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ミステリの祭典

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ミステリーオタクさんの登録情報
平均点:6.97点 書評数:155件

プロフィール| 書評

No.155 4点 神の悪手
芦沢央
(2024/11/14 21:12登録)
 将棋をテーマにした5つの話を収録した短編集。作者は三十代女性。(失礼。まぁ許してくれ、後輩君)
 
 《弱い者》
 将棋の対局を通して大災害被災地での弱者の窮状を浮き彫りに。

 《神の悪手》
 シュールなオープニングも、割とありがちな途中のミステリ展開も悪くはないが、エンディングもそうエシカルにせずにもっとミステリにしてほしかった。タイトルからイメージされるようなスケールの大きさがあるわけでもないし。

 《ミイラ》
 人間社会のルールの根源に関する考察を提示したのだろうが、これはある程度以上将棋、特に詰将棋を理解していないと作者の出したかったテイストが十分には伝わらないだろう。まぁ伝わったところで大して面白いとも思えないが。

 《盤上の糸》
 本作の大半を占める対局シーンはやたらと抽象的な描写が多く何を言っているのか、何を言いたいのかよく分からなかった。

 《恩返し》
 最終話は将棋の駒を作る駒師の体験、視点を通しての勝負の物語。どの世界にもある優劣、葛藤、成長、師匠越え、悟りなどについて語られる。


 全て将棋を媒体にしてのヒューマンドラマだが、将棋をモチーフにすることへの拘りが強すぎて個人的にはいつもの「芦沢ショートミステリ」の妙味があまり感じられなかった。しかし作者自身そんなことは百も承知で「面白いミステリ」を犠牲にしてでも挑んでみたかった新境地だったのだろう。

 ところで文庫の帯にコメントを寄せている羽生さん、ホントに読んだんですか?


No.154 4点 家族パズル
黒田研二
(2024/10/24 20:26登録)
 ヒッサビサに手に取ってみたクロケン著作(Killer X 四部作とか懐かしいっ)。もう作風とかも大部忘れてしまっているし、多分短編集は初めて。 尚自分が手にしたのは改題後の「神様の思惑」の方。

 《はだしの親父》
 うん、コレ系ね・・・悪くはないけれどコレ系としてはまぁ普通かな。

 《神様の思惑》
 う~ん、どうやらこの短編集はコレ系でまとめてくるらしいな。好きな人には好短編集になるだろうが、自分はコレ系を連続して読まされるのはチョッとねー。

 《タトゥの伝言》
 前二作よりはドロ味があるが展開の必然性は乏しい気がする。

 《我が家の序列》
 ミステリとしてのそれなりのネタはあるが、何と言うかまぁワンピース・・なんてね。これも悪くはない。

 《言葉の亡霊》
 二つの時系列で進み少し混乱させられ気味になるところもあるが、巧みに仕立てられたファミリーミステリ。


 くどくて申し訳ないが全編「悪くない」5話からなる短編集。幅広い読者層にオススメできると思うが、もし自分が読む前に「こういう短編集」だと知っていたら手を着けなかったかもしれない。

 (以下未読の人は読まない方がいいと思われる感想)
 
 表題作以外は家族愛をテーマにした「感動するでしょ」系ミステリ。表題作も家族愛ではないが「神様のような御慈悲に感動すべき」ミステリ。
 決してバカにしているわけではない。
 端的に言うと作りが全体的に童話的、つまり子供向けの寓話集のような印象を個人的には受けたということ。大人が読んでもそこそこ楽しめるとは思うが社会に擦れた層がコレにどれだけ感動するかは甚だ疑問。
 要するに「大人のスパイス」がギンギンに効いているミステリが大好きな自分にはイマイチだったというだけの話。


No.153 5点 11文字の檻
青崎有吾
(2024/10/10 20:40登録)
 この作者のデビュー10年目にしての初の短編集・・・・かな。
 
 《加速してゆく》
 あれからもう19年も経つのか・・・
 ルポルタージュ風の社会派かと思いきや・・・

 《噤ヶ森の硝子邸》
 不可解極まる密室殺人だか・・・超△△ミス。全員△△か●●か。

 《前髪は空を向いている》
 何かあるのかと思ったが・・・

 
 ここからの3編は掌編になる

  《your name》
 これは何かのアンソロジーで読んだことがあった。
 さほどの鋭さは感じられないが悪くはない。
 
 《飽くまで》
 前作以上に凡庸。
 
《クレープまでは終わらせない》
 この人は掌編には向いていないと思う。


 再び中短編へ

 《恋澤姉妹》
 「生きる伝説を追う冒険物語」は嫌いではないがこれはチョッと人間離れし過ぎ。殆ど超人バトルアニメの世界。

 《11文字の檻》
 帯にはこの表題作に対するミステリ作家達の絶賛コメントが並んでいるが・・・自分にはそこまでの高評価が理解できなかった。解答に至る必然性もよく分からなかった。


 アンソロジーだと言われても微塵も疑いそうにないノンシリーズ作品集だが正直半年もしたら殆ど忘れていそう。まぁ「噤ヶ森」と「恋澤」は記憶に残るかな。


No.152 7点 あと十五秒で死ぬ
榊林銘
(2024/09/12 21:34登録)
 多かれ少なかれ「十五秒」が関わる4つの話からなる中短編集。

 《十五秒》
 非常によく構成された話だとは思うが、技巧に走りすぎたせいで「十五秒後に死ぬ」というテーマの割にはスリルやサスペンス感が少し薄まってしまっているようにも感じた。
 また主人公の業務内容は現実にはあり得ない。(まぁ、この話そのものが全くの非現実設定だから余計なお世話か)
 
 《このあと衝撃の結末が》
 これも凝りに凝ったミステリで、作中ドラマで時空を行ったり来たりするのでついていくのに少々疲れる。

 《不眠症》
 「不思議な感じ」で話が展開していくが前二作に比べると遥かに読みやすく、また何とも言えない余韻を残す。

 《首が取れても死なない僕らの首無殺人事件》
 読む前は何を言っているのかサッパリ分からないタイトルだが、これまたムチャクチャな非現実設定の「本格」ミステリ。
 主人公たちが共同行動を始めた辺りは本当に気持ち悪かったが、いつの間にか慣れて、延々と繰り返すような展開に「飽き」も感じた。また、トリックや動機はあまりスッキリしないし、尋常ならざることこの上ない設定をベースにした緻密極まる推理過程を自分が完全に理解したかも疑わしいが、読後は「読んでよかった」と思える作品だった。
 
 
 全く類似性のない世にもエキセントリックな発想を4つも展開させる本書は特殊設定の短編集としては極北に位置すると言えるのではないだろうか。


No.151 6点 汚れた手をそこで拭かない
芦沢央
(2024/08/22 22:02登録)
 短編集なのに本のタイトルがどの収録作品名でもなく「・・・集」でもない禍々しいフレーズのちょっと風変わりな体裁のサスペンス集。

 《ただ、運が悪かっただけ》
 運命論などの考察を含めて中身の濃い話だとは思うが、面白かったかと訊かれれば個人的にはチョットね・・・

 《埋め合わせ》
 倒叙物とも言える焦燥型サスペンスで捻り方も悪くないけど、最後の「嵌め込み」はあまりシックリ来ない。

 《忘却》
 物忘れと罪悪感、そして電気の問題。これも辻褄合わせが面白いと言えば面白い。

 《お蔵入り》
 このタイトルはダブル・ミーニングかな。そんな使い方はないか。

 《ミモザ》
 ある再会からの淡い焼け木杭的なストーリーかと思いきや予想外の展開へ・・・
 最後のドタバタは古い漫画チックながらなかなか面白かったが「締め」は・・・何とも言えず。


 帯の「もうやめて」という文言から相当のイヤミス短編集かとワクワクして読み始めたが、期待が大きかったためか全体的に薄味のイヤミスに感じられたのは少し残念。ただどの話も纏まりの良さとリーダビリティの高さは短編の名手(と言われている?)に相応しいクオリティだったと思う。


No.150 7点 「本当の自分」殺人事件
水木三甫
(2024/08/03 21:25登録)
 帯に「ショートミステリーの新鋭」と称されている作者の6編からなる短編集。

 《のぞみの結末》
 複数の男女が入り塗れたドロドロの愛憎劇と巧妙な策略。そしてその結末・・・・幸せになったのは・・・

 《時間にまつわる物語》
 8つの掌編で構成された作品。
 始めの話を読んだ時にはその内容のなさに呆れたが、次の話に入って「繋がっている掌編集」であると知る。たわいもないファンタジーだが、子供の頃自宅にあった稲垣足穂という作家の「一千一秒物語」というファンタジー掌編集をふと思い出した。(必死に考えてやっとタイトルと作者名を思い出した!)

 《雲を描く男》
 この作者は本当にどんな話を書いてくるのか分からない。この話もどこへ行くのかと思えば・・・ソチラか・・
 伏線が凄いといえばスゴい。

 《不運な殺人者》
 ツカミはなかなか魅力的で展開も悪くないが、一体何があるのだろうと期待させられながら結末は割りとありがち。

 《未来から来た男》
 シビアな騙し合いだが・・・・ん?最後は一体・・・

 《「本当の自分」殺人事件》
 これもなかなか面白い連続殺人事件が提示されるが、真相というか動機はあまり唸らされるような物ではなかったかな。
 

 初読みの作家だったが、淡々としてドライでありながら内容の濃い文体で読者を予想のつかない流れへ導く、ミステリファンならワクワクしながら読める短編集ではないかと感じた。
 特に細切れ読みが多い自分には一つ一つの話が短編としても比較的短く、また各作品の中でも章分けが細かい、というか区切りが多いのも嬉しかった。
 まだ短編集を二冊出しただけの作家のようだが、好みに合っている気がするので今後に期待したい。(と思って少し調べたら新鋭という割には、余計なお世話ながらなかなかのお歳で・・)


No.149 7点 夫の骨
矢樹純
(2024/07/30 22:12登録)
 うゎ、またしてもやってしまった・・・・自室の、気の向くままにネットで買い溜めしてきた文庫本の山の中に本書が2冊・・・
 まぁ、しょうがない。気を取り直して気になっていたこの短編集に取っ掛かる。


 《夫の骨》
 この作者らしい曲者ぶりがよく出ている。

 《朽ちない花》
 途中かなり面白い話になりそうな流れを感じたが、終わってみれば個人的にはそこまでは盛り上がらなかったかな。

 《柔らかな背》
 昨今時々見られる○○○を使ったミステリだが、その類いとしては、まぁ普通かな。

 《ひずんだ鏡》
 前作に続いてソッチ系が絡むが、主人公の心理葛藤や予想外の展開は深刻な話のようでもあり喜劇のようでもある。

 《絵馬の赦し》
 これは・・・・・う~ん・・・・
  母親とは何か。

 《虚ろの檻》
 前作までウェットな家族の問題ばかりの作品がここで一変して突然ワイルドな話に。(以前に読んだこの作者の短編集「妻は忘れない」でも似たような変異パターンがあった)
 漫画原作家でもある作者の一面とも言えるのかも。

 《鼠の家》
 再び湿った家族物に戻るが、作者らしい捻りが効いているなかなかのサスペンス。

 《ダムの底》
 この作者にしては珍しい(?)男目線で語られるファミリーストーリー。更に珍しく折原張りの「騙し」が使われている。
 
 《かけがいのないあなた》
 最終作は・・・・そう纏めてきたか・・・
 

 この人の文章はとてもよみやすいが、他の方も指摘しているように時々突然時系列がジグザグして混乱させられることがある。それでも気にせず読み進めていけば見えてくるようになっているので慣れればさほどの支障にはならない。というか故意の所作である気がしなくもない。
 それはともかく個人的には、あまり明るくない作品に混じっての意外なグッドエンドの○編の読後感がとてもよかった。


No.148 5点 緋色の残響
長岡弘樹
(2024/07/04 21:03登録)
 数多くある作者の短編集のうちの1冊。自分が読んだのは多分これが2冊目だと思うが、なぜ本書を買った(大部前)のかはよく覚えていない。
 未亡人の刑事とその娘の中学生が主人公の連作短編集。


 《黒い遺品》
 今時こんな、対立し合う複数の「不良グループ」なんてあるのかねえ。平成の後半ぐらいまでには絶滅したのかと思ってた。
 それはともかく、いくつかの小ネタも含めて、小ざっぱり纏まったショートミステリになっている。悪くない。

 《翳った水槽》
 今時、家庭訪問なんてしている学校があるのかあ。前時代のうちに全面廃止になったのかと思ってた。
 それはともかく、犯人は出てきた瞬間に丸分かりだが、この話は犯人自明の上での「犯人落とし」を描いている。しかしコレで決定的に落ちるというのはあまりにも無理が大きい。仮に犯人に「その知識」があったとしても、これで「参りました」と平伏す必要性は全くない。自供さえしなければ何の証拠もない。かなり苦しい作品。

 《緋色の残響》 
 この話の始めの方で、この短編集の舞台が実は刊行された年時より二十年位前であることが初めて明記される。全く気づかなかった。前2話の感想の冒頭で不適当なコメントを記してしまったが、作者の悪戯心も少し感じた。でも、この頃にエピペンが一般普及していただろうか?  ちょっと時代考証が甘いような気もする。(間違ってたらゴメンナサイ)
 ミステリとしては何ということもない流れながら、事後に気づかされる「付加的真相」・・・これはいくら何でも・・・これじゃ殆どオカルトだ・・

 《暗い聖域》
 いろいろな「読心術」が出てくるが、殆ど机上の理屈っぽいものばかりで現実的に有効性が高いとはとても思えない。それにメインの「落とし」も、うまくいきすぎ感タップリ。着眼点は面白い話だが、ミステリとしてはどうだろう。

 《無色のサファイア》
 結末前までは不自然感満載だったが、そう纏めてきたか。現実味などどうでもいい。


 う~ん、何て言うのかな~、ミステリとして評価すると感心できる話はあまり多くなかった気もするが、ミステリに拘泥せず普段なかなかできないいろいろな「思いつき」や「蘊蓄」を「なるほど」とか「へー、そんなこともあるんだ」という姿勢で読めれば「面白い読み物」と言えると思う。 とにかく読みやすいし。

 また、作者名を知らずに読んだら、作者が女性であることを微塵も疑わせないだけの女性目線を演じる筆力は流石。


No.147 7点 追想五断章
米澤穂信
(2024/06/20 22:19登録)
 古書店アルバイトの主人公がある人からの依頼により、ある故人が書いた、同人誌などで少数の人にしか読まれていない昔の5つの掌編小説を探し回っていく話だが、小説はいずれも「リドルストーリー+切り離された1行の解答」になっているのが何ともユニーク。
 主人公は探し求めるうちに依頼の枠を越えて、作者の人生、人間性、重大な疑惑と関連した作品群の意図と家族との繋がりにまでも踏み込んでいく。
 
 特段に感心したところはなかったが奥が深く、良し悪しはともかく綺麗に纏まったヒューマンミステリだと感じた。


No.146 7点 妻は忘れない
矢樹純
(2024/06/07 20:35登録)
 漫画家出身という作者のサスペンス中心の短編集。

 《妻は忘れない》
 こういう話は全く前情報なしで読まないと興趣が激減する。
 シビアな男女サスペンス、とだけ書いておくが最もシビアな「告白」にはつい笑ってしまった。

 《無垢なる手》
 日常を舞台にしたジワジワ系のストーリーだが、ちょっと無理が大きい。そういう経過になることはまずあり得ない。だがそれだけで終わらないエンディングは流石。

 《裂けた繭》
 前二作とはまるで異なる作風の作品で、ちょっと白井系で驚かされる。
 たまに見られるトリックが少し騙し度を上げて使われるが、これはあまり効果的とは思えなかった。それにもっと早く○○できたはず。

 《百舌鳥の家》
 日常・・・というか平凡な家族の奥に潜む慄きらしきものが段階的に露呈されてくるがイマイチしっくり来ない。話も何か散乱している。

 《戻り梅雨》
 最終作は・・・うーん、そうきたか。


 以上全5編。
 この作者の本を読むのは初めてだが、かなりの曲者であることは間違いなさそうだ。盲点の突き方がエグいし、多彩な珍球を投げてくるタイプらしい。各話とも最後までハッピーエンドかそうでないのか分からないのもいい(当サイトに限ったことではないが時々ミステリの感想欄に「いい話だった」などと書かれていることがあるが、それってネタバレになることも多いよね)。
 
 何はともあれ機会があったら他の作品も是非読んでみたい。


No.145 5点 ランチ探偵
水生大海
(2024/05/22 21:35登録)
 グルメに彩られたランチ合コンが舞台の安楽椅子ミステリ短編集。

 《MENU   0》
 ホームズとワトソンの出会い以来、ミステリ小説において無数に繰り返されてきた、観察と推理により相手の状況を言い当てる1シーン。何で今時(と言っても10年前)、という感じだし、大して感心する内容でもない。
 まぁ、二人の主人公の名刺代わりのイントロダクションといったところだろう。

 《MENU   1 アラビアータのような刺激を》
 あまり面白くない話かと思わせられてからなかなか捻りがある展開を見せるが、この真相解明は推理というより殆ど超能力か霊視だろう。

 《MENU 2 金曜日の美女はお弁当がお好き》
 一生懸命〇〇話にしているのは分かるが、何かピンボケ気味で空回りの印象。

 《MENU 3 午後二時すぎのスーパーヒーロー》
 狙いは古典的で悪くないが、結局小振りでチマチマした話になってしまっている。

 《MENU 4 帝王は地球に優しい》
 前半三作のややややこしいストーリーに比べればシンプルな構成の話だが、恐ろしくマニアックな謎が提示される。
 これを解決編前に見抜ける読者はまず皆無だろう。

 《MENU 5 窓の向こうの動物園》
 これも提示される謎が非常に魅力的だが、その意味深に思わせられる度合いに対して、真相は「そんなもんか」という程度。前作の印象が強烈だっただけに自然と期待してしまっていたが・・・残念。話自体は悪くないが。
 
《MENU 6 ダイヤモンドは永遠に》
 最終話らしいタイトルで、これも期待させられるが・・・まぁ、こんなもんかな。

 
 以上全6(+1)話。
 第1話の感想で述べた通り、他の話も殆ど論理的に推理する探偵話というより、神がかった閃きで解決する話でミステリとしてはどうかとも思うが、とにかく軽くて読みやすい。
 非日常系と日常系のストーリーが混在していて飽きも来ない。
 月並みな形容だが、いつでもどこでも気軽に読める短編集としてはオススメ。


No.144 6点 少女を殺す100の方法
白井智之
(2024/05/11 14:39登録)
 作者の第1短編集・・・かな?

《少女教室》
 あれだけの殺戮をやってのけた動機とグイグイ練り上げるロジックが素晴らしい。ただあんな単純なトリックが通用するのかと思いきや・・・
 ありえない経歴や、ありえない松葉杖使用・・・
 そんな末節はともかくトータルとしてよくできていると思う。

《少女ミキサー》
 冷酷極まりない超ソリッドなクローズド・デスゲーム。正直好みのシチュエーション。
 この作者らしく汚物や血塗れの臓物まみれの物語だが、展開は思った程コンクな物ではなかった。(人数が一人多いのでは?、それがキーポイントの一つか?、とも思ったが関係なかったようだ)

《「少女」殺人事件》
 ふざけた作中作ミステリ。ノックスの十戒への揶揄か?

《少女ビデオ 公開版》
 再び汚物、吐瀉物、大腸、残虐創傷まみれの白井ワールド炸裂の話だが、主人公が少女達をどう処理していたのか、なぜ猿を食わせなくてはならないのか、なぜ子供を産ませてはいけないのか、などよく分からないことも多い。
 ただ、珍しくわずかばかりの感傷がないこともなかった。

《少女が町に降ってくる》
 これは白井作品にしてはエログロが抑えられ、民話テイストを塗した荒唐無稽な特殊設定のミステリ。トリックや推理や真相はゴチャゴチャしているが面白いネタもいくつかあった。


 以上本編5編。ここまでで少女が100人ぐらい死んだだろうか。


 以下、文庫特別収録掌編

〈ヴィレッジヴァンガードで少女を殺す方法〉
 行ったことがないのでよくわからない。

〈ときわ書房で少女を殺す方法〉
 まぁ、短いからいいだろう。

〈下狢書店で少女を殺す方法〉
 最終作だから少しだけ期待したが正直面白くない。

 オマケの3編は殆ど「ルーフォック・オルメスの冒険」だな。

 
 この作者は「鬼畜系特殊設定パズラー」などと称されることもあるようだが、驚くほど細密なロジックを展開してみせることもあり、個人的には「エログロを頻用する摩耶雄嵩」という印象も抱いた。 


No.143 6点 お前の彼女は二階で茹で死に
白井智之
(2024/04/17 21:22登録)
 鬼畜系とかエログロ炸裂とか形容される作風でマニアックなファンも多いという作者の短編集。怖いもの見たさで手に取ってみる。

《ミミズ人間はタンクで共食い》
 始めの5ページぐらい読んだところでやめようかとも思った(以前は合わないと感じたら早々に放り出すことも度々あった)が、数年前から一度読み始めた本は意地でも完読するという方針を自分に課しているので、自信喪失に陥らないために、また帯の乾くるみ氏の言葉も「全くのウソではないだろう」と信じて何とかしがみつき続ける。しかし尋常ではないキモさ(エログロなどという芸術的用語は相応しくない)の上のややこしくてムチャクチャな展開にはホトホト悪酔いさせられる。

《アブラ人間は樹海で生け捕り》 
 前作よりは、ムリヤリ鏤められたピースを強引に嵌めていくというパズラーとして、まだ読める代物にはなっているが桁外れのキモさは相変わらず。これが最後まで続くかと思うと・・・苦行以外の何物でもない。

《トカゲ人間は旅館で首無し》
 幸い前2作に比べるとキモ度はやや控え目にはなっているが、やはり爛れた皮膚を剥がしたり、膿でくっつけたりなどの想像しにくい(したくもない)作業描写が多い上に、やはり推理展開もややこしい。
 しかし終盤の残虐極まる壊滅は結構笑えてしまった。なるほど消化・排泄系や膿汁・粘液系はダメでもコッチ系は割りと好きだったな、と忘れていた自分のキュートな一面を久々に思い出させられた。
 また前2作とは異なり、好みではない多重解決ではないのもよかった。皮膚科医の名前がゲンタというのも受けた。

《水腫れ猿は皆殺し》
 更にキモ度は抑えられてホッとするが、ムチャクチャ度は相変わらず。ただ前3話のファクターを取り入れたり、またストーリー的にも一応本短編集のマトメのつもりのようだ。

《後始末》
 あってもいいけどなくてもよかったかな。

 
 人の嗜好は様々だからこういう風味の小説を好む人がいることも理解できるし、本書の各作品がキモ塗れながら特殊設定においてそれなりに緻密なロジックを張っていることも評価できる。が、生理的に合うか合わないかはどうしようもない。恐らく自分がこの作者の他の作品を手にすることは当分ないだろう。


No.142 7点 孤島の来訪者
方丈貴恵
(2024/03/19 20:49登録)
 始めの見取り図などからはガチガチの本格かと思って読み進めると、いやはや何とも・・・・まぁ特殊設定での本格と言えるのかもしれないが。
「黒猫」の話はしばらくは冗談かと思っていた。

 それに例のマレ、いやアレはこのミステリを成立させるため、トリックを創案するために余りにも技巧的過ぎる造りになっているが、これは特殊設定のミステリなら当然であり、そのムリヤリをいかにロジックに繋げるかが評価のポイントにもなるだろう。
しかし「○○のフリをする」というのは如何なものだろうか。「設定」の範疇に入っていると言われれば、そうかな~と思いながらも否定しきれないが・・・これをやられると何でもアリに近い印象が滲んでくる。

 また最後の「決め手」は古いしショボい。
つーか、そもそもどんなに寝呆けていても持ちにくいワインボトルを持ったままトイレに行く奴なんているか? 「決め手」を演出するための余りにも稚拙なムリヤリの極み。

 まぁ他にもいろいろ言いたいことはあるが、何はともあれ「世にも異様な殺人物語」として読んでいる間は楽しめた。


No.141 8点 殺人犯 対 殺人鬼
早坂吝
(2024/02/06 22:37登録)
 孤島の養護施設の子供達だけからなるクローズドサークル物。

 禍々しいタイトル自体も仕掛けの一片になっている大いなる騙しを秘めたミステリと言えよう。

 殺人鬼Xに関する事情はあまりにも荒唐無稽だが、あそこまで整合性を持って組み立てられてしまうと文句の出しようもない。その他の部分のロジックの緻密性も高く、またカーを彷彿させるトリックもあったりして正にミステリ要素満載。

 解決編では「ん、超アンフェアではないか?」と思った所もあってパラパラと捲り直してみたが、ギリギリうまくフェアに騙していて改めて感心した。

 好き嫌いは分かれるだろうが、ミステリファンなら一読してみる価値はあると言っていい作品ではないかと思う。
 


No.140 7点 復讐は合法的に
三日市零
(2023/12/21 22:01登録)
 昨年の「このミス」大賞の最終候補にまで残ったという4話からなる短編集。

《女神と負け犬》
 本書のタイトルとカバーからドロドロした内容を予想していたが、意外にもライトタッチな文調で実に読みやすい。第一話からなかなか痛快。

《副業》
 結局どうなる?という感は残ったものの巧みな展開に引き込まれて読み止まらず。

《潜入》
 目新しいトリックではないが、たまに(何年かに一度ぐらい)こういうのを作りのいい短編で読むのは悪くない。

《同類》
 IT関連の話はよく解らないところもあったが(ていうか全部理解できるのはかなりマニアックな人だけでは?)強力な敵との戦いのストーリーは十分楽しめた。
 

 ミステリとして図抜けたものはなかったかもしれないが、物語の構成力、そして文章そのものにも女性作家のデビュー作とは思えない程の完成度の高さを感じた。(「いい」が全て「良い」と書かれているのには少し引っ掛かったが)
 月並みな誉め言葉だが「今後が楽しみ」。

 さて、来年3月に綾辻行人の「十角館の殺人」が実写映像化されることが決まり、関連サイトではファン達の「一体どうやって?」という声で騒然としているが、それ以上に実写化が難しいのが本短編集ではないかと思う。何しろ主人公を演じられる俳優が存在するだろうか。(「宝塚」とかにならいるかな?)


No.139 7点 レモンと殺人鬼
くわがきあゆ
(2023/11/30 18:12登録)
 なるほど、これが例の昨年の「このミス」大賞・文庫部門のグランプリ受賞作の改題版ですか。

 宣伝文や何となく見てしまっていたレビューなどの前情報から想像していたほどの派手さは感じられなかったが、終盤の薄っぺらい怒涛の展開は理屈抜きで純なエンターテインメントとしてシンプルに楽しめた。

 しかしエンディングはどう捕らえるべきだろうか。


No.138 6点 世界でいちばん透きとおった物語
杉井光
(2023/10/19 17:05登録)
 やはり未読の人は以下読まない方がいいでしょうね。


 「透きとおった」の意味は説明されるまで解らなかったが、自分の読書は(残念なことに)細切れになることが多いのでその都合上、仕掛けの一端には割りと早い段階で気がついた。ただそれが何を意味するのか、ただの作風なのかは、やはり前述の説明があるまで見抜けなかったが。
 そんな面倒なことをする理由づけとなるミステリ要素に関して、ホントにそんな事象があるのかも分からないが仕立てぶりは悪くないと思う。

 まぁアイデア賞+努力賞だが、こういう外枠で勝負する作品は本書で最後にしてほしい。
 ミステリはやはりミステリとしての内容を堪能したい。

 しかし新潮社のCMも酷い。「ネタバレ絶対厳禁!」と書いた隣にあんな文言を入れるとは。まあ某社も同様だった気がするが。

 本作の仕掛けとその意味が途中で分かったという人がいるけど、このサイトには恐ろしく高度な医学知識を持っている人がいるんだね。


No.137 7点 六人の嘘つきな大学生
浅倉秋成
(2023/09/22 21:12登録)
 う~ん、タイトルや簡単な紹介文からは、もっとゲーム色の濃いエゴイスティックな騙し合いみたいな内容を想像していたが・・・・確かに前半の荒唐無稽なグループ・ディスカッションではそういうテイストがそれなりに出ていたが、ホントに勝とうと思ったらあんなマトモな投票の仕方はしないだろう。
 それ以外の部分や後半に入ってからもいろいろとミステリ要素がちりばめられていたが、あくまでも散りばめられていて何か統合性に欠ける感が否めなかった。
 また登場人物達に語らせる「就活」や「採用」に関する延々と続く持論の展開、引いては人間性にまで関する膨大な考察や関係者達へのインタビュー・・・そして最後は「実はみんな○○人でした」で終わるのかと思ったが流石にそこまでクサくはしなかったね。

 作者としては「ミステリ+社会派ヒューマンドラマ」のつもりで書いたのだろうが、冒頭に記したようなコテコテのミステリを期待した自分としてはもうチョッと・・・・
 それにあそこまで手の込んだことをやる、あの「動機」に納得できた読者が一人でもいるのだろうか。就活惨敗組にはいるかもw


No.136 6点 忌名の如き贄るもの
三津田信三
(2023/09/02 23:03登録)
 忌名の儀礼はともかくとして、それ以外の民俗学や怪異伝承などの蘊蓄がとにかく多い。本筋に関係してくるものなら止むを得ないが、その9割方は無関係だった。特に葬儀から野辺送りの準備や執り行われの手順やそれぞれを担当する人々の役名やらその説明、使われたり置かれたりする多大な品物の名前や使用法、そして「送り」中の人や物の配置や進行の仕方の細かい描写などには流石にウンザリして読み飛ばした。こういう話に関心が高い人にとっては嬉しいオマケ(大マケ)の数々なのだろうが。

 ミステリとしてもシンプルな内容の割には自分にはダラダラした印象が拭えなかったし、解決編の二転三転は悪くなかったが、あのトリックには合点が行かない。あまりにもリスクが大きい。くっついたままかもしれない(そもそも眼を刺して生命を奪うためには先端が脳幹に達する必要がある)し、そうでなくとも思い通りにならない確率の方が高いと思う。個人的にはココが最大のマイナス・ポイント。

 確かに動機を含めた真相の「意外性」に関しては、非常に高い評価に値すると思うが、じゃあこれほど意外性の高いミステリは他にはないかと問われれば、「そんなことはない」という話になってしまう。

 力作であることは認めるが、一部で見られた「首無以上」という称賛は自分には理解できなかった。
 個人的には、首無>山魔>忌名
 まぁ好みの問題としか言いようがない。

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