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ミステリの祭典

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蟬かえる
魞沢泉シリーズ

作家 櫻田智也
出版日2020年07月
平均点7.00点
書評数9人

No.9 7点 ぷちレコード
(2024/03/04 22:18登録)
幻想的ともいえるほどの不思議な謎が、鮮やかに解明されていく5編からなる連作短編集。
一話ごとに本格短編としての工夫があって、精度の高い謎解きが関係者の人生と社会の歪みを閃光のように照らし出す。さらに連作短編集としての配列が秀逸で、特に後半の三編を通じて魞沢泉という狂言回し的な探偵役の生き方が徐々に浮き彫りになり、最終話の結末が巻頭の災害ボランティア仲間の挿話に呼応する構成に感銘を受けた。
少し強引と思えるトリックも、登場人物たちの気持ちや事情が丁寧に描かれていることによって、無理なく読み進められた。ストーリーの構築と人間ドラマが見事に融合している。

No.8 7点 パメル
(2022/06/14 07:58登録)
とぼけた感じの昆虫好きの青年・魞沢が一度事件に遭遇すると、たちまち鋭い推理力を発揮する5編からなる連作短編集。
災害ボランティアの青年が目撃したのは、行方不明の少女の幽霊だったのか。魞沢が意外な真相を語る表題作「蝉かえる」。交差点での交通事故と団地で起きた負傷事件。それらのつながりを解き明かす「コマチグモ」。大自然のペンションを訪れた外人の不審死をめぐる「彼方の甲虫」、失踪したライターを探していく過程で明らかになるホタルの謎と、静かな感動を呼ぶ「ホタル計画」、帰国した友人を訪れた探偵がその挙措から潜行する計画を喝破する「サブラサハラの蠅」。と、何が起こっていたのかわからない不思議な事件が5つ起こる。誰も事件の全容がつかめない中、魞沢だけは些細な手掛かりから真実にたどり着くその鮮やかさには目を見張る。
物理的事象や謎の様態のメカニズムを人間心理の解析によって明かしていき、隠された登場人物の背景を間接的な描写によって見せていくところが素晴らしい。
彼が解く事件の真相は、いつも人間の悲しみや愛おしさを秘めている。犯人や事件関係者が抱える切実について、魞沢は優しい眼差しを忘れない。推理の後に彼が語る言葉のひとつひとつには胸を打たれる。
本作では、なぜそのような優しい探偵になったのかを描いたエピソードも収録されており、魞沢の過去を知った時、彼に対する愛おしさが増すことでしょう。派手な事件はなくとも、巧みな構成と文体によって描かれる物語は、泡坂妻夫ファンはもちろんのこと、多くのミステリファンに楽しめる一冊といえるのではないか。

No.7 5点 虫暮部
(2021/05/09 10:46登録)
 能力のある人が能力通りのものを書いた、との印象。いや、それは全然悪いことじゃないよ。作者の狙いはそれなりに読み取れたと思う。その狙いは充分に小説として具現化されていると思う。ただ、出来の良さに感心はしたが、心はそこまで弾まなかった。なんかもう一つ欲しいな~。虫のネタは色々面白かったけれども。

No.6 7点 メルカトル
(2021/01/19 22:25登録)
ブラウン神父、亜愛一郎に続く、“とぼけた切れ者”名探偵である、昆虫好きの青年・〓沢泉。彼が解く事件の真相は、いつだって人間の悲しみや愛おしさを秘めていた―。十六年前、災害ボランティアの青年が目撃したのは、行方不明の少女の幽霊だったのか?〓沢が意外な真相を語る「〓かえる」。交差点での交通事故と団地で起きた負傷事件のつながりを解き明かす、第七十三回日本推理作家協会賞候補作「コマチグモ」など五編を収録。注目の若手実力派・ミステリーズ!新人賞作家が贈る、絶賛を浴びた『サーチライトと誘蛾灯』に続く連作集第二弾。
『BOOK』データベースより。

この作者の文章は決して上手ではないと思います。しかし、文中から良心や真摯さは伝わってきます。そして何より昆虫が事件の中枢に絡んでくる辺りは評価できる点ではないかと思います。
ブラウン神父にも亜愛一郎にも思い入れはありませんので、彼らと比較して魞沢がどうという感慨はありません。まああまりくどくない個性、比較的淡々として掴みどころがない感じはします。それ程目立たず作中にうまく溶け込んでいるので、存在感が強すぎて浮いている訳ではないですね。

五編からなる連作短編集ですが、どれが秀でている事もなく、平均して面白く粒揃いと言えます。個人的には最終話の『サブサハラの蝿』が捻りがないながらもストレートで、探偵が最も活躍しているので気に入っています。ミステリとしては一番弱いかも知れません、しかしツェツェバエの生態なども興味深く読めました。表題作や『彼方の甲虫』も良かったですね。他も悪くはないですが、抜きん出て凄いというのはないです。

No.5 8点 sophia
(2021/01/18 17:08登録)
●蝉かえる 9点・・・モチーフは2016年の熊本地震ですかね。
●コマチグモ 7点・・・よく出来た時系列パズル。
●彼方の甲虫 8点・・・架空の宗教の設定が上手い。
●ホタル計画 8点・・・そいつの方ですか(笑)
●サブサハラの蠅 7点・・・メイントリックはそう目新しいものではないですけども。

前作を超える粒ぞろいの作品群。表題作は殊に抜きん出ています。土地の信仰や風習、災害ボランティア活動の在り方など様々な要素が絡み合って謎を作り、ドラマを作っています。他四作も良かったのですが、最初の話が良すぎたというのはあるかもしれません。亜愛一郎とは違い魞沢には自我の描写が増えてきましたが、今後このシリーズをどう展開させていくのか楽しみです。

No.4 7点 HORNET
(2020/12/30 20:29登録)
 昆虫マニアのおとぼけ探偵・魞沢泉が活躍する、「サーチライトと誘蛾灯」に続く連作短編集第二弾。災害ボランティアの青年が16年前に体験した不思議な出来事の謎を解くタイトル作。交差点での交通事故と団地で起きた負傷事件のつながりを解き明かす、「コマチグモ」など五編。
 脱力系の筆致でありながら、ひとつひとつがミステリとしてしっかりとした構成。前作からの期待に十分応え得る出来。本シリーズはぜひ続けて欲しい。

No.3 7点 葉月
(2020/12/26 22:02登録)
年末のミステリランキングでも上位にランクインを果たし、口コミサイトなどでも高い評価を得ている本書。本格ミステリとしての魅力よりも、小説としての豊潤さが優っています。個人的に一番好きなのはブラウン神父的な逆説的ホワイダニット炸裂する最終話ですが、他の話も魅力たっぷり。一読をお勧めします。

No.2 7点 まさむね
(2020/12/26 21:19登録)
 2021本格ミステリ・ベスト10で堂々の2位。評価の高さに魅かれて手にしたのですが、相当にイイですね。評価の高さは素直に頷けます。
 1話目の表題作が、まずはイイ。4話目の「ホタル計画」が個人的ベストでしたが、最終話の「サブサハラの蠅」も推したい。どの短編も、読みやすい中で深みを感じます。デビュー作の「サーチライトと誘蛾灯」もぜひ読もうという気にさせられました。勿論、次作も楽しみ。

No.1 8点 はっすー
(2020/12/18 11:39登録)
ネット上でかなり高評価で、今年度のミステリランキングにも複数入ってるという事で読みました。
今作はシリーズ二作目なのですが前作は未読です。

内容は短編が5つなのですが、全部高水準で非常に楽しめました。
特に気に入ったのは表題作と『彼方の甲虫』ですかね。どちらも読後の余韻が非常に良く、他の3編も胸に響きます。

何編かは中々見かけないホワットダニットを扱っていますが、そのホワットが明らかになると同時に、人間心理からなる特異なホワイが明らかになるところも鮮やかです。亜愛一郎シリーズと比べられるのも納得の短編集でした。

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