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ミステリの祭典

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探偵小説の世紀(下)
G・K・チェスタトン編

作家 アンソロジー(海外編集者)
出版日1985年08月
平均点3.67点
書評数3人

No.3 4点 nukkam
(2020/10/27 22:24登録)
(ネタバレなしです) (上下巻合わせての感想を書いてます)私は本格派推理小説以外のミステリーにはほとんど関心がない偏屈読者なので、幕の内弁当的に様々なジャンルが集まりやすいアンソロジーはほとんど手を出しません。それでも本書は海外本格派黄金時代の真っただ中の1935年に最晩年のG・K・チェスタトン(1874-1936)が編纂したので勇気を振り絞って(大袈裟だ)読んでみました。創元推理文庫版で上下巻合わせて1100ページもの大容量ですが、実はこれでもチェスタトンの原典盤から一部削除されてます。原典版は44作家45作品(エドガー・アラン・ポーは2作品)ですが有名作家の作品は他の文庫版に収められていたためかマイナー作家中心の34作家34作品版に縮小されてしまいました。ほとんどが私の知らない作家で、意外な掘り出し物の本格派に会えるかと少しは期待しましたがストレートな本格派は少なかったです。例えばアラン・メルヴィルの「くずかご」は「バーナード・ハズウェルを誰が、いかなる方法で、なぜ殺したのか」と堂々たる本格派風に始まりながら解決は場当たり的で残念、但し最後の一行の切れ味でかろうじて凡作を免れたような作品でした。ヘンリー・ウッド夫人の「エイブル・クルー」も途中まではアガサ・クリスティーに匹敵するほどの面白さがありましたがやはり解決が物足りません。個人的にまあまあだったのは怪奇小説作家として紹介されながら意外と本格派していたフランク・キングの「8:45列車内の死」と短編ボリュームに緻密なアリバイ崩しを詰め込んだヘンリー・ウェイドの「三つの鍵」ぐらいでした。それにしてもこのアンソロジーにコナン・ドイルのシャーロック・ホームズ作品が選ばれていないのはとても不思議ですね。

No.2 5点 弾十六
(2018/12/22 19:47登録)
1935年出版。下巻の収録作品は
⑴三つの鍵(ヘンリー・ウエイド)、⑵遺伝(アントニー マースデン)、⑶青年医師(H.C. ベイリー)、⑷豚の足(F.A. クマー)、⑸1ドル銀貨を追え(ビガーズ)、⑹ミス ヒンチ(H.S. ハリスン)、⑺封印された家(ハルバート・フットナー)、⑻強い兄ジョン(ハーバート・ショー)、⑼障壁の向こうから(J.S. フレッチャー)、⑽カステルヴェトゥリを殺したのは誰か?(ギルバート・フランコウ)、(11)白い足跡の謎(フリーマン)、(12)偽痣(J.D. べリスフォード)、(13)中の十二(ネリー・トム=ギャロン&コールダー・ウィルスン)、(14)エイブル・クルー(ヘンリー・ウッド夫人)
他の創元文庫に収録されてるビッグネーム(下巻だとセイヤーズ、クリスティ、トウェイン、ブラマ、カー)は再収録せず、という潔さも手伝って、全く売れそうに無いメンツになっています。初出年等の基礎データは記載されていません。巻末に小山 正+橋本 直樹+菊地 千尋の対談付き。
ぼつぼつ内容を読みつつ、レヴューしていこうと思います。とりあえず5点としていますが、あくまで暫定点です。

さて私にとっての重要問題は表紙絵なんですが、下巻には銃の部品ぽいガラクタが積まれています。デザインは上巻同様、アトリエ絵夢 志村敏子さんです。
中央部と上右の斜めになってるやつ、ボルト部分かな?と思ったら、よく見てびっくり。
日本の超レアな自動拳銃、日野式じゃないですか!まーデザインが変テコで画家の興味を引きそうな銃であることは確かですが、上巻の評で銃器に興味なさそう、なんて言ってごめんなさい。とすると、上巻のライフルも実在するのかなぁ… ニワカガンマニアとしては気になるところです。(以上、2018-12-14記載)

⑴The Three Keys by Henry Wade (初出不明) 吉田 誠一 訳: 評価4点
樽のような捜査もの。不可能犯罪っぽい設定なんですが、淡々とした調査が単調に語られ、面白みがありません。15年ほど前に戦争のためドイツ人が拘禁された…とあるので、1930年頃の作品か。ユダヤ人が出てきますが、対立や差別をうかがわせる描写はありません。ネタは、多分、実生活で気づいたことを安直に使っただけ?
p17 2シリング: スポーツクラブのチケット代(タオル付き) 消費者物価指数基準1930/2019で64.82倍。現在価値937円。
p22 赤帽へのチップ 1シリング
p23 映画(グレタ ガルボ主演): 1926年から主演映画があります。
(2019-3-3記載)
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⑵Heredity by Antony Marsden (初出不明) 榊 優子 訳: 評価4点
もう少し工夫が欲しい。スッキリしない作品です。
p43 フランスの諺「すべてを理解することは…」(トウ コムプランドル): Tout comprendre, c'est tout pardonner.(…すべてを許すことだ。) どうやら諺ではなくトルストイ「戦争と平和」が発祥。ウェブスターやランダムハウスの辞書に載っています。
(2018-12-16記載)
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⑶The Young Doctor by H.C. Bailey (多分Windsor誌が初出? その頃の項目がFictionMags Indexに欠けているので詳細不明。単行本はMr. Fortune’s Practice, Methuen 1923、別題The Superfluous Clues) 永井 淳 訳: 評価6点
フォーチュンもの。二転三転が面白い。組織に皮肉っぽい目を向けるフォーチュン氏が気に入ったので創元文庫をさっそく注文しました。
p51『おお、なんびとの愛も望みえぬ肥満せる白き女よ』(Oh, fat white woman that nobody loves): Frances Cornford(1886-1960 英国の詩人)のtriolet poem "To a Fat Lady Seen from the Train" (Poems 1910)からの引用。
p54 ドイツで売っているラウフ タバク(sell in Germany and call Rauch-tabak): 独語rauchはsmokingの意味らしい。パイプ・タバコのことか?
p70『20人を見すごし、21人目に石を投げる…』(Let twenty pass and stone the twenty-first, loving not, hating not, just choosing so): Robert Browningの詩“Caliban upon Setebos”(Dramatis Personae 1864)からの引用。
(2018-12-22記載; 2020-2-29追記 Gutenbergに原文があったので引用句が判明)
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⑷Pig’s Feet by F.A. Kummer (Saturday Evening Post 1924-2-2) 中村 凪子 訳: 評価5点
発表がポスト誌なので先を予想して安心しちゃうのが欠点。スリリングな展開なんですけどね。作中で、第一次大戦後の「法を無視して金儲けに走る風潮」を嘆いています。
(2019-3-3記載)
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⑸The Dollar Chasers by Earl Derr Biggers (Saturday Evening Post 1924-2-16〜2-23)乾 信一郎訳: 評価5点
いかにもポスト誌が好きそうな軽くて明るい話。わかりやすい展開が良いですね。作者は中国人と日本人を書き分けています。タツという名の日本人が大活躍。当時、中国人は正確だ、という評判があったようです。
以下トリビア。
p130 週給50ドル: もらってる方は「スズメの涙」と言う給料(割と能力のある若い新聞記者)ですが、消費者物価指数基準(1924/2018)で現在価値736.95ドル、83421円。月収36万円は結構良い稼ぎです。(そういえば映画「七月のクリスマス」(1940)の主人公が週給22ドルでした)
p165 なつかしきイングランドのローストビーフ: 英国の愛国歌。The Roast Beef of Old England、Henry Fielding作(1731)
p180 ホームズとワトスン: いつものようにワトスンの知的能力が過小評価されています。
p188 英国は海洋を制覇す: 歌の一部。このような歌詞は結構あると思うので今回は探していません。
(2018-12-14記載)
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⑹Miss Hinch by H.S. Harrison (McClure’s 1911-9) 高田 恵子 訳: 評価4点
話の筋が読めちゃう感じですが、最後まで引っ張ります。オチの付け方は感心しないなあ。
(2019-5-27記載)
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⑺The Sealed House by Hulbert Footner (Mystery 1933-7) 永井 淳 訳: 評価5点
マダム ストーリーもの。(Madame Rosika Storey) 美貌の女探偵。秘書ミス ブリックリーの一人称で語られます。程よいスリルの気楽に楽しめる話。
初出のMystery誌は元々Illustrated Detective Magazineとして1929年に創刊、Woolworth専売の雑誌とのこと。値段10セント。読者層から女性探偵という設定なのかもしれません。
p291 三千ドルのミンク・コート: 米国消費者物価指数基準(1933/2019)で19.7倍、現在価値637万円。
p293 家賃は月400ドル: 一軒家、半地下の台所、二階建て。上記の換算で85万円。週500ドルの収入は月収2167ドル(460万円)。
(2019-7-25記載)
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⑻Strong Brother John by Herbert Shaw (The Novel Magazine 1912-6) 西条 裕美子 訳: 評価5点
ヒッチコック劇場で映像化したらぴったりな感じの話。二百十ポンドは英国消費者物価指数基準(1912/2019)で113.27倍、320万円。
(2019-8-6記載)
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⑼From Behind the Barrier by J.S. Fletcher (Metropolitan Magazine 1907-8) 後藤 安彦 訳: 評価5点
オカルト風味、双子って神秘的なところがあります。結末は充分納得がいく話。三千ポンドは英国消費者物価指数基準(1907/2019)で119.30倍、現在価値4599万円。全部ソブリン金貨ということは当時エドワード七世の肖像(1902-1910)で1枚8gなので3000枚24kg。
(2019-8-11記載)
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⑽Who Killed Castelvetri? by Gilbert Frankau (The Strand 1928-3 挿絵Stanley Lloyd) 真野 明裕訳: 評価6点
フランスの法廷もの。制度がよくわからない。12人の陪審員のほかに判事が三人って多すぎ。もつれた時の最終判決は判事の合議制なのか?拳銃が沢山出てきてマニアには楽しい話。
p369 ピストルではありません。ごく古いリヴォルヴァー(Not a pistol... Only a very old revolver): 自動拳銃という意味でpistolを使っているようだ。
p371 両方とも七連発のブローニング… 口径は六・三五ミリ… 一方はベルギーのヘルプシュタール(Herbstahl)で製造… 弾倉に三発、薬室に一発… もう一丁はM・A・Bというマークの入ったフランス製… : ベルギーFN(Fabrique National de Herstal)製の6.35mm(=.25口径)の極小ポケット・ピストルBrowning M1905(製造年からM1906とも呼ばれる。全長114mm、重さ367g)がヒットしたので、世界各国の他メーカーから類似品がかなり製造販売された。弾倉に6発、薬室に1発で7連発が可能な自動拳銃。フランスではMAB(Manufacture d'Armes de Bayonne) Model Aとして1925年から製造されている。
p371 二十九フラン: 仏国消費者物価指数基準1928/2020(422.33倍)で1フラン=€0.64=77円。29フラン=2225円。ポケットに入っていた金額。
p371 弾倉のマーク: マガジンの写真を見ると左サイド下部に楕円で囲まれたM・A・Bマークがある。FN製の場合は右サイド下部に楕円で囲まれたFNマーク。
p374 フランス革命—アメリカ映画で再現されたもの(French Revolution—as reconstructed by the American film): 色々あると思うがD. W. Griffith監督のOrphans of the Storm(1927)か。
p383 ピストル、それともリヴォルヴァー?(A pistol, or a revolver?)… フランスの下層階級ではその二つはあいにくと同じ意味(Among the lower orders in France, the terms are unfortunately synonymous): この質問は自動拳銃か回転拳銃か?その答えはフランス語のrevolverは普通どちらをも意味する、ということ。ラルース仏和辞典にもそう書いてありました。
p385 どの探偵小説でも… 語り手はうすのろ扱い(In all the detective stories... the narrator is made out a half-wit): 探偵小説への言及。
(2020-2-29記載)
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(11)The Case of the White Footprints (初出 日刊紙Daily Graphic 1920-8-9〜14(六回連載) 挿絵画家不明) 大久保 康雄 訳: 評価5点
ソーンダイクもの。ジャーヴィスの推理が冴え渡る、のですが最後はソーンダイクに持って行かれます。ところで謎に憧れる医者が実際に謎に対面した時の態度が面白い。確かにこんな口先野郎、いますよね…
p418 シエラレオネは『白人の墓場』(White Man’s Grave): そんな言い方あるのかな、と思ったらWikitionaryにも出てました。
p419 スコットランド流にいうと『味見』(‘tasting,’ as they say in Scotland): そーゆー感じ?調べつかず。
p438 二、三百ポンド: 消費者物価指数基準(1923/2019)で60.04倍、現在価値169〜253万円。
(2019-1-21記載; 2021-10-28修正)
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(12)The Artificial Mole by J. D. Beresford (初出Nash’s Magazine 1927-11 挿絵M. Mackinlay)「偽痣」池 央耿 訳: 評価5点
過去の出来事(1910年3月)を振り返る話。大して面白みはないが、時代色が良い。英国の田舎(人口500人くらい)の事件。
p457 三月二十六日土曜日♠️1910年の日付と曜日で間違いなし。
p454 六ペンス硬貨くらいの大きさ♠️当時の銀貨(1902-1910)はエドワード7世の肖像、重さ3g、直径19mm。
p467 五千ポンド♠️英国消費者物価指数基準1910/2021(120.83倍)で£1=18979円、9490万円。
p473 二十万フラン♠️仏国消費者物価指数基準1910/2021(2666倍)で旧1フラン=4.06€、1億780万円。
(2021-10-17記載)
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(13)The Middle Dozen by Nellie Tom-Gallon & Calder Wilson (初出不明)

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(14)Abel Crew by Mrs. Henry Wood (Argosy[UK] 1874-9, as by Johnny Ludlow) 浅羽 莢子 訳: 評価6点
当時のArgosy(米国の同名雑誌とは無関係)は、このヘンリー ウッド夫人(Ellen Price Wood, 1814-1887)がオーナーで編集長。なかなかやり手の女性だったようで、自作を匿名や変名でこの雑誌に掲載。本作は語り手の少年と同名のジョニー ラドロウ名義で発表。おぼっちゃまの一人称による、いかにも田舎な描写でゆったりと語られ、実に納得のゆく結末に至ります。(村びとが使う訛りの翻訳はちょっと苦しい)
p509「例年よりえらく遅い」復活日明け火曜日(四月下旬)の出来事: 復活祭はグレゴリオ暦だと3月22日から4月25日の間。1874年以前で「えらく遅い」復活祭(4/20以降)を遡ると1867-4-21、1862-4-20、1859-4-24、1851-4-20、1848-4-23。1859年は4/20以降となったのが8年ぶり、しかも最も遅い日付なので「えらく遅い」印象にふさわしいかも。とすると雑誌掲載時の15年前なので30歳くらいの「わたし」が少年の日を思い出して手記を書いてる感じか。
(2018-12-30記載、追記2019-1-20)

No.1 2点 Tetchy
(2010/05/09 16:40登録)
全ての短編が30年代の黄金時代物だから文体が堅苦しく、実に読みにくかった。
最後の方に若干読みやすく、興味を覚えた作品があったが、果たしてこれらが本格黄金期を代表する諸作なのか疑問が残る。特にシリーズものの短編などは読者に予備知識があるものとして語りかける構成のものもあり、戸惑った。
私にもう少し読書のスキルが必要なのか、それとももはや時代の奥底に葬られるべき凡作群なのかは判らないが、十分愉しめなかったのは事実として残った次第である。

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