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ミステリの祭典

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よんさんの登録情報
平均点:6.58点 書評数:90件

プロフィール| 書評

No.30 7点 雷神
道尾秀介
(2022/11/21 13:27登録)
妻の死に関する辛い真相を、幸人は娘の夕見に隠し続けてきた。しかし「娘に真相を明かす」という脅迫電話がかかってきた。密かに苦悩する父に、娘は幸人が三十年前に離れた故郷へ行きたいと訴える。
小さな村で起きた過去の事件に空白を、記憶と記録を頼りに埋めていく。そこから浮かび上がる真相と、その衝撃。作者の技巧の冴えを堪能できる物語である。すべてが収束した後に訪れる最後の一撃も強烈。


No.29 5点 忘れな草
赤川次郎
(2022/10/31 13:37登録)
謎めいた青年の出現によって、ヒロインの少女を取り巻く小市民的世界が無残に瓦解してゆくさまを、静かな筆致で描いた作品。
きほんてきには、いたってオーソドックスな怨霊譚なのだが、TVドラマ「高校教師」そこのけエピソードを交えることによって、手の内をしかと明かさぬまま、結末まで引っ張っていく手腕はさすがである。


No.28 6点 民宿雪国
樋口毅宏
(2022/10/31 13:29登録)
トリッキーな仕掛けと血まみれのショッキングシーンが用意された第一・二章、某有名人らしき人物を登場させた第三章を丸ごと伏線に配し、嘘で固めた民宿の主であり画家であり、希代の殺人鬼である男の正体を白日の下に晒しつつ、この国が戦中戦後に行ってきた欺瞞の数々も浮かび上がらせる問題作。


No.27 5点 霊名イザヤ
愛川晶
(2022/10/31 13:21登録)
幼稚園を舞台に中世キリスト教の異端の世界に踏み込んでいる。
童話作家でもある園長の不可解な過去と奇妙な発作、いわくありげな新任保母の言動、そして園長の娘の探偵行。
説明的なところが時折興を殺ぐが、オカルティックな出来事を次々と提示し、それが合理的に解決されるまでの物語で新境地を見せた一作。


No.26 6点 小暮写眞館
宮部みゆき
(2022/09/06 12:59登録)
花岡英一の変わり者の両親が所得した念願のマイホームは、下町の寂れた商店街に建つ廃業した写真館だった。亡くなった店主の幽霊が出るという噂も流れるなか、この写真館で現像したという奇妙な写真が持ち込まれた。
ミステリや幽霊譚の味わいを加味しながら、英一の日常を描き、その過程で一家が抱える心の傷や、死者への哀悼の念などを、古びた写真館を介在させて鮮やかに浮かび上がらせている。


No.25 5点 硝子の葦
桜木紫乃
(2022/09/06 12:50登録)
さまざまな人間関係が交錯しながら、それぞれの愛と憎しみの形が増幅し、カタストロフに至るまでを描いていく。
主人公の内面描写を極力排し、感情を抑制した静謐で味わい深い文体は、ハードボイルドにも合致するだろう。そして内容は桐野夏生の「OUT]を想起させる。


No.24 4点 時計を忘れて森へいこう
光原百合
(2022/09/06 12:41登録)
十六歳の高校生、若杉翠を主人公にした連作。彼女が八ヶ岳の麓で自然解説指導員の深森護とともに、身近で起こった事件の謎解きを進めていく。
自然の風景に溶け込んでいる名探偵の姿は心地良いが、精神的に翠が幼すぎで、彼女が感じる疑問が謎解きのテーマとしては弱い。
一人の少女の成長物語として読んだほうがいいかもしれない。


No.23 5点 金のゆりかご
北川歩実
(2022/09/06 12:31登録)
ある学者の天才を作り出そうとする実験の是非をめぐっての騒動を発端に、やがて恐るべき陰謀が明らかになっていくが、起承転結が明確ではないために強烈な謎は印象付けられない。
天才として教育される子供たちが、いったい自分は誰なのか、何のために生きているのかと、もがく姿が痛ましい。


No.22 6点 月の裏側
恩田陸
(2022/09/06 12:23登録)
ジャック・フィニイの古典的名作「盗まれた街」にオマージュを捧げた作品。知らぬ間に自分が少数者になってしまう恐怖を余すところなく描き、水に囲まれた街の特性を生かし、静謐で幻想味の濃い恐怖譚に仕上がっている。


No.21 6点 僕の神さま
芦沢央
(2022/08/02 12:51登録)
小学生の水谷君は、洞察力・推理力に秀でており、同級生の「僕」をはじめ、クラスの皆が問題が起こると彼に相談する。しかし、いかに明晰な頭脳の持ち主とはいえ、小学生でしかない水谷君は、大人の世界での出来事には基本的には無力。
そして、彼を「神さま」と持ち上げる周囲の期待が、水谷君自身にとっていかに残酷であったかも描かれる。心温まる第一話から、ヘビーな展開になっていく連作としての構成が考え抜かれている。


No.20 7点 ストロボ
真保裕一
(2022/08/02 12:40登録)
初老の人気カメラマンをめぐる数奇な人間関係劇で、作品を追うごとに年代が若返っていくところが特徴。現在から過去へと彼の人生の軌跡を遡り、その生き様を再検証していく趣向で、ハードボイルドなキャラクター造形に一層深みを増している。


No.19 7点 月の扉
石持浅海
(2022/08/02 12:32登録)
ハイジャック+不可能犯罪、無名の探偵による息詰まる頭脳乱打戦に酩酊。閉鎖空間と謎の作り方のうまさが光る。実録犯罪ムードの描写部分とコントのような謎解きの過程がチグハグだが、舞台設定の独創性で欠点を吹き飛ばす勢いを感じた。
極めて精緻な偽の扉。しかもとても強固。細部まで細工され、きっちり騙される喜びを与えてくれる作品。


No.18 6点 ヴェサリウスの柩
麻見和史
(2022/06/28 13:50登録)
法医学教室を舞台にした医学業界情報サスペンス。
解剖用の献体の体内から出てきた不可解なメッセージを起因として、次々と事件を重ねていく筆致は新人離れしている。
犯人の目論見が生み出す恐怖感が、少しずつ事件の関係者を蝕んでいく。その過程に迫真性があり、澱みがないため、最後まで物語は引き付けて離さない。


No.17 6点 カーの復讐
二階堂黎人
(2022/06/28 13:35登録)
この作品は、アルセーヌ・ルパンの蘇りそのもので、あの怪しげな雰囲気が、古城に繰り広げられる秀逸な密室トリックを伴って差し出される。
殺された部下が残した奇妙な暗号、強固な密室、秘密の地下道など楽しい趣向が詰まっている。
幼い頃に「怪人二十面相」に夢中になった人ならば、童心に帰って読みふけること間違いなしの本格ミステリ冒険譚。


No.16 7点 ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女
スティーグ・ラーソン
(2021/12/20 14:12登録)
密室状態の孤島での消失事件を扱ったミステリとしても良く練られているいるが、戦後ヨーロッパの暗部をえぐる歴史ロマンとしても、ネット時代の情報、謀略小説としても、そしてミカエルとリスベットのもどかしい関係をめぐる恋愛ものとしても存分に楽しませてくれる。世界中で売れまくったのも無理はない、破格のジャンルミックス小説。


No.15 4点 午前零時のサンドリヨン
相沢沙呼
(2021/12/20 14:03登録)
文章も登場人物も、ライトノベルのデッドコピーを読まされているような手ごたえのなさ。マジック蘊蓄は楽しかったが、マジックと謎があまり噛み合っていない


No.14 7点 墓地を見おろす家
小池真理子
(2021/11/29 15:07登録)
原因がわからないのに、幽霊も怪奇現象も惜しみなく現れ、一家を追い詰めていくという逃げ場のない怖さが描かれている。
作者らしい繊細な筆致で、生きている人たちの情愛が絡み合い、より切迫感が増していくのも怖い。


No.13 7点 玩具修理者
小林泰三
(2021/11/29 15:00登録)
人間を解体する描写だけでもグロテスクなのに、最後の一行で明かされる真実により、さらなる恐怖に突き落とされる。
クトゥルフ神話が下敷きになっているので、知っていればさらに深く味わえる。ホラーのお手本のような短編集。


No.12 6点 出版禁止
長江俊和
(2021/11/29 14:52登録)
安全地帯にいたはずが、いつの間にか当事者となり命の危険にさらされる。
五感に訴えかける描写が恐怖を煽る短編集。


No.11 8点 火車
宮部みゆき
(2021/09/17 15:36登録)
一つの手掛かりをもとに、少しずつ真相に迫っていく。複雑に絡んだ糸が解けたとき、他人事ではないと感じた。自分の固定観念をまざまざと覆された小説で、「面白かった」とひとことでは言えない考え深い作品でした。特に弁護士の話が印象的だった。

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