名探偵ジャパンさんの登録情報 | |
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平均点:6.21点 | 書評数:370件 |
No.290 | 6点 | その鏡は嘘をつく 薬丸岳 |
(2019/07/08 10:58登録) 『刑事のまなざし』の夏目シリーズということで、また前作のような渋い味わいを楽しめるのかなと思ったのですが、まさかの結構狂気的な真相で、これはこれで別にいいのですが、「不意打ちを食らうと思っていなかったのに食らった」とでも言うべきでしょうか(事前に食らうと分かってたら「不意打ち」にならないだろ、という突っ込みは、まあ) これは作者が狙ってやったことなのかはわかりませんが、王道の重厚なレスリングを味わいに、それを売りにしているプロレス団体の興業を観に行ったら、最後に凶器攻撃や電流爆破を使ったエクストリームな試合が出てきた、みたいな感じでした。 いえ、そういうのも嫌いではないですよ(笑) |
No.289 | 5点 | ドミノ倒し 貫井徳郎 |
(2019/07/08 09:01登録) この事件を合理的に収拾つけようとすれば、ああする以外なかったのでしょうけれど。初めからそれが狙いだったというよりも、行き当たりばったりに書いて最後に慌ててまとめた、週刊連載漫画みたいな印象を受けました。インパクトはありますが、あまり好みではなかったです。 |
No.288 | 5点 | 超動く家にて 宮内悠介 |
(2019/07/08 08:48登録) 広く深い知識を持つ作者が軽妙な筆致で綴った知的ナンセンスユーモア短編集。などと書くといかにも分かってるっぽいのですが、正直なところ、私にはよく理解できませんでした(笑) ここは笑ってもいいところなのかな? とか、ここで笑えないといけないのかな? とか、作者の顔色を窺いながら読んでいるようで、いまひとつ入っていけませんでした。 |
No.287 | 6点 | 双蛇密室 早坂吝 |
(2019/06/16 00:17登録) これは凄いです。今まで読んだどのミステリにもないトリックで、私が読み逃している中にも同様のものはないと断言してよいでしょう。本作だけの唯一無二のトリックです。この仕掛けが成立するよう、巻末の参考文献を見ても作者はかなり苦労したことが窺えます。しかも「上木らいちシリーズ」によく似合っているトリックです。 ですが、それが小説の面白さに繋がっているかというと、ちょっと首を傾げざるをえません。 念のため書いておきますと、上記でいう「凄い」のは第一の密室殺人のトリックについてです。第二の密室については…… しかしながら、話の展開上、第二の密室はどうしても必要なわけで、難しいところです。 |
No.286 | 7点 | 下り特急「富士」(ラブ・トレイン)殺人事件 西村京太郎 |
(2019/06/14 08:48登録) 他の方も触れておられるように、読点の数が凄い。 思うに、この時代は手書き原稿だったため、作家が文章を頭の中で構築するスピードが、そのまま原稿に反映されてしまった結果なのではないかと思います。今のデジタル原稿なら推敲段階で無駄な読点は簡単に省けますが、手書き原稿ではそうもいかなかったのでしょう。 さて内容ですが、これが予想外の掘り出し物でした。多少力任せの感はありましたが、豪快なひっくり返しを楽しませてもらいました。 内容もさることながら、文章にもおよそ無駄な部分はなく、読者が必要とする情報を過不足無く与え、かつ目まぐるしい展開で一ページたりとも読者を飽きさせまいと必死です。自分がどういうものを求められているのか、十分理解しているからできる芸当なのだと思います。西村京太郎、プロ中のプロです。登場人物同士のどうでもいい寸劇や、自己陶酔気味の心理描写で水増しをしがちな昨今の作家に見習ってほしいところです。 |
No.285 | 4点 | 猫島ハウスの騒動 若竹七海 |
(2019/06/12 20:40登録) 始まってから次々に何人も登場人物が出てきて……理解が追いつきません。シリーズものだということを知らずにいきなりこれを読んだせいでしょうか? シリーズ馴染みの読者なら大丈夫なのでしょうか? そうであれば表紙に「シリーズ何作目」とか書いておいてほしかったです。 文庫版の解説で柴田よしきが「読みやすい」と書いていましたが、そうは感じられませんでした。登場人物の読み分けと状況の把握に精一杯で、置いていかれないように文章を追うだけでやっと。久しぶりに読後、満足感よりも「やっと終わった」という安心感が上回った読書になってしまいました。 |
No.284 | 5点 | 私の命はあなたの命より軽い 近藤史恵 |
(2019/06/08 23:30登録) 近藤史恵を読むのはこれが二作目で、デビュー作の『凍える島』から随分と作風が変わっていて驚きました。(「コオヒイ」ではなく「コーヒー」と書いている! あれは『凍える島』だけ?) 「日常の謎」ならぬ「日常の恐怖」とでも言いましょうか、お化けなどの超常要素ではない、かといって過剰な異常性でもない「怖さ」がうまく描かれた快作だと思います。ラストの結構な状況であるはずなのに、妙に淡々とした主人公の語り口調も怖いです。 |
No.283 | 4点 | 僕は君を殺せない 長谷川夕 |
(2019/06/08 23:05登録) 以下は、私が入手した本の帯に書かれていた惹句です。 「新感覚ミステリー」 「二度読み必至!!」 「三浦しをん絶賛『クライマックスの雪のシーンは、淡々として美しく、凄みすら感じた』」 「|問題|だれが「僕」で、だれが「君」でしょう?」 「誰も想像しない驚愕のラストへ!」 ひいぃ! ハードル上げすぎぃ!! で、読んでみたわけですが、本作に対して上記したような惹句が妥当なのであれば、折原一の作品群に対しては、飾る言葉を見つけるのに相当の苦労を必要とするでしょう。少なくとも本作が刊行された2015年時点で、これを「新感覚ミステリー」と名付けること自体結構な感覚と言えます。 正直、過剰包装ともいえるこれらの惹句でハードルが上がりすぎさえしなければ、ごく普通のミステリ風サスペンスものとして読めて、5点くらいつけるのにやぶさかではなかったかもしれません。 それで、肝心の内容についてですが、作者の腕なのか、それとも「騙そう」という意識が前面に出すぎなのかは分かりませんが、やけに描写や状況の説明が下手で不足しており、読んでいてなんだかもやもやしました。 この手の「騙し」というのは、ある鮮明な画像を見せられていたのに、見る角度を変えただけで全く違ったものに認識されてしまうという、騙し絵的な爽快感が魅力だと思うのです。対して本作は、わざと解像度の低い画像を見せていて、いざというときになってから解像度を上げて「実はこういう絵でした!」とやられているような、腑に落ちない感じを受けました。 作者は本作がデビュー作ということですから、まだまだこれからでしょう。文体は軽やかで読みやすく、「10~20代から圧倒的支持!」という惹句もあり、「7.5万部突破」しているという実績もあります。変に騙し的なことを意識せず、一度王道のミステリで勝負して欲しいと思います。 |
No.282 | 3点 | 増加博士の事件簿 二階堂黎人 |
(2019/06/06 22:58登録) 収録作品のほとんどが、ダイイング・メッセージのこじつけクイズです。これだけの数をこなすとなると、こうなるのも仕方ないのかなと思いましたが、初出一覧を見ると、掲載されていた雑誌(?)は季刊で、つまり単純に考えて一本書くのに三ヵ月の猶予があったということです。これが一週間に一本、くらいのペースであれば、このクオリティに落ち着くのもやむなしと思えたのですが。三ヵ月考えて(もちろん別の仕事もあったのでしょうが)これはどうなの? というものばかりでした。 |
No.281 | 7点 | 罪人よやすらかに眠れ 石持浅海 |
(2019/06/06 11:57登録) 札幌市の中島公園近くに佇む謎の豪邸。この館には「業」を持ったものしか入ることが出来ない。 一風変わった連作短編集です。 収録作品は全て、その回の主人公が「中島」という表札の掛かった豪邸に様々な理由で招き入れられるところから始まります。そこで館に来ることになった経緯や身の上話を語るうちに、家人のひとりである北見から、主人公が持つ「業」を看破されることになって……。 北見が主人公たちとの会話の中から「業」を見つけ出す過程は一応ロジカルながらも、かなりの飛躍は感じます。ですが本作の見所はそこではなく、不運にも(?)中島家に招かれることになってしまった主人公たちの境遇です。 北見に業を暴かれ、中島家を出て元の世界に戻ることになった主人公たちのその後は、総じて悲惨です(当たり前と言えば当たり前ですが)。決して読後感のよい作品ではありませんが、単純な舞台設定で一編辺りが短くまとめられているため、勢いで読まされてしまいます。 ベストは「はじめての一人旅」でしょうか。ラストの一行が切ないです。 |
No.280 | 8点 | 愚者の毒 宇佐美まこと |
(2019/06/04 00:24登録) この作者はホラー作家という印象があったので、本作を読んで「こういうものも書くのか」と嬉しい驚きを感じました。迷ったうえでジャンルは「サスペンス」と登録しましたが、限りなく「本格」に近いサスペンスだと思います。事件の根底には「社会派」っぽい背景もあり、一冊で色々なミステリの要素を味わえる豪華な構成になっています。 ガチガチのミステリ作家が書いたものではないため、本格ミステリを読み慣れた読者であれば仕掛けに早々に感づいてしまうかもしれませんが、そのうえでも楽しめると思います。 第一章では2015年と1985年。第二章では1965年と三つの時代で物語は進み、第三章ではそれまでの事件を総括し、全ての謎が小気味よく解かれていきます。 ドラマとしても重厚でハードカバーが似合う作品ですが、文庫書き下ろしだと知って意外でした。もっと人目に触れていい傑作だと思います。(「第70回日本推理作家協会賞」を受賞しています) |
No.279 | 5点 | 困った作家たち 両角長彦 |
(2019/06/01 19:19登録) とある出版社の文芸担当編集者桜木由子が、遭遇する出版会における様々な事件を、探偵の鶴巻とコンビを組んで解決していくという内容の短編集です。短編の途中に、文庫換算で二~三ページ程度のショートショートが挟み込まれているという変わった構成の短編集です。 「最終候補」 「盗作疑惑」 「口述密室」 「死後発表」 「公開中止」 「偽愛読者」 の六編です。(ショートショートは割愛) タイトルや各編のタイトルから、中山七里の『作家刑事毒島』を思い浮かべる方もいるかと思いますが、(私もそうでした)全然違っていて、こちらには向こうの売りである「毒」がありません。まったくなくはないのですが、『毒島』が即死の劇毒だとしたら、こちらは腹痛を起こす程度のものです。 どこかで目にしたことのある作者だと思ったら、「ラガド」の人だったのですね。百八十度違った作風で気づきませんでした。 収録作品はどれも平均して、お仕事小説としてもミステリとしても「5点」くらいの可もなく不可もないものばかりです。ベストは結構凝った仕掛けが効いている「盗作疑惑」でしょうか。 |
No.278 | 7点 | 生ける屍の死 山口雅也 |
(2019/06/01 01:07登録) 初出版が1989年ということに驚きです。平成元年じゃないですか。この時代に、すでにこういうものを書いていたというのが凄い。 死者が「生ける屍」になる理由というものを一切明かさず、起きた事実だけを書いていく手法も思い切っています。そこ(ゾンビ化する設定とか)はこの作品の肝じゃないし不要、と作者が判断したのでしょう。正解だと思います。 謎の一つ一つが特殊設定と絶妙に絡み合い、ただ単に奇をてらうための設定ではないことが分かります。こういったものはどうしても色物として見られがちですが、変な言い方かもしれませんが真面目な、優等生的な特殊設定ミステリでした。 主人公のキャラクターにも救われて、そこまで深刻な話にもならず、しかしラストは切ない幕引きで余韻を残しました。 |
No.277 | 6点 | 動かぬ証拠 蘇部健一 |
(2019/05/19 13:11登録) この作者は不当に迫害されていると感じるのは私だけでしょうか(笑) 本作については、普通に「本格」している作品ばかりだと思いませんか? 中には文章だけで説明可能な作品もありますが、概ね「オチのイラスト」を効果的に使った快作ぞろいです。 やはりデビュー作の「六とん」(表題作でなく、その他のくだらない作品群)の印象が悪すぎて、それが延々と尾を引いているのでしょうか。 人の第一印象を覆すのって相当難しいんだなぁと、改めて感じ入りました。 |
No.276 | 5点 | あなたがいない島 石崎幸二 |
(2019/05/19 13:00登録) 極めて軽めのミステリです。初出の2001年当時は、こういった作風のミステリはあまり受け入れられていない時代だったはずで、世に出るのが早すぎた作品だったのかもしれません。 内容は、かなり考え抜かれたトリックだと思いますが、「あれ」が島に存在しないことは、女性なら(特に、本作の登場人物のほとんどを占める、年頃の若い女性であればなおさら)真っ先に問題視して気が付く事柄なのではないでしょうか。作中視点が男性のものだから、そこに誤魔化されてしまった感じです。意図して作者がやったことでしょうが、いまひとつしっくりきませんでした。 それと、凶器の謎が「特殊な知識がないと解けない系」で、普通に推理して辿り着ける答えでないことは、作者も作中で指摘しているので、これも分かってやったことですが、もう少し何とかしてフェアに勝負してほしかったです。 あらゆる面で「惜しい」ミステリと映りました。 |
No.275 | 6点 | ifの悲劇 浦賀和宏 |
(2019/05/16 22:11登録) 角川文庫の書き下ろし作品なのですが、カバー裏のあらすじ紹介は二重の意味でいただけません。「それをばらすな」的なことと、本編を読了した段階で読み直すと、明らかな虚偽が書いているからです。 まあ、他に書きようがないという事情もあるのでしょうが、プロの編集者ならば何とかしてほしかったですね。 肝心の内容についてはというと、こういったタイプの作品は「技巧」が過ぎると、感心するばかりで、あまり「面白かった」という評価に繋がりづらい、ということが再認識できました。労多くて実入りが少ない、作家にとってあまり効率的でない仕事に思います。 |
No.274 | 6点 | 安楽探偵 小林泰三 |
(2019/05/16 22:02登録) ミステリというか、「奇妙な味の短編」的な話が詰まった怪作です。とはいえ、ラストでそれまでの話を総括する形の「連作短編集」のお手本のような作りは、紛れもない今風のミステリでしょう。 こういった連作短編集ものは、「ラストで読者を驚かせれば帳尻が合うだろう」とばかりに、最後以外は良く言えば正統派、悪く言えば平凡な話を並べるきらいがありますが、本作は各話独立させても十分に一本の短編として成立しうる、奇妙な話ばかりで楽しめました。 |
No.273 | 6点 | COVERED M博士の島 森晶麿 |
(2019/05/16 21:49登録) 『M博士の比類なき実験』と改題された文庫版で読了しました。 「孤島もの」で「首なし死体もの」ですが、本作の一種独特な世界設定は、ちょっと他に例がないと思います。 首切りトリックも、普通であれば何てことのないトリックなのですが、作品の持つ異様な雰囲気に翻弄されて、「ああ、そうね」と、一周回って虚を突かれた感じで楽しめました。 最後はあまり好みではない「オチ」でしたが、この作品ならありでしょう。タイトルにも出てくるM博士の手術技術が、もはや超能力レベルに凄すぎるのも気になりましたが、一種の特殊設定と考えれば。 |
No.272 | 4点 | 柩の中の狂騒 菅原和也 |
(2019/05/16 11:53登録) 普通じゃない人が建てた、普通じゃない館がある絶海、とも言えない程度(携帯の電波が入る)の孤島に集った、いわくつきの人たち。 それはもう、お約束のように登場人物のひとりが死体で発見されて…… とまあ、そこまでは良かった(?)のですが、第一の死体発見以降、事件は悪い意味で予想外の舵を切ります。悪い意味というのは、いわゆる「ガチガチの孤島ミステリ」を期待していた読者にとってです。 謎も神秘もないバイオレンス&スプラッターなドタバタ劇を経て、最後は、みんなそう思っていたよ、というバレバレな推理結果に落ち着いて一件落着かと思ったら、今風のミステリっぽく再度反転などを見せてきます。 作者は昨今のミステリをよく研究したうえで、自分の得意種目との融合を目指したようですが、成功しているかは微妙なところです。 |
No.271 | 6点 | 扼殺のロンド 小島正樹 |
(2019/05/13 23:37登録) 非常に困ります。 ミステリに何を求めているかで、本作、ひいては作者に対する評価というのは大きく変わるのだろうと思います。 「これぞミステリ!」と大胆にして豪快なトリックの数々を、あくまで虚構の世界での遊戯として楽しむか、「ないわ!」とリアリティを置き去りにした荒唐無稽なトリックの数々に覚めるか、小島正樹ミステリを読んだ感想はどちらかに偏ると思います。 ただ、トリックの豪快さだけが語られがちですが、本作などは犯人の動機面や読者へのミスリードなど、物理面以外の部分も上手く構成されており、決して「バカトリック」だけが売りの作家ではありません。 あと、この作風から、師匠(?)の島田荘司とどうしても比べられてしまいますが、島荘にあってコージーにないもの、それはキャラクターの魅力です。これに関しては、まったく師匠の足下にも及んでいません。キャラクターを魅力的に描く力がないのに、探偵の海老原を御手洗のような、いわゆる「愛され変人探偵」に仕立て上げようとしてしまっているので、スベりまくっています。似てないモノマネを延々と披露されているような、読んでいて切なさを味わうほどです。そういったソフト面はもう割り切って、トリックや構成といったハード面にパラメーター全振りで書いてしまったほうがいいと思います。 |