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ミステリの祭典

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人間狩り

作家 犬塚理人
出版日2018年10月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 HORNET
(2019/01/27 19:42登録)
 20年前に起きた女児殺害事件の、犯行映像が闇オークションに出品された。その映像は、犯人以外は捜査関係者しか触れられる可能性はない。流出したのは警察関係者では?―人事一課監査係の白石は上司に命令され、内部捜査を開始する。
 一方、カード会社で督促の仕事をする江梨子は、電話で顧客に罵声を浴びせられるストレスのたまる日々。そんなある日、対応した客から「お前のせいで娘が自殺した」という電話を受ける。真偽を確かめたい江梨子は、その男を突き止めるが、娘がいることも自殺もおそらく嘘。本人は、生活保護を不正に受給し、薬の転売で小銭を稼ぎながらギャンブルや援助交際に明け暮れるクズ男だった。怒りを覚えた江梨子は、その悪行をネットに晒す。動画は警察が動くほど話題となり、男は逮捕。かつてない満足感を覚えた江梨子は、悪人を“炎上”させ懲らしめる〈自警団〉サイトにのめり込んでいく……。

 別々の場で展開していく物語が、20年前の事件で重なっていく。昨今よく見られる展開ではあるが、「これがどうつながっていくの?」と面白いことは変わらない。
 タイトルから猟奇的な内容を想像していたのだが、実際は「ネット上での私刑」という意味での「狩り」だった。だが、それはそれで面白かった(そのことに通じていなければ分からないような、難解な内容はない)。これからはこういうネット、SNSを舞台とした話がどんどん増えていくんだろうなぁ。
 謎の中心は、「犯行映像をネットオークションに挙げたのは誰か?」。当然始めは事件の犯人が疑われるが、そんな単純な話だったら小説にならないわけで、真相は20年前の事件からの裏事情が明らかになるにつれて分かってくる。
 読み易いし、興味も切れさせない、面白い話だった。

No.1 6点 虫暮部
(2019/01/11 13:16登録)
 第38回横溝正史ミステリ大賞優秀賞。
 古典的な命題と現代的な素材。突っ込みどころは色々あるが、1+1=3ぐらいにはなっている。しかし逆に言えば5とか10とかになるほど物凄い広がりは示していない。
 Yは命を賭す必要が有ったのか? Mは事後工作を自白したが、実は自分でHを殺したという可能性も否定出来ないのでは?
 スナッフ・フィルムの撮影・流通は刑法上、何罪に該当するのか?
 全体的に事態がスムーズに進み過ぎなのは、リアリティの退屈な部分を省いたってことでまぁいいか。 

 ところで、似た設定の先行作品が存在することを後日知った。“誉”の付く作家の“主”の付く作品。類似は一部分だけで、主題も方向性も違う。意図的な剽窃だとは思わないが、編集者が事前に知っていたら本書はボツだったんじゃないか。

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