インド倶楽部の謎 作家アリス&火村シリーズ |
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作家 | 有栖川有栖 |
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出版日 | 2018年09月 |
平均点 | 6.22点 |
書評数 | 9人 |
No.9 | 5点 | E-BANKER | |
(2022/11/17 14:14登録) 作者のシリーズでは最も著名な「国名シリーズ」。「モロッコ水晶の謎(2005)」以来長らくの中断があっての九作目となる本作。 この作品名は本家エラリー・クイーンも執筆を企図していたといういわく付きのタイトルということが作者あとがきにも記されている。 結構なボリュームの長編。2018年の発表。 ~前世から自分が死ぬ日まで・・・。すべての運命が予言され記されているというインドに伝わる「アガスティアの葉」。この神秘に触れようと、神戸の異人館街のはずれにある屋敷に「インド倶楽部」のメンバー七人が集まった。その数日後、イベントに立ち会った者が相次いで殺される。まさかその死は予言されていたのか? 捜査をはじめた臨床犯罪学者の火村英生と推理作家の有栖川有栖は、謎に包まれた例会と連続殺人事件の関係に迫っていく!~ うーん。思ったより評価は高いんだねぇ・・・ 今や特殊設定下でしか成立しなくなったかのような本格ミステリーに敢然と立ち向かっている感さえある作者。決して「日常の謎」などという手軽な(?)謎には陥らず、本格ミステリーの王道をひとり背負っているかのような状態(言い過ぎですか?)。 それは分かるのだが、個人的に本作は「いただけない点」が多いように思えた。列記するならば、 (1)長すぎる これは「無駄に」という言葉をつけてもよいように思う。もちろん長編なんだから、登場人物たちの人となりを十分に記す必要はあるのだが、それを勘案してもなぁー。ミステリーとしての「謎」や「仕掛け」の大きさと分量がマッチしてないと思えた。 (2)動機 これは他の方も書かれてるし、作者も「敢えて」「分かっていて」というところだろうから、多くは書かない。けど、突拍子もないことは明らかだし、読者の推理の材料としても弱い。 (3)フーダニット 犯人特定のロジックがあまりに弱過ぎでは? ある場所でのある偶然が真犯人特定のカギとなっているが、とてもではないが犯人特定の材料にはなっていない。(結局、犯人が簡単に自供を始めることで解決につながってしまった) あたりだろうか。 ただ、作者もそんなことを思われるのは百も承知で書いていることが「作者あとがき」に書かれていて、「それは好みの問題では?」ということらしい。 作者としてはあらゆるタイプの本格ミステリーを書きたいし、読者の評価が分かれることは全然かまわない、というスタンスのようだ。まぁそれは確かにそうだし、事実本作の評価は悪くない(らしい)。 前々から書いているとおり、個人的に「火村・アリス」シリーズとは相性が悪くて、「面白い」と思える作品に殆ど出会えていない。本作ではそのことをやはり痛感した次第。 でも、やはり作者は現在の本格ミステリーにおいては、並ぶところのない第一人者であるということは間違いないのだろうとは思う。 そんな信頼感、安定感を感じさせてはもらった。 でも、つぎは仲間たちに囲まれた関西圏ではなく、アウトサイダー的な環境に置かれる火村の姿を書いてほしいかな。 (本作は神戸の観光案内書的な役割もあり。いいよね、神戸の街は) |
No.8 | 6点 | 測量ボ-イ | |
(2022/08/06 09:36登録) 久々に氏の国名シリ-ズを拝読。 読めばわかりますが、これまでと比べるとやや異色の作品。 犯人の意外性もあり、それは特定するロジックは秀逸。 でも動機は理解不能ですかね 笑 |
No.7 | 4点 | ボナンザ | |
(2021/07/04 10:06登録) 最近は長めの傾向だが、書く内容の取捨選択ができていない感じが残念。 |
No.6 | 6点 | パメル | |
(2020/01/22 08:40登録) 臨床心理学者の火村英生と推理作家のアリスこと有栖川有栖のコンビが活躍する(国名シリーズ)と呼ばれる連作の九作目にあたる作品。 現実から夢想、そしてまた現実へ。そのような美しい弧を思い浮かべる謎解き小説で、本書の目玉は、物語の途中で明かされる「ある事実」。神戸の街を歩き回り、地道な調査を続ける火村とアリスに突き付けられるこの事実は、現実から幻惑的な空間へと飛翔させられることになる。 そして、この幻惑から現実へと着地していく推理場面もまた壮観。終盤において火村が展開するロジックの緊密さはシリーズの長所であるが、本書でも余詰めを排し、唯一無二の解答へと辿り着く過程に爽快感を覚える。 ただ、着想は素晴らしいが、ホワイダニットに関しては納得できない。 |
No.5 | 6点 | HORNET | |
(2019/01/05 10:30登録) 無理に新進的な企みをせず、「事件が起こり、探偵役が真犯人を突き止めるフーダニット」というオーソドックスな本格ミステリを確実に提供してくれる点で、有栖川有栖は定期的に読みたくなる、拠り所のような存在である。私にとっては国内の本格派で最も信頼している作家だ。 久しぶりの国名シリーズ長編である本編でも、火村&アリスの「腐れ縁」コンビの息も相変わらずで、安心して読み進められる。今回は、「前世にインドでつながりがあった仲間たち」だという7人の集まりにおいて、不可解な殺人が起こり、2人がその真相を探っていく。 関係者からの聴取の中で交わされる輪廻転生談義、その中に垣間見える火村やアリスの死生観や人生観など、物語を彩る話題もそれぞれに面白く、久しぶりの探偵ものを楽しむことができた。 ただ、最終的にフーダニットの形になってはいるが、(特に後半)捜査の鍵となるのはホワイのほうで、しかもそれがちょっと常識的には理解しがたい類のもので、あまりすっきりはしなかった。Whoを決め出す方の論理も私にはちょっと些末な、小粒なものに感じた。 とはいえ、好きなシリーズことは全く揺らがなかった。 |
No.4 | 8点 | 虫暮部 | |
(2018/12/10 11:24登録) 諸々の要素がバランス良く配された佳品。花蓮のまっすぐなキャラクターが良い。 気になったのは、探偵事務所のパソコンに壊されたものとそうでないものがある点。情報が共有されていないと犯人が信じる理由は無い。 そして動機。そうきたかと驚きつつ何か既視感がある。これって'90年代の長編『G***』の鏡像では? |
No.3 | 7点 | 青い車 | |
(2018/11/23 18:53登録) 「前世」をキーワードに毛色の違う展開を見せる異色作かと思いきや、相変わらず論理への執着も忘れない安定の火村シリーズです。今回は登場人物の意外な過去を掘り出すと同時に、動機と機会に焦点を当てた推理が冴えます。思えば犯人の最大の条件は最初から書かれていた訳で、さりげなく伏線も周到な力作となっています。 |
No.2 | 7点 | makomako | |
(2018/10/20 20:26登録) 国名シリーズは短編集が多いようですが、これは長編小説です。読みごたえは十分にあり、最近の作者の充実ぶりを裏切らない出だしです。 全体によくできた小説と思いますが、私にとっては信じがたい理由での解決、名探偵火村自身も全く信じていない理由による解決には違和感を感じました。 すべての可能性を否定しないのが科学的といえるとは思うのですが、ここまでとなるとちょっとねえ。 でも力作であることは間違いなく、かなり楽しめました。 作者への希望。 これほど力が充実しているのですから是非学生アリスシリーズの完結編をお願いしたいですね。 |
No.1 | 7点 | ボンボン | |
(2018/09/17 11:22登録) 火村と作家アリスの長編で、久しぶりの国名シリーズ。舞台は、異国情緒をたっぷりデコレートされた神戸だ。 基本中の基本といえる、火村とアリスが警察の捜査に乗っかりながら刑事のように走り回るタイプの作品で、前半などは、ほとんど兵庫県警祭りの勢いでガミさんや遠藤刑事が活躍するのが楽しい。 犯人の絞り込みは、丁寧な捜査の中で行われ、謎解きもきちんとされているが、今回は珍しくアリスではなく火村による動機の心理の解明に力点が置かれているようだ。醜悪な犯罪を厳しく糾弾する、というのではなく、「ふわふわした妄想」の中を泳いで答えを探すような変わった味わいの捜査となり、常識外れの解答を手にする。まさにインドのお香に酔う感じ。 アリスに「過去に囚われた心を自由にする」悟りが衝撃的に訪れる場面が感動的だった。これだから有栖川有栖はやめられない。 余談だが、火村とアリスが確実に見えない年齢を重ねているのをはっきりと感じる。若々しい躍動感は見えなくなり、どんどん老成していく。それはそれで全く悪くないし当たり前なのだが、不安げで心細いようなダメさ加減も好きだったので、少し焦る。過去の作品を総ざらいで振り返ったり、火村とアリスのテーマにも整理がついてきたりするものだから、途中で、まさか!最終回?などと心配してしまったが、あとがきにちゃんと「これからも」とあったので、ひと安心。 |