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ミステリの祭典

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ぷちレコードさんの登録情報
平均点:6.32点 書評数:242件

プロフィール| 書評

No.102 6点 仮面幻双曲
大山誠一郎
(2022/04/08 22:27登録)
横溝正史風のレトロな色調を前面に押し出しているが、その雰囲気に乗ってしまうと、作者の術中にはまってしまう。特に「双生児」という、本格ミステリではおなじみの設定に対する読者の無自覚な思い込みに仕掛けられた心理トリックには脱帽。


No.101 5点 建築屍材
門前典之
(2022/03/24 23:09登録)
建築途中のビルという舞台をいかしたトリックがなかなか面白い。
ビルの建築過程を説明した前半部分が煩わしいと思う人もいるでしょうが、個人的には興味深く読めた。
謎解きはハウダニットとしては良く出来ているが、フーダニットは今ひとつスッキリしない。


No.100 5点 誘拐の果実
真保裕一
(2022/03/24 23:06登録)
東京と神奈川で連続して起こった二つの誘拐事件の顛末を正攻法で描いている。
被害者の家族が、大掛かりな芝居を打つ第一章のサスペンスは出色の出来映え。第二章の有価証券を利用した身代金受け渡しの着想も面白いが、物語は「誘拐ミステリ」の定石を踏まえながら、二転三転するコンゲーム小説の様相も帯びてくる。
惜しむらくは、二人の人質が戻ってきた後の展開が、なんとなく読めてしまうことでしょう。


No.99 7点 星詠師の記憶
阿津川辰海
(2022/03/09 22:44登録)
予知夢を記録する紫水晶というファンタジー風の設定を導入した特殊ルール本格ミステリ。
といっても、その幻想的な設定を、あくまで現実と地続きの世界に接続するため、作者は類例が珍しいほどに細心の注意を払っている。予知映像に、はっきり犯行の瞬間が映っている容疑者の無実をいかにして証明するかというメインの興味は「逆転裁判」風。
綿密に考え抜かれた犯人の計画と、一見些細な手掛かりからそれを暴いてゆく獅堂の推理は圧巻。


No.98 7点 アヒルと鴨のコインロッカー
伊坂幸太郎
(2022/03/09 22:39登録)
物語は二つの時間軸で進行する。一つは「僕」とある男が書店を襲う現在の話であり、もう一つは「わたし」とブータンの青年が残酷なペット殺しの犯人を追及する二年前の話。この現在と過去の話が交互に語られ、途中で大きく交差して全体像を劇的に見せる。
その物語を反転させる鮮やかなトリックと細部の組織化が見事。様々なピースが少しずつ組み合わされ、些細な事柄や古い言葉が新鮮な意味を帯びている。
クールで知的な語り口、気の利いた会話、人物たちの温かな存在感も魅力的。


No.97 7点 硝子のハンマー
貴志祐介
(2022/02/23 22:39登録)
ビルの12階、内廊下には監視カメラ、窓には嵌め殺しの防犯合わせガラス。密室であるはずの社長室で社長が殺された。
仮説を立てては壊し、立てては壊す純子と榎本の推理の顛末を描く第一部と、一転して犯人の視点から、殺人の動機や計画の詳細、犯行後の不安と孤独を描いた第二部。
論理的に構築された謎が論理的に解かれていく過程が楽しい。


No.96 5点 春期限定いちごタルト事件
米澤穂信
(2022/02/23 22:35登録)
学園ものの連作ミステリ。一見、命の生々しさとは無縁のように思える。だが、読み出してすぐに印象は変化する。平穏を至上の価値として「小市民」を目指す高校一年生の男女が巻き込まれる小事件の数々。
この徹底的な爽やかさとひ弱さが、我々の命がナマモノであることを強く感じさせる。


No.95 7点 プラ・バロック
結城充考
(2022/02/08 22:54登録)
警察の群像劇は類型の域を出ていないが、悪魔的な犯罪の全容が浮かび上がってくる展開は読み応え十分。
雨、工業地帯、猟奇的犯行、仮想空間。「ブレードランナー」「セブン」のようなダークな映像作品を容易に想起させる材料を用いながらも陳腐にならず、先鋭的に仕立てた手腕は買う。


No.94 6点 麒麟の翼
東野圭吾
(2022/02/08 22:49登録)
被害者の足取り調査と、その界隈を歩いた理由に迫っていく、地味ながらも二段構えの構造の謎解きが読みどころ。
中途半端な解決は、被害者家族の救済にならないという加賀の言葉には胸を打たれる。


No.93 4点 ジェシカが駆け抜けた七年間について
歌野晶午
(2022/01/22 23:02登録)
ヒロインのジェシカはエチオピア出身のマラソン選手で、日本人監督・金沢勉のもとで練習に励んでいる。ジェシカはある夜、同僚の女子選手・原田歩が丑の刻参りで金沢を呪っているところを目撃するが、まもなく原田歩は自殺してしまう。
不可能犯罪の面白さ、女子スポーツの友情、努力、感動の物語は保証できる。しかし、このトリックは「葉桜の・・・」のような普遍性に欠ける。ラストは唖然呆然、こんなのありかと脱力。


No.92 8点 六人の嘘つきな大学生
浅倉秋成
(2022/01/22 22:58登録)
IT企業の新卒採用の最終選考に残った6人の学生たちの密室劇。6人の中から1人の内定を決める課題を会社から出された学生たちは、告発文を交えた暴露合戦を行うことになる。
前半は、学生たちの隠された顔が次々と暴かれ、告発文を書いた犯人も一応は突き止められるのだが、後半になると別の視点から本当の犯人捜しが始まる。前半は意外性に富んで緊張感も高いが、後半は巧妙に張られた伏線の回収となる。
人間の負の部分を描くイヤミス全開の暴露合戦が、人間味あふれる温かな世界へと逆転する展開もいい。


No.91 6点 妻は忘れない
矢樹純
(2022/01/06 22:41登録)
5編が収録されているが、いずれも切れ味が良くて意外性に富んでいる。なかでも姉妹の間に横たわる家族の死が大きな影を落とす「百舌鳥の家」がいい。人間の心が持つ不気味さと、家族というねじれて憎み合う関係を鋭く捉えていて、ドラマに厚みがある。
「裂けた繭」は、引きこもり青年のおぞましい日常が途中で劇的に反転して、全く異なる状況を見せつける。おぞましさが一段と際立つどんでん返しに驚き。
そのほか夫に殺されるかもしれない恐怖「妻は忘れない」、距離を急激につめてくるママ友との葛藤「無垢なる手」、大学生の息子に事件の容疑がかけられる「戻り梅雨」も小業が効いている。
物語のひねりにやや小手先の感はあるものの、読者の目先を変えて絶えず読者を意外な方向に引っ張っていこうという強い意志が感じられる作品集。


No.90 5点 地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険
そえだ信
(2022/01/06 22:33登録)
副題にあるように探偵は掃除機。交通事故で昏睡中の刑事がなぜか円形型のロボット掃除機に憑依してしまい、小学五年の姪を守るために、札幌市から小樽市まで旅に出る。
目覚めた部屋の隣室には殺人死体もあり、刑事として謎解きもしていく。掃除機にはスマートスピーカー機能がついているので、Wi-Fiがあればメールも打てる。でもなかなか信用されない。しかも充電は必須。
次々に難問が押し寄せるものの、それを一つずつクリアしていくアイデアが面白いし、語り口も楽しい。掃除機には限界もあり、どうしても人任せになるのが難だが、それでも奇想天外の設定を巧みに生かしていて悪くない。


No.89 5点 幽女の如き怨むもの
三津田信三
(2021/12/23 23:10登録)
お馴染みの様式的な殺人は影を潜め、身を売られた女性の悲哀がたっぷり描かれるシリーズ中の異色作。
周到な伏線や手掛かりが隠されているのはもちろんなのだが、遊郭という場所、遊女という存在、その時代でなければ成立しない謎が解体されると同時に、薄幸な女たちの悲哀も浮かび上がる。心打たれる本格ミステリ。


No.88 7点 新参者
東野圭吾
(2021/12/23 23:06登録)
正面からではなく、背面や両サイドからの視点を変えることで、「被害者は誰か?」「一体何が起きたのか?」と同時に「なぜ殺されたのか?」「刑事は何をしたいのか?」という謎が多層化した物語。
しかも、八つの断片からなる連作短編集が、最後の一章で一気に長編となり意外な全貌を浮かび上がらせる。物語としても奥深くコクがある技巧派の面目躍如たる作品といえる。


No.87 9点 魔眼の匣の殺人
今村昌弘
(2021/12/07 23:07登録)
「あと2日で4人が死ぬ」という予言が横たわる中で、人は何を考え、どう行動するのか。舞台設定こそ前作の「屍人荘の殺人」より地味かもしれないが、超自然的な現象とロジカルな謎解きを組み合わせる手並みの鮮やかさは前作以上といっていいでしょう。
「クローズドサークル」や「人が死ぬごとに減っていく人形」といった定番過ぎる題材とも真正面から向き合っている。ミステリの名探偵はなぜ、警察を待たずに関係者を集めて犯人を名指しするのか。クライマックスでは、パロディとして扱われることの多いこんな疑問に対しても、本作ならではの回答をぶつけている。


No.86 6点 日曜の夜は出たくない
倉知淳
(2021/11/20 22:55登録)
生活感漂う日常パズラー連作短編と思ったら、最後でひっくり返り長編としての筋が一本通るタイプのミステリ。
トリックの弱さを凝りに凝った趣向でカバーする。各編ごとに語り口を変えて、最後はアクロバティックな多段落ちできれいに締める。主人公の猫丸先輩は、外見のほのぼのとしたムードと裏腹に突き放した冷たさが魅力的。


No.85 6点 逆ソクラテス
伊坂幸太郎
(2021/11/05 22:23登録)
人物たちの企みと齟齬、事実の開示の意図的な遅らせ、予想外の展開、意外な真相など語りとプロットに捻りをきかせて予測させない。日常の何でもない一場面ですらサスペンスを高めて語る。
いじめ、スポーツにおける頭ごなしの叱責、家庭内虐待、不審者による理由なき暴力などが主題になっているが、見事なのは小学生の話なのに広がりと豊かさを兼ね備えていることだろう。人間のコミュニケーションにおいて重要なものは何かという視点が貫かれているからで、大人まで考えに耽る要素を十分に持つ。


No.84 7点 シャドウ
道尾秀介
(2021/11/05 22:11登録)
登場人物は精神医学の医師や研究者数名とその家族。精神障害が核となっている構図が第一章で分かる。複数の登場人物の視点によって物語が語られるという一見ありふれた手法を逆手に取り、終幕近くになって事件の全貌が明らかになるとともに、一挙にカタストロフィへとなだれ込んでいく展開は圧巻。


No.83 5点 真夏の方程式
東野圭吾
(2021/10/23 23:13登録)
資源開発か環境保護かで揺れる海辺の町が舞台。
書かれたのは震災前だが、震災後に読むと現実の問題とリンクした読み方ができると思う。
「無知ゆえの幸福」と自他に許さないのが湯川の矜持で、そこはぶれていない。ただ得失を冷静に計算すれば未来を最適に制御できるという信念が通用しないのが、震災で露になったリスク社会の実相。その意味で、今回の湯川の判断は適切だったのか。いささか中途半端な気がしてならない。

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