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ミステリの祭典

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HORNETさんの登録情報
平均点:6.32点 書評数:1163件

プロフィール| 書評

No.823 8点 六人の嘘つきな大学生
浅倉秋成
(2021/08/11 16:58登録)
 就活中の大学生・波多野祥吾は、大人気IT企業「スピラリンクス」最終選考に残った。最終選考の課題は、祥吾を含めた残った6人でのディスカッション。「全員合格もある」という人事部の言葉を受け、皆で内定をとろうと協力する6人だったが、試験日前日、突然会社から連絡が。それは、急遽採用が「1人」になり、ディスカッションの課題が「自分たちで1人の内定者を決めること」になったという衝撃の知らせだった。突如「ライバル」になってしまった6人。試験会場で待ち受けていたのは、6人の過去の罪を告発する怪文書だった――。
 告発文を仕掛けた「犯人」は誰なのか?限定された空間で繰り広げられるフーダニットの面白さもさることながら、物語には「わずかばかりの筆記と、数十分の面接、ディスカッションで人の本質など見抜けるのか?」逆に「パンフレットや表向きの説明だけで、企業の何が分かるのか?」といった、「就活とはいったい何なのか?」を問うテーマ性がある。
 試験当日のディスカッションで互いの信頼が揺らいでいく様子と並行して、「合格者」が数年後に関係者にインタビューする様が描かれていく。最後に明かされる真相も見事で、とても楽しめる一冊である。


No.822 4点 最後の一撃
エラリイ・クイーン
(2021/08/11 16:40登録)
 クリスマス休暇の12日間、毎晩謎の人物からプレゼントとカードが届けられ、その内容が次第に不穏なものになっていく・・・という展開自体は面白いのだが、なんといっても結末が△。隠れた双子の存在という明らかに「偽」と分かる誘導もあざとかったが、最大の謎であるカードに隠されたメッセージについては、あまりにも凝りすぎている上に、知識に拠るところが大きすぎて…。こういう「分かる人は分かる」みたいなのじゃなく、「気付いてみれば、誰にも分かるはずだった」盲点を突くのが本式じゃないかと思うのだが。


No.821 6点 オクトーバー・リスト
ジェフリー・ディーヴァー
(2021/07/31 22:15登録)
 ガブリエラは、秘密のリスト「オクトーバー・リスト」と多額のお金を引き換えにと、娘を誘拐された。警察には真相を通報はできない中、協力してくれる仲間と誘拐犯との交渉に。しかし物語は最終章から第1章へ逆をたどっていくという前代未聞の構成で、本事件の真相が時間軸を遡って次々に明らかにされていく。そして最後の(?)第1章―「そういうことだったのか!」
 試みとしては面白いが、通常のミステリにおける推理もいわば「起こったことを逆に辿って真相にたどり着く」過程を描いているわけで、それを「推理」ではなく純粋な「種明かし」にしているだけとも言える。細かい展開においていつも結果が先に来て、そこまでの過程がそのあとに描かれるので、単純に読みにくさもあった。
 とはいえラストでは、冒頭から見えていたものが全く違った意味をもつように覆され、巧みな仕掛けは作者らしさを感じた。


No.820 6点 死んだレモン
フィン・ベル
(2021/07/31 21:49登録)
 交通事故により下半身の自由を奪われ、車椅子の身となったフィン・ベル。物語はフィンが、崖で宙づりになっている絶体絶命の現在から始まる。そこから、人生をやり直すつもりでこのニュージーランドの片田舎にやってきた数か月前からの回想が描かれ、過去の事件に巻き込まれていったストーリーが展開される。
 田舎の漁村という閉鎖された人間関係の中で、昔起きた幼女誘拐殺人事件。真犯人は囚われないまま現在に至り、村人はそのことから目を背けるように生きているが、村人と交わりのない変人、ゾイル兄弟の仕業だと皆が思っている。そんなゾイル兄弟の隣人となった主人公は、その理不尽な振る舞いが許せず、村人に止められつつも戦いを挑もうとする。
 牧歌的な舞台で繰り広げられる陰湿な探り合いは、往年の海外ミステリの雰囲気に似ていて興趣深かった。真相がどうなっているのか皆目分からないまま進んでいく中盤は少し退屈だったが、そのぶんラストへの期待は高まり、それなりの意外な真相が用意されていたのでまずますの読後感だった。


No.819 6点 神の悪手
芦沢央
(2021/07/22 17:35登録)
 棋界を題材にした短編集。この人にはこんな引き出しもあるのか、と感嘆した。
 正直将棋には全く詳しくないので、詳しい人のように将棋的に楽しめたわけではないが、一つ一つの「手」がそんなに分からなくても十分楽しめる。それは言い換えれば将棋の仕組みが謎に絡んでいるわけではないということなので、将棋好きな人には不満な点になるかもしれないが(特に「弱い者」「ミイラ」などは。)
 ラストの「恩返し」は駒師の話で、個人的には面白かった。


No.818 8点 invert 城塚翡翠倒叙集
相沢沙呼
(2021/07/22 17:24登録)
 2019年のミステリ界を揺るがせた名作「medium」の美少女霊媒探偵・城塚翡翠再びの登場。今度のは犯行場面が先に描かれる倒叙式の中編3編。翡翠が犯人を追い詰めていく過程で、何を手がかりにしてどんな推理をしたのか、読者は推理させられる。
 2作目にしていきなり「警部補 古畑任三郎」のオマージュになっていて笑えた。「よろしいですか、よろしいですか」といった語り口調もおそらく意識していて、読んでいるうちに頭の中で田村正和の声が重なって聞こえてきた(笑)
 犯人が遺した微細な手がかりや、綻びをとりあげ、ラストで論理的に追い詰めていく展開は見もの。とはいえ今回はオーソドックスな倒叙モノか、と思わせておいて…読者をあっと言わせる仕掛けは健在だった。


No.817 7点 平成ストライク
アンソロジー(国内編集者)
(2021/07/10 22:23登録)
 激動の昭和が終わり、バブル経済の熱冷め止まぬうちに始まった平成。福知山線脱線事故、炎上、児童虐待、渋谷系、差別問題、新宗教、消費税、ネット冤罪、東日本大震災―平成の時代に起こった様々な事件・事象を、九人のミステリー作家が各々のテーマで紡ぐトリビュート小説集。(Bookデータベースより)
 平成に起こった事件や、平成の風俗事情を下敷きにして描かれた各短編は、平成時代を生きてきた人間にとってはそれだけで面白い(「白黒館の殺人」だけはあまりその色を感じなかったが…)。さらに今を時めく豪華な作家陣でもちろんミステリとしてもなかなか。
 令和を迎えた今(とってももう3年だけど)読むのがオススメ。


No.816 6点 そして、海の泡になる
葉真中顕
(2021/07/10 22:09登録)
 バブル期に株取引で無類の強さを見せ「北浜の魔女」と呼ばれた朝比奈ハル。しかしバブル崩壊後、史上最高額の負債を抱え、ハルは自己破産し、最後には人を殺めて入獄、平成が終わる年にひっそりと獄死した。
 その生涯を小説に書こうと決めた"私"は、生前の姿を知る関係者に聞き取りを始める。戦後、バブル、コロナ……日本社会を鋭く描く、社会派ミステリー。
 バブルに浮かれた平成の時代を舞台としながら、そこに跋扈するキナ臭い人々とその中で生き抜く女性の姿を描いた一作。「Blue」でも感じたが、平成という時代の社会風俗の様相をリアルに描く氏の作風には非常に好感もてる。
 "私"が取材を重ねていくドキュメンタリータッチで展開されながら、ラストにはミステリとしての仕掛けも施されており面白い。


No.815 8点 告解
薬丸岳
(2021/07/10 21:43登録)
大学生の翔太は、飲み会後に彼女に「今すぐ来てくれないと別れる」とメールを受け、飲酒運転で向かう途中に一人の老女を撥ね、命を奪ってしまうが、そのまま走り去る。ひき逃げ犯としてすべてを失った翔太は4年の服役となり、刑期を全うするが、出所後に待っていたのは被害者の夫である法輪二三久との意外な出会いだった―
 最近よく見られる、犯罪被害者と加害者とのやりとりを描いた作品だが、非常にひねりのある面白い展開で、読まされた。読後感もよく満足できた一冊。


No.814 4点 我らが少女A
高村薫
(2021/07/10 21:33登録)
 風俗に勤める若い女性が同棲中の彼氏に衝動的に殺された。その事件自体は、すぐに犯人が捕まり、問題なく処理されていくのだが、その際に殺された女性が数十年前の未解決事件の関係者だと分かり、新たな事実が。それは現在は警察学校の教官を務める合田雄一郎の、痛恨の未解決事件だった。
 各レビューを見ると、ファンにとっては非常に作者らしい作品でよいとのことだが、そうでない私にとっはただただダラダラと長く、しかも結末も「???」な感じで消化不良だった。


No.813 8点 うるはしみにくし あなたのともだち
澤村伊智
(2021/06/20 20:52登録)
 四ツ角高校3年2組カーストの頂点、羽村更紗が突如自殺した。葬儀は彼女の顔が隠されたままという不審な様子で行われた。すると彼女の死をきっかけに、次々女生徒が見えない力によって容姿を傷付けられていく。担任の小谷舞香はこの異変の真相を探るうちに、学校に伝わる怪伝説を知る。それは、カースト下位の女子が「ユアフレンド」というおまじないにより、上位女子に復讐をするというおまじないの存在だった――。
 リア充女子が実権を握り、不器量な女子は忸怩たる思いでその下に甘んじるという、スクールカーストを題材にしたホラー・ミステリ。昨今のイヤミス系でよく見る舞台ではありながらも、ホラー的な臨場感・疾走感と、「呪いをかけているのは誰なのか?」というフーダニットの魅力とが掛け合い、非常に魅力的な作品だった。
 


No.812 7点 エンデンジャード・トリック
門前典之
(2021/06/20 20:25登録)
 長野縣松本市にある名家、宇佐美家が所有するゲストハウスで、ある男の転落死が起きた。事件は雪の降る夜だったのに、まるで天から落ちたように足跡が一切ない。翌年には、本館で男の首吊り死体が。事故・自殺で処理された両件だったが、さらにその5年後、同じ場所で立て続けに殺人事件が起きる―
 不可能犯罪の状況がこれでもかと次々に繰り出され、覚えきれないほど謎が謎が積み重ねられていく。そのうえ真相は…バカミスともいえるような突飛さだが、嫌いではない。氏の得意とする建築系のトリックではあるが、適宜図も挿入されていて、「マニアックな専門分野のトリック」でもない。結局作品全体で6件の殺人が起きるのだが、その山盛りな展開を収斂させる終末と、そこまでに散りばめた伏線は見事で、本格ミステリとして十分に楽しめた。


No.811 7点 救いの森
小林由香
(2021/06/20 20:10登録)
 児童保護救済法が成立し、義務教育期間のすべての子どもに「ライフバンド」の着用が義務づけられた。危険を感じた子どもが起動させればすぐに駆け付け、その保護と対処をするのが「児童救命士」。新米児童救命士の長谷川は、直属の上司・新堂に不満を感じながらも、「子どもを救いたい」という使命感に燃え、緊張と不安の中業務にあたる日々。するとある日、わざとライフバンドの警告音を鳴らす少年と出会う……。
 児童虐待やいじめといった今日的なテーマを題材とし、子供の言動に謎をはらませて展開される各編は読み手を惹きつける。謎解きだけでなく、長谷川が一見やる気のなさそうな上司・新堂の真意を知り、次第に強い絆を作っていく過程や、長谷川を取り巻く職場の面々の姿も小気味よく、非常に読後感が良い。
 面白かった。


No.810 6点 Iの悲劇
米澤穂信
(2021/06/20 19:56登録)
 南はかま市に吸収合併された山あいの小さな集落、簑石。6年前に滅びたこの場所に人を呼び戻すための「Iターンプロジェクト」を請け負うのは市役所「甦り課」。課に配属された万願寺邦和は、「出世街道から外されたのか…」とため息をつきながらも、成果を上げるために蓑石への定住者を増やそうと奔走する。しかし新しい居住者の間にはトラブルが絶えず…
 コージー以外の筆者の作風とタイトルから、重厚なミステリを想像していたが、雰囲気は違った。時折ユーモアを交えながらの連作短編。とはいえ、せっかく移住してきた住民が次々と離れていく過程で次第に不穏な空気は増していき、最後には全編を貫くどんでん返しが用意されている。
 想像していた雰囲気とは違ったが、十分に楽しめる一冊だった。


No.809 7点 The Best Mysteries 2020
アンソロジー(出版社編)
(2021/06/13 11:55登録)
矢樹純「夫の骨」・・・結末のひっくり返し方はなかなかのもの。
秋吉理香子「神様」・・・著者らしい作風。短編らしい巧みなまとめ方。
木江恭「さかなの子」・・・善人らしさを装っている人の本質にも踏み込んだ佳作。
近藤史恵「ホテル・カイザリン」・・・熟年女性の偏った世界観。
櫻田智也「コマチグモ」・・・おなじみおとぼけ探偵・魞沢泉の推理譚。
知念実希人「傷の証言」・・・精神鑑定医の見事な推理と、心温まる結末◎
真野光一「ウロボロス」・・・中途半端な結末にモヤモヤ。
薬丸岳「嫌疑不十分」・・・人物像のどんでん返しだが、うすうす分かっていた。

どれも一ひねりある良作ぞろいで、お得な一冊だと思う。


No.808 5点 或るギリシア棺の謎
柄刀一
(2021/06/12 17:21登録)
 短編集「或るエジプト十字架の謎」に続くシリーズで今回は長編。
 南美希風とエリザベスの2人に縁の深い篤志家・安堂朱海の訃報が届いた。多くの会社をもつ企業グループのトップである安堂家は、装飾や習慣の諸所にギリシア様式を取り入れている風変わりな実業家一族。高齢であった朱海の死に悲しみを抱えて出向いた2人だったが、朱海の死に際して発見された謎の脅迫状が、自殺あるいは他殺の疑いを生むことになり―
 作者らしい、精緻なロジックによる丁寧な進め方が本長編ではまどろっこしさに。劇場的な展開でもない中で、この長さで興趣を維持し続けるのは難しかった。前回の短編集の方がよかったかな。


No.807 7点 白昼の死角
高木彬光
(2021/06/12 17:04登録)
 こういう戦後間もない頃を舞台とした話は、なんか力がある。ましてや「光クラブ事件」という、実際にあった東大生による金融の事件がモデルとなっているとあっては…良くも悪くも、この時代にはパワーがあるなぁ。
 基本的には天才的知能犯・鶴岡七郎が犯罪を企て、警察の目をかいくぐりながら実行していく展開の繰り返しなのだが、その時代らしいバタ臭い犯罪の在り様が面白く、今読んでいても全く飽きない。ビル内にあるオフィスを密かに(かつ堂々と)利用してしまう手口や、銀行のロビーを拝借した手口など、何気ない風景の盲点を突いたトリックは感嘆に値する。
 著者の名作に数え上げられるのも納得した。


No.806 5点 探偵Xからの挑戦状!
アンソロジー(出版社編)
(2021/05/23 19:50登録)
 ものすごく評価が低いね。3人の方が書評して、平均2点台ってスゴくない?(私が書評するまで)
 私はちょっとしたクイズ本ぐらいの感覚でそれなりに楽しめました。そもそもこういう企画ものは、作家の方々も小ネタを出すぐらいの熱量しかもてないんじゃないかとも思うし…まぁ、だからこそ多少無理のあるトリックもあるのは否めないが。
 とりあえず「Season 2」も読もうと思えるぐらいの引きはあった。


No.805 7点 日没
桐野夏生
(2021/05/16 20:08登録)
 小説家・マッツ夢井のもとに、「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る政府組織からの召喚状が届いた。出頭先に向かった彼女は、断崖に建つ海辺の療養所へと強制的に収容される。そこで待っていたのは、マッツの書く小説を社会悪と断じ、「更生」と称して服従を誓わせようとする軟禁生活だった。脱出を試みるマッツの孤独な闘いの行く末は―。

 人の俗的欲求や汚れを一切許容せず、非現実的な潔癖さを求める不寛容な現代社会や、その風潮を利用して従順な国民をつくり上げようとする政治への、アンチテーゼとも受け取れる本作。主人公・マッツ夢井の慟哭は、ご都合的な正義主義に息苦しさや怒りを感じている人たちには共鳴するのでは。
 「粛清」を大義名分として、社会で成功している人間たちへの日ごろの妬みややっかみをぶつける療養所の職員は、「自分正義」を振りかざして日ごろの鬱憤をネットで書き散らす人たちに重なるものがある。
 組織への反抗と従順を繰り返すマッツの行く末が非常に気になって一気に読んでしまったが、結末は……賛否が分かれるところだろう。


No.804 7点 雪に撃つ
佐々木譲
(2021/05/15 19:16登録)
 翌日から雪まつりを控える札幌。盗犯係の佐伯と新宮のコンビは、自働車窃盗事件の捜査に。機動捜査隊の津久井卓は、住宅街で起こった発砲事件の現場へ。一方、生活安全課の小島百合は家出少女が札幌に向かっているという電話を受け、動く。

 それぞれの管轄で動いている案件が、やがてつながりを見せ、一つに収束していくというのは本シリーズでもはやパターン化しているといってもよいが、そこに強引さは感じられず(それらに佐伯、小島、津久井が上手いこと関わるという点はあるが…まぁシリーズものだしそれは物語として当然)、相変わらず巧みな展開。ただ、3本の線が入れ代わり立ち代わり描かれるので、混乱しやすいというのはある。
 本シリーズの複線として、佐伯と小島の関係の進展もあるのだが、ラストにはこちらにも展開があり…
 やや複雑な本作ではあったが、シリーズ愛好者としては満足。

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