Tetchyさんの登録情報 | |
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平均点:6.74点 | 書評数:1617件 |
No.797 | 7点 | このミステリーがすごい!2007年版 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/06/23 21:17登録) パッと見て表紙の雰囲気や全体の紙質の変化にまず驚いた。ちょっと見、本屋で並んでも『このミス』だとは気付かないかもしれない。しかし、内容は全く以って例年通り。 一年のミステリを総括する本書、敢えて新しい趣向を凝らさず、マンネリ化を以って安定感を与えようとしているのか。とはいえ、このマンネリが一ファンとしては年に一度の祭りが今年も来たなぁと思わせるのだけれど。 さて今回のランキングは前に読んだ『本格ミステリ・ベスト10』とは結構違った印象を受け、非常に興味深かった。あちらで評価の高い有栖川は下位に属し、2作がランキングした三津田信三なんかは蚊帳の外である。共通して評価が高かったのは道尾秀介か。 こうして並べると昨年は『本格ミステリ~』がミステリど真ん中のランキングであり、『このミス』が広い範囲でのランキングだという両者の特色が色濃く出た年だった。 あとやはり『このミス』では警察小説が強いという感じが。佐々木譲久々のヒット作『制服捜査』の2位を筆頭に、9作めにして4位という高位にランクインした『狼花 新宿鮫Ⅸ』、東野圭吾の『赤い指』や香納諒一の2作などがランクインしている。また常連の宮部みゆきも健在だ。 一方海外に眼を通すと、昨年巷間で話題になった『あなたに不利な証拠として』が堅実に1位を獲得。ディーヴァー、コナリー、クックの常連作家も健在で、さらに昔からの作家ハイアセンも登場と往年の『このミス』を見ているかのようだ。近年の物故作家の隠れた名品の刊行もランクインしていることから海外ランキングはとても21世紀の2006年のミステリシーンを伝えるものとは思えないほどヴァラエティに富んでいる。 やはりミステリは面白いと再認識できた事が素直に楽しかった。以前感じた、作家の使い捨て感がようやく払拭されつつあるのもよかった。やはり素直に面白い物は面白いと評価しているのが一番いい。 しかし一方で『本格ミステリ~』の方で感じた新しい作家の力の躍進も馬鹿に出来ない。個人的には今年のように各ランキングで全く違う結果が出て、それぞれのフィールドで評価が違うのが一番読者として面白いし、また興味も尽きない。 |
No.796 | 7点 | 未明の家 篠田真由美 |
(2010/06/22 22:09登録) 第1作目ということもあり、起こる事件やキャラクターは実に類型的と云えるだろう。 探偵役の桜井は朝に弱く、建築に造詣の深く、しかも大抵のことでは動じず、しかも通常長い前髪で覆いかぶされている顔は類稀なる美貌を放つ美男子ぶりという、なんとも少女漫画的な設定だ。 本作がそれでも特色を放っているのはやはりサブタイトルにも掲げられているように桜井が建築探偵というところだろう。事件そのものよりも対象となる館そのものこそが桜井の関心の対象なのだ。したがって人の生死に関わる事件は二の次で館に秘められた設計者、住居者の思い、建築の意図を推理する。そのことによって殺人事件の犯人が炙り出されるという間接的な事件真相へのアプローチが成されているのが最たる特徴だろう。 また作者の得意とする歴史を絡めているところにこの作家のこだわりを感じる。歴が若かりし頃に渡ったスペインで起きたスペイン革命と歴の運命を絡め、秘められたロマンスを演出している。う~ん、革命を背景に叶わぬ恋とは、これはまさに『ベルばら』の世界だ。やっぱりこの作家、自覚していないようだが少女マンガ的設定を盛り込む遺伝子を持っているのだ。 |
No.795 | 8点 | 本格ミステリ・ベスト10 2007 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/06/21 21:49登録) 2005年あたりから『このミス』とランキングが似通っていたが、それは本格ミステリの充実振りを示す証左になれこそすれ、本書で二階堂が苦言を呈しているような推理小説研究会の怠惰振りを批判する物ではない(というよりも何故このようなコメントを公の場でするのか、二階堂の非常識ぶりに唖然とする)。 彼の論は単純にジャンルの偏愛から述べたものでなく、自分のお気に入りの作品、作家がなぜ本格ミステリランキングに載っていないのかとか、上位にランキングされないのか?といった非常に個人的な憤激であり、自分を何様だと思っているのかと、斯界の大御所ぶった横柄ぶりを露見しただけに過ぎない。全く自分の評価を下げたものだ。 しかし1位が有栖川有栖の『乱鴉の島』というのは正直意外だった。このムックでも投票者のコメントを見ると複数、作品を上梓し、本格ファンの琴線に触れた道尾秀介と三津田信三が目立つのみで、この作品が1位にもかかわらず、全く目立っていないのも面白い。 そして2006年はやはり道尾秀介の年だったのだろう。4月現在でも続々と注目が集まっている。 そしてランキングに島田作品が2作もランキングしたことも個人的に嬉しい。2006年は『吉敷竹史の肖像』の文庫改訂版ともいうべき『光る鶴』を加え、6作も新作を出し大御所健在振りを発揮したが、健在というよりも島田が未だに本格ミステリ好きのマインドをくすぐる作品を続々と紡ぎだしているという事実に心からの賞賛を送りたい。 そしてこの回で早くも10年目となったんだなぁ。節目節目に行われるオールタイムベストランキングも過去10年分となると、全然古めかしさが感じられず、つい最近の作品ばかりだと思うようになった。 読んでない作品ばかりだった。もっと読まねば! |
No.794 | 7点 | 本格ミステリ・ベスト10 2006 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/06/20 23:27登録) 前年の物と比べてどうかと問われれば、さして変化もなく、可もなく不可もなくといったところ。見比べてみたところ、ほとんど構成・内容に変化がないのが驚いた。新企画の1つや2つあってもいいと思うのだが、徹頭徹尾同じ構成を貫くこの姿勢は実はこの数年のデータの蓄積(ミステリサイトやコミケ、ミステリゲームに関する)を目指しているのかもしれない。 本格ミステリに絞り込んでいるゆえに、座談会の内容の充実さは『このミス』よりも高いと思う。全くおふざけがないのも生真面目すぎる感じがする。 そしてやっぱり今回も海外ミステリに関しては以前よりもページを割いているものの、まだ蚊帳の外だという感が否めない。論創社という海外古典ミステリを続々と刊行する出版社が登場し、その充実振りは目を見張るものがあるというのに、まだまだ扱いは少なすぎる。海外ミステリが売れないと云われたというのに、こういうミステリムックで盛り上げていくべきだと思う。 |
No.793 | 8点 | 仏陀の鏡への道 ドン・ウィンズロウ |
(2010/06/20 01:06登録) 今度の舞台は1977年の中国・香港。もちろん香港はまだ返還されておらず英国領のままだ。毛沢東亡き後、次の覇権争いが渦巻きながらも故毛主席の怨念が色濃く翳を落とす時代の物語。 若き探偵物語という謳い文句で世間に喧伝されているが、本策では私立探偵物というよりも諜報物に近い。CIAに中国スパイ。1人の女と1人の男を巡る中国、アメリカの組織入り乱れての攻防。味方と思っていた者が敵になり、敵と思っていた者が利害の一致から味方になる。これはまさしくエスピオナージュの物語運びだ。 前作も家出娘の捜索のために麻薬の売人に取り入ってターゲットのアリーに心を動かされたが、これはニールが元ストリート・キッドである出自に大いに関係があるだろう。 両親の愛情を知らずに掏摸をして糊口を凌ぐ生活をしていたニールにとって仲のいい仲間たちやコミュニティは人生で体験したことがない心地よさを彼にもたらし、プロの探偵であってはならない感情移入をしてしまい、ミイラ取りがミイラになってしまう危うさがある。 しかしこの青さと純粋さが大人になると失ってしまう誠実さを思い起こさせ、彼に共感を覚えてしまう。 こういう稼業に仕えるには彼は優しすぎるのだ。 若干24歳の若き探偵ニール。技術は一流ながらも心はまだ純粋という名の宝石を秘めている男。この手の諜報物では騙し合いの攻防戦は当たり前で、登場人物も歴戦の強者ばかりなので、いちいち傷ついてもいられないというのが定石だが、ニールの若さが探偵の、真実を知ることで自分の中で何かが失われている寂しさを体現しており、やはり私は彼にフィリップ・マーロウを重ねてしまう。 しかしW杯中の読書は辛い! |
No.792 | 8点 | 九尾の猫 エラリイ・クイーン |
(2010/06/13 21:31登録) 連続絞殺魔対名探偵。 これはパズラーでもなく、本格推理小説でもなく、もうほとんど冒険活劇である。クイーンが古典的本格ミステリから現代エンタテインメントへの脱皮を果たした作品だと云えよう。 しかしそんな特異な事件でもクイーンのロジックは冴え渡るのだから驚きだ。本書はエラリイのロジックはこのような無差別通り魔殺人事件にも通用するのかが表向きのテーマであろう。 誰が犯行を成しえたかを精緻なロジックで解き明かしてきたクイーンのシリーズが後期に入り、犯罪方法よりも犯人の動機に重きを置き、なぜ犯行に至ったかを心理学的アプローチで解き明かすように変化してきている。 しかしそれは犯人の切なる心理と同調し、時には自らの存在意義すらも否定するまでに心に傷を残す。しかし今回彼に救いの手を伸ばしたのが精神科医ベラ・セリグマン教授だった。最後の一行に書かれた彼がエラリイに告げる救いの言葉がせめてエラリイの心痛を和らげてくれることを祈ろう。 次の作品でエラリイがどのような心境で事件に挑むのか興味が尽きない。 |
No.791 | 6点 | このミステリーがすごい!2006年版 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/06/12 21:22登録) 目新しさがなくなってきたように感じたのがこの年ぐらいからかな。前年に引き続き、ランキングを制したのはベテラン作家の東野圭吾であったのは素直に嬉しい。その他佐々木譲の復活、久々の原尞作品が当然の如くランキングされているのもまた嬉しい。北村薫、我孫子武丸のランクインも健在ぶりの証左となって嬉しかった。 しかしやはりこの20位までというランキングで淘汰された作品があるのも気になる。特に伊坂作品や恩田作品など世評が高くなるにつれて『このミス』読者が離れていっているような気がし、マニアのためのミステリ本の域を脱していない感が強い。また島田荘司の復活があまり評価されていないのも腑に落ちなかった。 翻って海外ミステリのランキングに目を向けると、この分野はどんどん拡散している気がする。特に顕著なのはミステリから乖離して行っているのではないかという事。1位のジャック・リッチーやシオドア・スタージョン、アヴラム・デイヴィットスンなどはもろSF作家のようだし、これらの作家を高く評価するよりもウェストレイクやランキンやヒル作品が例年通り訳出している事を喜び、評価すべきだと思う。個人的には2位にランクインしたコナリーに1位を取ってほしかった。 あと国内ランキングで目に付いたのはライトノベル作家の進出が以前にも増して顕著になったこと。ここらへんはライトノベルというよりも通常のミステリとして評価しているのだからまあ、そんなには気にならない。 『このミス』は今後も読むだろうし、また出版された時は嬉々としながら読むだろう事は間違いない。しかしやはり感じる違和感は拭えない。これはこの先ずっと続くんだろうな。 |
No.790 | 6点 | 本格ミステリ・ベスト10 2005 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/06/09 21:44登録) 『このミス』が常に変化しているのに対し、このムックは毎年同じ企画・コラムが掲載され、変わり映えがしない。尤も、変化した企画・コラムが『このミス』で大当たりしているのかといえば、そうとも云い切れないのだが、このマンネリズムには正直物足りなさを感じる。 国内本格の内容の充実振りに対して海外本格のまるで添え物のような扱いも気になる。アンケートの分母となる絶対数自体が少ないのだ。ミステリを論じる以上、国内も海外も同等に扱うべきである。 コラムもミステリを軸に漫画・ゲーム・映画・コミケとあまりにマニア中心の内容はうすら寒ささえ覚えてしまう。中身が白黒の単色での構成もこの時代では結構厳しいものがある。 これではオタク本に過ぎないではないか。座談会も、おいおいこんなことをこんな言葉で本当に話してんのかよ!?と突っ込みたくなるほど高度だし、全体的にマニアのための知的娯楽でしか表現されていないのが非常に気になった。 このままでは本格はある一部の人にしか受け入れらない限定された世界での展開しか繰り広げられない。もっと多方面の読者を引き込み、初めて本格ミステリを読む方々が手に取りやすい装丁・内容・文章にしてほしいものだ。最後の編集後記の内容もオタクコメントの羅列だし。何か情けなくなってくるなぁ。 しかし上ではこのような批判をしていても、結構のめり込んで読む自分がいるのも情けないのかもしれない。 |
No.789 | 10点 | このミステリーがすごい!2005年版 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/06/08 21:36登録) 法月綸太郎が1位だったのは意外だったのと、伊坂の3作全てランクインもびっくりした。またサラ・ウォーターズの連続1位も驚いた。自分の評価では中くらいだったトレヴェニアンの久々の新作『ワイオミングの惨劇』がなんと3位にランクインしていたのも予想外。恐らく久々の新作ということから10位以内には入るだろうと思ってはいたがまさか3位とは。 ミステリのランキングもミステリのジャンル自体が肥大し、拡散していきつつあるのを受けて、他のジャンル、特にSFやファンタジーの作品のランクインが目立った。特に海外はランキング作家の顔ぶれが古今混在しているのにも関わらず、他ジャンルの作家が散見されたのが最初残念だった。 国内は昨年の歌野氏の初登場1位を受けて今度も新本格1期生の法月氏が1位と個人的には非常にうれしい結果となった。ただこの後に読む「本格ミステリ・ベスト10」も1位は同じであり、これも前年同様であるのが気になる。 本格ミステリに特化したランキングである後者が全てのミステリを対象にした「このミス」とかなり似通っているのだ。ハードボイルド、冒険小説が衰退してきているというのが憶測ではなく、正に現実として突きつけられてしまった感が強い。 また今回特筆すべき点は、昨年のライトノベルランクインで「このミス」自体の方向性が嫌な方向になるのではないかと思ったが、「このライトノベルがすごい!」というムックを出すことで見事に区分したこと。混乱を避けた編集部の素早い対応は評価に値する。こんなことを行ってはならないのだろうが、聖域は救われたという感じだ。 特集・コラムも例年通り充実しており、特にミステリー相談所が面白かった。まだまだ拡がるミステリムックのアイデア。斬新な着眼点からミステリを解体・解読するコラム・特集も今後も期待する。ともあれ今回も非常に愉しめた。有難う。 |
No.788 | 5点 | 本格ミステリ・ベスト10 2004 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/06/07 21:24登録) この年は『このミス』と同じく『葉桜の季節に君を想うということ』が1位となり、記念すべき年となった。 それ以外では石持浅海の『月の扉』、大倉崇裕の『七度狐』、京極夏彦の『陰摩羅鬼の瑕』、小野不由美の『くらのかみ』、横山秀夫の『第三の時効』、東野圭吾の『ゲームの名は誘拐』が『このミス』と重なっており、有栖川、京極、島田、西澤、芦辺、貫井、二階堂といった本格作家の名前がベスト20に見られるのがやはり特徴的。 私がこのランキングを好むのは最近の『このミス』に顕著に見られる、新人作家の過大評価とベテラン作家の使い捨て傾向というのがなく、どれも正当に評価していることが素直に嬉しいからだ。ベテランがまだ精力的に魅力ある作品を送り出している事をあまり評価せず、青田買いのように新しい作家を紹介し、そしてやがて3、4年後にはランキングに相手もしないような使い捨て傾向にある『このミス』よりも遥かに良い。 今までよりもベスト20内に入った作品の解説がマニアックでなくなり、非常に理解しやすくなってきたのは良い。また海外作品も多く取り上げるようになったのも良い(解説がベスト5までなのがまだ不満)。 国内復刊ミステリの動向のレポート、装幀大賞の企画はまだまだ続けて欲しいくらい良いが同人誌・映画・ジュヴナイルなどのレポートはあっても良いがこれほど長くなくてもいい。出来れば見開き2ページで完結して欲しい。ここら辺がマニアの域を脱しない枷になっている。 |
No.787 | 7点 | このミステリーがすごい!2004年版 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/06/06 21:01登録) 『このミス』も10年以上経て、かなり権威がついてきているせいか、当初のマイナーリーグ故の思いっきりの良さ、怖い物知らずの勢いが成りを潜め、かなりオーソドックス路線へと変貌を遂げつつあることが暗示された。というのもアンケートの回答に「マニアックなものは避けて下さい」というような主旨の但し書きがあったとの意見が散見されたからだ。 今回の『このミス』は国内編では歌野晶午が第1位という予想外の結果だったことがまず嬉しかった。ぽっと出の新人ではなく新本格第1期生のキャリア16年の作家が初登場でしかも1位だったというのが純粋に嬉しかった。また他にも昨年に引き続いて連城三紀彦がランクインと以前見られた作家の使い捨て傾向がやや改善されてきているのも嬉しい。 海外編もマキャモン、ウェストレイク、ヒル、フォレットとかつての『このミス』を席巻していた作家がランクインしていたのが嬉しい。つまりこれは以前のように奇を衒った回答ではなく純粋に面白い作品を回答してくれた事の1つの証左であると思う。だから真保裕一や島田荘司がランクインしなかったのも彼らの作品よりももっと面白かった作品があったのだと納得できる。 今後、ミステリ界はどんどん新人が出て、またジャンルの括りが難しくなるぐらい混沌としていくだろう。その大きな流れにきちんと自分を見失わず、面白いものは本当に面白いんだと正当に評価する冊子になって欲しい。 |
No.786 | 7点 | ある閉ざされた雪の山荘で 東野圭吾 |
(2010/06/05 23:12登録) 「嵐の山荘」でありながらも、実際は雪は降っていないし、殺人も遺体が残らず、事件がどのように起きたかを知らせるメモが残されているのみ。しかし舞台劇を想定しながらその実、劇団員が1人、また1人と消えていくうちに団員たちの中に不信感が生まれ、疑心暗鬼に陥る。これは芝居なのか現実なのか?この辺のフィクションと現実との境が解らなくなっていく展開が非常に上手い。 これを実際に舞台劇として演じられると非常に面白いかもしれない。劇中劇という設定で劇の中の演者がさらに演技を要求され、それが観客に虚実を混同させる効果を生み出し、どこまでが演技でどこからが素なのか解らなくなりそうだ。いや実際既にどこかの劇団で公演されたのかも。 最後はなんだか作者自身が気恥ずかしくなったかのようで、ちょっと拍子抜けしてしまった。 さて皆さん感想で『仮面山荘殺人事件』に触れているので逆にそちらを未読の方は先に『仮面山荘~』を読んだ方がネタバレにならなくていいかも。 |
No.785 | 8点 | 本格ミステリ・ベスト10 2003 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/06/04 22:15登録) 原書房に出版元が変わってからというもの、このムックの内容の充実振りには目を見張るものがあり、今年もその例に漏れなかった。 まず評価したいのは表紙のデザインが変わった事。デザインとしてはシンプルだが、今まで続いていた何の脈絡も無いおどろおどろしいイラストから解放された爽快感だけでまず十分である。前年までの装丁ではホント、屋外では読めなかったよね、変人扱いされそうで。 あとそれぞれのコラムに「創元語」とも表現すべき小難しい言語が一掃され、非常に読みやすくなったこと。前年もそうだったかもしれないがこの効果は非常に大きい。 しかし残念なのは相変わらず海外本格ミステリの扱いの小さいこと。もっと真剣に取り上げてよ!!今の本格読者のシーンに足らないのは古典ミステリや海外ミステリを読まないで日本の新本格のみを溺愛する傾向にあることは既にメンバー員の中でも周知の事実であり、その弊害が所謂「脱格」系の新人作家を生むことになったことを憂いているのにこの扱いはないだろう。この辺が勿体無く思うのだ。 あと映像関係のマニアックさ、同人誌の紹介などマニア向けの企画が続いているがこれは仇花だろう。 |
No.784 | 8点 | このミステリーがすごい!2003年版 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/06/03 21:44登録) 横山秀夫ブレイクの年。ランキングは本格も入り混じってなかなか面白い結果になった。伊坂幸太郎が『ラッシュライフ』で初ランクイン。この頃はまさかこんなに売れっ子になるとは思わなかったけどね。 海外は今なお1冊のみ刊行されているドロンフィールドの『飛蝗の農場』が1位。ポール・アルテ初翻訳の年でもあった。 古典もレヘインとかランズデールとかの有力作家も入り混じって結構盛況。 毎年こういう年末のミステリのランキングはどれをとっても不満が残る。 というのもやはりアンケート回答者の新し物好きの傾向が顕著だからだ。 昔からのミステリ・ファンとしては島田荘司はもっと上位に行って欲しいし、真保裕一や折原一はランキングして当然だと思うし、P.D.ジェイムズやゴダード、ヒルやレンデルももっと評価されていいはずなのだ。これらがどうにも過去に全盛を迎えて今は落ち目の作家という風に目に映るし、作家の使い捨て状態だとも思われるのだ。 今になってみればジャンルの違う作家を同列に並べて評価する行為を嫌った作家、評論家の気持ちがよく判る。しかし、内容はミステリ好きには堪らないムックであることはこの年も証明された。今後は好きな作家がどの位置に復活しているのかを確認するために毎年購読していくのだろうな。 |
No.783 | 7点 | 夜想曲(ノクターン) 依井貴裕 |
(2010/06/02 21:38登録) 実に端正な本格だというのが正直な感想。推理はロジックの積み重ねで整然と解かれていく。 このトリックはネタバレになるので具体的には挙げないが、どう趣向の作品と同様のトリックである。 しかし残念なことに本書の根幹を成すロジックには21世紀の今ではかなり苦しいものがある(本書刊行は1999年8月)。探偵多根井が文書に隠されたトリックを解き明かす端緒として日付の矛盾について指摘するが、現在では国民休日法で当時の祝日のように特定の日が祝日であるとは限らないからだ。しかしそれでも文中に「今年の」と枕詞を入れておけばどうにか通用するか。 また真犯人の正体も実に意外だが、当時のミステリ文壇の流行を取り入れた内容になっている。しかしこの頃すでにこの題材は手垢にまみれていたからさほどの衝撃はなかったのかもしれない。 また探偵役の多根井理のキャラクターが平凡で単純なロジックマシーンになっているのが惜しいところ。理路整然としたロジックもいいがやはり作品として一歩抜きん出るにはトリックの衝撃はもとより、魅力的な探偵というのが必須であることを痛感させられる反面教師のような作品になっている。 |
No.782 | 7点 | 本格ミステリ・ベスト10 2002 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/06/01 21:43登録) 1位は山田正紀氏の『ミステリオペラ』。『このミス』1位の『模倣犯』も9位にランクインしているのは?といったところ。 芦辺氏、くろけん、大倉崇裕氏、島荘、有栖川氏、愛川氏、貫井氏、鯨氏、殊能氏、飛鳥部氏、斉藤肇氏、門前氏と非常に濃い本格ミステリ作家が並ぶ^^まあ、本格ミステリランキングなので当たり前だが。 東京創元社で当初出版されていた頃はそのあまりに同人誌的な内容・構成にどうなるものかと心配したが、前年から原書房に変わり、かなりこなれてきた感じで、特色が漸く出てきたように感じた。とはいえ、新たな門出として出発した昨年は意外にも『このミス』のランキングに付和雷同するしているような感じだったが今回は特色が出ていてよかったように思う。 また添え物のように扱っていた海外ミステリも今回はページをかなり割いて論じているのにも好感が持てた。国内と海外とで座談会を分けていたのも○。希望を云えばせめて国内同様には扱って欲しいのだが。 以前に比べ、だいぶん進歩した本シリーズ。試行錯誤の黎明期は過ぎたと判断する。次回からは充実期に入るゆえ、独自の企画を立ち上げて特色を出してもらうことを期待する。しかし、表紙の絵はどうにかならんのかなぁ。 |
No.781 | 7点 | このミステリーがすごい!2002年版 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/05/31 21:28登録) 宮部みゆき初Vの年!1位『模倣犯』、2位奥田英朗氏『邪魔』、3位山田正紀氏『ミステリオペラ』と続く。相変わらず極太本が並ぶ。 翻って問題は海外編である。いや1位になったテランがどうのという問題ではなく、獲得票数を見ると国内編が88点に対し、海外編はわずか55点である。しかもウィンズロウ、ハンター、ゴダートが辛うじて20位以内に食い込み、ハイアセン、コナリーはランキング外なのだ。ここに日本人の熱し易く、冷め易い、云わば使い捨て気質が如実に表れているように思えるのだ。現在アメリカで人気を博しているレナードの新刊はどうなったのか?バークはもう駄目なのか?ランキンは?こんな状況では海外作家が可哀想である。興味本位の投票は無効にすべきだろう。 この年もランキングに並んだ作家達の顔ぶれがだいぶん変わっていた。国内編に関しては1位宮部を筆頭に東野、大沢、逢坂など「このミス」創世紀からの面子がランキングに顔を出し、また昨今の新興勢力もぐんぐん上位に進出してきて面白い所がある。 しかし、ランキングはあくまで指標だよという主張は、書店のランキング作品に対する扱いを見ればもはや現実を直視していない戯言に過ぎない。各投票者は己の内容に責任を持つべきだ。ここまで影響力を有すると、各自のコメントが一人歩きするのだから。 |
No.780 | 7点 | 本格ミステリ・ベスト10 2001 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/05/30 21:47登録) 表紙が江戸川乱歩フィギュアから何がなんだか解らないグロい幻想画に変わり、手に取るのを躊躇したことをいまだに覚えている。 さてランキングだが『このミス』と同じ泡坂妻夫氏の『奇術探偵曾我佳城全集』であったのが意外。以下も『このミス』に付和雷同するかのようなランキング。本格ミステリが台頭してきたのか、この後しばらく両者のランキングは似通ってくる。 版元が東京創元社から原書房に変わり、前年までの『本格ミステリ・ベスト10』に比べ、かなりソフトな装丁に仕上がっており、かなり『このミス』を意識している。 だが内容の方のディープさはさほど変わっていない。『このミス』と比較するのは反則かもしれないが、トリのコラムにコミケを持ってくるなど、これこそ同人誌の域を脱していないように思える。加えて座談会の内容と云ったら…。こいつら本当にこんな言葉で話してんのかと目を疑うばかりだ。 とは云え、これが本当のスタートだったと今にして思う。 この転換が現在の充実振りの素地を作ったかと思うと、歴史の証人だったのかなぁ。 |
No.779 | 8点 | ストリート・キッズ ドン・ウィンズロウ |
(2010/05/29 22:22登録) ドン・ウィンズロウのデビュー作にして探偵ニール・ケアリーシリーズ第1作。 探偵物語としても上質でありながら主人公ニールの成長物語として実に爽やかな読後感を残す。 次期大統領候補の娘の捜索というメインのストーリーの合間に断片的に挟まれるグレアムがニールを教育し、一人前の探偵に育てていく探偵指南の挿話が実に面白い。 リアルとフィクションのおいしい要素を上手くブレンドした作者の筆致はレナードのそれとは明らかにテイストが違い、デビュー作にしてすでに自分の文体を確立している筆巧者。 裏ぶれた社会に青さと甘さを持ちながらも自らの道徳を大事に事件に当たる若き探偵ニール。このニールはチャンドラーのフィリップ・マーロウを現代に復活させた姿としてウィンズロウが描いた人物であるように思える。 |
No.778 | 7点 | このミステリーがすごい!2001年版 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/05/24 22:24登録) この年の国内1位は泡坂氏の『奇術探偵曾我佳城全集』。既出の短編も収録された短編集にこれほどの支持が集まるとは、正直意外。 2位は横山秀夫氏の『動機』。この年が横山ブームの始まりといえよう。また14位に古泉迦十氏の『火蛾』が入っているのも興味深い。たった1作のみの発表で文庫化もされていない幻の作品になりつつある。 海外はジム・トンプソンの『ポップ1280』、シェイマス・スミスの『Mr.クイン』が1,2位を占めた。ノワール系と呼ばれる小説がこの頃台頭しだした時期。しかしノワール系とはなんぞや?と問われると、その明確な定義が未だにないのが斯界の相も変わらない風潮だが。 海外についてはミステリ作家が乱出される状況故か、約2年のスパンで新旧交代が行われているような感じだ。ずっと共にする作家を決めて、常に支持していくような風潮がこの頃にはない。 内容的にはあくまで企画で勝負しようとしている点が良かった。 |