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ミステリの祭典

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超動く家にて

作家 宮内悠介
出版日2018年02月
平均点6.60点
書評数5人

No.5 7点 小原庄助
(2023/02/25 08:02登録)
マニ車を模した不思議な家で起こる殺人事件の謎を聞いたことのある名前の探偵が推理する表題作など、いずれも”馬鹿をやる”ことに真剣に取り組んだ十六編を収録している。
例えば「トランジスタ技術の圧縮」は、雑誌『トランジスタ技術』の広告ページを取り除き、収納しやすいように小さく圧縮する(トラ技圧縮コンテスト)という架空の競技の試合で対決する二人の物語だ。名前は梶原と坂田。どうしたって『あしたのジョー』の原作者・梶原一騎と、『王将』の主人公のモデルになった伝説の棋士・坂田三吉を連想してしまう。ストーリー展開は劇画的だが、協議の内容はマニア以外には無意味な作業という落差がたまらない。しかも作中では紙がデッドメディアと化していて、雑誌自体が簡単には手に入らないのだ。王者の坂田に挑戦することになった梶原は、困難な状況の中で圧縮技を磨く。一九八〇年代のカンフー映画で見たような老師も登場し、ノスタルジックな味わいのある一編。
くだらなさを極めるにあたって、懐かしいものにピントを合わせている作品が魅力的だ。「エターナル・レガシー」では、コンピュータ囲碁に敗北し意気消沈する棋士の家に、一九七〇年代に発表された8ビットのマイクロプロセッサ(Z80)を名乗る謎の男がやってくる。(Z80)は自分が開発されたところとは比べものにならないくらい進化したゲームで遊びつつ(おお、いい時代になったもんだな!)と喜ぶ。奇妙な同居人と付き合ううちに棋士の感情は変化していく。旧いものを終わったものとして切り捨てず、かといって懐古趣味にもとどまらない、広がりのある結末になっている。
どう読んでもいいと思わせてくれる楽しい本だ。宮内悠介はこういう作家だ、SFはこういうジャンルだというイメージも超動く。

No.4 7点 メルカトル
(2021/06/13 22:57登録)
雑誌『トランジスタ技術』を「圧縮」する謎競技をめぐる「トランジスタ技術の圧縮」、ヴァン・ダインの二十則が支配する世界で殺人を企てる男の話「法則」など全16編。日本SF大賞、吉川英治文学新人賞、三島由紀夫賞受賞、直木・芥川両賞の候補になるなど活躍めざましい著者による初の自選短編集。
『BOOK』データベースより。

最初の一篇を読んだ時、宮内悠介はやはりこうでなくてはと思いました。その流れるような筆致、真剣勝負に挑む者達の執念、これですよ。デビュー作を彷彿とさせる作品に嫌が上にも期待は高まりました。しかし、それ以降は次第にテンションは下がっていって、何だかなあと思い始めました。それでも中には、これは、と思う短編も含まれており、何とも言いようのないカオス感を生じる短編集だと感じ、読み終わってみれば総合点でまずは納得の出来でした。

『トランジスタ技術の圧縮』と『スモーク・オン・ザ・ウォーター』が8点。『超動く家にて』と『星間野球』が7点、それ以外が6点以下ですね。あとがきを読むにつれ、どうしても作者と読者の間には相容れない評価の格差があるのが否めないところです。個人的には何も感じない作品にも、生みの親にとっては思い入れがあったりとか。まあしかし、よく理解できない物がありつつもそれなりに楽しめたのは事実です。それでもこの人には、将棋でも麻雀でもポーカーでも何でも良いから勝負の世界を描いた作品集を心から望んでいます。

No.3 5点 名探偵ジャパン
(2019/07/08 08:48登録)
広く深い知識を持つ作者が軽妙な筆致で綴った知的ナンセンスユーモア短編集。などと書くといかにも分かってるっぽいのですが、正直なところ、私にはよく理解できませんでした(笑)
ここは笑ってもいいところなのかな? とか、ここで笑えないといけないのかな? とか、作者の顔色を窺いながら読んでいるようで、いまひとつ入っていけませんでした。

No.2 7点 糸色女少
(2018/06/24 11:38登録)
収録された16編は、いずれも律儀な筆致で書かれたバカバカしい作品で、その真面目くさったユーモアが素晴らしい。
例えば表題作は、出入り口の無い円筒形建築物で発生した殺人事件の謎に、探偵の「エラリイ」と「ルルウ」が挑むミステリ。定番の設定かと思いきや、この建築物は回転しながら、宇宙を飛んでいたことが分かってくる。おまけに乗組員がひとり増えていたり、人工知能(AI)が歌ったりと、ミステリやSFファンならニヤリとさせられるネタが満載。
全編を通じて伝わってくるのは風刺や批評ではなく、ただただ熱いナンセンス魂。知的興奮を味わいながら、大笑いすること間違いなし。

No.1 7点 虫暮部
(2018/03/29 12:51登録)
 ポストヒューマン系SFの旗手としてデビュー後、着々とフィールドを広げてきた著者が満を持して放つ“くだらない作品”集。実はミス研出身だそうで、ミステリ・ファン向けの与太話も幾つか含む。「エラリー・クイーン数」?

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