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ミステリの祭典

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友が消えた夏
蜘蛛手啓司シリーズ

作家 門前典之
出版日2023年02月
平均点6.14点
書評数7人

No.7 7点 zuso
(2024/10/21 21:48登録)
大学の劇団員たちが陸の孤島と化した合宿所で次々と殺された事件の記録を入手した探偵が、密室殺人などの真相を推理する。
この事件の展開と謎解きがまず愉しいのだが、本書ではさらにタクシーの女性客が拉致される別の物語が並走していて、それがどう合流するかも興味深い。多様なトリックをいくつも重ね合わせた濃厚な味わいを堪能した。

No.6 7点 メルカトル
(2023/07/17 22:28登録)
断崖絶壁の館に並んだ首なし白骨死体!
「まさか!」のつるべ打ちに驚愕必至
三冊分のトリックが詰めこまれた奇想の本格推理!
Amazon内容紹介より。

このプロットは・・・折原一を彷彿とさせる構成ですねえ。しかもこちらは本格ミステリとサスペンスのハイブリッドと来ている。面白くない訳がありません。と言いたいところですが、本筋の鶴扇閣の殺人事件の方の序盤がイマイチ楽しくないです。若者達のやり取りがさり気なさ過ぎて、何ら事件の前触れが感じられなくて、一体どうしたらこの後陰惨な事件に発展するのだろうという気掛かりしかありません。一方、タクシー拉致事件の方も、最初こそハラハラさせられますが、その後延々拉致された仕事へ向かうはずの三十過ぎの女は、過去を回想するばかりで、なかなか進展しません。

一応蜘蛛手シリーズなので、探偵役として出ては来ますが、一点を除いて彼が探偵である必要性が感じられないのが残念。それでも、トリックは意表を突くもので、まあ密室はおまけとしても、事件の全容は思っても見なかった様相を呈して来ます。動機は・・・分かった様で分からない様な微妙なエンディング。いや、そんな事より、これ続編があるんでしょうねえ。なかったら怒りますよ。

No.5 7点 HORNET
(2023/06/18 22:40登録)
 名門大学演劇部の劇団員たちが、夏合宿中、一夜にして首なし白骨死体と化した衝撃的な事件。犯人と目された人物の死体も発見され、事件は一応の決着を見ていたのだが、9年後、その詳細な記録が連続窃盗犯の所持品から見つかった。一級建築士で探偵の蜘蛛手啓司が、その記録から真相を喝破する――。

 下界から遮断されてしまった孤島、大学のサークルメンバーが一人一人殺されていく状況、など、まぁこれでもかというぐらいの王道設定を令和の時代に提示してくるのが嬉しい。
 「鶴扇閣事件」と「タクシー拉致事件」がともに過去の記録として交互に提示される構成だが、日付から同時進行と思わせておいて…という企みは、ミステリ読みなら早い段階で気づくかも。とはいえ、その仕組みがどこに向かっているかという謎は持続されるので、興趣が落ちることはなかった。
 ラストのもう一仕掛け(宮村絡み)は…オチにしたかった意図は分かるが、うーん…なくてもよかったかも。それより、真犯人の行く末を描き切ってくれる方が私は好き。

No.4 6点 レッドキング
(2023/05/07 23:31登録)
門前典之第八弾。「閉ざされた館・男女学生・密室・連続殺人」と、「三十路女タクシー誘拐事件」、二つの事件が、同じ日付で交互叙述される。あえて同日付で別エピソード描かれりゃあ、どうしても、因果捜し・叙述トリック注意、となり、結果、・・麻耶雄嵩等の人物叙述トリックと違って・・キチンとミステリ意味をなしてた。
二つの密室トリックは、最初のペケ(~_~)だが、二番目のはグッド(^.^)よ。
終盤の、女流イヤミス系の臭いは、チトいただけないが。
※「携帯電話」「椎名林檎」「安室奈美恵」・・・「イニシエーションラブ」思い出すなぁ。

No.3 3点 虫暮部
(2023/04/20 13:29登録)
 物理トリックは解けなかったが、事件及び作品全体の構造についてはヒントが色々あって概ね読めた。“タクシー拉致事件”  が平行して描かれていたから余計判り易かったとも言える。そこが判ったら犯人も明白だ。ここまではまぁ悪くない。

 しかし、真犯人は公的には死亡とされているわけで、自身の戸籍はもう使えない。その辺の設定がおかしいね。
 それを抜きにしても、犯人の計画はおかしい。自分か周囲か、どちらかを消すだけで良いのに両方消しちゃっている。
 つまり、自分が死んだことにするなら、他人になって生き直すしかないが、それなら周囲との関係は切れるわけで、殺す必要は無い。と言うか、黙って消えればいいだけで、死んだフリも必須ではない。
 本名云々にこだわりつつリセットしたいなら、自分のままで一人だけ生き残ってしかも疑われない状況、が必要な筈。
 
 あと、演劇部員達の会話がぎこちない。いや、現実の会話をそのまま文字にしろと言うことでは勿論ないよ。“小説の文章として読んだ時に面白い会話文” と言うものはあって、その観点で見た場合にどうもわざとらしい、と言うこと(好みの問題も大きいとは思うが)。
 で、“録音記録を書き起こした文書” との設定でしょ。実は録音自体がシナリオを見ながら演技したものだったのでは、と疑ってしまった。

No.2 7点 人並由真
(2023/04/06 12:49登録)
(ネタバレなし)
 時は2007年の夏。一級建築士であり、アマチュア探偵として数々の難事件を解決してきた愛すべき変人・蜘蛛手啓司。そんな蜘蛛手は、友人で相棒の宮村達也を勝手に引き込み、共同経営の事務所を新設した。やむなくこれに応じた宮村は、デートに向かう直前、ある過去の事件の記録を蜘蛛手に渡す。そこには、岡山県で過去に起きた「西華大学演劇部」の異常な惨劇が綴られていた。

 蜘蛛手啓司シリーズ第7弾。今回は文庫オリジナルで登場。いいのか? とヒト事ながら心配になる(汗)。
 
 2007年の蜘蛛手周辺の描写、記録内の過去の事件の流れと並行し、一人の女性が誘拐されるストーリーを叙述。蜘蛛手の部分は本当にポイントのみの叙述で、残りの二つのお話が作品のほぼ大半の部分を占める。

 nukkamさんのおっしゃるように、前半はちょっぴり退屈。危機状況の誘拐された女性の方の筋立てもさほどハイテンションではない。
 で、まあ、しかし、真相が見えてきてからは……!

 正直、大ネタのひとつは明確に既存例があるものだし(それに関しては、作者もイクスキューズとして、作中でメタ的に「わかってやってます」というサインを出しているような気もする。もちろん具体的にどこでどうとは言わないが)、パッチワーク感も強い。
 しかし、そのツギハギしたパーツのうちのいくつかは、たぶん作者のオリジナル創意? だろうし、その中にはかなりショッキングでオモシロイものもあったりする。
 そしてそういった要素を積み上げて作り上げた本作の犯人像は、確かに強烈だね。
 読者が、あれ、そこはそうなるんじゃ……とツッコもうとすると、先回りした説明を前もって用意している小癪さも結構、お気に入り。後半だけなら8点あげていいでしょう。
 蜘蛛手シリーズ(まだ全部読んでないけど)のなかでも上位の方に行く作品では? とも思う。

No.1 6点 nukkam
(2023/03/07 02:24登録)
(ネタバレなしです) 2023年発表の蜘蛛手啓司シリーズ第7作の本格派推理小説ですが、新たな方向を目指したのでしょうか?タイトルの「友が消えた夏」がまるで青春物語のようです。プロットは「鶴扇閣事件の記録」と「タクシー拉致事件」が交互に描かれる構成で、前者では夏合宿に参加する大学生たちが描かれています。事件がすぐには起きず人間ドラマとしても少々退屈ですが、一度殺人事件が起きるとまるで綾辻行人の「十角館の殺人」(1987年)の勢いになります。一方後者はタクシーに乗った女性客がすぐに拉致監禁状態になるサスペンス小説風な展開です。回想場面が何度も繰り返されるのがちょっと単調ですけど。図解入りで説明される密室トリックなどはこの作者らしいですが、本書で最も印象深いのはすさまじいばかりの犯人の性格でしょう。過去にも異常な犯行動機を扱った作品はありますが、真相が明らかになった後の心理バトルの効果もあって本書の衝撃度は半端でありません。そしてサブタイトルの「終わらない探偵物語」の通り、続編を期待させるような演出で物語は締めくくられます。

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