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ミステリの祭典

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屍鬼

作家 小野不由美
出版日1998年09月
平均点7.48点
書評数33人

No.33 4点 レッドキング
(2023/10/13 08:09登録)
「これ採点しよ思ったまま数年すぎた」作品その三。半ば閉ざされた山里集落を舞台にした、人間vs「吸血鬼」「人狼」のサスペンスロマン。生血しか食せず闇でしか生きられない吸血鬼はイヤだが、人間の食生活も可能で日光も平気、その上に永世可なら、もう神状態じゃん「人狼」。

No.32 7点 ぷちレコード
(2022/10/30 22:38登録)
生から死への不可逆変化、食物連鎖、罪と罰、あらゆる約束事を覆す無自覚な何かが増殖し、正常な世界を侵略していく時、閉じ込められた世界の中で不合理な存在である人間は何を思い、どう行動していくのか。
物語の前半で、登場人物の一人がある医師が、村人を襲う死の原因を究明していくかが、読者にとってはすでに答えは出ている。むしろ僧侶にしていく小説家である副主人公の書く作中作と、彼の抱えた静かな虚無感のはらむ謎こそが柱となっている。
閉じられた架空世界で起こる闘いとその世界の崩壊を、生の意味やこの世の秩序への疑問を投げかけつつ描いた、一大叙事詩であり優れたファンタジーである。なお積み重ねられた多くのエピソードの中で、少年少女の描写は特に生き生きとして、際立った冴えを見せている。

No.31 7点 モンケ
(2019/09/07 17:09登録)
壮大なSFホラーミステリーといったところでしょうか。交通と照明の発達した現代を舞台にしてしまうと閉ざされた部落という緊張感が弱められてしまうので、未だ電灯が普及し切る以前の頃を舞台にした方が、もっと雰囲気が出せたように思います。

No.30 10点 Tetchy
(2018/11/30 23:41登録)
重厚長大と云う名に相応しい超弩級ホラー小説が本書。なんせ文庫版で全5巻。総ページ数は2516ページに上る。そして本書を以て横溝正史が日本家屋を舞台に密室殺人事件を導入した第一人者であれば小野氏は日本の田舎町に西洋の怪物譚を持ち込んだ第一人者とはっきりと云える。

本書がスティーヴン・キングの名作『呪われた町』の本歌取りであることはつとに有名で、現に本書の題名に“To ‘Salem’s Lot”と付されている(Salem’s Lotは『呪われた町』の舞台)。私は幸いにしてその作品を読んだ後で本書に当たることができた―本書刊行時はキングなんて私の読書遍歴に加わると露とも思っていなかったから、すごい偶然でタイミングである。これもまた読書が導く偶然の賜物だ―。

あくまで小野氏は日本のどこかにあるような人口1300人の閉鎖的な社会で村中の人々が親戚であるかのような小さな地域社会でお年寄りが日々誰かの噂話をしては、村唯一の医院が情報交換の集会場となっている、そんなどこにでもありそうな田舎の村を舞台にして、実に土着的に物語を進めているのが印象的である。
それは小野氏がこの外場村という架空の村について、日本のどこかにある村であるかのように丹念に語るからだ。
田舎ならではの村社会独特の風習は都会生活のみを体験している人間にしてみればワンダーランドのような設定に思えるが、一旦田舎生活をすればこのような昔ながらの風習やしきたりが今なお続いているのが常識として腑に落ちてくる。
これは小野氏が恐らく大分という地方出身者であることが大きいだろう。私も四国に住んでいた時にこのような土着的な風習に参加する機会があり、寧ろまだ日本にこのようなしきたりが根強く残っていることに感心した思い出がある。そしてそれを体験したからこそ本書で書かれている外場村独特の文化が実によく理解できた。

そんな詳細な背景が設定された外場村とその村民たちを襲うのが着々と訪れてくる死の翳。死に囚われた人々は何かに遭遇し、その後は表情が一様に虚ろになり、何かを問いかけてもはっきりしない。しかも食欲もなくなり、ぼぉっとしたまま、ひたすら眠りを貪りたくなる。そしてある日突然褥の中で冷たくなっているのを発見される。それら一連の連続死は新種の疫病の発生かと思われたが、村に伝わる伝説、死者の起き上がりによる屍鬼の仕業であることが解ってくる。それらのプロセスをじっくりと小野氏はかなりの分量を費やして描く。

読者の目の前にはいかにも怪しい要素が眼前に散りばめられているのに、なぜかそれが線となって結ばれない不安感をもたらす。
そして最も驚いたのは屍鬼が脳生の死者であることだ。本書の前に読んだ東野氏の『人魚の眠る家』が心臓が動いているのに脳が死んだ状態である脳死を人間の死として受け入れるか否かを扱ったテーマであったのに対し、翻って本書に出てくる屍鬼は人の生き血を吸って活気を取り戻す血液を注入された人間であること、それは心臓は死んでいながらも脳は生前と同じ生きている、脳生心臓死の人間であることが明かされる。それもまた生ではないかと議論がなされる。
まさに裏表のテーマを扱った2つの作品を全く同時期に読んだこの奇妙な偶然に私は戦慄を覚えざるを得なかった。

吸血鬼という西洋のモンスターを象徴するモチーフを日本の、しかも高層ビルやマンション、レストランといった西洋の建物らしきものがない、日本家屋が並び立つ山奥の田舎村を舞台にあくまで日本人特有の風景と文化、風習に則って土着的に描くことに成功した本書は和製吸血鬼譚、純和風吸血鬼譚と呼ぶにふさわしい傑作だ。
最初に意識していた小野不由美版『呪われた町』などという思いは最後には吹き飛んでしまった。この濃密度は本家を遥かに上回る。単純に長いというわけではない。上に書いたように本書が孕むテーマやドラマがとにかく濃く、実際これほどの感想を書いても全く以て書き足らない思いがするのだ。

ゆめゆめ油断なさるな。21世紀の、平成になった世にもまだ怪異は潜んでいる。それを信じる大人になってほしい。それがために物語はあるのだから。
まさに入魂の大著と呼ぶに相応しい傑作だ。そしてこんな物語が読める自分は日本人でよかったと心底思うのである。

No.29 8点 TON2
(2012/11/07 18:07登録)
(ネタバレ)
文庫本で5分冊でした。
まだ次々と死者が出る原因が分からず緊張感のある(一)(二)はとても面白いと感じましたが、(三)以降はまあまあでした。
スティーブン・キングの「呪われた町」へのオマージュとしての吸血鬼ものです。日本の風土と吸血鬼というのは相性がどうなのかと思いますが、舞台となる外場村(=卒塔婆村)は、まだ土葬ということになっています。
人の血を吸わないと非常な空腹感におそわれて生きていけない。自分の近親者を襲わざるを得ない。近親者を襲ってはならないのか、それとも許してくれるのか。屍鬼も悩みます。
人間だって、生きるためには、他の命を食べているではないか。
ラストで寺の副住職が、「屍鬼というだけで殺してもいいのか」と悩み、屍鬼のリーダーと逃げることになります。
欧米の吸血鬼物語のように、吸血鬼を絶対の悪として描いていないところが日本的です。

No.28 6点 いけお
(2012/07/10 13:12登録)
かなり冗長で、リーダビリティの高さと飽きを同時に感じる珍しい作品。
多くの登場人物がいて、それぞれの最後の描写があるが、夏野や辰巳など特に主要な人物の最後の描写が無いのが残念。

No.27 8点 clast
(2011/08/22 01:57登録)
この作品の素晴らしいと思ったところは、人物造形の上手さと文章の美しさです。僕にとってこれ以上印象に残る文章は他にありません。
ストーリーは単純で、特別驚かされるような凝った仕掛けもありません。
閉鎖的な集落が徐々に崩壊していく過程での、ねっとりとした不穏な雰囲気はよく出ていますが、展開が遅く、冗長さは否めないです。

「村は死によって包囲されている。渓流に沿って拓けた村を、銛の穂先きの三角形に封じ込めているのは樅の林だ。」

出だしの一文を引用しましたが、この時点で僕はノックアウトでした。小野不由美さんはマイベスト文章家です。

No.26 2点 daiki
(2009/06/02 00:42登録)
長い・・・ 疲れます。雰囲気は凄くいいんだけど。

No.25 7点 sasami
(2008/07/28 12:34登録)
とにかく先が気になって一気に読めました。面白かったです。そして哀しい話でした。
ただ敏夫と静信が真相に気づいてから敏夫が村人に真相を告げようとするまでがあまりにも長すぎます。読んでいてイライラしました。
病院のスタッフにだけは真相を話すのが普通じゃないのでしょうか、たとえ信じてもらえなくても・・・(自分に命を預けてくれている人間を平気で見捨てているのはどうかと)おまけに最初に真相を告げようとした人間が結城たちだなんて・・武藤は?
またスタッフが敏夫に真剣に相談しようとしない、何もしようとしないのも不自然すぎます(他の村人たちとは違い疫病だと敏夫に言われていたのに全く危機感が感じられない)
敏夫はこんなんだし静信はただの偽善者だし夏野は・・・
って感じで途中から感情移入できる人間が誰も居なくなってしまったのが残念でした。

No.24 7点 kkk
(2007/11/05 19:41登録)
僕はずっと静信に共感してたんですが、後半からはさすがについていけなくなり、かといって敏夫にも共感できず、共感できるキャラがいなくなってしまったのが残念です。
怖い作品だと思ってたんですが、怖いというより哀しい話でした。

No.23 4点 Q
(2005/04/21 19:19登録)
面白かった。
だけどキングには遠く及ばない。
慣れ親しんだはずの日本よりも
未だ見ぬ異国が舞台の方が怖い…ってのは……

No.22 10点 193
(2004/04/10 11:59登録)
ミステリ??
人物描写が秀逸で、誰かが死ぬ度に泣けました。
十二●記で作者が感じたジレンマを消化したんでしょうか。

No.21 8点 じろう
(2004/03/07 18:25登録)
上巻と下巻で視点が180度変わる所が面白かった。しかし、どちらにも共通するのは受身の恐怖。小説自体の面白さもさることながら、読み終えた達成感も味わえる。一石二鳥。

No.20 9点 かなかな
(2004/03/06 01:34登録)
長編なのにどんどん読めました。
途中から誰が誰だかってこともありましたが。
(1)の段階で結末は分かっているので安心でしたしね。辰巳さんはどうなってのかが気になります。

No.19 8点 朱花
(2004/02/19 11:53登録)
前半、とにかく登場人物を把握するのに一杯一杯。しかし中半からは時間も忘れて、とにかく先が知りたい一心で読み進み、後半まで一気!いくつか疑問は残ったものの、これだけの人物を書き分けた作者にはただ脱帽。

No.18 8点 活字中毒
(2004/02/13 18:31登録)
話にのめり込むまでに少し時間がかかったものの、中盤越すと気になってやめられない(><)ついに徹夜で読みきりましたぞぅ!いつまでも煮え切らない若御院にイライラしつつ(笑)でも最後の締めで少しテンション下がってしまったワタシ。。。なぜだろう?でも面白かったデス。

No.17 9点 りえ
(2004/01/30 22:28登録)
最初はだらだらしてて読みにくかったが、中盤からの盛り上がり方、スピード感はたまらない。小野さんは描写がうまい。怖かったー。

No.16 9点 うめ
(2003/12/08 22:11登録)
あまりの登場人物の多さ、視点の切り替わりの多さに、これ誰?とか思いつつも、気づけばどっぷりハマってました。

No.15 9点 佐藤
(2003/10/26 02:12登録)
これから読む方はじっくりいってください。ワタシは読み返す度胸ないです。この人の本読んでいるとですね、他の作家さんの文章が稚拙に思えてきます。あ。若御院嫌いです。第一村人から数えていたわけではありませんが、上下通しておそらく150〜170人位は登場しているはず。読後感は「やりきれない」の一言に尽きましたが、本当に読んで良かったと思える作品です。

No.14 9点 梨杏
(2003/08/18 23:47登録)
文庫版を読みましたが、最初の1冊は苦痛でした。登場人物は多い、誰の視点かが分からない。しかし2冊目の半ばくらいから最後までは早かったです。暇つぶしになればという軽い気持ちで読み始めたのが、いつの間にかこの本を読む時間を作っていました。
極限状態の心理や一人ひとりの生き方に凄く感動しましたし、それを描ける作者は素晴らしいと思う。

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