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ミステリの祭典

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神の悪手

作家 芦沢央
出版日2021年05月
平均点5.50点
書評数8人

No.8 4点 ミステリーオタク
(2024/11/14 21:12登録)
 将棋をテーマにした5つの話を収録した短編集。作者は三十代女性。(失礼。まぁ許してくれ、後輩君)
 
 《弱い者》
 将棋の対局を通して大災害被災地での弱者の窮状を浮き彫りに。

 《神の悪手》
 シュールなオープニングも、割とありがちな途中のミステリ展開も悪くはないが、エンディングもそうエシカルにせずにもっとミステリにしてほしかった。タイトルからイメージされるようなスケールの大きさがあるわけでもないし。

 《ミイラ》
 人間社会のルールの根源に関する考察を提示したのだろうが、これはある程度以上将棋、特に詰将棋を理解していないと作者の出したかったテイストが十分には伝わらないだろう。まぁ伝わったところで大して面白いとも思えないが。

 《盤上の糸》
 本作の大半を占める対局シーンはやたらと抽象的な描写が多く何を言っているのか、何を言いたいのかよく分からなかった。

 《恩返し》
 最終話は将棋の駒を作る駒師の体験、視点を通しての勝負の物語。どの世界にもある優劣、葛藤、成長、師匠越え、悟りなどについて語られる。


 全て将棋を媒体にしてのヒューマンドラマだが、将棋をモチーフにすることへの拘りが強すぎて個人的にはいつもの「芦沢ショートミステリ」の妙味があまり感じられなかった。しかし作者自身そんなことは百も承知で「面白いミステリ」を犠牲にしてでも挑んでみたかった新境地だったのだろう。

 ところで文庫の帯にコメントを寄せている羽生さん、ホントに読んだんですか?

No.7 6点 ぷちレコード
(2023/07/01 22:18登録)
東日本大震災を背景に、若い才能について棋士が「好ましからざる状況」を見抜き、さらにある選択を迫られる第一話や、駒を選ぶ際に棋士が心変わりした謎を探る第五話など、将棋が題材の五編を収録した短編集。
ミステリ味の濃淡はあれど、各編の主人公が読み手の心に入り込んでくるため、読者はまさに当事者として悩むことになる。その刺激は抜群に鋭利。決断に至る道筋の意外性もある。

No.6 5点 パメル
(2023/04/04 07:10登録)
将棋の名人がAIに敗れて久しい。しかし、天才棋士・藤井聡太が出現し、胸のすくような快進撃により将棋界が何度目かのブームを迎えている。そんな将棋をテーマにした五編からなる短編集。
「弱い者」東日本大震災の復興支援行事における指導対局を描く。覚束ない手つきながら急所を突く指し手に、北上八段は少年の才能を感じ取る。だが最終盤になり、少年は簡単な読み筋を逃し、混沌した局面になっていく。これはいくらなんでも無理がある。
「神の悪手」プロ棋士の養成機関である奨励会が舞台。先輩から教わった棋譜と全く同じように進む奇跡的な展開に直面したことから、ある選択を迫られる。将棋の心理に外れる行為との背反に悩まされる主人公の心情をえぐった犯罪小説である。これがベスト。
変則ルールの詰将棋と投稿した少年の数奇な生い立ちを結び付けた「ミイラ」。タイトル戦を舞台に、対局者の内面を穿つ「盤上の糸」。駒師の矜持と悩みと同時に、ベテラン棋士のそれも浮き彫りにする「恩返し」。
収録された五編の切り口は様々ながら、いずれの物語にも作者ならではの伏線が張り巡らされている。ミステリ要素が将棋の持つ計り知れなさと響き合い、独特の味わい深さがある。将棋という一つの世界を描きながら、叙述ミステリ、暗号解読などバラエティに富んでいる。

No.5 6点 測量ボ-イ
(2022/11/13 17:11登録)
将棋を題材とした短編集。
○○薫氏の「日常の謎」、将棋版と言った趣き。
楽しめはしましたが、専門用語とかもあって、将棋がわからない人には
少々キツイかも。
他の方も言及されてますが、この作家さんは引き出しが多そう。
将棋ミステリは過去にもありますが、女性の作家でここまで書ける人は
なかなかいないのでは。

No.4 4点 E-BANKER
(2022/02/25 21:00登録)
藤井聡太“五冠”誕生の大ニュースが駆け巡った昨今。ちょうどいい時期に本作を手に取ることに。
どちらかというと「イヤミス系」作品が多い作者が手掛ける「将棋」テーマのミステリ短編集。
2021年発表。

①「弱い者」=東日本大震災での避難所を思わせる場所でのボランティア対局。対局者は小学生で飛車角落ち戦。プロ棋士からすれば軽~く捻れる相手と思いきや、鋭い手を続けてくる事態に。熱戦が続くなか、対局者のある秘密が明かされるとき・・・。いくら小学生とはいえ、目の前にいる相手だし分かるんじゃないかなぁ
②「神の悪手」=少年時代「将棋の神童」と呼ばれ、奨励会に入会した少年。でも、奨励会には全国から「神童」たちが集まってくるわけで、徐々にメッキが剥がれてしまう、窮地に陥った男が嵌まってしまう陥穽。こういう状況ではまともに将棋なんか指せないでしょう
③「ミイラ」=これは変わった状況だ。詰将棋がテーマになるのだが、詰将棋のルールが分からない人には伝わりずらいだろうな。投稿された詰将棋の謎が相当「重い」。
④「盤上の糸」=幼いころ頭の中に障害を負ってしまった少年。両親を亡くした少年を育てたのはプロ棋士だった祖父。祖父の遺志を継いで、少年も棋士となる。障害のためか、普通の棋士とは異なる雰囲気を纏った少年が運命の対局に挑む。
⑤「恩返し」=終編は棋士ではなく「駒士」(将棋の駒を作る人)にスポットライトを当てる。駒も一流のものは相当価値があるらしいからね。こういう世界もあるんだな。

以上5編。
なんていうか、ひじょーに「渋い」作品に仕上がってる。
どちらかというと流行りのイヤミスやちょっとホラーがかった作品を書いてるイメージの作者の作風からはかなり遠い作品集という印象。それが、作者の懐の深さという感想につながるかというと、どうもそんな感じではない。
確かに印象深い作品もあるにはるんだけど、とにかく重い作風は読者を選びそうだ。
せっかく藤井君のお陰で将棋界にも新風が吹いてるのだから、従来とは違うイメージの作品でもよかったと思う。

ミステリー的なガジェットも殆ど含んでないので、その辺にも期待はせぬよう。もうちょっとどうにかならなかったのか?それが偽らざる感想かな。
(個人的ベストは・・・うーん。特になし)

No.3 6点 まさむね
(2021/08/14 18:18登録)
 将棋をテーマにした短編集。結構裾野が広い作家さんなのだなぁ…というのが第一印象。でも、ちょっと意図を掴み切れない短編もあったりして、個人的にはちょっと消化不良な感じも受けたかな。

No.2 6点 HORNET
(2021/07/22 17:35登録)
 棋界を題材にした短編集。この人にはこんな引き出しもあるのか、と感嘆した。
 正直将棋には全く詳しくないので、詳しい人のように将棋的に楽しめたわけではないが、一つ一つの「手」がそんなに分からなくても十分楽しめる。それは言い換えれば将棋の仕組みが謎に絡んでいるわけではないということなので、将棋好きな人には不満な点になるかもしれないが(特に「弱い者」「ミイラ」などは。)
 ラストの「恩返し」は駒師の話で、個人的には面白かった。

No.1 7点 sophia
(2021/07/11 00:19登録)
●弱い者 6点・・・そんなボランティアが本当にいるんですかね
●神の悪手 9点・・・文字通りの将棋ミステリーで完璧な作品
●ミイラ 5点・・・死生観と詰将棋の関連付けが無理やりに感じます
●盤上の糸 4点・・・何を表現したかったのか分からない。叙述トリックも不要
●恩返し 8点・・・タイトルも伏線

表題作「神の悪手」は一文が短くテンポのある筆致が主人公の心境のめまぐるしい変化とシンクロしており、アリバイ作りと棋士としての矜持がせめぎ合う展開も斬新で、かなり読み応えのある作品に仕上がっています。
将棋をテーマにした連作短編集としてはあまり成功しているとは言えないのですが、何しろ表題作が素晴らしいので、そのためだけにでも手に取る価値のある本だと思います。

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