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ミステリの祭典

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zusoさんの登録情報
平均点:6.17点 書評数:282件

プロフィール| 書評

No.242 6点 不可視の網
林譲治
(2025/02/09 21:45登録)
監視カメラシステムが張り巡らされた先端技術特区を舞台にした近未監視社会ミステリ。
全ての市民が監視されているはずの「安全・清潔都市モデル地区」で起きたバラバラ殺人を通じて、電子的な監視網のの弱点や問題点が浮き彫りになってゆく。網からこぼれ落ちるものをいかにすくい上げるか、そもそも遺漏なくすくい上げることが正しいのか、そんな問題提起を含む作品となっている。


No.241 5点 空を切り裂いた
飴村行
(2025/02/09 21:38登録)
「空を切り裂いた」は、架空の作家の作品に人生を歪められた人々を描いた群像劇。「蘇る光」は、戦争を経験し、戦後文壇において名を馳せた小説家・堀永彩雲の遺作。
オーディションを落ち続ける役者志望者の極限の心理と行動を描いた第二章「曳光エイコウ」。海辺の町に生まれたその地に閉じ込められても生きてきた十六歳の少年が、堀永彩雲との出会いによって一歩踏み出すさまが鮮烈な「裂果レッカ」の心理の変遷は粘膜シリーズを彷彿とさせ、おどろおどろしくも清々しい。


No.240 5点 オランダ宿の娘
葉室麟
(2025/01/27 21:54登録)
日本橋のオランダ宿・長崎屋は、江戸に参府するオランダ商館長の定宿だった実在の旅籠。
本作は江戸には稀なこの異国との窓口を舞台に、シーボルト事件などの歴史上の事件を解き明かす一方で、二組の若い恋人たちの運命や彼らを取り巻く人々の有為転変をも描き出す読みどころの多い作品。


No.239 5点 女だてら
諸田玲子
(2025/01/27 21:50登録)
江戸後期に実在した女性漢詩人、原来蘋が主人公。彼女の年譜の中で事実関係が判明していない時期に着目、そこに秋月黒田家お家騒動を嚙ませて展開する時代サスペンス。
男装した上で密命を果たそうとする原来蘋の前に立ちはだかる敵、幾度となくやって来る危機、出会いと別れ、ジェットコースター的な展開が最終的に史実に回収されていく様は実に鮮やか。


No.238 6点 虚構推理 鋼人七瀬
城平京
(2025/01/16 22:49登録)
妖怪などが真実を教えてくれるという、異様な設定の中で展開されていく。
亡くなったアイドルの亡霊を信じるネット上の都市伝説的なものによって、その亡霊が存在しているという設定を用いて、偽物の推理に誘導するメディア・コントロールを展開させる快作。


No.237 5点 私に似た人
貫井徳郎
(2025/01/16 22:45登録)
「小口テロ」と呼ばれる無差別殺人が頻発する近未来の日本で、全国各地の無関係な人々が連作形式で登場し、「小口テロ」の背後にあるものが次第に炙りだされていく。
世界中でいろいろな立場から正義を叫び、他人を害する人々がいる。そしてそれが他人事でないことを訴えている。


No.236 6点 百舌の叫ぶ夜
逢坂剛
(2025/01/04 22:34登録)
新宿で過激派による爆破事件があり、警視庁公安部の倉木警部の妻が巻き添えになって死亡する。一方、能登半島の断崖で大怪我をして発見された記憶喪失の男は、病院に迎えに来た会社の上司と妹を名乗る二人から、事故を装い再び同じ場所から転落させられそうになる。
妻の一件の復讐の念に燃える倉木、百舌と呼ばれる謎の男、過激派集団の狙い、錯綜するプロットとどんでん返しなど、ギミック満載のサスペンス小説。


No.235 6点 あるフィルムの背景
結城昌治
(2025/01/04 22:29登録)
自選推理小説集。盗み撮りされた妻の痴態に苦悩する検事の執念を描く表題作、過去の事件が新たな殺意を生み出す「惨事」、中年歯科医の殺人と、意外な結末「私に触れないで」など8編が収録されている。
どれもプロットが巧みで、テーマ把握が見事できりりと仕上げられている。


No.234 5点 未来
湊かなえ
(2024/12/20 22:26登録)
父を亡くした十歳の章子に、二十年後の自分から手紙が届くk。不安定な母を支え、経済的な不安を抱えながらも、手紙を信じて返事を書き続けることで、秋子は未来に希望を持てる気がした。しかし、いじめで学校に行けなくなった彼女を、味方となるべき周囲の大人たちは身勝手に傷つけ、居場所を奪っていく。
彼女が未来へ向けて綴る手紙から、その後も目を背けたくなるような事実が次々と明らかになるが、章子自身の愛する人を守ろうとする気持ちと行動が、彼女の未来に光を灯す。


No.233 5点 だから殺せなかった
一本木透
(2024/12/20 22:21登録)
連続殺人犯から新聞記者に届いた一通の手紙を契機に、記者は次の殺人をにおわす犯人と紙上で対決することになった。この公開書簡型の闘いが熱い。
正義とは、報道とは、そして言葉とは。二人の対決の延長線上にしっかりと驚きが仕込まれている点も嬉しい。真相の提示が後出しという問題点もあるが、殺人者と記者を通じて、そして一人の若者を通じて、人の生き方を考えさせられる。


No.232 6点 敵前の森で
古処誠二
(2024/12/08 22:00登録)
第二次大戦後まもないビルマを舞台に、戦時中の捕虜の処刑と民間人に対する虐待容疑を追求する。
息詰まる尋問劇が読ませる。回想される戦場での事件の数々もまた鮮烈。何が戦争犯罪なのか、戦場にいおける人間性とはいったい何なのかを深く掘り下げている。


No.231 6点 落日の門
連城三紀彦
(2024/12/08 21:56登録)
二・二六事件を題材にした連作スタイルの疑似歴史小説。
冒頭の表題作は、決起に関わる軍人たちの話だが、続く「残菊」は吉原にあった娼婦館の娘の昔話で、一見脈略がなさそうに見えるが、最終的にはとんでもない仕掛けが凝らされている。


No.230 6点 救国ゲーム
結城真一郎
(2024/11/26 21:59登録)
最新技術を絡めて近未来日本の課題である限界集落問題を扱ったテクノ&ポリティカル・ミステリ。
SF的に大きな飛躍はないが、ドローン配送や自動運転の発達によって、クロフツの名作「樽」あるいは時刻表的なアリバイ崩しが再浮上してくるところが面白い。


No.229 6点 此の世の果ての殺人
荒木あかね
(2024/11/26 21:55登録)
小惑星が衝突し人類が滅ぶことが確定した近未来の話。社会体制が崩壊し、警察も機能もしなくなった地方都市に連続殺人鬼が暗躍する。それを二人の女性が追う。
ポスト・アポカリプス小説であるのに、教養小説として清々しい味がある。


No.228 5点 繋がれた明日
真保裕一
(2024/11/13 21:41登録)
喧嘩で殴られ、その恐怖と怒りで相手を刺し殺してしまった少年の彼が仮出所するところから物語は始まる。
家族の苦悩に、就職差別など塀の外に出て自由になった時から、また別の苦悩が始まる。なぜ自分だけ、という意識を捨てきれないまま過ごす日常、そして身の回りに起こる変事、と考えさせられる作品。


No.227 7点 幻の殺意
結城昌治
(2024/11/13 21:34登録)
秘密を持つ者の過去が暴かれ、それによって家族がバラバラになるという家族崩壊の物語で、そこに殺人事件が絡んでくる。
一体、夫婦の絆とは何か、親子の血のつながりは何かを正面から力強く、実にエモーショナルに謳い上げている。特にラストシーンが切々たる響きを持ち、激しく胸に迫る。


No.226 8点 異人たちの館
折原一
(2024/11/02 22:09登録)
新聞記事、談話、年譜、インタビュー、作中小説、独白、学級新聞、雑誌記事、本文と、いくつもの文体によって生じる不気味な雰囲気、実在の事件がこっそり織り込まれて生じる既視感、これらが渾然一体となって、独特のめまいにも似た世界観をつくっている。


No.225 6点 探偵映画
我孫子武丸
(2024/11/02 22:05登録)
殺された映画監督に代わって、俳優たちが主役の座をかけた未見のシナリオを推理し合うという、奇抜な設定が冴えている。
迷推理の乱舞の末、彼らを嘲笑うかのように皮肉にして驚きの仕掛けがラストに待っている。


No.224 6点 田舎の事件
倉阪鬼一郎
(2024/10/21 21:53登録)
ここに出てくる事件はすべて悲壮で切なく、都会にコンプレックスを抱いた青年の悲しい死で終わる。郷土の信頼と期待を一身に担い、作家や力士や歌手を目指してついに夢破れる時、彼の選ぶ道は死ぬことしか残されなかった。
田舎という言葉の背景にある、そういった都会に対する劣等感は現実に潜んでいることかもしれない。作品の多くがサイコものめいたホラー仕立てになっているのも頷ける。


No.223 7点 友が消えた夏
門前典之
(2024/10/21 21:48登録)
大学の劇団員たちが陸の孤島と化した合宿所で次々と殺された事件の記録を入手した探偵が、密室殺人などの真相を推理する。
この事件の展開と謎解きがまず愉しいのだが、本書ではさらにタクシーの女性客が拉致される別の物語が並走していて、それがどう合流するかも興味深い。多様なトリックをいくつも重ね合わせた濃厚な味わいを堪能した。

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