home

ミステリの祭典

login
Y駅発深夜バス

作家 青木知己
出版日2017年06月
平均点6.60点
書評数10人

No.10 6点 ことは
(2024/06/05 01:26登録)
1作毎に作風が違うバラエテイに富んだ短編集。前半3作はいまひとつ、後半2作は良作と感じた。以下、各作の寸評。
「Y駅発深夜バス」。チェスタトン風のミステリ。なのだが、前半の不可解さが弱いし、後半、地に足のついた語りになって、そのせいで真相の無理筋を強く感じた。この手の作品は、少し地面から浮いた感じのほうがいいと思う。(でもネットをみると本作を好きな人も多くて、この辺はもう好みしかないんだなぁと思う)
「猫矢来」。青春ミステリ。真相がわかると「こんな重大事を伝えないのはどうなの?」との思いが強くて、どうものれない。青春物の雰囲気はよい。
「ミッシング・リング」。クローズド・サークルの犯人当て。探偵役に頼む展開が唐突すぎないか? 動機も、その目的でそれを行うのは説得力がなく、結末の転がし方も無理筋が目立つ気がする。
「九人病」。特殊な病気を設定した怪談。本サイトで本作を「怪談」と紹介している人がいて、たしかに本作は「ホラー」より「怪談」と呼ぶほうが似合う。九人病に関する顛末が読み応えがあり、描写もいい。結末の転がし方もよい。これが5作の中では抜群に好き。
「特急富士」。コメディ・タッチのサスペンス。ヒッチコックの「ハリーの災難」を思い出した。コメディ・タッチなので無理が目立たず、楽しく読めた。作者、こんなのも書けるんだ。器用。

No.9 7点 ボナンザ
(2023/06/27 12:27登録)
新本格03掲載時、やはりとびぬけた一編と思ったが、改めて読んでも面白い。ほかの短編は初めて読んだが、どれも粒ぞろいで埋もれさせるには惜しい。

No.8 7点 麝香福郎
(2023/02/10 19:10登録)
二〇〇三年発表の表題作の「Y駅深夜バス」は、日本推理作家協会と本格ミステリ作家クラブ、それぞれの年間アンソロジーに収録されるほどの高評価を得た短編だ。ある男が深夜バスで体験した怪異が、くるっと回って意外かつ苦い形で着地する衝撃が強烈。「九人病」では、怪談の内と外を揺蕩う妙味が堪能できる。
「猫未来」では、中学生の青春恋愛ミステリ、「ミッシング・リンク」では、読者への挑戦をはさんだ盗難事件の犯人当てとその後を描いている。「特急富士」では、犯罪者視点からコミカルに描いた殺人喜劇が楽しめる。それぞれ輝きが異なる粒ぞろいの短編集。

No.7 7点 メルカトル
(2020/04/10 22:49登録)
運行しているはずのない深夜バスに乗った男は、摩訶不思議な光景に遭遇した―奇妙な謎とその鮮やかな解決を描く表題作、女子中学生の淡い恋と不安の日々が意外な展開を辿る「猫矢来」、“読者への挑戦”を付したストレートな犯人当て「ミッシング・リング」、怪奇小説と謎解きを融合させた圧巻の一編「九人病」、アリバイ・トリックを用意して殺人を実行したミステリ作家の涙ぐましい奮闘劇「特急富士」。あの手この手で謎解きのおもしろさを伝える、著者再デビューを飾る“ミステリ・ショーケース”。
『BOOK』データベースより。

アリバイトリックあり、ホラーあり、倒叙物あり、青春ミステリありとまさにバラエティに富んだ短編集となっています。
個人的に一番面白かったのは『九人病』。これは良いですよ。何故か二階堂黎人編の『新本格推理05 九つの署名』に掲載されたものですが、本格推理じゃないですよね、これ。ホラーですよ。ラストにあれ?となりますが、更にその後に驚きが待っているという凝り様。又表題作はどこか幻想的な雰囲気を漂わせながら、その裏で着々とあるトリックが仕掛けられていて、捻りも効いていて最後のオチも良かったですね。

『ミッシング・リング』はなかなか良く考えられたアリバイもので、読者への挑戦状付き。確かに論理的に犯人を指摘するのが可能。まあ私の様な弱い頭では解けませんけどね、というかそれ以前に自力で推理しようとは思わない。
『特急富士』はよくある倒叙物かと思わせて実は・・・一手間掛けて意外性のある読み物に仕上げています。

全体的に期待通りの出来でした。これだけの作品が書けるのだから、もっと新作を出して欲しいものです。

No.6 6点 蟷螂の斧
(2020/01/29 08:34登録)
①Y駅発深夜バス 7点 ホラー?といった不思議な雰囲気、テイストが良い。ラストは当然そうなるよね(笑)。
②猫矢来 6点 日常の謎+青春ミステリー。ほろ苦い。
③ミッシング・リング 5点 アリバイ崩し。 曖昧な10分間。うーんどうなんだろうといった感じ。
④九人病 6点 ホラーはあまり好きではない分野だが、ホラーのままの方がよかった。
⑤特急富士 8点 本人たちはいたって真面目。こういうユーモア作品は大好き。

No.5 7点 パメル
(2019/03/15 20:47登録)
光文社文庫の公募アンソロジー「新・本格推理」に掲載された作品から、表題作の「Y駅発深夜バス」と「九人病」の2編が収録され、その他3編を合わせた5編からなる短編集。
「Y駅発深夜バス」・・・幻想的な雰囲気を漂わせながら、端正なロジックで驚くべく真相を明らかにしていく構成が素晴らしい。
「猫矢来」・・・ある事で失望していた主人公が真相を知って救われるほろ苦い青春ミステリが楽しめる。
「ミッシング・リング」・・・読者への挑戦状付きのフーダニットとして楽しめる(館の見取り図・登場人物の行動表付きで親切)
「九人病」・・・不気味な雰囲気とひねりの利いた技巧が楽しめるホラーと本格ミステリが融合した作品。
「特急富士」・・・殺人犯と殺人を犯そうとしていたが先を越されてしまった人物が駄目すぎてトラブルに巻き込まれるドタバタ劇が笑える(倒叙ものとアリバイトリックが楽しめる)
派手さは決してないが、バラエティに富んでいて楽しめる作品集。

No.4 7点 HORNET
(2018/01/20 16:54登録)
 粒ぞろいの良質短編集。
 トリックと偶然が巧みに織り込まれた表題作「Y駅発深夜バス」、同じ日に同じ人間の殺人を企てた2人の倒叙型作品「特急富士」が面白かった。「猫矢来」は日常の謎タイプの作品で、こちらは最終的にはイイ話(防ぐ方法はいくらでもあった気はするが)。
 先行書評のお二方と挙げる作品がほとんど同じだなぁと思った。そう思うとこれらの作品は手堅いといえるかもしれない。

No.3 6点 まさむね
(2017/11/25 18:34登録)
 好短編集。読者挑戦モノあり、ホラーテイストあり、倒叙形式ありと、バラエティに富んでおり、かつ、反転も噛ませている点が好印象。ページをめくらせる力量も確かです。
 マイベストは、雰囲気満点で次々とページをめくらされた「九人病」。
 表題作も幻想的で面白いのだけれども、パーキングエリアの件が判りやすかったことと、このトリック、実際にやればおそらく失敗する(簡単にばれる)であろう点で、ややマイナスか。
 「猫矢来」の印象も良いのですが、虫暮部さんがおっしゃるとおり、周りがもっと警告するべきではなかったか、という疑問がどうしても残ります。
 最終話「特急富士」は、ダブル倒叙とも言えるプロットで、ありがちなネタを活かしている点が面白かったかな。

No.2 7点 人並由真
(2017/10/17 15:13登録)
(ネタバレなし)
 虫暮部さんのレビューに興味を惹かれて読んでみた。作風の振り幅の広さは実に楽しかった。ノンシリーズものを集めた短編集なら、こういうバラエティ感のあるものが好みである。
 標題作と、配列で二番目にくる『猫矢来』の二編が、個人的にはミステリとしても小説としても特に好ましいバランスである。前者のN××要素や嫌なラスト、後者の女子主人公の内面のモノローグ「でも、だまされているよりは、変態の方がましな気がする」とかには妙なトキメキを覚えた。なお『ミッシング・リンク』も『九人病』も(後者は虫警部さんの言われるとおり)ラストをひねり過ぎた感もなきにしもあらずだが、それぞれの舞台設定とミステリ的な結晶感はいい。最後の『特急富士』は、倒叙ものの一種の「あるある感」をネタにまとめ上げた好編。
 なんというかスタンリイ・エリンかダールあたりの作風に新本格の骨格を組み込んだ感じで、全体としてはとても楽しめた。それなりに良いノンシリーズ短編を書いていた初期の赤川次郎を、さらにずっとロジカルにした感触もある。

■P124の4行目は「貴之」じゃなく「浩一」だよね? 再版か文庫化の際は直しておいてください。

No.1 6点 虫暮部
(2017/09/19 12:44登録)
 「九人病」が一番良かったが、最終章の二重三重の仕掛けはいらなかったのでは。
 表題作。トリックは面白いが、第三者の行動に依存する側面が強いことと、その時間が数時間に亘る長さであることが難点。彼が途中で何か目立つことをすればアウトであって、私だったらこの計画には乗らないなぁ。
 「猫矢来」。加害者の行為の危険度を考えると、警告のしかたが幾らなんでも遠回し過ぎだと思う。
 全体として。ミステリに対する誠意は伝わって来るが、だからといって飛距離が物凄く長いわけではない。

10レコード表示中です 書評