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ミステリの祭典

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安楽探偵

作家 小林泰三
出版日2016年02月
平均点5.75点
書評数4人

No.4 6点 パメル
(2024/05/18 06:19登録)
依頼人の奇妙さを堪能できる6編からなる短編集。
「アイドルストーカー」アイドルの富士唯香が、マネージャーに狂気のストーカーについて相談する。マネージャーは、それぐらいでは警察は動いてくれないと難色を示す。その後、自宅に閉じこもる生活を続けることになったが。探偵は、あるシーンから真相を看破する。これは想像つきやすいと思ったが全然違った。思い込みの力に恐怖を感じる。
「消去法」中村瞳子は、自分には超能力があると語り始める。「消えろ」と口に出して言うと、その人物の存在が最初から無かったことになってしまうのだと。こんな大掛かりのことをやるなんて。オチは読みやすいブラックコメディ。
「ダイエット」戸山弾美は、何者かに太る薬を盛られていると訴える。一カ月、ほとんど何も食べていないのに、太り続けるのだと。このような叙述トリックは初めて。想像を超えていた。
「食材」持ち込んだ食材を調理してくれるというレストランで、娘が忽然と姿を消した。食事のシーンがグロテスクなホラーで、ひねくれた物話。誰もが想像しそうなオチでないところがいい。
「命の軽さ」伊達杏太郎は、NPOに給料の三カ月分を寄付したのだが、NPOがどんな金の使い方をしたのか調査し、詐欺に遭ったかもしれないと訴える。調査目的が要領を得ず、不気味さを助長している。
「モリアーティ」これまでの5つの事件の伏線の回収が楽しめる。探偵と助手、依頼人と読者の関係性に捻りを加え、連作集としている。
本書の探偵は、推理する者というよりカウンセラーに近い立ち位置であることが特徴。依頼人の妄想を否定せず、その論理に沿って謎を解決しようとするところが、普通の謎解きと違って面白い。

No.3 5点 虫暮部
(2022/05/03 12:19登録)
 Lazy Detective ――どういうことだろう。明らかにこの連作短編のうち幾つかは、作中で示された真相とは別の真相が仄めかされている。しかし最終話に至ってもその “真の真相” が語られることはないままだ。
 確かに “読者に対して親切に書かないことが読者に対する親切” みたいな芸風の人ではあるが、一体何があったのだろうか。

 考えられる可能性は以下の通り。
 1.ものぐさな作者は最後まで説明するのが面倒になった。
 2.“真の真相” が某国の機密に関わっていた為、最終話を差し替えられた。
 3.この問題点への対処法によって読者を選別している。選ばれた読者は泰三の国へ迎え入れられ幸せに暮らせると言う。

No.2 6点 名探偵ジャパン
(2019/05/16 22:02登録)
ミステリというか、「奇妙な味の短編」的な話が詰まった怪作です。とはいえ、ラストでそれまでの話を総括する形の「連作短編集」のお手本のような作りは、紛れもない今風のミステリでしょう。
こういった連作短編集ものは、「ラストで読者を驚かせれば帳尻が合うだろう」とばかりに、最後以外は良く言えば正統派、悪く言えば平凡な話を並べるきらいがありますが、本作は各話独立させても十分に一本の短編として成立しうる、奇妙な話ばかりで楽しめました。

No.1 6点 メルカトル
(2017/09/24 22:18登録)
「先生」と呼ばれる私立探偵に、依頼人たちが一風変わった悩み事を持ち掛け、その場で探偵が解決するという異色の連作短編集。
ホラー出身の作者だけに、本格というよりブラックコメディ色の強い、ホラーに近い作品集となっています。勿論「先生」は理詰めで推理し解決に導くわけですが、その落としどころはほとんどが反転する形を採っています。つまり結末はほぼ想像の斜め上を行くので、意外性のあるものや予想外のラストが待っています。
しかし依頼者の持ち込む事件は、探偵よりも心理カウンセラーに行くべきなのでは?と思わせるようなものばかりなので、その意味では本格ミステリとは言い難く、先述したような異色な作品と言えると思います。
最終話の『モリアーティ』は毎度お馴染みの全短編を総括するような形式を採用しています。記述者の「わたし」がある事柄に疑問を抱き、「先生」を問い詰めるという対決姿勢を見せています。これがなかなか興味深く面白い趣向だと私は思いました。
どちらかというと地味な作品なので、多くの読者に忘れ去られがち、或いは気づいてもらえないようですが、内容的に物足りなさは感じるものの、一読の価値はあると思います。

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