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ミステリの祭典

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HORNETさんの登録情報
平均点:6.32点 書評数:1163件

プロフィール| 書評

No.583 8点 カササギ殺人事件
アンソニー・ホロヴィッツ
(2019/01/05 11:42登録)
 物語の冒頭は、女性編集者が人気シリーズの最新作「カササギ殺人事件」の出来上がった原稿を読み始めるところから始まる。要はタイトルの「カササギ殺人事件」は同題名の作中作で、第一章からはその作中作がそのまま本文となって描かれる、いわゆる額縁構成だ。この時点でこの構成に企みがあることはすぐに予想がつくが、上巻は普通にこの作品が描き進められていくので、一読者として読み入ることになる。
 この作中作が、往年の海外本格を思わせる舞台設定で、本格好きならば単体で十分楽しめるレベル。閉鎖的な村で複雑に絡み合った人間関係、それゆえに数の多い容疑者、事件の背景にある過去のできごと、など王道の本格ミステリ要素が満載で、探偵役が独特の嗅覚で真相に迫っていく。そして物語が佳境に迫ったところで上巻が終わるのだが―
 下巻を読み始めてびっくり。場面は実世界の編集者に戻り、上巻で描かれていた物語の原稿がそこで途切れ、「最終章がない」ということになる。そこからは現実世界で失われた最終章原稿を探す話になるわけだが、その矢先に原稿の作者が不審な死を遂げることになり、女性編集者はその真相を追うことになる―といった話だ。

 多少煩雑で、話が長いと感じるところもあったが、最後には現実世界の謎が解き明かされたあとで作中作「カササギ殺人事件」の最終章も示されており、額縁構造の作品の両者で展開されたミステリが完結する。まさに「一粒で二度おいしい」作品で、しかもそれぞれのクオリティが高い。
 本作品が各ランキング等で高く評価される理由にも合点がいく内容で、作者の構想と手腕に素直に感心する作品だった。

<ネタバレ要素あり>
 本作品の現実世界の方の謎に関しては、翻訳者が苦労したのではないかと容易に想像できる。というか、どうやって日本語に落とし込んだ(ねじ込んだ)のだろう?


No.582 7点 連続殺人鬼カエル男ふたたび
中山七里
(2019/01/05 11:10登録)
 中山氏の作品は、出版社さえも超えて多くの作品で同じ世界が共有されて登場人物がつながっており、いわば「中山七里小説ワールド」が形成されている。読者は作品を単体で楽しむだけでなく、「あっ!この弁護士はあの『〇〇〇〇』に出てきた弁護士だ!」とか、「この監察医はあの『〇〇〇〇』の…」などと、他作品を思い返しながらその世界を楽しむことができ、それがシチリストたちの一つの醍醐味になっている。(このことについて中山氏は「ミステリだけで読者を惹きつけるだけの手腕がないので、付加価値をつけることにした」と言っているそうだ)本作はまず、こうしたシチリストの欲を大いに満たしてくれる登場人物たちである。
 本書を紹介する広告文等で「前作から読むことをお勧めする」といったものが散見されるのはそういった点もあるし、あとはそもそも完全に前作読了を前提として書かれていて、前作の真相が作中で平気で書かれているので、本作「ふたたび」を読んでから前作「カエル男」を読むことはホントにお勧めできない。
 さて、冒頭は前作の終わりの時点から始まるが、その後の展開は前作とそっくりで、酸鼻を極める惨殺が「カエル男」の犯行声明文と共に続く。前回と違うのは、前回は飯能市内に限られていた犯行が、他県や東京都にまで範囲を広げてしまったこと。警視庁との合同捜査本部が置かれた時には「ひょっとして〇〇刑事も登場するのか・・・?」とかなり期待したが、それはなかった。
 この事件に関しては渡瀬よりも古手川が奮闘するパターンも前作から踏襲されていて、そういう点ではちょっと既視感を感じるところもあった。
 真相は、真犯人は読めなかったものの、作中で犯人として追われている人物が当人ではないことはずいぶん前から気付いていたので、驚きはさほどでもなかった。
 氏の多くの作品に描かれる加害者の人権問題や憲法39条についての問題が色濃く描かれており、単なる謎解きだけではない、幅広い物語に仕上げられているのは相変わらずで、さすがだった。


No.581 6点 インド倶楽部の謎
有栖川有栖
(2019/01/05 10:30登録)
 無理に新進的な企みをせず、「事件が起こり、探偵役が真犯人を突き止めるフーダニット」というオーソドックスな本格ミステリを確実に提供してくれる点で、有栖川有栖は定期的に読みたくなる、拠り所のような存在である。私にとっては国内の本格派で最も信頼している作家だ。
 久しぶりの国名シリーズ長編である本編でも、火村&アリスの「腐れ縁」コンビの息も相変わらずで、安心して読み進められる。今回は、「前世にインドでつながりがあった仲間たち」だという7人の集まりにおいて、不可解な殺人が起こり、2人がその真相を探っていく。
 関係者からの聴取の中で交わされる輪廻転生談義、その中に垣間見える火村やアリスの死生観や人生観など、物語を彩る話題もそれぞれに面白く、久しぶりの探偵ものを楽しむことができた。
 ただ、最終的にフーダニットの形になってはいるが、(特に後半)捜査の鍵となるのはホワイのほうで、しかもそれがちょっと常識的には理解しがたい類のもので、あまりすっきりはしなかった。Whoを決め出す方の論理も私にはちょっと些末な、小粒なものに感じた。
 とはいえ、好きなシリーズことは全く揺らがなかった。


No.580 5点 スマホを落としただけなのに
志駕晃
(2018/12/31 13:36登録)
 現在映画になっている話題作で、知り合いも「面白かった」(本の方ね)と褒めるので読んでみた。
 よいのはリーダビリティが高く、サクサク読めること。ものの半日で読める。物語の筋が無駄なく書かれている感じの展開なので、ずっと話が動き続けていて、だから「一気読み必至」と評価されるのだろう。
 スマホ、アプリという、今や世に蔓延している現代的なツールを題材としているこうしたミステリは、出てきて然るべきモノだったのだろうと思う。たまにしか本を読まないような人でも手が伸びるような類のモノだと思うので、これをきっかけにミステリにハマってくれるといい。
 ハッキングやらなりすましやらの仕組みはほとんどわからないが、謎の本筋はそういうメカ的なものではない、通常の仕掛けだったのでよかった。
 ミステリの面白さとしては、平均的かな。


No.579 4点 ドッペルゲンガーの銃
倉知淳
(2018/12/30 22:56登録)
 各編のトリック自体はまぁ平均的でそこそこなのだが、何せ無駄に冗長。主人公の兄(警視庁捜査一課刑事)に先祖が憑依するという設定も、その前に主人公が的外れな推理をする件もすべて不要な脚色で、普通に描けばこんなページ数までいかない。
 それらが何かしらの伏線になっていたり、謎とは結び付かなくても何かしらを描いていたりするのであれば読んだ甲斐もあるのだが、基本的に真相までの間を持たせるような内容で、正直読むのが面倒だった。
 サクッと読めるモノだったらアリだったが、内容の割に文章の厚みが余分に思えてこの点数。


No.578 7点 能面検事
中山七里
(2018/12/30 22:48登録)
 大阪地検一級検事の不破俊太郎に事務官として仕えることになった新人・惣領美晴。だが、対面の初っ端から「辞めてくれ」という強烈な洗礼を食らう。思っていることがすぐに顔に出てしまう美晴に対し、周りの状況に一切左右されずポーカーフェイスで信念のままに突き進む不破。あまりに冷静・冷徹で、表情一つ変えない不破についたあだ名は「能面検事」。
 また面白いキャラクターが出てきた!立場は真逆だけど、キャラとしては「〇〇曲の〇〇」シリーズの御子柴礼司に近い気がする。
 「翼がなくても」では御子柴VS犬養の夢の対決があったが、それはどちらかというと「冷静・冷徹」VS「熱血」という分かりやすい構図だったので、シチリストとしてはがぜん「冷静・冷徹」同士の対決、御子柴VS不破をいつか…と期待してしまう。
 作品は相変わらずリーダビリティが高く、読み易い&厚みのある内容だった。


No.577 4点 少女を殺す100の方法
白井智之
(2018/12/30 22:29登録)
 とりあえずこの作者らしくグロい。スプラッタな内容でありながら、登場人物がそれにすぐ順応して、フツーにアリのような雰囲気で話が進んでいくやり方も「らしい」。
 自分はミステリというか、仕掛けられたトリックとしては「少女ミキサー」が一番よかったかな。その次は冒頭の「少女教室」。
 第二編以降、半身があざの「サトコ」という少女が通して登場してくるから、それにまつわる仕掛けがラストの話にあるのかと思ったけど…そうでもなくて残念。
 総じて、グロさで彩っているけど、ミステリの仕掛けとしては小粒な感じ。


No.576 7点 ミステリが読みたい!2019年度版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2018/12/23 20:53登録)
 特に「2019年度版」の書評にはならずに申し訳ないが…
 このランキング本の一番の好きなところは、当年に刊行された本の「目録」があること。あそこに丹念に目を通しながら、「これ読みたい!」と付箋をつけていくのが極上の楽しみなのである。
 あとこれれは完全に偏見かもしれないが、(出版社的に)海外翻訳作品のランキングの信用度が高い。欧米に限ることなく並べられている(自社出版びいきかもしれないけど…)ランキングに、かなり右往左往させられるのが楽しい。
 「どこよりも早いランキング」であるがゆえに、作品の最新度では他に劣る点もあるが、マニアらしさが出る点では評価している年間ランキング本である。


No.575 6点 このミステリーがすごい!2019年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2018/12/23 20:27登録)
 10年以上買い続けているのと、30過ぎで私をミステリの世界に改めて引き込んでくれたきっかけになった本として、ほぼ惰性で買っている。
 まったく2019年度版の書評になっていなくて申し訳ないが、このランキング本のいいところは、投票期限が遅いことによりより新しいランキングになっていること。つまり年末に近い刊行の本もランキング対象になっていて、他のランキング本では挙がっている作品が、「このミス」では前年度のランキングに挙がっていたりする。
 ただ今回は、創刊30周年を記念して、歴代ランキング作品からのベストを選んでいたり、別冊で創刊号(だったよね?)がそのまま付されていたりして、興味深い試みはいくつかあった。アイドルには全く興味のない私が、乃木坂48とやらの高山一実とやらがミステリファンと知り、「いい子ぢゃないか…」と思ってしまうのも、作戦にハマっているのか?
 そんなこんなで「とりあえず買っとくか」が今後も続いてしまうであろうことは予想に難くない。


No.574 5点 白墨人形
C・J・チューダー
(2018/12/23 20:11登録)
 1986年と2016年が交互に描かれる構成で、双方で事件の核心に迫っていくというパターン。
 チョークで描かれる棒人間のメッセージ、という物語の構えは期待感が高まるのだが、結果的にそれは付随的な脚色要素で、謎の核心には絡んでこない(つまりそれがなくても出来上がるミステリ)であったところが惜しい。
 (主人公も含めて)怪しげなミスリードがいろいろ張られているが、真相が明かされてみればそれらはすべて「思わせぶり」だっただけで、要は作者の脚色だったという感じ。雰囲気もいいし、読み進めやすかったのでこの点数だが、ミステリの仕掛けとして印象に残る作品とは言えなかった。


No.573 7点 そしてミランダを殺す
ピーター・スワンソン
(2018/12/23 20:02登録)
 これまでの諸表の点数に流されてしまった面は否めないが、面白いことは保証できる。それは、筆者のリーダビリティの高い文章力によるところが大きい。
 仕掛けとしてはさほど目新しさはないかもしれないが、ブッ飛んだ女の性根、偶然も相まって(犯罪が)上手くいってしまいそうな展開など、面白さが持続して読み進めてしまう力がある。特に最後のほうの、追い続けていた男の癖による救われ(かけ)かたは面白かったし、結局すべてが瓦解するラストも妙だった。
 女としてどっちが上手(うわて)か?みたいな後半は、多くの読者は心情的にリリーに味方する感じ?
 面白かった。


No.572 7点 翼がなくても
中山七里
(2018/12/15 10:15登録)
 犬養隼人と御子柴礼司の競演というのが、シチリストにとってはたまらない。

 ミステリの真相としてはいたってシンプルで、ネタだけで見れば短編でも収まりそうな内容だが、障害者アスリートやそれに貢献する科学技術研究をテーマとして物語を膨らませ、読み応えのある作品となっている。全て筆者の、巧みな人間描写をはじいめとした筆力の為せる技で、さすがである。

 沙良のライヴァルの多岐川早苗の、超然としたプロ意識がかっこいいと思った。


No.571 6点 女が死んでいる
貫井徳郎
(2018/12/15 10:04登録)
「女が死んでいる」…酔いつぶれて眠った次の日の朝、見覚えのない女の死体が部屋にあった。
「殺意のかたち」…公園で毒物によって死んでいた男。男は少し前に、クモ膜下出血で亡くなった別の男性に30万円という少なからぬ香典を送っていた。
「二重露出」…脱サラして開業した店の前の公園に居ついたホームレス。その悪臭により経営に支障をきたしていることに業を煮やした二人の店主。
「憎悪」…女性が契約的に付き合っているのはプライベートを一切明かさない男。その素性を探ると、有名ファッションデザイナーに結び付く。
「殺人は難しい」…夫はどうやら「ミホ」という女と不倫しているらしい。その殺害を決意した妻だったが―
「病んだ水」…産廃処分場の建設を進める社長の娘が誘拐された。だが、身代金の要求額は「30万円」。場違いに少額な身代金の意味は?
「母性という名の狂気」…いけないとわかっていながら娘への虐待をやめられない。その胸の内が語られている日記の真相。
「レッツゴー」…絶えず男に恋しては振られている姉を呆れたように見ていた妹。そんな妹がついに、自身の恋愛に目覚めた。

 叙述的な仕掛けにより、すべての話にいわゆる「どんでん返し」が仕組まれている。ああなるほど、と思えるものから突飛なもの、強引なもの、よく分からないものまでいろいろだが、平均的に楽しませてくれる一冊ではある。
「病んだ水」は様態的にはクリスティの某有名作に似ているが、トリックとして一番頷けた。「殺人は難しい」は、笑ってしまうようなネタだが、発想として面白かった。


No.570 6点 崩れる 結婚にまつわる八つの風景
貫井徳郎
(2018/12/08 16:42登録)
 著者初の短編集ということらしい。巻末には著者自身が「短編に苦手意識があった」と述べているが、もともと力量の高い作家さんだと思うので基本的に高質で巧みな短編だと思った。
 良かったのは表題作「崩れる」と2作目「怯える」。
 「崩れる」では、硬質な文体の文中で、夫のことを何度も「カス」と表現しているのがおかしくて仕方なかった(笑)。こういう類の作品ではしばしばでてくる「自分ではそう思っていないダメ夫」だが、ここまでの例は稀にしても、現実に結構近いタイプの男はいると思う。
 「怯える」は仕掛けとして一番よかった。この短編集中で唯一(じゃなかったかな?)問題が解決に向かう終わり方をしていて、ホッとした。
 劇的な満足感はないかもしれないが、サッと読めちゃうし、小粒な良作が揃っているので、長編を読む合間などにオススメ。


No.569 8点 あしたの君へ
柚月裕子
(2018/12/08 16:25登録)
 家庭裁判所調査官は、少年事件や離婚問題の背景を調査して、裁判官をサポートする仕事。望月大地は、この春に家裁調査官に採用され、調査官補として見習い期間中。「自分は本当にこの職に向いているのか」―常に疑問と不安を抱きながらも、担当された案件で当事者たちに真摯に向き合っていく。
 窃盗を犯した、家族でネットカフェに住み着いている17歳の少女。モトカノへのストーカー行為を犯した、品行方正な男子高生。傍から見るととりたてた問題は感じないのに、夫との離婚を強く望む女性。などの、それぞれの案件の裏にある、表面的には見えない事情や真相が、大地の調査によって明らかになっていくという連作短編集。
 はじめに調書を読んだだけでは見えなかった内部事情が、少しずつ明らかにされていく展開は「日常の謎」タイプのミステリになっていて、十分に面白い。題材が家裁調査官のため、どの話も必然的に「家族」を問う内容になっていて、人間ドラマとしても読ませる内容である。
 これ、シリーズ化してほしいなあ。かなり面白かった。


No.568 8点 連続殺人鬼 カエル男
中山七里
(2018/12/01 20:46登録)
 フックで顔面を貫通させられ吊るされた女、車のプレス機で圧縮され肉塊にさせられた男、五体をバラバラにされた上に臓器までバラバラにされた少年……と、酸鼻を極める連続殺人と、そこに残された「きょう、かえるを・・・」のメモ。
 こういう話、大好き。
 解説を読んで初めて知ったのだが、本作品は著者のデビュー作「さよならドビュッシー」とともに「このミス大賞」の最終候補に残ったのだとか。同作者の作品が最後まで残るのは異例のこと(そりゃそうだろう)で、最終的に「ドビュッシー」に軍配が上がったのだが、審査員の中にはこちらを推す人もいたそうで。
 このエピソードからも、中山七里の並外れた才能が窺える。
 
 何がどうなって、の仕組みはともかく、正直、真犯人は登場の時点でそうではないかと思っていた。そういう意味ではあたってしまった。だが、作中に挿入される過去の話の人物の正体には完全にヤラれた。「そういうこと!?ヤラれた!!」と思わず声に出して言ってしまった。
 ラストのオチも秀逸。始めから堂々と示されているのに、気付きそうで気付かない盲点を作る点で天才だと思う。
 とても楽しめた。


No.567 6点 ビブリア古書堂の事件手帖~扉子と不思議な客人たち~
三上延
(2018/11/25 18:41登録)
 五浦大輔と栞子が結婚して7年。二人の間には扉子(とびらこ)という娘ができ、ビブリア古書堂を営みながら生活している。扉子は栞子の素質(?)を受け継ぎ、幼稚園児ながら本を読みふける毎日。そんな扉子が手に取った本を見て、その本に纏わるエピソードを話して聞かせる、というスタイルで書かれている。
 このシリーズを読んできた人たちなら聞き覚えがある、坂口夫婦、志田、小菅奈緒などが次々に登場する。娘に話す話ということで、基本的にハッピーエンドのイイ話ばかりで、読後感もあったかい。
 坂口夫婦の第一話と、新しい話だったが第二話がよかった。
 今後扉子が成長して、「第二の栞子」のような話になっていくのだろうか。


No.566 5点 摩天楼の怪人
島田荘司
(2018/11/25 18:26登録)
 往年の大女優、ジョディ・サリナスが死に際に御手洗に残した謎。サリナスの女優としての成功譚は、その道を阻む邪魔者を排除する「ファントム」によって支えられ続けてきたのだという。さらに、数十年前に起きたプロデューサーの銃殺事件の犯人は自分だという。しかし、犯行のあった夜は停電中でエレベーターは動かなかった。1階のプロデューサーを殺害するには、30階以上上に住むジョディには階段で昇り降りするしかないが、ジョディのアリバイの空白は10分ほど。挑戦的にその謎を突き付け、ジョディは天に昇って行った―

 そこに住むブロードウェイ関係者が次々に殺されていく高層タワーマンション。ビル中のガラスが割れ、その時に転落死した建築家。そして、ジョディの不可能犯罪と、これでもかと不可思議な事件のオンパレードで、その解決はいかに図られるのか、期待と若干の不安をもって読み進めたが・・・結末は、「悪くはないけど目から鱗というほどでもない」といった感じ。
 事件の真犯人については「そうきたか」という思いはあったが、種々のトリックは、発想の面白さは認めるけどやはり「飛び道具」の感が強く、種明かしをされてもうなずくしかない。
 またこれまでの書評にもあるように、途中にあった「地下帝国」の話は何だったのか?伏線にするつもりで書いていたけど捨てたのか?最後まで何の関りもなく終わってしまって、非常に不思議だった。


No.565 5点 菩提樹荘の殺人
有栖川有栖
(2018/11/12 21:46登録)
<ネタバレの要素あり>

「アポロンのナイフ」
 犯人ではなく、第一発見者の行動を解き明かす話だった。その行動の動機に物語のテーマがある。面白い趣向だし、うまいと思った。

「雛人形を笑え」
 ネタとしては一番チープな感じなのに、なぜか一番印象に残った。

「探偵、青の時代」
 火村の学生時代を知る女性によって語られる、当時の火村の推理譚。そう思うと小ネタっぽいが、推理は非常にロジカル。(ただこんなツレがいたらちょっと息苦しいかな…とも思った)

「菩提樹荘の殺人」
 最近テレビで売り出し中のカウンセラーが別荘の池のほとりで殺された事件。警察が事件現場の池をさらって、いろんなモノが出てきてから一気にいろんなことが明らかになる急展開だった。


No.564 5点 UFO大通り
島田荘司
(2018/11/12 21:27登録)
 印象に残ったのはタイトル作よりむしろ「傘を折る女」の方だった。
 ラジオに投稿された不思議な女性の話。「ある雨の夜、ベランダから外を見ていたら、白いワンピースの女性が横断歩道に傘を置いて車に踏ませて折り、もと来た方へ帰っていった」。このエピソードを聞いた御手洗潔が、安楽椅子探偵よろしくその事情を推理し、ひいては殺人事件の真相を看破する。
 謎めいた冒頭に魅かれ、謎の女性側で描かれる事件の描写はスリリングで、単純に楽しんで読めた。傘を折ったあとのエピソードとそこからの御手洗の推理はちょっと偶然と一足飛びが過ぎる感はあるが、面白いのでまぁよい。

 表題作「UFO大通り」はもっと現実離れしてる感じだった。

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