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ミステリの祭典

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パメルさんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:658件

プロフィール| 書評

No.238 5点 鈍い球音
天藤真
(2019/03/26 11:08登録)
作者お得意のユーモあふれるミステリ。野球ミステリですが、野球のルールを知らなくても楽しめると思います。(知っていればさらに楽しめるという感じ)
日本シリーズ開幕直前に、プロ野球の監督が忽然と姿を消してしまう。トレードマークの髭とベレー帽だけを残して・・・。は?何このぶっ飛んだ設定は?と冒頭から引き込まれた。
失踪なのか?誘拐なのか?何か陰謀が絡んでいるのか?いろいろな憶測が飛び交うが、終盤まで明らかにされず飽きさせない。
また、男勝りの監督の娘を筆頭に、個性派ぞろいの登場人物にも魅力があふれていいる。
野球の勝負が決まると同時に事件も解決するという構成も素晴らしい。
ただ、人間消失トリックは見当がつけやすいし、動機も今ひとつ釈然としないところが残念。


No.237 7点 Y駅発深夜バス
青木知己
(2019/03/15 20:47登録)
光文社文庫の公募アンソロジー「新・本格推理」に掲載された作品から、表題作の「Y駅発深夜バス」と「九人病」の2編が収録され、その他3編を合わせた5編からなる短編集。
「Y駅発深夜バス」・・・幻想的な雰囲気を漂わせながら、端正なロジックで驚くべく真相を明らかにしていく構成が素晴らしい。
「猫矢来」・・・ある事で失望していた主人公が真相を知って救われるほろ苦い青春ミステリが楽しめる。
「ミッシング・リング」・・・読者への挑戦状付きのフーダニットとして楽しめる(館の見取り図・登場人物の行動表付きで親切)
「九人病」・・・不気味な雰囲気とひねりの利いた技巧が楽しめるホラーと本格ミステリが融合した作品。
「特急富士」・・・殺人犯と殺人を犯そうとしていたが先を越されてしまった人物が駄目すぎてトラブルに巻き込まれるドタバタ劇が笑える(倒叙ものとアリバイトリックが楽しめる)
派手さは決してないが、バラエティに富んでいて楽しめる作品集。


No.236 7点 犬神家の一族
横溝正史
(2019/03/04 01:19登録)
「獄門島」の時にも書きましたが、金田一耕助シリーズはTBS系のテレビドラマで子供の頃に全て見た。それを承知で小説を読んでいるのですが、「獄門島」の時は読んでいく中で思い出すことは無かったが、この作品は途中でストーリー展開、犯人を思い出したしまった。(それだけインパクトが強かったからでしょう)それでも面白かった。作者のストーリーテラーぶりが発揮されているからだと思う。
見立て殺人は「獄門島」では必然性を感じなくて不満があったが、こちらは必然性を合理的に処理されており好印象。第3の殺人の見立てに関しては、否定的な意見に「そうだよな」と思いながらも、これはこれで洒落てて良いと思った。またご都合主義的なところもあるが、それを差し引いてもこの点数。見立て殺人の代表作といってもいいと思う。


No.235 6点 鏡の中は日曜日
殊能将之
(2019/02/25 12:46登録)
14年前の鎌倉の梵貝荘で起きた殺人事件を再調査してほしいという依頼が石動戯作に入る。石動戯作シリーズ第3弾で、綾辻行人氏の館シリーズのオマージュ的要素がある作品。
第1章は、正体不明の「ぼく」の視点から描かれ、その世界は何もかもが曖昧なまま。しかもそこに、回想シーンのように意味ありげな文章が挿入され、ますます混沌としていく。第2章に入ると、小説としての「梵貝荘事件」と現実の「梵貝荘事件」が交互に描かれ、徐々に何となくぼやけていたものが輪郭を見せることになる。
読み難かったというのが正直な感想。本格ミステリに対する愛を感じる作品ではある。しかし、ここまで構成やトリックを複雑にする必要があったかは疑問が残る。(ひねくれた愛?)
また、騙された感はあるが、この驚きを引き出すための設定が狡猾に感じる。


No.234 5点 赤い指
東野圭吾
(2019/02/18 13:10登録)
加賀恭一郎シリーズの7作目で、倒叙形式のミステリ。
このシリーズの魅力の一つとして加賀自身の人間性があげられると思います。人情深い人柄でありながら、時にクールに鋭い洞察力で真相に近づく姿はカッコ良さを感じます。
いよいよ事件が解決という時に、「刑事というのは、真相を解明すればいいというものではない。いつ解明するかという事も大切なんだ」と部下に言い放った言葉が心にしみた。時々、こういう心に響く言葉があるのも人気シリーズの所以なのでしょう。
また、相変わらずのリーダビリティの高さは、さすがと思わせてくれます。
随分と褒めましたが、ミステリとしては先が読めてしまう展開に、想定範囲内の結末と驚きは少なかった。ミステリとしても加賀父子との関係性のストーリーとしても中途半端な感じがした。もう少しページ数を増やしてでも、ストーリーに厚みを持たせてほしかった。


No.233 6点 マーダー・インカーネイション
菅原敬太
(2019/02/07 01:16登録)
菅原敬太(原作)稲光伸二(作画)の漫画になります。
「大切なものを得るための犠牲」を深く掘り下げた作品。
「24時間以内に人間を3人殺してください。そうすると、亡くなった大切な人がよみがえります」。謎めいた少女から、そんな残酷な契約を持ち掛けられた人間の葛藤が描かれている。
優しかった姉に自殺された妹。階段の転落事故で妻に先立たれた教師。最愛の人を亡くして心を極限まで痛め、故人を生き返らせるための恐ろしい手段を成し遂げようとする残された人間の狂気。そして予想を覆す「故人が死に至った真実」が物語られる。
読者の先入観をあざわらうかのように、故人らの裏の顔が明らかになるシーンもあり、善悪の境界線について深く考えさせられる。


No.232 7点 悪魔を憐れむ
西澤保彦
(2019/01/28 13:03登録)
4編を収録した短編集で、タック&タカチシリーズの10作目。
このシリーズの過去の作品を読んでいなくても楽しめると思いますが、時々過去の作品に触れる場面があるので、順序良く読んでいた方がより楽しめるかと思います。ちなみに自分は、このシリーズは「彼女が死んだ夜」「麦酒家の冒険」の2作品しか読んでいません。
「無間の呪縛」と表題作の「悪魔を憐れむ」は謎自体にインパクトがあり、謎解きの醍醐味が味わえる。「意匠の切断」はホワイダニットとして、「死は天秤にかけられて」は常識では考えられないアリバイ工作が楽しめる。
4作品に通じることは、人間の心理を深く掘り下げ、それを手掛かりに謎を解くという点で説得力があり好印象。
探偵役の面々のキャラクターも、明るく爽やかで推理をしながら、時々脱線してのやり取りは面白く魅力的。


No.231 7点 慟哭
貫井徳郎
(2019/01/23 13:15登録)
第4回鮎川哲也賞の最終選考に残り、受賞は逃したがデビュー作とは思えない出来栄え。
連続幼女誘拐殺人事件の犯人を追う捜査一課長の佐伯と、救いを求め新興宗教にはまっていく松本という人物のパートが交互に描かれている。
佐伯は捜査が一向に進展しないことや、家庭内の問題で世論や警察内部の批判を浴び、またマスコミまで執拗に追われ苦悩する。その様子が丁寧に描かれ好印象。
2つのストーリーが、どのように絡み合うのか、どのように着地するのかが読みどころ。
●●トリックと知っていて読むのと、知らないで読むのとでは大きな差があるのではと感じさせる作品。結末は重く悲しく、何故タイトルが「慟哭」なのかが明らかになり衝撃的。タイトルは秀逸。


No.230 6点 朱の絶筆
鮎川哲也
(2018/12/20 01:16登録)
軽井沢の山荘で、この山荘の持ち主の流行作家が殺される。山荘に集められた7人は、いずれも動機があるように思える怪しい人物ばかりで、フーダニットとして楽しめる。(途中で感づいてしまいますが)
魅力的な登場人物たち、伏線の張り方や謎の提示が細部に渡り丁寧に描かれており好印象。読者への挑戦状もついていて嬉しい。
ただ、「りら荘事件」の感想にも書きましたが、この作品でも警察の無能っぷりが発揮されているし(苦笑)、星影龍三シリーズでありながら、登場するのは終盤の終盤で(といっても現場には姿を現さず電話での応対で)一気に解決にもっていく展開は気に入らない。●●トリックも成功しているとは言い難い。
良いところ、悪いところを相殺するとこの点数に落ち着きます。


No.229 7点 生存者、一名
歌野晶午
(2018/12/13 14:50登録)
ミステリの本を読み始めて、初めて一気読みを経験した作品。文庫本で161ページとコンパクトだったという事もあるが、それ以上にシチュエーションに魅力があり、ページを捲る手が止まらなかった。
無人島で生き延びるためのサバイバル生活、食料をめぐり仲間同士が疑心暗鬼になっていく中、次から次へと殺人事件が起き、緊迫感もたっぷり。
無人島で連続殺人事件が起こるというクローズドサークルの定番といえるが、一筋縄ではいかないし、ラストにはどんでん返しが待っている。
タイトルの「生存者、一名」とは誰なのか?真相は衝撃度が高い。このページ数だからこその切れ味といえる。


No.228 7点 ブラディ・ローズ
今邑彩
(2018/12/06 01:29登録)
薔薇が咲き乱れる館の主人と再婚した女性が巻き込まれていくサスペンス。
亡き元妻の幻影、怪しげな住人たち、そして薔薇色の便箋に書かれた脅迫状と引き込まれる要素は多い。
全体的にある種病的でありながら、耽美的な雰囲気が漂っており、薔薇の香りにむせ返るような芳香を感じるほど表現力も豊か。他の作品でも感じたが、この作者の世界観は結構好み。
どの人物も疑わしく思え、誰を信用してよいのか分からず不安になっていく心理が丁寧に描かれ緊迫感もたっぷり。
真相の追求も丹念で、ラストにはどんでん返しも用意されており驚かされる。


No.227 8点 七人の証人
西村京太郎
(2018/11/24 13:35登録)
獄死した息子の冤罪を晴らすべく、脱出不能の無人島に大金をつぎ込み事件現場のセットを再現し、事件の証人男女七人と十津川警部を拉致する。
再検証を行い、目撃証言の矛盾を立て続けに指摘し、真相に迫るロジックは良く出来ている。
テンポも良く、風変わりな設定での法廷ミステリとして、そしてサスペンスとして読み応えがあり、プロットも良く練られており素晴らしい。
西村京太郎氏の作品を改めて見直さなければと思わせてくれた作品。


No.226 6点 タイム・リープ あしたはきのう
高畑京一郎
(2018/11/15 13:44登録)
タイムパラドックスをテーマにした爽やかなSF青春ミステリ。
時間移動の法則性をミステリの手法で解明するという点は、新鮮さを感じたし推理する面白さがある。                             ジュブナイル作品としては、プロットの組み立て方、張り巡らされた伏線の回収の仕方が素晴らしく、タイムトラベルものにありがちな論理的矛盾も無く、意外な真相も用意されており完成度は高い方だと思う。
以上の点は、優れていると思うが肝心のストーリー自体に面白味が欠ける。


No.225 6点 半七捕物帳
岡本綺堂
(2018/11/04 01:41登録)
まだミステリが根付いていなかった大正時代にミステリと時代小説を融合した捕物帳というジャンルの先駆けとなった作品らしい。
時代小説というと硬質な文章で読みにくいという勝手なイメージがあるが、この作品は歯切れのよい文章のためリーダビリティが高く、時代小説を苦手としている方でも入門書としてお薦め出来る。
またこの時代に書かれたとは思えないぐらい謎解き小説として完成度は高いし、江戸時代の情緒を満喫させてもらえるし、古臭さをあまり感じさせない点は驚き。
しかし、あくまでもその時代にしてはという事であり、現代ミステリを読み慣れてしまうと、やはりミステリ要素的には物足りなさを感じてしまう。歴史的価値とかを考慮せず採点する主義なのでこの点数になってしまいます。


No.224 6点 不安な産声
土屋隆夫
(2018/10/23 14:10登録)
週刊文春ミステリーベストテン1989年国内部門第1位。東京地検の検事千草泰輔が活躍する千草検事シリーズ。
人工授精は生命の尊厳を冒瀆する行為だという偏見が蔓延していた時代に、この重いテーマに挑んだ意欲作と言えるでしょう。(本格というより社会派に近いと思う)人の弱みにつけ込む卑劣な人物、復讐に燃える人物など登場人物の心理描写も丁寧で好感が持てる。アリバイがあり、動機も無い人物がなぜ犯行を自供したのか、魅力的な謎にどんでん返しも用意されている。しかし、ある人物の誤認は無理があるでしょう。


No.223 6点 暗色コメディ
連城三紀彦
(2018/10/10 01:25登録)
叙情性豊かな美しい文体で、読者を虜にする作者の長編デビュー作で、真実と狂気が混然とした幻想的な世界を見事に描いている。(とにかく読者を惑わせてやろうという思いがひしひしと伝わってくる)
男女4人の奇妙な4つのエピソードが、それぞれの視点で語られ、真実なのか妄想なのかと混沌とした雰囲気の中、不安を募らせる心理描写も丁寧で好印象。
やがて、4つのエピソードが1つの物語に収束していく過程も巧み。
ただ、合理的な結末にするために偶然の要素を多く取り入れている点は不満。


No.222 7点 ずうのめ人形
澤村伊智
(2018/09/30 01:17登録)
不審死を遂げたオカルト雑誌ライターが遺した原稿。この原稿を読んだ人が、次々と呪い殺されてしまう。都市伝説をめぐる怪異に巻き込まれながらも、それに挑む登場人物の葛藤を描いたタイムリミットホラーサスペンス。
じわじわと迫りくる恐怖を味わえるホラーとしても素晴らしい出来だと思うが、ホワイダニットに対する疑問や驚きのどんでん返しなど、本格もの好きな方にも楽しめる要素もある。
少し気になる部分もありますが、リーダビリティも高く幅広い層の方が楽しめる上質なエンタメ小説といえるでしょう。


No.221 5点 麦酒の家の冒険
西澤保彦
(2018/09/19 01:15登録)
ドライブの途中、ガス欠に見舞われ迷い込んで辿り着いた山荘。
その山荘に勝手にあがり込み、さらに冷蔵庫にあるビールをこれまた勝手に飲みながら、この家の奇妙な点を仮説や推論を重ね推理合戦するという不謹慎かつ滅茶苦茶な設定で楽しめる。
最初のうちは良かったが、殺人事件が起きているわけではないし、何の物的証拠も無い単なる推論の域を出ないわけだから途中で飽きてくる。さすがに冗長に感じた。(短編で十分)
ユーモアある発想で推論が展開され、作風からして奇想天外な結末を期待してしまうが、最後に明かされる真相には面白味がなくがっかりさせられた。
エビスビールを飲みながら読んでください。


No.220 6点 白い兎が逃げる
有栖川有栖
(2018/09/09 01:19登録)
4編からなる中短編集。
アリバイ崩し、ダイイングメッセージの謎、思いも寄らない意外な動機とバラエティに富んだ作品集で嬉しい。
表題作の「白い兎が逃げる」は追う側と追われる側がいつの間にか入れ替わる展開。鉄道絡みですが、時刻表トリックが苦手な方でもマニアック過ぎないので楽しめると思います。全体的には特筆すべき作品は無いが、ハズレも無いといった印象。
余談ですが「白い兎が逃げる」はP・T企画がプロデュースし、観客参加型ミステリ(ゲーム形式のミステリ演劇イベント)が開催されるそうです。(2018年9/28~9/30大阪 浄土宗慶典院にて)。


No.219 8点 鬼畜の家
深木章子
(2018/08/30 01:23登録)
第30回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。デビュー作とは思えない程、完成度は高い。新人とはいえ60歳を超えていますが・・・。「弁護士を定年退職したから執筆でもしようか」なんてそんな感じで上手くいくなんて羨ましい。
異常としか思えない家族の人間像がモノローグ、インタビュー形式で語られ露になっていく。とにかく読み進めば進むほど、おぞましい気持ちになっていく。
人物構成や悪行の数々、そしてある人物の死を不可解さを提示しながらストーリーは進み惹きつけられる要素は多い。
分類としてはイヤミスになると思うので万人向けではないが、リーダビリティが高く展開は二転三転し楽しませてくれるし、最後に明かされる真相には騙された快感が残ると思います

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