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ミステリの祭典

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安楽探偵

作家 小林泰三
出版日2016年02月
平均点5.67点
書評数3人

No.3 5点 虫暮部
(2022/05/03 12:19登録)
 Lazy Detective ――どういうことだろう。明らかにこの連作短編のうち幾つかは、作中で示された真相とは別の真相が仄めかされている。しかし最終話に至ってもその “真の真相” が語られることはないままだ。
 確かに “読者に対して親切に書かないことが読者に対する親切” みたいな芸風の人ではあるが、一体何があったのだろうか。

 考えられる可能性は以下の通り。
 1.ものぐさな作者は最後まで説明するのが面倒になった。
 2.“真の真相” が某国の機密に関わっていた為、最終話を差し替えられた。
 3.この問題点への対処法によって読者を選別している。選ばれた読者は泰三の国へ迎え入れられ幸せに暮らせると言う。

No.2 6点 名探偵ジャパン
(2019/05/16 22:02登録)
ミステリというか、「奇妙な味の短編」的な話が詰まった怪作です。とはいえ、ラストでそれまでの話を総括する形の「連作短編集」のお手本のような作りは、紛れもない今風のミステリでしょう。
こういった連作短編集ものは、「ラストで読者を驚かせれば帳尻が合うだろう」とばかりに、最後以外は良く言えば正統派、悪く言えば平凡な話を並べるきらいがありますが、本作は各話独立させても十分に一本の短編として成立しうる、奇妙な話ばかりで楽しめました。

No.1 6点 メルカトル
(2017/09/24 22:18登録)
「先生」と呼ばれる私立探偵に、依頼人たちが一風変わった悩み事を持ち掛け、その場で探偵が解決するという異色の連作短編集。
ホラー出身の作者だけに、本格というよりブラックコメディ色の強い、ホラーに近い作品集となっています。勿論「先生」は理詰めで推理し解決に導くわけですが、その落としどころはほとんどが反転する形を採っています。つまり結末はほぼ想像の斜め上を行くので、意外性のあるものや予想外のラストが待っています。
しかし依頼者の持ち込む事件は、探偵よりも心理カウンセラーに行くべきなのでは?と思わせるようなものばかりなので、その意味では本格ミステリとは言い難く、先述したような異色な作品と言えると思います。
最終話の『モリアーティ』は毎度お馴染みの全短編を総括するような形式を採用しています。記述者の「わたし」がある事柄に疑問を抱き、「先生」を問い詰めるという対決姿勢を見せています。これがなかなか興味深く面白い趣向だと私は思いました。
どちらかというと地味な作品なので、多くの読者に忘れ去られがち、或いは気づいてもらえないようですが、内容的に物足りなさは感じるものの、一読の価値はあると思います。

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