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ミステリの祭典

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zusoさんの登録情報
平均点:6.17点 書評数:280件

プロフィール| 書評

No.100 6点 綾峰音楽堂殺人事件
藤谷治
(2022/06/19 23:11登録)
経営難の地方オーケストラ「綾峰フィル」が拠点とする県立音楽堂が複合施設に改築されることになった。改築前の最終公演で、オケが無言の抗議として演奏したのは、ハイドンの交響曲第45番「告別」。舞台上の楽員が一人一人退場していくという風変わりな作品だ。そのさなか、音楽堂で人が殺される。被害者は、地元局のラジオ番組で助成金頼みの綾峰フィルを攻撃してきたDJだった。
大学教授の音楽評論家が、飄々と謎解きを進める物語の中に、文化を取り巻く世相が鋭く織り込まれる。「東京みたいなもの」を欲しがる地方都市、クラシック音楽に税金で補助する自治体の葛藤、政治、行政に圧力を加えるポピュリズム。音楽は誰のためのものか、深く考えさせられる。


No.99 6点 ビブリア古書堂の事件手帖
三上延
(2022/06/19 23:01登録)
誰かが以前所有していいた一冊の古書が不思議な事件を呼び込む物語。
鎌倉でひっそりと営業している古書店「ビブリア古書堂」の店主栞子は、若くてきれいな女性だが、初対面の人とは口もきけない人見知り。店にはさまざまないわく付きの古書が持ち込まれ、彼女は並外れた知識で、その本にまつわる秘密を解き明かしていく。
登場するいわく付き古書は、夏目漱石著「漱石全集・新書版」、小山清著「落穂拾ひ・聖アンデルセン」、太宰治著「晩年」などなかなか渋い選択。せどりなど古書業界の専門用語も登場する。著者自身に古書店勤務の経験があると聞いて納得。ネット時代に改めて紙のぬくもりの良さを感じさせてくれる。


No.98 10点 硝子の塔の殺人
知念実希人
(2022/06/19 22:53登録)
ミステリを愛する大富豪が地上11階、地下1階のガラスの塔を建てた。そこに招待されたミステリ作家、編集者、霊能力者、刑事たちが集まる。そして連続殺人が始まった。
海外の有名古典から日本の新本格の名作までが言及され、事件がそれをなぞる。つまり奇妙な館、クローズドサークル、そして読者への挑戦状である。特に読者への挑戦状の後は、一段と意外性に富み予想だにしない方向へとかじを取り、たっぷり読ませる。


No.97 8点 野獣死すべし
大藪春彦
(2022/05/29 22:22登録)
確かに書き出しの文章は読み難い。それが途中から作者が高揚して歯切れのいい行動描写にはいり、スピードが上がっていく。
「熱っぽさ」や、やむにやまれぬ「執念」のようなものが行間から滲み出している。この小説何が面白いのかというと、主人公の伊達邦彦の高揚した闘争的ストイシズムとハイにして非情なアプレゲールが面白いのだ。


No.96 7点 愚か者死すべし
原尞
(2022/05/29 22:17登録)
ハードボイルドならではの自嘲思索的なモノローグ、洒落ていながら無駄のない、それでいて皮肉に満ちた会話。そして意外性たっぷりの複雑なプロットと期待通りに優れたミステリを堪能。


No.95 6点 BRAIN VALLEY
瀬名秀明
(2022/05/12 23:34登録)
最新科学の知識と想像力によって、臨床体験による幻覚的な啓示の謎に迫ろうとしている。
全ては「脳」がみせる幻なのだろうか。「脳」がみせる幻と現実の間には、どんな違いがあるのか。読み進むうちに次々に湧いてくる疑問が物語の中で解消され、さらなる疑問に結びついてゆく。その加速感が心地良い。


No.94 7点 盲目的な恋と友情
辻村深月
(2022/05/12 23:30登録)
思春期の少女像を引きずる女たちの、一途で愚かな純情が、憎悪と悪意へと変貌する。独占欲と嫉妬を隠しながら、被害者と加害者を綱渡りで演じて罪を犯す様が、驚きのどんでん返しとともに描かれ何とも鮮やか。


No.93 4点 中空
鳥飼否宇
(2022/04/27 22:24登録)
異空間と外部の現実との関連付けが中途半端。異空間と現実の接点に伏線やトリックを置くならば、両者の関係をしっかり描かないと、作品世界を支えきれない。
竹の花が咲く村の様子が魅力的だっただけに、書き込み不足が惜しまれる。


No.92 5点 狐罠
北森鴻
(2022/04/27 22:21登録)
事件の不可能性を論理で解明するという派手な性質はもたないものの、メンタルな部分が解き明かされてゆく過程はなかなか読ませる。
骨董美術という情報は興味深く読めた。


No.91 8点 カマラとアマラの丘
初野晴
(2022/04/14 22:24登録)
奇抜なトリックと複雑な人情の機微が鮮やかに直結する。
意外な真相が明かされると同時に、感動が押し寄せてくる。トリックと人間ドラマが融合した本格ミステリ。


No.90 6点 Fake
五十嵐貴久
(2022/04/14 22:21登録)
優れたコンゲーム小説の条件である、計画実行までの手間暇かけた周到な仕込みの様子がディテールたっぷりに描かれている。
しかもカンニング作戦と似た二番煎じ作戦自体が、相手はもちろん読者も欺くミスディレクションであるという二重三重の企みには驚く。


No.89 6点 デス・コレクターズ
ジャック・カーリイ
(2022/03/30 22:50登録)
いったんは解決を見た事件が、三十年後に再び災いをもたらす、という不可能性がスリリング。
殺人者にまつわる品々に執着する病んだ収集家たちの世界という題材も面白い。


No.88 9点 六人の嘘つきな大学生
浅倉秋成
(2022/03/30 22:48登録)
IT企業の新卒採用の最終選考に残った六人の学生たちの密室劇。
一人の内定を決める課題を会社から出された学生たちが、告発文を交えた暴露合戦を行うのだが、後半になると別の視点から本当の犯人探しが始まる。イヤミス全開の暴露合戦が、最終的には心温まる展開に。これが見事。


No.87 5点 R.P.G.
宮部みゆき
(2022/03/14 22:46登録)
ネット上の疑似家族を巡る事件を扱っていて「理由」の変奏的なところもある。
疑似家族のテーマを語るために、あえてフェア・プレイを破った形でミステリ的な仕掛けを使っている。


No.86 6点 怪盗グリフィン、絶体絶命
法月綸太郎
(2022/03/14 22:44登録)
絵本のタンタンみたいな世界観のもとで行われるドタバタ私立探偵もの。二転三転する展開が論理的で作者らしい作品。


No.85 6点 交渉人・爆弾魔
五十嵐貴久
(2022/02/26 23:44登録)
タイムリミットが迫る中で犯人と爆弾の所在を突き止めなくてはならない。サスペンスの王道のような作品だが、常に予想を裏切る展開が待ち構えているのに加え、奇抜なアイデアと意外な真相が絡み合っている。


No.84 7点
麻耶雄嵩
(2022/02/26 23:40登録)
異郷という舞台を綿密に構築し、そして破壊する手腕の鋭利さが際立つ。
対比・対照の秀逸さも印象に残る。ミステリのエッセンスが詰まっている。


No.83 5点 さよならドビュッシー
中山七里
(2022/02/13 22:48登録)
延々と続くヒロインの独白と少女コミック風のお話作りにいささか食傷したが、終盤それは十分に報われる。前半の伏線やミスリードが一気にカタルシスとなって実を結ぶ終盤は圧巻。


No.82 6点 嘘をもうひとつだけ
東野圭吾
(2022/02/13 22:46登録)
加賀恭一郎シリーズ。バレエ団をめぐる殺人事件の顛末を描いた表題作・他五編は、謎解きよりも人間洞察に長けた加賀のキャラクター造形や、嘘をモチーフにしたドラマ演出が味わい深い。


No.81 8点 告白
湊かなえ
(2022/01/29 22:27登録)
二転三転する真相、新たに起こる事件など各章、異なる類の衝撃が待っている。感情を抑えたドライな口調で緊迫感を煽る一方、あまりの毒々しさが時にどこかユーモラスにも感じられ、その緩急のバランスが読み手を飽きさせない。最大の衝撃は結末だが、嫌な気持ちになるか、清々しく思うかは意見が分かれるでしょう。

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