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ミステリの祭典

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田舎の事件
事件シリーズ

作家 倉阪鬼一郎
出版日1999年07月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 zuso
(2024/10/21 21:53登録)
ここに出てくる事件はすべて悲壮で切なく、都会にコンプレックスを抱いた青年の悲しい死で終わる。郷土の信頼と期待を一身に担い、作家や力士や歌手を目指してついに夢破れる時、彼の選ぶ道は死ぬことしか残されなかった。
田舎という言葉の背景にある、そういった都会に対する劣等感は現実に潜んでいることかもしれない。作品の多くがサイコものめいたホラー仕立てになっているのも頷ける。

No.1 6点 メルカトル
(2014/01/10 22:38登録)
再読です。
全十三話からなる短編集。いずれも無駄な描写を極力排して、非常にコンパクトにまとめられていて、とても読みやすく好感が持てる。
日本そばを極めた男が心機一転開いた店「無上庵」。そばの味をそのまま味わってもらうため、つゆを水にして他のメニューを一切なくした究極のそば屋は苦戦を強いられる。そこに現れた客は、普通のおばさん二人と若い女。果たして彼女らはそのそばをどう評価するのか、そしてその後彼を待ち受ける運命とは?という話。
自信満々で迎えたのど自慢のトリを務める彼は「長崎の鐘」を歌うが、なんと鐘一つ鳴らされて、とてつもないショックを受ける。だが、彼は上司に合格だったと嘘をつき、そこから彼の転落が始まる、という話。
といった感じの、いずれも舞台は田舎で、何気ないきっかけから狂気に取り憑かれた男たちが堕ちていく様を、ユーモアを交えて描かれた小気味よい作品集。
意味はよく分からないがなぜか全てが関西弁での会話となっており、おそらく舞台は関西地方のどこかであろうと思われる。
「事件」と銘打たれているが、どれも主人公の男が勝手に暴走し、他を巻き込むか、自らが堕ちるところまで堕ちていく過程を、何とも言えないリアルな感じで描いていて、面白いと同時に生々しい迫力のようなものがある。
まあミステリとは言えないかもしれないが、奇妙な魅力を持った作品であるのは間違いない。世に知られていない、隠れた名(迷?)作ではないかと思う。

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