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ミステリの祭典

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敵前の森で

作家 古処誠二
出版日2023年04月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2023/10/02 20:11登録)
(ネタバレなし)
 第二次世界大戦が終結した直後のビルマ。終戦直前、現地の戦線で友軍の敗残兵を収容する任務に就いていた小隊「土屋隊」の一員だった元少尉・北原信助は、英国軍の捕虜収容所に収監されていた。そんな北原の前に、ひとりの語学将校の英国人が現れて尋問を開始する。内容は戦時中の、捕虜の処刑と現地民間人虐待の嫌疑だった。北原は当時の状況に思いを馳せるが、一方でその尋問役の語学将校にもさる思惑があった。

 もともとは現代日本を舞台にしたミステリ作家で、現在は戦争小説の第一人者として活躍中の作者の新作。
 評者が作者の著作を読むのは2017年の新刊『いくさの底』に続いて二冊目。

 ネットで目にした書評・紹介などを読むとミステリの手法を使った戦争小説、ということなので、前述の『いくさの底』のようなものを期待して読み始めてみる。

 実際のところ今回は、『いくさの底』以上に戦争小説の成分が多く、小説のジャンルを問われたら、まず最初に「戦争小説」と答えるしかないまんまの内容。

 さすがに筆致には、戦争小説のプロパーでないこちらなど黙ってうなずくしかない説得力の圧があり、ことさら苛烈さや悲惨さを声高に叫ばなくても、戦場のなかで死と隣り合わせの日々を生きる登場人物たちを描く物語の重厚感はひしひしと伝わってくる(一方で、指揮官や副官などが、敵や味方を操縦、誘導するための腹の探り合いや人心の掌握術など、非常に面白い)。

 ミステリとしての興味はあえていえば、「さる登場人物のある行動の裏には何があったのか」「その場でひそかに何が起きていたのか」などだが、読者に向けて明確な「謎」の形で提示されたというよりは、物語の興味を牽引する重要なポイントとして用意されている。
 最終的に明らかになる真相には、たしかに意外な、そして(中略)な展望と当該の人物の思惑が込められており、まあその辺のサプライズはミステリっぽいとはいえる。
 
 要はミステリとしての手法を活用し、広義のミステリとして読んでもいい内容だが、一方でそれ以上に戦争小説で、戦場での群像劇だろ、という感じの一冊。

 短めの紙幅ながらそれなり以上の読み応えのある小説だったが、そもそもこのジャンルは門外漢なので、十分に楽しめたかというと心もとない。
 (正直、ラストのまとめ方も、え、ここで終わっていいの? という気分もそこそこあったりする。)

 こっちのジャンル(戦争小説)も普通になじんでいて、もちろんミステリも好きだというタイプの方がもしもいるなら、お試しされてもよいかとは思う。

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