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ミステリの祭典

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錆びた滑車
葉村晶シリーズ

作家 若竹七海
出版日2018年08月
平均点6.50点
書評数4人

No.4 6点 パメル
(2020/12/03 09:36登録)
私立探偵兼ミステリ専門古書店アルバイトの葉村晶が主人公を務めるシリーズ第三弾。
今回の仕事は、資産家の未亡人・石和梅子の尾行。最近の行動がおかしい、もしかしたら悪い人に騙されて、資産を巻き上げられてしまうのではと心配した息子からの依頼である。四十肩と老眼とひざの痛みに悩まされながら捜査を続ける女探偵。今回も散々な目に遭うが、自らの不運を嘆きながらも逃げずに立ち向かっていく。
尾行というありきたりな探偵仕事が意外な方向へ転がり、やがて奇妙な謎が現れるという掴みが良い。そこから葉村の眼前に広がるのは、人間同士のつながりが作り出した複雑なパズル。
「多くの人が自分なりの選択を済ませ、物語の歯車は回り始めていた」という冒頭の言葉通り、葉村の出会うエピソードの全てに意味があり、パズルを解き明かすための重要なピースになっている。この隙のないプロットが素晴らしい。謎解きファンを驚かせる仕掛けも、巧妙な伏線も決まっている。複雑すぎて分かりづらかったので読み返したりしましたが...。

No.3 8点 E-BANKER
(2020/03/28 21:24登録)
知らず知らずの間に人気沸騰した感もある(もしかして勘違い?)葉村晶シリーズ。
そういやあ最近某国営放送でまさかのドラマ化!しかも主演(ということは葉村晶)がシシド・カフカだって!(かなりのサプライズ)
文庫書下ろしで2018年の発表。

~女探偵・葉村晶は尾行していた老婦人・石和梅子と青沼ミツエの喧嘩に巻き込まれる。ミツエの持つ古い木造アパートに移り住むことになった晶に、交通事故で重傷を負い記憶を失ったミツエの孫・ヒロトは、なぜ自分がその場所にいたのか調べてほしいと依頼する・・・。大人気、タフで不運な女探偵・葉村晶シリーズ~

シリーズ開始時20代だった葉村晶もついに40代半ば。
世間並なら結婚して子供もできて家庭に落ち着いている・・・はずの年齢。
なのだが、実際の彼女は真逆。今回も依頼人、連続する事件や警官たち、そして無邪気な富山店長etcたちに巻き込まれ、疲れた体を引きずって都内を奔走することになる。
作者も人が悪いよなぁー。事件に関わった瞬間に、彼女の身には不幸が次々に降りかかってくるからなぁ。

今回もプロットの主軸は「家族の悲劇」なのだが、最初はこれが見えにくくなっている。
中盤から終盤にかけ、晶の行動(不幸?)により序盤からの伏線が回収されることで、この主軸プロットが読者の前に現れるようになっている。
冒頭から事件関係者が多いのだが、それも作者の計算のうち。
終盤には納得感のある結末に至る。

これまでも書いてきたけど、本シリーズは本当に面白い。
女性主人公のハードボイルドも結構増えてきたけど、少なくとも国内でここまで熟成させたシリーズはお目にかかれない。今回も期待に違わぬ良作。
作者の筆が乗ってる感が感じられるのも良い。
でもこのまま進んだら、彼女も50代突入? その前に何とか幸福が訪れて欲しいものです。
(「錆びた滑車」とはそういう意味だったのか・・・)

No.2 6点 HORNET
(2019/01/26 20:35登録)
 氏の作品はこれまでアンソロジーで短編を読んだことがあるだけで、長編は初めて読んだ。よってこれはシリーズものだが、初めて。
 葉村晶、カッコいいなあ。こういうシリーズにファンがつくのは分かる気がする。近ごろの映像作品でありがちな隙のないタイプじゃなくて、惑ったりグダったり失敗したりしながら、それでも泥臭く真相にたどり着く、親しみを感じるタイプ。そういう意味でのカッコよさがある。
 makomakoさんも書かれているように、密かに散りばめられた伏線を紡いで真相がスパークするという、非常に丁寧なミステリ。ただ、これもmakomakoさんが書かれているように、それがあまりにも葉村晶の日常捜査風景的に描かれている(伏線として上手すぎる?)ため、最後に引き合いに出されたときにはすでに覚えていない(笑)。登場人物も多めで、従妹とか甥、姪とかが出てくると関係がスッと描けず、何度かページを戻って確かめることも何度かあった。
 ともあれ女探偵・葉村の魅力には魅せられるシリーズだと感じた。

No.1 6点 makomako
(2018/11/03 08:13登録)
 葉村晶シリーズの最新作。このシリーズは次々と発行されるわけではなく、ぽつぽつとでも途切れることなく発表されています。地味目ですがファンがしっかりいるのでしょう(私もその一人です)。
 相変わらず葉村は貧乏で男の姿は見えません。素敵な女性なのにねえ。運は悪く今回はことにひどい。けがをして病院へ運ばれることも1度ならずあり、探偵の報酬より余分にお金を取られ、ぼろぼろのままで仕事に戻らざるを得ない。それを周囲にたたかれ、まことにお気の毒です。
 最後には真相に至るのですが、実に複雑なお話です。きちんと伏線も張ってある立派な本格物です。こういった本格物は登場人物、ことに探偵が異常な性格であることが多く、これが殺伐としたお話なのに現実感が乏しく、話として楽しめる一つの要素なのかもしれない。
 ところがこのシリーズは本格物なのに実に普通の女性が探偵なので、スラスラと読んで作者が工夫を凝らした(と思われる)伏線を読みとばしてしまう。再読にたえる良い作品と思います。

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