home

ミステリの祭典

login
HORNETさんの登録情報
平均点:6.34点 書評数:1234件

プロフィール| 書評

No.654 7点 泥濘
黒川博行
(2019/11/17 17:05登録)
 「疫病神シリーズ」というのですか。このシリーズは初めて読んだけど、飽きずに読ませる面白さはさすがで、抵抗感なく堪能した。
 にしても桑原の手の早さは病気だなぁ。こんな四方八方でやりたい放題やる極道、とても生き延びられそうにないけど。桑原と二宮の掛け合いは絶妙で、ハードなバイオレンスを絶妙なコミカルで味付けていると感じる。
 仕組まれている企みがやや複雑で、慣れていないと何度か前のページを繰るハメにはなる(私がそうだった)が、まぁ理解しきれていなくても場面場面の展開で楽しめるとは思う。
 シリーズものということだが、初読でも弊害なく楽しめた。


No.653 6点 東京クライシス 内閣府企画官・文月祐美
安生正
(2019/11/17 16:37登録)
 文月祐美は、内閣府の防災担当企画官。真夏の東京で、荒川の決壊が懸念される豪雨が発生。竜巻が変電所を襲い発生する大規模停電、鉄道機関の麻痺、溢れる帰宅困難者。刻一刻と洪水の危険性が高まる中、対応に迷走する政府。そこに乗り込んだ文月は、政府勅命の顧問団が居丈高な態度で対応をかき回し、どんどん事態を悪化させている様子に怒りを抱く。いきり立つ文月だが、なぜか招集された謎の男にその姿勢を諫められ―

 氏の作品はとかくこういった非常事態対応モノが多いが、昨今の日本の状況の中では奇しくもタイムリーな題材の作品となった。バカなトップ(首相)と、そのお抱えの顧問団が政府の対面だけを考えて動こうとする中、下位にある専門家が憤る―という構図はありがちではあるが、今回は首相のバカぶりが際立ってヒドい。最終的に、ヒロイン・裕美の活躍により首都が救われる、という体もハリウッド映画っぽいが、そういう意味で楽しいと言えば楽しい。


No.652 7点 カナダ金貨の謎
有栖川有栖
(2019/11/16 18:07登録)
 私の嗜好的にオーソドックスなミステリを定期的に読みたくなるのだが、それを提供し続けてくれる点で有栖川有栖は非常に好きで、頼りにしている。
 本短編集も、安定した水準で楽しませてもらった。(直前に読んだ「こうして誰もいなくなった」が玉石混交の印象だったので、その反動で実際以上に良く感じたかもしれないが。)
 やはり表題作「カナダ金貨の謎」が一番よかった。金貨が持ち去られたことの意味を問い続けることで真相にたどり着く推理は「これこそが火村英生」という典型的な様相であり、満足した。
 その他、私としては「船長が死んだ夜」が好き。以前にも別のアンソロジーで読んだけれど、再読しても面白かった。


No.651 3点 荒野の絞首人
ルース・レンデル
(2019/10/22 10:06登録)
 自分だけの秘密の領域を隠し持っている主人公、というスタイルの作品がこの頃のレンデルの特徴とのこと。本作もそういう類に入るのだが、なぜか頭に入って来難かった。特に前半の、主人公・スティーヴンの荒野に対する偏愛は冗長で、物語が動き出すまでが退屈な感じがした。
 本作は一応、最後に前半の事件の真犯人も明かされる謎解きミステリにもなっていて、私としては意外性も感じられたが、閉じた世界の物語であるがゆえに犯人候補の範囲が狭く「わかっていた」という読者が多いのもうなずける気がする。


No.650 8点 犯罪者 クリミナル
太田愛
(2019/10/22 09:30登録)
 駅前広場で人待ちをしていた5人が暴漢に襲われる。4人は次々に殺されたが、最後の1人・繁藤修司の抵抗を受けて犯人は逃げ出し、やがて近くでヤク中毒で死んでいるのが発見された。イカれたヤク中の通り魔事件として処理されかけた事件だったが、ただ一人生き残った修司のところに一人の男がやって来て「あと10日、生き延びてくれ。君が最後の一人なんだ」と必死の形相で訴えていく。これは単なる通り魔事件ではない、狙われた5人は偶然ではない―?
 その言葉を裏付けるように、修司は自宅で再び襲われる。所轄の刑事・相馬は間一髪でその場に間に合い、修司を救うものの、襲った男には逃げられてしまう。事件には大きな背景があることを感じ取った相馬は、悩んだ挙句に旧知の鑓水七雄を頼ることに。鑓水、相馬、修司の3人が、背後の巨悪に立ち向かう。

 さすが脚本家出身、というのだろうか、臨場感のある展開が上下巻尽きることなく続けられ、圧倒的なリーダビリティである。「あと一歩遅かったら、命はなかった」のような紙一重のタイミングが多いのも、ある意味テレビ的な感じはするが、話の作りも非常にしっかりしているので安っぽくは感じない。
 食品会社の重大な過失から「それが生んだ奇病と被害者」「隠蔽しようとする業界関係者と政治家」「正そうとする内部社員」といった各立場が生まれ、それぞれの立場の人間描写も非常に読み応えがある。
 鑓水ら3人組の活躍もさることながら、社会・組織の中で人としての矜持を貫く真崎省吾と中迫武の2人の姿が非常に印象的だった。


No.649 5点 鏡じかけの夢
秋吉理香子
(2019/10/22 08:47登録)
 願い事を念じながら磨くと、その願いが叶えられるといういわくつきの大鏡が、人から人へ渡っていくという連作短編集。
 まぁありがちなパターンなのだが、屋敷に住む良家からはじまり、長屋住まいの下町、サーカス団、外国と、舞台がいろいろ変わっていき、一話一話にそれなりの仕掛けは施されていて面白かった。


No.648 6点 ふたりの距離の概算
米澤穂信
(2019/09/29 20:27登録)
 私はタイトルからてっきり、ホータローとえるの関係性に進展があるようなラブコメ要素が入ったものだと思ってたので、そうでなくてよかった。本当の意味での「距離」だとは思ってなかった・・・
 日常的な高校生活の中にあるささいな場面を取り上げて、論理的に謎を解くシリーズらしさは健在。ホータローと福部の相変わらずの仰々しい物言いに苦笑しながらも、今回はいつもにもましてコミカルなやりとりがたくさんあって吹き出してしまうところがいっぱいあった。
 マラソン大会を舞台にして、20kmのあいだに関係者(?)に声をかけていきながら謎を解くという設定には賛否両論のようだが、私は「面白いなー」と思った。
 メインの謎「大日向が入部をやめた理由」については、こんなに婉曲的にお互いを探り合う高校生なんかいるか?とは思うが、まぁ小説ということで割り切って楽しんでいる。


No.647 6点 チョコレートゲーム
岡嶋二人
(2019/09/29 20:15登録)
 作家業の父親が、父親にありがちな放任主義というか、「理解あるように見せているがようは面倒で関わらないだけ」で息子を放置していたら、大変なことに巻き込まれていた。息子を亡くしてから痛烈に後悔し、息子に着せられた殺人犯の汚名を晴らすべく東奔西走する。

 書かれた時代や、日本推理作家協会賞を受賞したことから察すると、「中学生による闇の世界」ということがかなり衝撃的だったのだろうか。悲しむべきことに時代が進むにつれて若い世代の実情はさらに荒れ、現代ではそれほどのインパクトはない。
 とはいえ、父親を主人公にして事件の様相から真相解明までを描く過程のリーダビリティはさすがで、読ませる力があった。
 最後に刑事とともに真犯人のもとにいく件はかなり緊張感のある展開で、非常に読み応えがあった。


No.646 5点 今日は天気がいいので上司を撲殺しようと思います
夕鷺かのう
(2019/09/25 22:15登録)
 ラノベテイストの深みはないものだろうなぁ―と思いつつ、タイトルに惹かれて読んだ一冊だったが、予想以上に面白かった。
 中編程度の作品が3編、どれもクソみたいな上司(笑えるぐらい、ある意味小説だからこその極端なやつ)に仕える部下の話だが、ここまではいかなくても社会人であれば一度や二度は感じた感情であろうから、罵詈雑言をつぶやきながらも読んでしまう面白さはあるだろう。
 ミステリではなく、「ゾクッ」とする程度をねらったちょっとしたホラーのたぐい。3話目「引き継がれ書」などはラストも含めてなかなか良かった。


No.645 3点 ふたり狂い
真梨幸子
(2019/09/25 21:59登録)
 うーん…
 一つ一つの話の下衆っぷりは作者らしくて、まぁ…。ただミステリとしても小説の仕組み方としても、「チープさ」を感じて、それがぬぐえなかったなぁ…。
 作者の作品にリアリティを求めるつもりもあまりないし、それ以上に小説らしい仕掛けやダークさが売りなのは十分わかっているけど。
 ちょっとこれは安っぽい感じがした。


No.644 4点 人生相談。
真梨幸子
(2019/09/25 21:51登録)
 出だしは面白く興味を惹かれ、そして1話目もミステリらしくて(ネタは早々に見当がついたが)期待したが……
 いかんせん登場人物が複雑で(ちょっとしか出ておらず名前も覚えていなかった人物があとの話で急に出てくる)、記憶力&注意力のない小生はいちいち前出を確かめて読まなければならなかった。
 発想や設定自体は面白かったが、ネタありきの強引な展開も諸所にあり、いろんな意味で笑いながら読んだ。
 同作者の連作短編集「ご用命とあらば、ゆりかごから墓場まで」の完成度から比べるとかなり落ちるなぁと思った。


No.643 5点 推理は一日二時間まで
霧舎巧
(2019/09/25 21:42登録)
 元カラオケボックスを改装して立ち上げたレンタルルーム「秘密基地」。美貴という女性が経営するそのレンタルルームには、戦隊ヒーローもの、アイドルなどさまざまなジャンルの「オタク」が日々集う。そんな一風変わった場所で、さまざまな謎の出来事が巻き起こるという日常の謎モノ。

 エンタメ読み物として割り切って読めば、そこそこ楽しい。ラストの話で最初からつながる謎の真相が解明される、という近ごろの連作短編のパターンも踏襲。軽~い感じに色づけられたキャラ性によりちりばめられるユーモアもまぁこういうタイプの作品では標準的。


No.642 4点 こうして誰もいなくなった
有栖川有栖
(2019/09/25 21:28登録)
「有栖川小説の見本市」と帯に謳われているが、これまで各所で書きながら、適当な収録のしどころがなかったものを集めて出版した印象だった。
 「見本市」とはうまい言い方をしたと思うが、見方を変えればジャンルもサイズも統一性のない作品の集まりとも言え、ミステリではないものも含まれる。私は氏のかなりのファンで、それは極めてオーソドックスなフーダニットの本格ミステリを提供してくれるところにあるので、本短編集はイマイチであった。
 表題作でもあるラストの中編が私が思うところの「有栖川有栖らしい」作品。


No.641 7点 だから殺せなかった
一本木透
(2019/09/25 21:21登録)
 第27回鮎川哲也賞最優秀賞受賞作。
 首都圏で殺人事件が連続して起こった。一見関連のないそれぞれ関係がないように見えた事件だったが、現場に残されたたばこの吸い殻から同一のDNAが検出され、同一犯による連続殺人事件とみなされる。そんな折、太陽新聞の記者・一本木透のもとに「ワクチン」と名乗る者から犯行声明と挑戦状が届く。「おれの殺人を言葉で止めて見ろ―」。一本木は、新聞紙面上で「ワクチン」とやりとりをしながら、独自で事件について調べ始める―

 主人公・一本木の秘めた過去、メディアを賑わす不倫教授、母親と死に別れた青年と、複数のストーリーが進行していく上で、最後にそれが絡み合って真相に。伏線の張り方が分かりやすいが、候補も多いという点で期待感は持続される。一つ一つのストーリーもそれぞれに読み応えがあり、だれることなくラストまで読み続けられた。
 やや行き過ぎな偶然性はあるものの、物語の楽しさを作るためと目をつむってもよいレベルだと自分は思えた。
 次作以降もとりあえずはチェックしたいと思えた。


No.640 5点 神の値段
一色さゆり
(2019/09/01 21:19登録)
 オークションで高値がいくらつこうが作家には全く利益はないこととか、「プライマリーギャラリー」とか、美術界の構造や仕組みを「へぇー」と思いながら読めて面白かった。オークションの様子も。

 そうした美術世界の設定に彩られていることがかなり後押ししていて、ミステリとしての内容は平均的では。真犯人よりも、無名の過去の作品が送られてきたことの真相の方が興味深かった。


No.639 8点 ロウフィールド館の惨劇
ルース・レンデル
(2019/09/01 21:02登録)
 最初の一行で事件の結末が示されて、そこにいたるまでの様相が描かれていく。
 パーチマンが文盲であることをひた隠しにし、そのために策を弄するさま、その中で垣間見える「サイコパス」ともいえるような人格に、ヒヤヒヤしたりゾッとしたりして興趣が絶えない。
 ラストの、殺人後に真相が発覚するまでの件もかなりよくて、テープレコーダーが再生されるくだりなどはゾクゾクした。

 40年以上前の作品なのに、今読んでもまったく色褪せないと感じる。これの前に「わが目の悪魔」も読んだが、犯罪者の昏い心情を描き出すのが非常に上手い作家だと思う。


No.638 7点 手斧が首を切りにきた
フレドリック・ブラウン
(2019/09/01 20:45登録)
 題名から、ホラー調な作品かと思っていたら、そうでもなかった。題名は幼少時代のトラウマから主人公が見る「夢」の話で、物語自体はギャングの一味に加わっている19歳の青年が、ギャングのボスの女であるセクシー美女と、同じアパートに越してきた地味で真面目な女の子との間で気持ちが揺れ動く話。
 もちろんそんな青春物語で終わるはずはなく、ラストにサスペンスが待っているのだが…

 それにしても最後は結局何が真相だったの?私の理解があっているのかどうか自信がない。


No.637 8点 ノースライト
横山秀夫
(2019/09/01 20:32登録)
 一級建築士の青瀬は、バブル全盛期こそ羽振りのいい事務所で稼いでいたが、バブル崩壊後は経営の傾いてきた事務所を辞め、個人的に拾ってくれた事務所で心を殺して仕事をしていた。そんなある日吉野という男から信濃追分に建てる家の設計を頼まれる。オーダーは「青瀬さんに任せる。青瀬さんの住みたい家を作ってください」という、全てを委ねる依頼だった。青瀬は建築家としての魂を揺さぶられ、渾身の思いで独創的な家を建てる。その家は「住みたい家200選」に選ばれ、青瀬の名を業界に知らしめるものとなった。
 ところが、そんな評判から吉野の家を見に行った別のクライアントから「誰も住んでいないみたいだった」との知らせが入る。実際、家はもぬけの殻で、建築後誰も住んでいる様子はなかった。なぜ?吉野はどこへ行ったのか?真相を知るべく、青瀬は個人的に調べを始める―

 警察小説の名手である著者の、「建築業界」というまた違った角度からの新作。もちろん私は全くの素人で、知識も何もないが、著者の持ち前の筆力・人物描写力で非常に興味深く、面白く読める。そうした建築業界のドラマに、離婚した妻と、離れて暮らす娘との家族ドラマも上手く絡め、さらに後半には、所属する事務所の所長・岡島の贈収賄疑惑というストーリーも加わって、非常に厚みのある話になっている。
 「人が住んでいなさそう」という展開から、そこに死体があって一気にミステリとなっていくのかと思っていたが、そうではなかった。そうではなかったが、期待外れにはならなかった。
 期待に違わない安定感。
 個人的には「短編を書かせたら日本一」と思っている作家さんなので、また警察もののシリーズ短編も書いて欲しいなぁ。


No.636 6点 凶犬の眼
柚月裕子
(2019/09/01 19:53登録)
 柚月裕子の出世作となった「孤狼の血」の続編。
 前作の事案による懲罰人事で、日岡秀一は広島県警呉原東署から僻地の駐在所勤務に左遷された。暴力団抗争に首を突っ込んでいた日々から一転して、村の平穏な生活だったが、そんな時指名手配中のヤクザ・国光寛郎が名を偽って村にやってきた。本来ならすぐに本署に連絡すべきだが、国光は身分を日岡に明かしたうえ、「まだやることが残っているので時間が欲しい、それが済んだら自分の逮捕を日岡の手柄にするから」と言う。 前作で下げた評価を挽回し、手柄を立てて本署への復帰を願う日岡は、「いつでも逮捕できる」と踏んでその申し出を聞き入れ、そのまま国光を泳がせるが……。

 ミステリと言うよりは極道小説。前作もそうだったが、「ヤクザの中にも真の任侠派がいる」というスタンスで、そのヤクザと一警察官との男同士のつながりのようなものが描かれる。当然社会通念上は許されることではないので、昨今の日本社会の潔癖主義に強く同調されている方は好ましく感じないかも。
 筆致の力強さは相変わらずで、読み手を惹きつけ続ける魅力はある。日岡が人質になって茶番劇の立てこもりをする後半あたりからはちょっとダレた感じもあるが、全体としてはこの評価。


No.635 4点 いつかの人質
芦沢央
(2019/09/01 19:29登録)
 幼少時代に間違ってデパートから連れ去られ、失明してしまった愛子。時を経て再び、今度は本当に誘拐される。一方同じ時期に、過去の誘拐(連れ去り)班の娘である優奈が借金を残して失踪、夫である漫画家の礼遠は警察に捜索を依頼する。誘拐犯は優奈なのか?警察の捜査と礼遠の捜索で、次第に真相が見えてくる―

 真犯人とセットになっている「誘拐の動機」が本作のメインだが、むしろそのアアイデアを書きたかったから、無理やり肉付けをして一編に仕上げた、という印象。特に誘拐されている間の愛子への暴力は不要なはずで、ミスリードと物語をもたせるために無理な色付けをしたとしか思えない。
 無理に長編にせずに、「ネタもの」として短編ぐらいにすれば十分だった。

1234中の書評を表示しています 581 - 600