マザー・マーダー |
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作家 | 矢樹純 |
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出版日 | 2021年12月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 6人 |
No.6 | 7点 | ぷちレコード | |
(2023/08/10 23:34登録) 夫の給料減額などで生活不安に陥った主婦が稼ぎ口を求めてネットショップの手伝いを始めたことから被る受難。看護助手として働く一人暮らしの女が、半年前に死んだ別れた夫の隠し子だという若い男と顔を合わせることに。ひきこもりの自立支援施設の職員が、家族の依頼を受け当事者の引き出しに向かってみると、まさかの事態が。 こうしたエピソードに家から一歩も出ない謎めいた息子の恭介と、彼を溺愛するがあまりトラブルが絶えないモンスターマザーの美里、この不穏な母子の存在が何らかの形で絡んでくる構成になっている。 ミステリとしては、ある女性との不登校の原因となった校内の事件を意外な探偵役が解き明かす、「シーザーと殺意」が白眉。そして迎える最終話まで、連作ならではの趣向の先に訪れるおぞましさ。読み手を鮮やかに打ち抜く驚きと異形の母性に震える。 |
No.5 | 7点 | パメル | |
(2023/07/10 06:10登録) 母という存在をテーマとした5つの物語からなる連作短編集。 冒頭の「永い祈り」は、ローンのある一軒家で夫と一歳の娘・陽菜と暮らす専業主婦の佐保瑞希が主人公。娘の誕生をきっかけに中古住宅で夫と三人で暮らし始めたが、隣人が厄介だった。隣家の梶原美里から、陽菜の泣き声がうるさいとクレームを受ける。クレーマーに悩む若い母親という構図に始まるが、予想もしない方向に転がり、その果てに待つ結果も予想外。ミステリの焦点はそこだったのかと納得した後、見事な騙しのテクニックに感心。 第二話の「忘れられた果実」は、病院で看護助手として働く相馬が、離婚した後に亡くなった元夫の隠し子と、遺産にまつわる騒動に巻き込まれる。後半で意外な事実が明らかになる。しかも二段構えで。どんでん返しの連続を堪能できる。 第三話の「崖っぷちの涙」から一気に、梶原家の物語に突入する。監禁された男の脱出劇やロジカルな謎解きなど、各話で読み味を変えながら、第五話「Mother Marder」で衝撃的な真実が明らかになる。ダメ押しともいうべき、ラストのブラックな一撃も凄まじい。 その一方で、母と子というテーマが、五つの物語を通じて多角的に浮かび上がるようになっている。子供を愛するがゆえに、どんな醜悪な行為も辞さない。全体を通した梶原家の物語としてのピリオドが、見事に一体化する。各編に仕込まれた毒を味わえ、巧みな構成を堪能することが出来る作品。 |
No.4 | 6点 | take5 | |
(2023/01/14 21:30登録) 連作の前半は 人間の悪い所が目立つ作品が続き、 つらかったのですが、 後半からミステリー感がしっかり出てきて フーダニット物としても反転が効いていて よかったです。 読後感は心地よくはありませんが--- |
No.3 | 7点 | メルカトル | |
(2022/06/25 23:21登録) めくるめく、どんでん返し。全方位に仕掛けられた罠。あなたは何度でも騙される。息子を溺愛し、学校や近隣でトラブルを繰り返す母親。家から一歩も出ず、姿を見せない息子。最愛の息子は本当に存在しているのかーー歪んだ母性が、やがて世間を震撼させるおぞましい事件を引き起こす。企みと驚きに満ちた傑作ミステリ! Amazon内容紹介より。 第一話を読んだ時は、これは一種のイヤミスかなと思いました。しかし、後半の衝撃の連打には正直やられました。そして第二話である人物の登場に驚き、第三話で漸く作者の狙いに気付きました。一話ごとに作風を変え乍らそれぞれ仕掛けがあり、最終話まで突っ走ります。当然こちらもそれに合わせる様に一気読みしつつ、巧妙な罠に知らず知らずのうちに嵌っていきました。 まあ連作短編集と言うより長編として見るべき作品ではないかと思います。サスペンスと見せかけて意表を突くトリックで本格ミステリの側面も見せますし、兎に角色々詰め込まれておりお腹一杯になりました。取り敢えず私的には現在の所矢樹純の最高傑作だと思います。心理描写も確り出来ていますし、特に最終話は見ものです。良くやったよと褒めてあげたくなる一作。 |
No.2 | 7点 | HORNET | |
(2022/04/17 20:37登録) 「息子の恭介は、自宅でコンピューター関係の仕事をしている」と息子自慢をする梶原美里。しかし、その恭介の姿は近隣住民は誰も見たことがない、いわゆる「引きこもり」。普段は愛想よく住民に挨拶もする梶原美里だが、息子のことになると何かが憑いたかのように豹変する。梶原家が抱える秘密は何なのか?本当に恭介はいるのか?現代社会の病理とも言える、引きこもりとその親をめぐる数奇な物語。 いわゆる「毒親」を題材とした連作短編集。一作目などは独立した短編の様相だが、その後の主要登場人物が現れ、次編以降へとつながっていく。全編の中心は梶原美里とその息子・恭介なのだが、さまざまな物語の編み方で違う角度からそれぞれ描かれており、面白い。唯一、初編の事件は闇に葬られたままなのが気になったが… |
No.1 | 8点 | 虫暮部 | |
(2022/04/13 12:42登録) 相変わらず、生活感のある悪意や欠点のある人物を描くのが抜群に上手い。腹の底に残る読後感の適度な重さ。神経の行き届いた見せ方と隠し方。第三話の二人の意外な転身がナイス。 但し、その出来の良さが皮肉にも作品の限界になっている感がある。このハードウェアではこれ以上のソフトウェアを走らせられないと言うか。飽和状態を突破して大傑作を物するには、現状維持以上の一歩が必要なのではないか。 |