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ミステリの祭典

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罪の声

作家 塩田武士
出版日2016年08月
平均点5.90点
書評数10人

No.10 6点 ぷちレコード
(2022/11/22 23:09登録)
昭和の大事件である、グリコ・森永事件の犯人や企業に目を向けることはあっても、それに巻き込まれた子供がいて、今どのような人生を送っているのかなどは考えたこともなかった。
家族を巻き込み、その一生を狂わす、犯罪というものの側面あるいは本質。嗚咽すら伴う圧倒的な悲哀。感動する反面、人の心に住みついた悲しみは一生追い続けなければならない切なさに胸が苦しくなる。

No.9 4点 メルカトル
(2021/12/03 22:33登録)
京都でテーラーを営む曽根俊也。自宅で見つけた古いカセットテープを再生すると、幼いころの自分の声が。それは日本を震撼させた脅迫事件に使われた男児の声と、まったく同じものだった。一方、大日新聞の記者、阿久津英士も、この未解決事件を追い始め―。圧倒的リアリティで衝撃の「真実」を捉えた傑作。
『BOOK』データベースより。

昭和のあのグリコ森永事件という大事件を題材にした大作とあって、さぞかし骨太でサスペンスフルな傑作だと思っていたら、大きく裏切られました。何が原因なのかと考えてみましたが、結局やはり文章ではないかとの結論に達しました。其処でそういう言い回し或いは言葉を持ってくるのかというチョイスに対する違和感や、中途半端な関西弁、ストーリーに沿った文脈がスムースに出来ていない事、余分な描写が目立つ点、人間が描けていないなど各所に欠陥が見られます。要するに文章に魂が篭っていないのではないかと感じた訳です。結果、主人公の二人以外誰が誰だか分からなかったり、情景が浮かんで来なかったり、いつの間にか舞台が変わっていると思ってしまったりの連続で、読み切るのがやっとでした。私だけかと思ってAmazonのレビューを見たら、目に付くだけで二人が途中で挫折していました。自分ばかりが異端だった訳ではないようで、少し安心しました。

まあそういう事で、話が一向に盛り上がりません。やや興味を惹かれたのは実際の事件での、実行犯と警察との対決シーンくらいで、それ以外のフィクション部分にはほぼ魅力を感じませんでした。畢竟作者と評者の相性が悪かったとしか言いようがありません。無理やり5点付けようかとも思いましたが、自分に正直にこの点数にしました。

No.8 6点 パメル
(2020/09/03 19:27登録)
「どくいり きけん たべたら 死ぬで かい人21面相」などと書いた青酸ソーダ入り菓子をばら撒き、全国の消費者を不安に陥らせた。その社会を揺るがした昭和の大事件、グリコ・森永事件をモデルに、それをヒントにした程度ではなく、細部までそっくりそのままの設定にし、その裏で何が起きていたのかという仮説を提示する小説になっている。
まず、作者の取材力と緻密で迫力ある描写に驚かされた。さまざまな関係者によって、もう一度語られていき、当時の事件が生々しく蘇ったような臨場感に包まれる。(作者はこの事件を小説にしたいと思い新聞記者になったらしい)
本作は、実際に起きた事件の詳細について知識があればあるほど楽しめる仕掛けとなっている。当然、知らなくても分かるように描かれているが、事件のポイントを知っているかどうかで、仮説の衝撃度が違ってくる。
決して悪くはないのだが、ノンフィクションの緻密なドキュメンタリー的検証部分とフィクションである犯人家族の人間ドラマが、どうも馴染んでいない感じがしてしまった。
※余談ですが、今年秋(10/30より)小栗旬、星野源出演で映画公開だそうです。

No.7 7点 sophia
(2020/02/28 13:07登録)
グリコ・森永事件が起きたのは70年代ぐらいのイメージでしたが80年代なんですね。割と最近でびっくりしました。まあそれはさておき、犯人グループの人数が多く事件の顛末もかなり複雑であるため読むのが難儀でしたが、2人の主人公俊也と阿久津が交わり始めた辺りからぐっと面白くなりました。俊也の「追う者と追われる者」の葛藤がよく書き表されています。
調査の糸が都合よく繋がり続け、しかも何だかんだで取材に協力的な人ばかりなので話がとんとん拍子に進みますが、それもあの入り組んだ世紀の大事件の全容を解明するという主題である以上は仕方がないのでしょう。
ひとつ気になった点を。事実に沿った話なので突っ込むのは野暮かもしれませんが、小2の弟はともかく中3の姉は自分がやっていることの意味が分からなかったのでしょうか。

No.6 6点 まさむね
(2019/10/06 16:48登録)
 ワタクシとしては、年代的(?)にグリコ・森永事件の記憶がいまだに鮮明です。キツネ目の男の似顔絵や犯人からの挑戦状は勿論のこと、男児の音声による「指示」も、一定年齢以上の国民の記憶に残る部分でしょう。その音声が、自宅で見つけたカセットテープに録音されていたとしたら。そして、その声が幼い頃の自分の声だったとしたら…。
 この導入部には魅かれますね。本作では「ギン萬事件」と表現しているものの、発生日時や場所、脅迫の内容等が史実どおりであるため、フィクションとノンフィクションの狭間の感覚は楽しかったですね。一方で、導入部での引き込みからすれば、中盤での多少の冗長感は否めず、終盤に再度盛り返してきたという印象もあるかな。
 いずれにしても、本家の事件とともに、バブル前の三十数年前に想いを馳せる、いい機会になりましたね。

No.5 6点 ボンボン
(2019/09/24 10:37登録)
勝手に硬派で神経質な大作をイメージして読み始めたが、意外に文章が若く、カジュアルな読み心地だった。
何とももどかしかったのは、どこまでが実際の事件で、どこからがフィクションなのか、知識が無くて分からなかったこと。その境目が巧妙に消されているところが、この小説の凄さなのかもしれない。NHKスペシャル取材班が『未解決事件 グリコ・森永事件捜査員300人の証言』という本を出しているようなので、読んで境目を確認してみたいと思う。

(ネタバレ注意)
あれだけ不気味な企みに満ちているように見える大事件だが、フタを開けてみれば、愚かな人たちのしょうもない判断や行為が連なってここまで来てしまったのだ、という展開。その現実味がこの小説の魅力だろう。
まず、あのテープの声の子どもたちは今どうしているか、という問いを小説の軸に持ってきたところがうまい。自分勝手に子どもを事件に巻き込んだ親たち(伯父含む)のあり様が衝撃的で、特に聡一郎の母親は無力過ぎるし、俊也の母親に至っては、恐ろしくて理解したくない。
主人公二人の成長物語として良く出来ていて胸が熱くなる。ただ、新聞記者の様子が、後半で少々美しくなり過ぎたのが残念。

No.4 6点 HORNET
(2018/05/01 21:32登録)
 面白かったが、思ったほどリーダビリティは高くなかった。事件につながる人間関係がやや複雑なうえに、纏わる登場人物が平凡な名前だから記憶に残りにくく、「誰が誰だったっけ?」と何度か戻ってページを繰ることになった。

 未解決となった昭和の大事件の「犯行テープ」が自分の声だった、という衝撃は想像を絶するものがあり、その意味では「つかみはOK」だった。各場面の描写も冗長にならない程度に上手く、好感の持てる文章だった。
 ただ、TVの特集番組で発見した齟齬から「初めて明らかになった事実」が見えてくるところがこの話のある意味「サビ」だと思うのだが、その発想自体は面白かったものの、それが「迷宮入りの原因」となったわけではないところが……惜しかった気がする。「こうやって世間、警察を欺いた」ということがメインのハウダニットだったら(そしてそれが唸るものだったら)もっと点数は上がったかも。

No.3 7点 ねここねこ男爵
(2017/11/10 23:21登録)
元新聞記者である作者が綿密な取材活動のもとグリコ森永事件を元ネタに書いた小説。犯行に用いられた『子供の声のテープ』の声の主と新聞記者のダブル主人公が真実を追う。

いわゆる社会派ものなので、証人や秘密を握る人物が都合よく次々とあらわれるのはお約束。ただ、情報が出揃ってからの中盤以降はスピードもありテンポよく面白い。新聞記者の経験を多く盛り込んだそうで、取材の生々しさを感じとることができます。文章も読みやすく、無駄に引き伸ばすこともなくストレスなし。

真相は当時色々推理されていたものの一つに近く意外な真実というわけではありません。ただ、実際の事件でもあった不可思議な点などもきちんと説明されており、「犯人は架空だが、真相や犯人グループの役割などはそれほど外していないと思う」とのことで未解決事件マニアも納得の作品。

普段は本格マニアの自分ですが楽しかったです。
作品の性格上、まとまった時間を用意して一気読みをオススメします。

No.2 4点 虫暮部
(2017/08/31 07:17登録)
 31年前の未解決事件を新聞社と俊也が同じタイミングで調べ始める、という偶然はアリか?今になってここまで辿れた線を、当時何故警察は逃したのか?
 実在の事件をネタにしたという以上のプラス・アルファはあまり感じられず、“出落ち”のような印象。この作品自体が広義での“便乗商品”であって、作中のマスコミ・社会批判はそのまま自身に返って来るのである。あまり私の好みではなかった。

No.1 7点
(2017/05/16 10:40登録)
昭和最大級の未解決事件、グリコ・森永事件がモデル。本作では「ギンガ・萬堂事件」。
高村薫氏の「レディー・ジョーカー」も同事件のモデル小説だが、本作のほうが実名を使ってある分、本物感がある。

記者の阿久津と、テーラーの主人である曽根とによるカットバックスタイルにより、物語は進行する。
真相がおおむねわかるまでの事件捜査&ノンフィクション風・パートは、登場人物が多いこともあって、やや読みにくく混乱ぎみだったが、事件の核心にたどり着いてからの捜索&社会派ドラマ・パートは、一気読みモードだった。後半の読み応えはすごかった。
中盤まであの表紙の意味を理解できなかったが、読み終われば納得だった。
こんな悲劇が起こっていたとはね。
もしかしたら現実のグリ森事件も同様か、もっとひどいのかもしれない。

阿久津も曽根も、最初はたよりなさそうに見えたが、真相に近づくにつれ強くなっていくようで、社会派らしい地味なキャラクタにもかかわらず気持ちよく感情移入でき、その点にも満足した。特に阿久津の成長には目を見張るものがある。

後半の読書中、久しぶりに感情が昂り、読後の興奮度合は凄まじく、我ながら驚いた。
昨日の読了時には評点9点、でも翌日の今日は、ミステリー性と、興奮が覚めた分とを考慮して、7点かな。
人間ドラマファンや、社会派ミステリーファンなら薦めなくても読むだろうが、本格一辺倒の人たちにも、ぜひ読んでもらいたい。でも、おそらく読まないだろうw

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