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ミステリの祭典

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zusoさんの登録情報
平均点:6.29点 書評数:228件

プロフィール| 書評

No.168 5点 影踏亭の怪談
大島清昭
(2023/10/27 22:56登録)
怪談作家が現地取材の過程で遭遇する事件を解決する、ホラーにして本格ミステリの連作。
怪異を単なる現象だけでなく、その背景まで徹底的に突き詰めていくところは、ミステリ的に見えて調査型実話系怪談の手法そのもの。謎解きがしばしば、はらむ不自然・強引さをホラーによって巧みに呑み込んでしまうのも極めて怪談的。


No.167 8点 ガダラの豚
中島らも
(2023/10/15 22:20登録)
超人対魔人の派手な呪術合戦は、伝奇バイオレンスの特色のひとつだが、それをヒロイック・ファンタジーやSFの設定によらず、現代日本の日常世界を舞台に描いたのが本作。
前半で開陳されるオカルト批判が、呪術合戦の伏線として効果的に効いているのも見事。


No.166 8点 焦茶色のパステル
岡嶋二人
(2023/10/15 22:17登録)
東北地方にある幕良牧場で、競馬評論家と牧場長、それに二頭の馬が射殺されるという事件が起こった。評論家の妻とその友人が調査に乗り出すが、事件はそれだけでは終わらず、今度は獣医学部の講師が殺されてしまう。
犯人の狙いは人間だったのか、それとも馬だったのか。そして事件の背後に隠された大掛かりな動機とは。競馬にまつわる蘊蓄と意外な真相が楽しめる。


No.165 6点 アンダードッグス
長浦京
(2023/10/01 22:49登録)
中国返還前の香港を舞台に負け犬たちが挑む、手に汗握る国家機密の強奪計画。
それから二十年後、その計画に関わった亡き義父の過去を追走する娘がたどり着く万感のラストは感涙必至。


No.164 6点 殺し屋、やってます。
石持浅海
(2023/10/01 22:39登録)
本書の大半で主人公を務めるのが経営コンサルタントの富澤允。とはいえ、それは表の顔で、実のところは一人につき六五〇万円で殺しを請け負う殺し屋だ。
本書のミステリとしての旨味は、富澤や彼の仲間が、ターゲットや依頼人の奇妙な行動について推理を巡らす点にある。
殺し屋視点の謎解きという設定の魅力と、その設定を活かしきった謎解きの魅力が堪能できる。


No.163 6点 罪人が祈るとき
小林由香
(2023/09/17 22:52登録)
いじめの渦中で死を考えている男子高校生の時田と、かつていじめにより子供を自殺で失った風見という中年男の視点を中心に、加害者側の意識の軽さや被害者側の絶望感、周囲の人間たちの及び腰な姿勢を描いている。
加害者たちを殺して自分も死のうという時田の現在進行形の物語と、息子の自殺へ追い込んだ犯人を捜す風見の物語は、それぞれにミステリとして読ませると同時に、お互いに絡み合って更なるうねりを生じさせ、心に響く結末へと到達する。そのうえで、いじめの加害者への怒りを強く感じさせるだけに、復讐の是非を深く考えさせる作品となっている。


No.162 5点 ディア・ペイシェント
南杏子
(2023/09/17 22:45登録)
真野千晶は医療法人社団医新会・佐々井記念病院に勤める内科医である。患者の利益が何よりも優先するということを求められており、言葉遣いに気を配り、笑顔を作るトレーニングが従業員に課せられている。
そんな千晶の前にストーカーとなって付け狙うモンスター・ペイシェントの座間敦司が現れた。私物が盗まれ、盗撮され、ネットに悪口が書き込まれる。彼の目的は何か、恐怖の駆け引きが始まる。病院という組織のバックヤードで起こる問題を真っ向から世間に突きつける問題作である。


No.161 7点 入れ子細工の夜
阿津川辰海
(2023/09/01 22:39登録)
一冊の古書に着目しつつ、殺人の被害者の足取りを追う私立探偵というハードボイルド風の構図の第一話や、犯人当てミステリを大学入試に用いる試みを描く第二話、学生プロレスの面々が覆面で集う第四話など、スタイルは異なるが、いずれも意外性に満ちた短編が並ぶ。中でも注目したいのは、第三話である表題作。読者の目撃する光景が二転三転していく様は華麗の極み。


No.160 5点 倒産続きの彼女
新川帆立
(2023/09/01 22:31登録)
前作ヒロインが脇役に回り、美馬玉子という「ぶりっ子弁護士」を新たなヒロインに据えたミステリ。
玉子が挑むのは、連続殺人ならぬ連続「法人」事件だ。ある女性が認識する会社が次々と倒産していく。彼女は経理担当の「小者」で会社を潰す権力などない。一体何が起きているのか。
謎の設定と人物造形が魅力的であり、心地良くページをめくり続けられる。現代日本が抱える問題提起が極めて自然体で楽しめる。


No.159 6点 カモフラージュ
松井玲奈
(2023/08/16 22:29登録)
不穏さがベースにある男女の官能物語からスプラッタ・ホラーまで収録作はバラエティに富んている。
主人公たちは希望通りの彼氏や夢を手に入れたのに、喜びきれない事態に苦しんでいる。そして得たものを嫌いにならないようにすることが「愛」だと思っている。「私が望んだのだから」と言い聞かせて、無理やり人生を進めようとする。
奈津子の親友・洋子の言葉に、書き手自身のこの先を見つめるまなざしと矜持を感じたし、女二人のラストシーンが何となくエロティックなのもいい。あらかじめ用意された正しさを手放すことで得る、心身の解放のされ方が新鮮。


No.158 5点 触手(タッチ)
F・ポール・ウィルソン
(2023/08/16 22:23登録)
超能力者となった善良な医師と彼をめぐる人たちの葛藤が、静かな緊張感をはらんで描かれるうちに、全てのドラマが集約されて怒涛のラストを迎える。
専門知識が迫真の物語にしているが、作者は一人の医師としての夢を主人公に託しているのかもしれない。


No.157 5点 聚楽 太閤の錬金窟
宇月原晴明
(2023/08/16 22:18登録)
戦国時代の日本に西洋のグノーシス思想と錬金術を持ち込みジャンヌ・ダルクとジル・ド・レの伝説まで結びつけてしまうという力技。
大胆で巧緻な奇想の限りを尽くした、異形の戦国絵巻が堪能できる伝奇巨編である。半村良の伝奇小説を愛する人に、特に強くおすすめしたい。


No.156 8点 ゴールデンスランバー
伊坂幸太郎
(2023/08/03 22:14登録)
ケネディ大統領暗殺事件と酷似した首相暗殺事件が仙台市内で起きる。
無実にもかかわらず事件の犯人として追われる青柳雅春という青年が主人公だが、彼の視点から語られる話と交互に、かつて青柳の恋人だった樋口晴子の話が重要な副旋律として奏でられる。
青柳の友人や元同僚との過去のエピソードも交えつつ緻密に構成された物語は、最後に意外な結末を迎え感動する。


No.155 6点 百万のマルコ
柳広司
(2023/08/03 22:10登録)
マルコ・ポーロがフビライ・ハーンに仕えた時の思い出を語る連作短編集。
負けが確実と思われたハーンとの賭けにどうやって勝ったのか、山の老人に捕まった時に何を言って逃れたのか、異国での難題をどう処理したのか。
ファンタジーと頓智話を合体させた趣の楽しい作品。


No.154 7点 invert 城塚翡翠倒叙集
相沢沙呼
(2023/07/20 22:23登録)
「medium霊媒探偵城塚翡翠」の続編となる中短編集。
本作に収録された三編は、いずれも犯人の視点から犯行を描き、その後、翡翠が真相解明に乗り出すという倒叙ミステリ形式なのだが、これと霊媒探偵の相性が抜群に良い。読者は、犯人を見抜く霊媒の特殊能力と序盤から歩調を合わせて読み進められるのだ。
それ故に、各編で最終的に明かされる現実社会で通用する犯人特定のロジックに唸らされる。キャラクターとしての翡翠の造形にも磨きが掛かっておりパワーアップしている。


No.153 6点 震度0
横山秀夫
(2023/07/20 22:16登録)
派手なアクションと無縁な会話劇ながら、警察組織に巣食う悪徳を鋭くえぐり出している。良心の呵責なきまま、無自覚に信念を曲げていく警察幹部たち。
このような悪意こそ、あらゆる腐敗の元凶と言えるのだろう。


No.152 6点 闇からの声
イーデン・フィルポッツ
(2023/07/03 23:09登録)
初めから事件の犯人は分かっているが物証はない。この犯人をどうやって尻尾を出させるか、それがこの物語の主眼となっている。
老練な名刑事だったリングローズは、刑事としてだけでなく人間としての豊富な経験と知識を武器に別人に成りすまし、犯人を罠にかけていく。その際に展開する心理戦がサスペンスフルで面白い。


No.151 5点 ドレス
藤野可織
(2023/07/03 23:05登録)
八編を収めた短編集。やがて甲冑のようになる謎のアクセサリーが、恋人たちを引き裂く表題作など、視覚的な不気味さを引き継ぎつつ、五感そして認識へと言い知れぬ不穏ぶりを広げている。
白眉は「息子」。息子が消える話だ。だが消されるのは認識であり、記憶なのだ。


No.150 6点 教場
長岡弘樹
(2023/06/19 23:02登録)
採用試験に合格した者が教育を受ける場所、警察学校。そこは人材育成の場であると同時に、適性のない人間を脱落させるふるいの役割も果たす。過酷な訓練で極度の緊張にさらされる生徒たちは、時に邪な考えをを抱いて行動する。それを冷静に見抜き、さりげなく問題を処理していくのが教官、風間公親だ。
規則罰則の厳しさ、教官たちの鬼っぷりに驚かされる一方、職務質問や水難救助といった特殊な授業内容に興味が湧く。ミステリとしてもある種のサバイバルものとしても読める。風間教官の心に残る名ゼリフも多い。


No.149 7点 湖底のまつり
泡坂妻夫
(2023/06/19 22:51登録)
ダム湖でなければ成立しない小説であり、ダム湖が抱く物語性に目覚めさせられる。恋の痛手を癒すため、一人で東北にやってきた若い女性。川原に佇んでいたところ、急な増水によって流されてしまう。助けられ運ばれた先は、ほどなくしてダムに沈む運命にある集落だった。
読むうちに、多くの謎が浮かんでは沈むこの小説。ダム湖と自然湖の見分けがつかないのと同じように、ただ眺めていただけでは見分けのつかないものが世の中にはたくさんあることを、読み終わると痛感する。

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