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ミステリの祭典

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平均点:6.73点 書評数:1604件

プロフィール| 書評

No.784 8点 このミステリーがすごい!2003年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/06/03 21:44登録)
横山秀夫ブレイクの年。ランキングは本格も入り混じってなかなか面白い結果になった。伊坂幸太郎が『ラッシュライフ』で初ランクイン。この頃はまさかこんなに売れっ子になるとは思わなかったけどね。
海外は今なお1冊のみ刊行されているドロンフィールドの『飛蝗の農場』が1位。ポール・アルテ初翻訳の年でもあった。
古典もレヘインとかランズデールとかの有力作家も入り混じって結構盛況。

毎年こういう年末のミステリのランキングはどれをとっても不満が残る。
というのもやはりアンケート回答者の新し物好きの傾向が顕著だからだ。
昔からのミステリ・ファンとしては島田荘司はもっと上位に行って欲しいし、真保裕一や折原一はランキングして当然だと思うし、P.D.ジェイムズやゴダード、ヒルやレンデルももっと評価されていいはずなのだ。これらがどうにも過去に全盛を迎えて今は落ち目の作家という風に目に映るし、作家の使い捨て状態だとも思われるのだ。
今になってみればジャンルの違う作家を同列に並べて評価する行為を嫌った作家、評論家の気持ちがよく判る。しかし、内容はミステリ好きには堪らないムックであることはこの年も証明された。今後は好きな作家がどの位置に復活しているのかを確認するために毎年購読していくのだろうな。


No.783 7点 夜想曲(ノクターン)
依井貴裕
(2010/06/02 21:38登録)
実に端正な本格だというのが正直な感想。推理はロジックの積み重ねで整然と解かれていく。

このトリックはネタバレになるので具体的には挙げないが、どう趣向の作品と同様のトリックである。

しかし残念なことに本書の根幹を成すロジックには21世紀の今ではかなり苦しいものがある(本書刊行は1999年8月)。探偵多根井が文書に隠されたトリックを解き明かす端緒として日付の矛盾について指摘するが、現在では国民休日法で当時の祝日のように特定の日が祝日であるとは限らないからだ。しかしそれでも文中に「今年の」と枕詞を入れておけばどうにか通用するか。

また真犯人の正体も実に意外だが、当時のミステリ文壇の流行を取り入れた内容になっている。しかしこの頃すでにこの題材は手垢にまみれていたからさほどの衝撃はなかったのかもしれない。
また探偵役の多根井理のキャラクターが平凡で単純なロジックマシーンになっているのが惜しいところ。理路整然としたロジックもいいがやはり作品として一歩抜きん出るにはトリックの衝撃はもとより、魅力的な探偵というのが必須であることを痛感させられる反面教師のような作品になっている。


No.782 7点 本格ミステリ・ベスト10 2002
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/06/01 21:43登録)
1位は山田正紀氏の『ミステリオペラ』。『このミス』1位の『模倣犯』も9位にランクインしているのは?といったところ。
芦辺氏、くろけん、大倉崇裕氏、島荘、有栖川氏、愛川氏、貫井氏、鯨氏、殊能氏、飛鳥部氏、斉藤肇氏、門前氏と非常に濃い本格ミステリ作家が並ぶ^^まあ、本格ミステリランキングなので当たり前だが。

東京創元社で当初出版されていた頃はそのあまりに同人誌的な内容・構成にどうなるものかと心配したが、前年から原書房に変わり、かなりこなれてきた感じで、特色が漸く出てきたように感じた。とはいえ、新たな門出として出発した昨年は意外にも『このミス』のランキングに付和雷同するしているような感じだったが今回は特色が出ていてよかったように思う。
また添え物のように扱っていた海外ミステリも今回はページをかなり割いて論じているのにも好感が持てた。国内と海外とで座談会を分けていたのも○。希望を云えばせめて国内同様には扱って欲しいのだが。
以前に比べ、だいぶん進歩した本シリーズ。試行錯誤の黎明期は過ぎたと判断する。次回からは充実期に入るゆえ、独自の企画を立ち上げて特色を出してもらうことを期待する。しかし、表紙の絵はどうにかならんのかなぁ。


No.781 7点 このミステリーがすごい!2002年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/31 21:28登録)
宮部みゆき初Vの年!1位『模倣犯』、2位奥田英朗氏『邪魔』、3位山田正紀氏『ミステリオペラ』と続く。相変わらず極太本が並ぶ。
翻って問題は海外編である。いや1位になったテランがどうのという問題ではなく、獲得票数を見ると国内編が88点に対し、海外編はわずか55点である。しかもウィンズロウ、ハンター、ゴダートが辛うじて20位以内に食い込み、ハイアセン、コナリーはランキング外なのだ。ここに日本人の熱し易く、冷め易い、云わば使い捨て気質が如実に表れているように思えるのだ。現在アメリカで人気を博しているレナードの新刊はどうなったのか?バークはもう駄目なのか?ランキンは?こんな状況では海外作家が可哀想である。興味本位の投票は無効にすべきだろう。

この年もランキングに並んだ作家達の顔ぶれがだいぶん変わっていた。国内編に関しては1位宮部を筆頭に東野、大沢、逢坂など「このミス」創世紀からの面子がランキングに顔を出し、また昨今の新興勢力もぐんぐん上位に進出してきて面白い所がある。
しかし、ランキングはあくまで指標だよという主張は、書店のランキング作品に対する扱いを見ればもはや現実を直視していない戯言に過ぎない。各投票者は己の内容に責任を持つべきだ。ここまで影響力を有すると、各自のコメントが一人歩きするのだから。


No.780 7点 本格ミステリ・ベスト10 2001
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/30 21:47登録)
表紙が江戸川乱歩フィギュアから何がなんだか解らないグロい幻想画に変わり、手に取るのを躊躇したことをいまだに覚えている。

さてランキングだが『このミス』と同じ泡坂妻夫氏の『奇術探偵曾我佳城全集』であったのが意外。以下も『このミス』に付和雷同するかのようなランキング。本格ミステリが台頭してきたのか、この後しばらく両者のランキングは似通ってくる。

版元が東京創元社から原書房に変わり、前年までの『本格ミステリ・ベスト10』に比べ、かなりソフトな装丁に仕上がっており、かなり『このミス』を意識している。
だが内容の方のディープさはさほど変わっていない。『このミス』と比較するのは反則かもしれないが、トリのコラムにコミケを持ってくるなど、これこそ同人誌の域を脱していないように思える。加えて座談会の内容と云ったら…。こいつら本当にこんな言葉で話してんのかと目を疑うばかりだ。
とは云え、これが本当のスタートだったと今にして思う。
この転換が現在の充実振りの素地を作ったかと思うと、歴史の証人だったのかなぁ。


No.779 8点 ストリート・キッズ
ドン・ウィンズロウ
(2010/05/29 22:22登録)
ドン・ウィンズロウのデビュー作にして探偵ニール・ケアリーシリーズ第1作。
探偵物語としても上質でありながら主人公ニールの成長物語として実に爽やかな読後感を残す。
次期大統領候補の娘の捜索というメインのストーリーの合間に断片的に挟まれるグレアムがニールを教育し、一人前の探偵に育てていく探偵指南の挿話が実に面白い。

リアルとフィクションのおいしい要素を上手くブレンドした作者の筆致はレナードのそれとは明らかにテイストが違い、デビュー作にしてすでに自分の文体を確立している筆巧者。
裏ぶれた社会に青さと甘さを持ちながらも自らの道徳を大事に事件に当たる若き探偵ニール。このニールはチャンドラーのフィリップ・マーロウを現代に復活させた姿としてウィンズロウが描いた人物であるように思える。


No.778 7点 このミステリーがすごい!2001年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/24 22:24登録)
この年の国内1位は泡坂氏の『奇術探偵曾我佳城全集』。既出の短編も収録された短編集にこれほどの支持が集まるとは、正直意外。
2位は横山秀夫氏の『動機』。この年が横山ブームの始まりといえよう。また14位に古泉迦十氏の『火蛾』が入っているのも興味深い。たった1作のみの発表で文庫化もされていない幻の作品になりつつある。
海外はジム・トンプソンの『ポップ1280』、シェイマス・スミスの『Mr.クイン』が1,2位を占めた。ノワール系と呼ばれる小説がこの頃台頭しだした時期。しかしノワール系とはなんぞや?と問われると、その明確な定義が未だにないのが斯界の相も変わらない風潮だが。

海外についてはミステリ作家が乱出される状況故か、約2年のスパンで新旧交代が行われているような感じだ。ずっと共にする作家を決めて、常に支持していくような風潮がこの頃にはない。
内容的にはあくまで企画で勝負しようとしている点が良かった。


No.777 7点 オッド・トーマスの救済
ディーン・クーンツ
(2010/05/23 23:09登録)
前回の事件の後、オッドは元恋人ストーミーの伯父が司祭を務めるシエラネヴァダ山脈にあるセント・バーソロミュー大修道院に住み込むようになる。本書はそこでオッドが遭遇した怪事件について書かれている。

内容的にはクーンツ得意のモンスターパニック系ホラーなのだが、それにサプライズを加味している。
とはいえ、冷静に考えるとこれはバカミスである。クーンツしか思いつかないようなトンデモ系真相なのだ。

あとひとつ要求したいのは舞台となる修道院の見取り図。どこをどう歩いているのかが非常に解りにくい。これは出版社の怠慢だろう。というか、出版社側も解らなかったのかもしれない。


No.776 4点 本格ミステリ・ベスト10 2000
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/22 21:58登録)
この年の1位は『法月綸太郎の新冒険』と、いささか迫力に欠ける。これは本格ミステリ読み達の寡作家法月氏に対するエールなのか?
2位が殊能将之の『ハサミ男』、3位がこれまた綾辻行人の『どんどん橋落ちた』とこれまた願望を込めての票が集まったような結果。ま、『このミス』と違う特色が出ていいのだが。

しかし何とまあ、本作りの下手な出版社であるか、東京創元社よ!これぢゃあ、ミス研の同人誌と大差がないぞよ!もっと本格ミステリファンの裾野を拡げたかったら、装偵に色気がなくては…。
この本を見て購買欲がそそられる一般読者がどれほどいるのか?

内容もまた然り。本格の未来に危機感があるだの、『ハサミ男』の出現によりミステリの新たな可能性が生まれただの、硬い文章でオタクチックに論じていたら、ますます読者は引くで!『このミス』の軽さを、是非はあれど、導入すべきではなかろうか?


No.775 7点 このミステリーがすごい!2000年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/21 22:48登録)
後に東野圭吾は『容疑者Xの献身』で直木賞を受賞し、大ブレイクを起こし、現在最も売れるミステリ作家になっている。
個人的には私が中高生の時に女子がよく読んでいた赤川次郎現象に似ており、平成の中高生は東野作品を窓口にしてミステリの世界に入っていくことが多いのではないか?

つまらぬ余談はそれくらいにして、その東野氏が最も直木賞に近かったと思われる作品が本年度2位の『白夜行』。
未読だが、本の厚みと世評の高さからいって当事の彼の代表作となった作品である。
その『白夜行』をしりぞけて1位に輝いたのが天童氏の『永遠の仔』。
以下も福井晴敏の『亡国のイージス』、高見広春の『バトル・ロワイヤル』、奥田英朗の『最悪』、殊能将之の『ハサミ男』、本多孝好の『MISSING』と、力作、話題作の目白押し。
ミステリの定義は人それぞれだろうが、今振り返ると作品の質という意味ではこの年は大豊作だったのではないだろうか。

翻って海外はS・ハンター『極大射程』が1位で2位がJ・ディーヴァーの『ボーン・コレクター』、3位がT・H・クックの『夏草の記憶』と3強が続く。
ハンター、クックはそれぞれ2作が20位にランクインし、まさに最盛期だったといえよう。

この年から(?)2色刷りとなった本書は今までの『このミス』よりもレイアウト、構成に関して完成度はかなり向上したように思われ、東京創元社の『本格ミステリ・ベスト10』よりかはムックとして数段ミステリファンの心をくすぐる。
しかし、今年も「新し者好き」の傾向は顕著だ。
確かに良い作品は良いだろうが、もはやミステリとは呼び難い作品がランキング上位に来て貴重な枠を占有するのは何ともいえない悔しさがある。
あまりにも膨張するミステリ&エンタテインメントのジャンルに崩壊の危惧を覚えたのがこの年でもある。


No.774 7点 本格ミステリ・ベスト10 ’99
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/20 21:54登録)
やはりこの年の1位は二階堂黎人氏の超重厚長大本格ミステリ『人狼城の恐怖』。2位は京極夏彦の『塗仏の宴』(笑)。
この1,2位の2作品だけで通常の本の10冊以上の厚みがあるんぢゃないか?
他にも笠井潔氏の『天啓の器』、奥泉光氏の『グランド・ミステリー』、山田正紀氏の『神曲法廷』と分厚い本が10以内を席巻。こってり系のランキング結果に。

さて内容はと云えば、前年度版よりも“開かれた”という感じはしたが、やはり値段をつけて書店に委託販売する商業冊子であるならばまだまだレイアウトに手間暇かける必要があるのでは?ただでさえ、「探偵小説研究会」と固苦しい字面が並ぶのだから一般受けしやすいよう、もっと工夫を凝らすべき。
内容は本当に読みやすく、また理解しやすくなっていた。だが私の期待する位置はもっと高みにある。


No.773 7点 このミステリーがすごい!’99年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/19 22:00登録)
この年の国内1位は最近文庫化された髙村薫氏の『レディ・ジョーカー』。いやあ、10年以上経っての文庫化だったのね。
二階堂氏の狂気の4部作『人狼城の恐怖』が出たのもこの年。
海外1位はセオドア・ローザックの『フリッカー、あるいは映画の魔』。今のところこれ1作限りじゃないか、この作家?
クックの「記憶」シリーズとハンターのスワガーシリーズの第1作が出たのもこの年。

「笠井潔VS匿名座談会事件」で転換期を迎えた感のあるこの年。率直な感想を云わせてもらえば、お互い大人気ないなと。
読んでて気持ちのいいものでもないし、結局は己のドグマのプロパガンダ的行為にしかとれなかった。
また年々募る「新し者好き」の傾向がランキングにさらに拍車がかかってきたように思う。
この頃から『このミス』に違和感が出始めた。


No.772 8点 本格ミステリ・ベスト10 ’98
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/18 21:59登録)
広義のミステリのランキングである『このミス』に叛旗を翻す形で始まった本格ミステリ限定の年間ベスト選出ムック。
記念すべき第1回の1位は麻耶雄嵩氏の『鴉』。
2位が加納朋子氏の『ガラスの麒麟』、3位に谺健二氏の『未明の悪夢』が続き、それ以降も山口雅也氏、折原一氏、有栖川有栖氏、森博嗣氏と当時の本格を代表する作家がベスト10に並ぶ。

しかし内容はといえば実にマニアック。案外読み応えはあるが、いかんせん『このミス』と比べると遊び心が足りない。
本当に本格マニアの手による本格マニアの為のガイドブックの域を脱してない。
同人誌的な作りが手作りの味を醸し出しているのはさほどマイナスではないが中身はページを見開いた時に、エッセイというよりも論文を読まされているような無機質なレイアウトは大いにマイナスだろう。
まあ、これも今回第1回目ということで許せんことも無いが…。


No.771 6点 十日間の不思議
エラリイ・クイーン
(2010/05/17 21:36登録)
本書の主要人物はエラリイと彼の友人ハワード、そしてその父親ディードリッチにその妻サリー、ディードリッチの弟ウルファートのたった4人である。そんなごくごく少ない人間関係の間で起きる殺人事件だから、必然的にドラマ性が濃くなる。

本書におけるエラリイの役回りは謎の脅迫者を突き止める探偵役、ではなく、このハワードとサリーの2人に翻弄される哀れな使い走りであることが異色。前にも述べたがこういう役回りを配される辺り、国名シリーズ以降のクイーンシリーズはパズラーから脱却してストーリーを重視し、ドラマ性を持たせることに重きを置いているように感じる。特に驚くのは事件の真相が解明するのは一旦落着した1年後であることだ。これほどまでに事件を引っ張ったことは今までなかったし、これがエラリイのに初めて犯人に屈服する心情を吐露させる。

正直なところ、結末が好きではない。
人の命を奪うことは決して許されないこととするならばなぜエラリイは人の命を間接的に奪うようなことをしたのか?これが非常に矛盾を感じたのだった。この結末にはやはりエラリイの、もしくは作者の傲岸不遜さがまだ残っているように思える。非常に残念でならない。


No.770 9点 このミステリーがすごい!’98年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/16 21:31登録)
この年は桐野夏生氏の『OUT』が初ランクインにして1位という彼女にとってターニングポイントとなった年でもある。
また京極夏彦氏が妖怪シリーズに加え、怪談シリーズの第1作『嗤う伊衛門』で2作を10位圏内に入れるという健筆ぶり。
異色なのは『硝子の家』という古典作家のアンソロジーがランクインしたこと。
海外ではフロストシリーズの『フロスト日和』が1位を獲得したが、それよりも『赤い右手』、『カリブ諸島の手がかり』などをランキングに放り込んだ国書刊行会の活躍が印象的。

コラムも継続しているがクオリティが下がり、つまらなくなってきた。
またベテラン作家の評価が低くなり、新人礼讃の傾向が強くなったのもこの頃が起源か。


No.769 10点 このミステリーがすごい!’97年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/15 18:09登録)
馳星周がデビュー作にして1位を獲得するという快挙を成し遂げた年。ずいぶん後になって読んでみたが、それほどか?と思ったが。
国内ではその他東野圭吾と宮部みゆきが復活ののろしを挙げているような勢いがあり、西澤保彦がやっとランクインした。

海外はラヴゼイ、エルロイ、フランシス、クラムリー、ジェイムズ、ル・カレ、キングといったベテラン作家とコナリー、ランズデール新興勢力の鎬の削り合いが見られる非常に贅沢な一年だった。

やっぱりこの頃のミステリ・シーンは面白い。

この年から作家の隠し玉コーナーが始まったのと、巻末に過去のこのミスのランキングがまた載っており、かなりのお得感があった。


No.768 10点 このミステリーがすごい!’96年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/14 22:10登録)
この年の表紙絵はようやく出てきたか!の感のある、いまや本棚探偵の方が知名度が高くなった喜国雅彦氏の手になるもの。

そしてランキングは上位3位に『ホワイトアウト』、『鋼鉄の騎士』、『蝦夷地別件』と冒険小説が石鹸。前年の『ミステリーズ』1位に叛旗を翻すかのようなランキング。
しかしこの後にも『魍魎の匣』、『ソリトンの悪魔』、『狂骨の夢』と1000ページクラスの凶器本が続く。長厚壮大さにますます拍車が掛かっている。

海外はかねてより評判の高かったミネット・ウォルターズの『女彫刻家』が1位。この後マキャモンの『少年時代』、ローレンス・ブロックの『死者との誓い』が続く。この頃はマキャモン、ブロック全盛だったなぁ。2人とも20位圏内に2作入っているし。
変わりどころでノンフィクションの『ホット・ゾーン』が入っているのが面白い。

まだまだミステリマニア臭が漂うコラムが豊富だったこの頃。やっぱ面白いね~。


No.767 10点 このミステリーがすごい!’95年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/13 21:49登録)
京極夏彦初登場の年。そして山口雅也が『ミステリーズ』で1位を獲得。さらにもう1作『日本殺人事件』も15位でランクインと山口雅也全盛の年でもあった。

一方海外では平成の一発屋(!)スコット・スミスの『シンプル・プラン』が1位、そしてこの年からマイケル・コナリーとドン・ウィンズロウがランクインと今なお活躍する作家が登場した年でもあった。

いやあ、やっぱりこの頃の『このミス』は面白かったなぁ。


No.766 10点 このミステリーがすごい!’94年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/12 21:58登録)
この年の『このミス』には巻末に過去5年間のランキングがついており、これが後々私の読書に多大なる影響を与えることになった。
このリストこそが私の今の読書の遍歴といっても過言ではない(とはいっても読んでないのたくさんあるけどね)。

この年は以前から評判の高かった髙村薫氏が『マークスの山』で1位を獲った年で、大沢在昌が20位圏内に3作も放り込んで大暴れした年。この年、新宿鮫シリーズが2作も出ている。そんな頃もあったんだね~。

海外では今では絶版のミッチェル・スミスの『ストーン・シティ』が第1位。
トゥローが0.5点差で2位と接戦した年だった。これがトゥローにとっておそらく1位を獲る最後のチャンスだったんではないだろうか。

やっぱり回顧録になってしまうなぁ。


No.765 7点 天使の耳
東野圭吾
(2010/05/11 21:53登録)
交通事故という、通常のミステリで起こる殺人事件よりも読者にとって非常に身近な事件にクローズアップしており、それが非常に新鮮だった。従って諸作品で起こる事故が読者にとっても起こりうる可能性が高く感じ、私を含め特に車を運転する人々には他人事とは思えないほどのリアルさがある。

個人的に好きな作品は「分離帯」、「通りゃんせ」、「捨てないで」の3編。特に「捨てないで」は先が読めないだけに最後の皮肉な結末にニヤリとしてしまった。

いやあ、しかし交通事故だけに絞ってもこれほどの作品が書けるのかとひたすら感服。その読みやすさゆえに物語のフックが効きにくく、平凡さを感じてしまうが、実は完成度は非常に高い。この人はどれだけ引き出しがあるのだろうと、途方に暮れてしまう。この軽い読後感が私を含め本書の評価をさほど高くしていないのがこの作家の功罪か。

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