home

ミステリの祭典

login
いいちこさんの登録情報
平均点:5.68点 書評数:570件

プロフィール| 書評

No.250 6点 塗仏の宴
京極夏彦
(2016/04/20 14:34登録)
明かされた真相の衝撃はある程度認めるものの、ミステリとしての核はその1点で、拡げられた風呂敷と本作のボリュームに比して、かなり物足りないというのが正直なところ。
真相解明のプロセスは、京極堂が「知っていた」要素があまりにも強く、解き明かすカタルシスは弱い。
犯行プロセスは、大掛かりすぎ、手間が掛かりすぎ、難易度が高すぎで、めざす効果(犯行動機)との関係で強い違和感。
ストーリー展開は、キャラクターの個性を活かしたキャラ小説の色彩を強め、それがミステリとして評価したときに、前作までにない夾雑物(無駄)と映った。
以上、水準はクリアしているものの、佳作揃いの本シリーズの中では最低の評価とせざるを得ない


No.249 5点 名探偵 木更津悠也
麻耶雄嵩
(2016/04/04 20:16登録)
作者としては珍しいオーソドックスなフーダニット。
当然一定の水準には達しているものの、他作と比べればパンチ力に欠け、凡庸な印象は拭えない。
ホームズ・ワトソンの関係に新たな地平を切り開く試みが味付けをしているものの、作品としての面白さにダイレクトにつながっているとは感じられなかった


No.248 6点 魔術はささやく
宮部みゆき
(2016/03/31 17:14登録)
サスペンス大賞受賞作であるから、サスペンスにカテゴライズされるのであろうが、盛り沢山の構成の副作用として、作品の主題は拡散気味でどっちつかずの印象。
まずサスペンスとしては緊迫感に乏しく物足りなさが残る。
サブリミナル広告・ピッキング・後催眠といった飛び道具の存在にもかかわらず、ミステリとしては真相が意外性に欠ける。
主人公を攻撃・擁護する友人との人間関係に相当の紙幅を割きながら、青春小説として十分に活かし切れていない。
加えて、犯人が最も殺害すべき必然性の高い人間の殺害を中止し、社会正義のための犯行としながら犯行の露見を恐れて無関係な人物を殺害し、それでいて主人公を全面的に信用して犯行を明かすなど、その行動に合理性・一貫性が感じられない。
筆力・リーダビリティは評価しても、これ以上の評価は難しい


No.247 5点 天帝のあまかける墓姫
古野まほろ
(2016/03/28 18:42登録)
作を重ねるごとに風呂敷が巨大化し、舞台設定が奇抜化しつつあるのはよいのだが、無粋な大量殺人への傾斜により緊迫感や不可能興味は低減している。
ご都合主義の散見や大味なトリックから、本格としての骨格を成す推理の論理性と、犯行のフィージビリティには疑問。
どんでん返しの連発にも、ストーリーの成立性や登場人物の行動の合理性の観点から苦しさを感じるところ。
筆力の高さを評価しても5点の最下層であり、期待を裏切るデキと言わざるを得ない


No.246 6点 花の下にて春死なむ
北森鴻
(2016/03/14 18:46登録)
叙述が高度に洗練されている一方、登場人物に際立った個性がないことも相まって、ストーリーテリングは淡々とした印象が強く、評価が分かれそうなところ。
ミステリとしては、真相解明時の反転の手際が光る一方、真相を捻り過ぎ、推理のプロセスに大きな飛躍が感じられるなど、短編・安楽椅子探偵の限界を感じさせた


No.245 3点 列車消失
阿井渉介
(2016/03/10 15:50登録)
物理トリック系のバカミスは嗜好にフィットしているのだが、本作は中途半端なプロット、拙劣な叙述、無理筋極まるトリック等、あらゆる面で強く不満を残す仕上がり。
冒頭に提示される謎の不可解性は申し分ないのだが、一旦フーダニットに展開したところ、作品中盤でお粗末にも声で真犯人が特定されてしまう。
その後、犯行の概要を特定するため、当該真犯人を追及するのではなく、さまざまな周辺の人物に捜査の手が及ぶ。
ところが、叙述が全くこなれておらず、登場人物の書き分けが不徹底であるため、読者を混乱に陥れている。
肝心のハウダニットについては、検視官や鑑識が信じ難いほど無能で、かつ被害者全員が昏睡でもしていなければ、まず露見は避けられないというデタラメなトリックを乱発。
敵前逃亡することなく、1個の作品として完結させている点を最低限評価


No.244 6点 臨場
横山秀夫
(2016/03/07 18:55登録)
探偵役の性格付けや尺の短さもあり、真相解明に至るプロセスの論理性で唸らせる作品は少ないが、抒情性の高さに加え、トリックのキレと鮮やかな反転の手際は実に見事で、本格短編として高水準のデキ


No.243 6点 二の悲劇
法月綸太郎
(2016/03/04 19:47登録)
明かされた真相と仕掛けられたトリックはシンプルで、男女の恋愛にまつわる悲劇を二人称叙述や日記を駆使して捻った異色のプロット。
ロジカルに真相に到達することが難しく、トリックがややアンフェア、真相に安易さを感じさせる面など、本格ミステリとして高い評価はできないが、プロットがキレイに収斂している点は評価。
執筆当時の作者の懊悩をそのまま反映したような叙述(とりわけ名探偵の存在意義を巡る箇所)、登場人物のきめ細かい心理描写は、あまり他作に見られないもので強く好感。
さまざまな意味で異色作であり、毀誉褒貶が分かれそうな作品だが、好意的に評価したい


No.242 6点 御手洗潔の挨拶
島田荘司
(2016/03/03 14:20登録)
「紫電改研究保存会」が残す抒情感、「ギリシャの犬」における暗号の合理性の高さが見どころ。
「疾走する死者」はメイントリック自体が長編作品で複数回使用したトリックの使い回し、かつ使用方法で明らかに見劣りする点で強く推せない。
「数字錠」では確率に関する欺瞞が目を覆うレベルで、数学の素養が乏しいのかと思わざるを得ない。
いずれの作品も本格としての骨格はやや脆弱で、長編に比してかなり小粒な印象だが、作品の完成度・水準のブレは小さく、確かな力量を垣間見せた


No.241 5点 なぎなた
倉知淳
(2016/03/01 16:41登録)
メタミス的なアプローチを活かした「こめぐら」より本格テイストを増し、嗜好にはフィットしているが、その分だけ小粒感が増し、インパクトでは見劣りするとも言える。
ユーモアあふれる筆致の楽しさとリーダビリティの高さは「こめぐら」と同様。
両作とも最低限の水準にはあるものの、作者の本来の力量から期待する水準には遠く及んでおらず、五十歩百歩の印象


No.240 5点 こめぐら
倉知淳
(2016/02/25 16:04登録)
メタミス的なアプローチを活かした軽妙なバカミスが並ぶ。
ユーモアとリーダビリティの高さには見どころがあるものの、ミステリとしての骨格は至って小粒


No.239 5点 黒白の囮
高木彬光
(2016/02/25 16:03登録)
真犯人を隠蔽するための大胆な仕掛けが光るが、それ以外には傑出した点は見受けられない。
犯行に至る動機や犯行の全体像の解明プロセスが曖昧であり、その点にも弱さを感じる


No.238 5点 パラレルワールド・ラブストーリー
東野圭吾
(2016/02/19 20:44登録)
好き嫌いの範疇に属する話で恐縮だが、作者の描く女性は総じて従順で没個性な古典的女性像が多いように感じられるところ、本作のヒロインはとりわけ人間的魅力に欠けており、主人公2人がこの女性を巡って熾烈な争いを演じる点には、強い違和感を感じる。
また、彼女の不可解なまでの優柔不断と交際相手の交替が事態を混迷に陥れており、言動に一貫性と合理性が感じられない。
タイトルのネーミングはもはや脱力レベル。
冒頭の山手線と京浜東北線が並走するシーンは、プロットとの親和性と相まって、強く印象に残ったが、正直それだけの作品。
相変わらず洗練されたストーリーテリングを評価してかろうじて5点としたが、同じヴァーチャル・リアリティを扱った「クラインの壷」には遠く及ばない印象


No.237 5点 チョコレートゲーム
岡嶋二人
(2016/02/15 13:51登録)
親子の断絶による家族の崩壊と、それが招いた中学生の暴走を描き出す社会派的プロット。
本格ミステリとしての仕掛け・トリックは平凡で、食い足りなさが残る印象


No.236 6点 ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!
深水黎一郎
(2016/02/12 19:19登録)
改稿・改題版の「最後のトリック」を読了。
作品の性格上、ネタバレにつながる詳細な論評は避けたい。
まず、「犯人=読者」という比類なき奇想を一定程度実現していることは確かであり、その実現にあたって施したさまざまな工夫は、イロモノの印象に反して、堅実で緻密な構成力を感じさせる。
しかし、結果としてプロバビリティの犯罪に止まっており、「読者」の解釈によっては破綻する等、一定の限界を抱えている点は大きく減点。
ただ、本格ミステリ読みを自認する人には一読を薦めたい意欲作であることは間違いない


No.235 6点 ホワイトアウト
真保裕一
(2016/02/12 19:17登録)
アイデアの面白さと構想力、文庫本で600ページを超えるボリュームにもかかわらず、一気読みさせるリーダビリティとサスペンスは評価。
一方、完全装備のテロリスト集団に対して、一介のダムの運転員たる主人公がただ1人で立ち向かうとするならば、ダムの構造や周辺の地理関係に精通している点を活かして、クレバーに対処するのが現実的。
その点、本作では主人公が燃えあがるような気迫をもって、何の装備もなしに2,000m級の雪山や極寒の河川を踏破し、テロリストから強奪した銃でテロリストを打ち負かす等、往年の週刊少年ジャンプを思わせる空想的な超人ぶりを発揮。
その他、犯人集団に潜伏した笠原という異分子が活かされないままに終わるなど、プロットの完成度には明確に難がある。
克明な場面描写とは裏腹に各登場人物の心理描写も浅く、ミステリとしての仕掛けも想定の範囲内


No.234 5点 建築屍材
門前典之
(2016/02/08 20:22登録)
(あらかじめ承知しているものの)拙劣な叙述、淡泊な人物造形は減点材料。
そのうえで、プロットの大宗を占める物理トリックの乱打については、全般にトリックの内容が非常にわかりづらく、犯行のフィージビリティにも問題が散見される点が残念。
ただし、死体消失にかかるメイントリックは、特殊な舞台設定を活かし切り、かつ死体切断の理由に納得感がある点で鮮やかであり、主人公のパンツの傷の手がかりも見事


No.233 7点 絡新婦の理
京極夏彦
(2016/02/04 12:05登録)
作者に本格ミステリを執筆する意図がないのは前提として理解しているが、真犯人があまりにもわかりやすく、犯行のフィージビリティがほぼ皆無である点で、本格読みとしては高い評価は付けられない。
本作の要諦は犯行の構造にあり、それを活かすために複雑極まるプロットが組み立てられているのだが、その構造が作品中盤に明らかになってしまうなど、プロットの完成度の点でも疑問。
作品の持つ力作感や1個の読物としての面白さを最大限評価してこの評価


No.232 6点 我らが隣人の犯罪
宮部みゆき
(2016/01/25 15:09登録)
作者の作品としては本格度が高く、無駄を削ぎ落とした筋肉質な構成。
テクニックの高さを感じさせる反面、総じて軽量コンパクトでパンチ力に欠ける印象。
ただ、好感の持てる作風で、人によっては高い評価となるのも頷ける


No.231 5点 11枚のとらんぷ
泡坂妻夫
(2016/01/25 15:08登録)
1個の作品として独立可能な11編のショート・ショートを作中作として組み込んだ長編本格ミステリ。
作中作には、やや強引な箇所もあるものの、容疑者を限定する材料がさりげなく散りばめられている点が巧妙。
一方、犯人が「11枚のとらんぷ」を利用した動機は、それによって容疑者が限定されるという致命的なデメリットを考えれば、やや不可解と言わざるを得ない。
また、ミステリ・パズルのような乾燥したストーリーテリングは、キーとなる登場人物が多く、かつ視覚的なイメージが重要である本作のプロットとの親和性は至って低い。
以上、プロットの組み立てに巧妙さ・斬新さが感じられるものの、作品の完成度としては今一つの印象

570中の書評を表示しています 321 - 340