの手の話にありがちな悪女ではなく、善人だという所がミソ。

導入部もよくよく考えてみると非常にご都合的なのだが、詩的な文体が織成す前時代性的雰囲気、そして行間に流れる登場人物の哀切な心情が読者の共感を誘い、一種の酩酊感すら覚え、これが一種荒唐無稽な設定に疑問を抱かせない。

執筆当時の1940年代後半、アイリッシュは母親が重病になり、ホテル暮らしをしながら看病をしていたようだ。その時の影響が色濃く出ているようなストーリーだ。

私も結末の付け方には疑問を感じる。ミステリアスな余韻を残すようにしたのだろうが、あまり効果を挙げていない。


No.739 4点 本格推理⑨死角を旅する者たち
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/11 21:27登録)
今回は目玉が無かった。
12編の中で印象、というよりも若干の記憶に残ったのは『十円銅貨』、『無欲な泥棒―関ミス連始末記』、『小指は語りき』ぐらいか。
う~ん、ここに来てちょっとレベルダウンか。しかしこれだけ続けて読むと単なるゲーム小説にしか過ぎなくて食傷気味。


No.738 7点 ベルリン・コンスピラシー
マイケル・バー=ゾウハー
(2010/04/08 22:04登録)
いやあ、バー=ゾウハーの新作がまさか読めるとは思わなかった。なんと原書刊行2008年。正真正銘の新作だ。

ロンドンで宿泊していた男ルドルフがベルリンのホテルで警察に叩き起こされ、そのまま逮捕されてしまうという、いきなり窮地から始まる。その逮捕もなんと60年以上も前に犯した元ナチス将校殺害事件の容疑者として。
この過去の怨念との戦いと、ルドルフを誰がロンドンからベルリンへ運んだのかという謎を探るうちに、恐ろしい陰謀(コンスピラシー)に行き当たる。

往年のスピード感には及ばぬ物の、二重三重に判明する複層構造の謎はさすが。
大きな秘密が明かされるに至って、本来のテーマがなおざりにされがちなのだが、この作家は最後そのテーマについても決着をつける。
バー=ゾウハー、なんと誠実な作家なことか。


No.737 7点 本格推理⑧悪夢の創造者たち
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/07 21:57登録)
出来映えにかなり明暗が分かれたアンソロジーか。

黒田研二氏の『そして誰もいなくなった・・・・・・のか』、小波涼氏の『少年、あるいはD坂の密室』、剣持鷹士氏の『おしゃべりな死体』、そして林泰広氏の『二隻の船』が秀作。

それ以外はやはりどれも似た設定の繰り返しで、食傷気味である。これだけの数の本格を読まされるのだから読者を飽きさせない舞台設定というのがインパクトとして非常に重要な要素となる。まあ、素人にそこまで求めるのは酷かもしれないが、やはり金を出して買う商品であるからには損をさせてはいけないという見地からもこの考え方は妥当だと考える。でもレベルアップしてきたのは間違いない。


No.736 7点 本格推理⑦異端の建築家たち
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/06 21:41登録)
相変わらずセミプロ気取りで自前の探偵を出すのが鼻につく。しかもほとんどがまるで事前に合わせたかのように同じ設定。曰く、「昔、ある事件でたまたま居合わせた(探偵)が、鮮やかに事件を解決して以来、何かと(刑事)が相談に来るのである」。これだけ同じ設定を読まされると飽きてくるのは事実。まあ、実際素人なので上手く本格推理小説に名探偵を無理なく登場させるのにバリエーションを持っていないのだろう。

今回のシリーズでは『三度目は・・・』と『漱石とフーディーニ』が秀逸。特に後者はほとんどプロ並みの筆力の持ち主で、他者と違い、素人名探偵を登場させず、しかも当時の風俗などをたくみに絡ませて、単純なパズル小説に終わっていない。ロマンめいたものを感じた。また前者もパズル小説に終始せず、プラスアルファとなる人情味を絡ませて情理の2面での解決がよい。


No.735 5点 孤島の殺人鬼
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/05 21:24登録)
今回は通常の『本格推理』シリーズとはちょっと違い、今まで採用された方々の2作目を纏めたもの。しかし、これがやはり苦しいものだった。
一番鼻につくのが商業作家でもない人間が勝手に自分で創造した名探偵を恥ずかしげも無く堂々と登場させていること。しかもそういうのに限って内容は乏しい。魅力のない主人公をさも個性的に描いて一人悦に入っているのが行間からもろ滲み出ている。

しかし、今回こういった趣向を凝らすことで実力者と単なる本格好き素人との格差が歴然と目の当たりにできたのは非常にいいことだ。現在作家として活躍している柄刀一、北森鴻、村瀬継弥とその他の応募者の出来が全く違う。他の方々の作品が単なる推理ゲームの域を脱していないのに対し、この3名の作品は小説になっており、語り口に淀みがない。

今回これら素人の作品を読んで、この何ともいえない不快感というか、物足りなさをもっと適切な言葉で云い表せないかと考えていた。その結果、到達したのが「小説になっていない」である。物語である限り、そこには何かしら人の心に残る物が必要なのだ。それが確かに世界が壊れるような快感をもたらす一大トリックでも構わないし、ロジックでも構わない。しかしそのトリック、ロジックを一層引き立てるのはやはりそこに至るまでの名探偵役の試行錯誤であり、苦労なのだ。


No.734 1点 本格推理⑥悪意の天使たち
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/04 21:59登録)
とうとうシリーズのどん底を見た。今回は全く印象に残らなかった。
小説である以上、物語を読んだ時の何かが心に残っていいものだが、それが無かった。13編もあって1編もそういったものがないというのも困り物。

最も全く記憶に残らないものがあったわけではない。「不思議と出会った夏」、「うちのかみさんの言うことには2」とかトリックが印象に残ったものもある。
しかし今回各作品に共通するのが推理クイズの域を脱していないこと。自分の創造したトリックに酔って、どうだ、すごいだろと云わんばかりである。似たような設定、似たような展開の連続で辟易した。

あと鼻につくのが、シリーズ探偵とも云うべき人物を立てている事。正にミステリ作家になれるもんだと高をくくっているような横暴ぶりである。
上にも書いた「うちのかみさんの言うことには2」なんて「1」が掲載されていないにもかかわらず「2」と題している辺り、片腹痛い。


No.733 7点 本格推理⑤犯罪の奇術師たち
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/04 00:38登録)
奇抜なトリックよりもやはり読ませる短編に興味が自然と行った。特に最初の「犬哭島の惨劇」、終盤の「シャチの住む密室」あたりは素人のあまりにもいやらしい筆の滑り具合をまざまざと見せつけられ、吐き気に似た嫌悪感を憶えた。

さて今回、最も印象に残ったのは「クロノスの罠」、「黒い白鳥」、「鳶と鷹」の3作品。
「クロノスの罠」は本格推理に相応しい大トリックで綾辻の『時計館の殺人』の本歌取りともいえる作品で見事に消化していた。
また実作家の手による「黒い白鳥」、そして公募による「鳶と鷹」は本格のトリック、驚愕の真相はもとより、その登場人物に血が通っていること、また特に「鳶と鷹」は小説を読ませる事を素人とは思えないほど熟知している構成の確かさを感じた。まさか素人の短編で落ちぶれた刑事の復活劇が読めるとは思わなかった。
まずは及第点のアンソロジーであった。


No.732 7点 回廊亭の殺人
東野圭吾
(2010/04/02 22:14登録)
読んでいる最中、どうにか作者の術中に嵌らないことを念頭に読んでいたが、今回もすんなりと騙されてしまった。

叙述トリックはさりげなく物語に溶け込まされているので、最初はそれがトリックだと気付かないほどだった。逆にアンフェアだと思ったくらいだ。しかし読み返してみると、作者の種明しには嘘はなく、実に上手いミスディレクションを仕掛けているのが解る。

しかしそれを加味しても本書は佳作に位置する作品であろう。実業家一族が遺産を巡り、殺人事件を画策するというのはミステリで使い古された設定だ。叙述トリックや犯人の側から描いた倒叙物に犯人探しという趣向を盛り込む、こう書くと非常に贅沢な作品だと思うが、題材から来る俗物性からは免れなかった。


No.731 6点 本格推理④殺意を継ぐ者たち
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/01 22:12登録)
いやに密室物、館物が多い短編集だった。
しかし、今回は前回に比べ、突出した物が無かったように思う。
目から鱗が落ちるような快感や新しい知識を得たような知的好奇心を満たす物、謎解き以外にも心に残る何かがある物、つまり理のみに走らず、情にも訴えかける物が無かった。おまけに今回はトリックやプロットが途中で解る物も多く―それはそれで面白いのだけれど―レベル的には低かったのかもしれない。


No.730 7点 本格推理③迷宮の殺人者たち
アンソロジー(国内編集者)
(2010/03/31 21:44登録)
素人の手遊びという印象が読書前にあった。
実際、最初の方は変に凝ったペンネームの人や、無闇に捏ね繰り回した表現を使う文体が散見され、やれやれといった感じだったのだが、後半の数編にはこれは!!と瞠目させられる物もあり、結果的には満足した次第。

しかし、館物、山荘物、密室物が非常に多く、食傷気味である。また40ページ前後の作品にもかかわらず連続殺人が起きたりと贅沢に盛り込みすぎた作品もあり、この辺が逆に素人ぽさを醸し出しているのが皮肉だ。

しかし、現在ミステリ作家として活躍している柄刀氏の短編は、最後に人情のスパイスを仕込むなど、他の作品にないサムシング・エルスがあり、感心した。最も驚いたのは新麻氏の「マグリットの幻影」。何よりも実体験的にトリックを実証する趣向が抜群で、正直度肝を抜かれた。正に「目から鱗」である。


No.729 7点 本格推理②奇想の冒険者たち
アンソロジー(国内編集者)
(2010/03/30 22:20登録)
当時既にミステリ作家であった司凍季氏が作品を寄せているだけで、これといった感慨は無い。
が、近年になって短編集として刊行された田中啓文氏の「落下する緑」が93年刊行の本書に掲載されているのが特色といえば特色か。

第1集はやはり購入者を惹きつけるためにそれなりの作品を集めたようで、また出来不出来の激しい玉石混交感もあったことで逆に特色が出てたが、第2集の本書は全体的に一定の水準の作品(プロ作家の司氏の作品も含めて)が揃えられており、可もなく不可もなくといった感じか。しかし田中氏の「落下する緑」は頭一つ抜きん出た感がある。近年になって編まれた田中氏の短編集の表題に同題が使われており、そのとき、既視感を感じ、『このミス』の解説を読んで「ああ、やっぱり!」と思ったものだった。


No.728 7点 砂漠のゲシュペンスト
フランク・シェッツィング
(2010/03/29 22:04登録)
ケルンで起きた拷問の末の殺人事件が91年に起きた湾岸戦争で仲間に置き去りにされたスナイパーの復讐劇の始まりのように思わされる導入部。これに纏わって当初は謎めいた捜索願が女探偵の許へ依頼されるという形を取っている。
しかし冒頭のプロローグから連想されるプロットに反して、ヴェーラの捜査が進むに連れて、登場人物はどんどん増えていく。お宝に関わった3人以外にも外人部隊、それもZEROと呼ばれる精鋭たちで構成された部隊に所属していた戦争の亡霊たちが次々と事件に関わっていく。

シンプルがゆえに騙されてしまった。これはなかなか気持ちがいい。
そして今までは平板でプロトタイプ的な登場人物ばかりで、物語が上滑りしているように感じられたのがシェッツィングの欠点であったが、本書では登場人物の過去が因果となる性格形成をプロファイリングで説明するという手法を取っているからだろうか、なかなか厚みがあった。


No.727 7点 本格推理①新しい挑戦者たち
アンソロジー(国内編集者)
(2010/03/28 21:45登録)
光文社が本格ミステリを一般公募して鮎川哲也氏を選者として文庫型マガジンとしてシリーズ化されたアンソロジー。
その記念すべき第1集目の本書にはこのアンソロジーをきっかけにデビューした村瀬継弥氏と後の鮎川賞作家北森鴻氏の作品が掲載されており、その他には前述の島田氏と編んだアンソロジーのうち『奇想の復活』という巻に作品が載せられていた津島誠司氏、すでにプロ作家となって2、3作発表していた二階堂黎人氏、そして一昨年作品集が刊行されたアマチュア作家山沢晴雄氏の作品が盛り込まれている。

総体的な出来はまあまあというところ。今読むともっと評価は低くなるだろう。なんせこの頃の私は未来の本格ミステリ作家の登場に立ち会えるかもしれないと、かなり新本格にのめりこんでいたのでがむしゃらに手を出していたから、そのときはそれなりに楽しんだ記憶がある。


No.726 7点 推理短編六佳撰
アンソロジー(国内編集者)
(2010/03/27 22:51登録)
平成七年の鮎川短編賞は受賞作無しという結果に終わった。しかし、その選に洩れた中でも、そのまま落選させるのには勿体無いと思うものがいくつかあったらしく、これはそれらの佳作を集めた短編集。一読して、本格推理小説の賞である鮎川賞になぜ落ちたのかがよく解った。

この6編の中で読ませるのは遠田緩氏の「萬相談百善和尚」、釣巻礼公氏の「崖の記憶」、永井するみ氏の「瑠璃光寺」、次点で植松二郎氏の「象の手紙」だろう。

共通しているのはアイデアとして光るもののはあるものの、大賞を授賞するには何か足りない。この年の応募者の中に西澤保彦、三津田信三の名も上がっているのが興味深い。選に洩れたということはこれらの作品よりも更に出来が悪かったってことだろう。


No.725 7点 スペシャル・ブレンド・ミステリー 謎001
アンソロジー(国内編集者)
(2010/03/27 22:43登録)
毎年日本推理作家協会がその年に発表された全ての短編の中で優れた物を纏めて「ザ・ベスト・ミステリー」としてアンソロジーを出しており、此界を代表する作家達がその中から更に選んで編むという企画本。第1回は東野圭吾だ。

小杉健治の「手話法廷」、松本清張の「新開地の事件」、日下圭介の「緋色の記憶」と連城三紀彦の「ぼくを見つけて」が特に印象に残った。

どれもこれも確かに水準以上。確かに読ませる。しかし、思わず膝を叩くような驚天動地の真相といったものが無かったので、突出した物がないといった感じ。これがアンソロジーの難しいところ。玉石混交の方が優れた作品が目立ち、逆に際立つのかもしれない。

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