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ミステリの祭典

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感染領域

作家 くろきすがや
出版日2018年02月
平均点5.67点
書評数3人

No.3 7点 HORNET
(2019/02/18 21:51登録)
 トマト農業を話材にバイオテクロノロジーとその研究者を題材とした、アウトブレイクというかパンデミックというか、そんな感じの話(バイオサスペンスというらしい)。
 と書くと小難しいような印象をもつかもしれないが、少なくとも科学的な詳細をがんばって読まなければ理解できないような難解な話ではなく、むしろ初見の素人が「面白いなぁ」と感じながらそういう分野に興味をもてる上手なラインで話が進められている。科学的な説明は確かにあるが、きちんと理解せずに読み進めても大丈夫(ざっくりした枠組みだけなんとなく理解できていれば)。
 私は個人的に、ミステリにおける無駄な恋愛要素はあまり好まないのだが、この作品についてはリーダビリティを支える大きな要素だった。主人公の安藤は、以前大学内の不正研究を告発し、裏切り者扱いで閑職に追いやられている生殺し状態。安藤自身は卑屈になることなくそれを受け入れている風だが、当時付き合っていた現農水省の美人キャリア・里中しほりは今やそんな彼を完全に見下したような言動。しかしながら、要所要所では安藤への断ち切れない思慕を思わせる(あるいはただふしだらで奔放なだけ?)風があって、なんだかその展開からも目が離せなかった。
 裏で糸を引く黒幕も、事件の収束の仕方も結構ほぼ予想の範疇内ではあったという点ではミステリとしてのパンチは弱いかもしれないが、バイオを題材としてここまで面白く読ませる発想・構想力には素直に脱帽する思いだった。

No.2 3点 ねここねこ男爵
(2018/06/09 17:49登録)
なんとなくパラサイト・イヴを思い出してしまった。
その分野の専門の研究者が執筆していたあちらと比べて、本作は経歴を見るにそうではないようで、その分遺伝子関連部分は分かりやすいものになっている。

ただ、バイオテロの動機等々がありがちというか、単に道具を目新しいものにしただけで、話の展開などに斬新さは無かった。あーなってこーなってそーするんだろうな、と。あと、一時期そっち系の研究室に在籍していた経験から言うと、最後の解決策は学会はじめ各機関から猛反発を食らうと思う。そんなアプリの更新みたいに単純にはいきません。この指摘は野暮だとは思いますが。
また、登場人物が極めてテンプレ的というかアニメ的というか…主人公の身近に世界トップクラスの有能な人材が最初から揃いまくっており、彼らのスーパーな能力や装置で課題がサクサク解決していくので、主人公が攫われようが殴られようが基本的にどうでもよく、結果として危機感に乏しくカタルシスもなくスピード感に欠ける。一応最後のアイデアを出すのは主人公なのだが、これはそうしないと「なんでコイツが主人公なの?」って読者からツッコミが入るからだろうし。そもそも過去に内部告発をやらかした『札付き』の主人公に最重要機密を託すというのが意味不明だ。主人公にこれまでにない斬新な設定を与えようとしておかしくなったのか。

最後に…登場する女性キャラが理由なく主人公に好意を抱く展開、特に頭脳明晰容姿端麗エリート階級の元カノが主人公だけに依然ベタ惚れで各種世話をやいてくれていやーまいるぜという「別れはしたけど女はいまだに俺の事が好き、しかも女は『血統書』付き」パターンはオッサン世代のツボなんだろうか…

No.1 7点 makomako
(2018/04/21 18:53登録)
 この作品は第18回「このミステリーがすごい」の優秀賞受賞作品です。東大出身の二人でひとつのなまえの作者として応募したとのことです。
 さすが東大出身だけあって話の内容がインテリ風。ウイルスのお話が中心となるのですが、高学歴集団には変な人がいっぱいいるなあと思わせます。
 お話の内容はウイルス学の相当専門的なところまで踏み込んだものなので、ウイルス学に興味がある私にとってはなかなか面白い。そういうといかにも難しそうですが、全くこういったことがわからなくても楽しめると思います。
 登場人物のキャラが立っていてこれも興味深い。
 ことに女性の里中は切れて冷たく、しかも有能で特別の癒し方をしてくれる(読んでのお楽しみ)素敵な女性です。
 この人がかかわるお話を是非また読みたいものです。

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