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ミステリの祭典

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仏陀の鏡への道
探偵ニール・ケアリーシリーズ

作家 ドン・ウィンズロウ
出版日1997年03月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 Tetchy
(2010/06/20 01:06登録)
今度の舞台は1977年の中国・香港。もちろん香港はまだ返還されておらず英国領のままだ。毛沢東亡き後、次の覇権争いが渦巻きながらも故毛主席の怨念が色濃く翳を落とす時代の物語。

若き探偵物語という謳い文句で世間に喧伝されているが、本策では私立探偵物というよりも諜報物に近い。CIAに中国スパイ。1人の女と1人の男を巡る中国、アメリカの組織入り乱れての攻防。味方と思っていた者が敵になり、敵と思っていた者が利害の一致から味方になる。これはまさしくエスピオナージュの物語運びだ。

前作も家出娘の捜索のために麻薬の売人に取り入ってターゲットのアリーに心を動かされたが、これはニールが元ストリート・キッドである出自に大いに関係があるだろう。
両親の愛情を知らずに掏摸をして糊口を凌ぐ生活をしていたニールにとって仲のいい仲間たちやコミュニティは人生で体験したことがない心地よさを彼にもたらし、プロの探偵であってはならない感情移入をしてしまい、ミイラ取りがミイラになってしまう危うさがある。
しかしこの青さと純粋さが大人になると失ってしまう誠実さを思い起こさせ、彼に共感を覚えてしまう。
こういう稼業に仕えるには彼は優しすぎるのだ。
若干24歳の若き探偵ニール。技術は一流ながらも心はまだ純粋という名の宝石を秘めている男。この手の諜報物では騙し合いの攻防戦は当たり前で、登場人物も歴戦の強者ばかりなので、いちいち傷ついてもいられないというのが定石だが、ニールの若さが探偵の、真実を知ることで自分の中で何かが失われている寂しさを体現しており、やはり私は彼にフィリップ・マーロウを重ねてしまう。

しかしW杯中の読書は辛い!

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