home

ミステリの祭典

login
Iの悲劇

作家 米澤穂信
出版日2019年09月
平均点6.42点
書評数12人

No.12 5点 mozart
(2023/09/29 07:36登録)
最後のIの「喜劇」は確かに意外なオチというところなのでしょうが、「深い沼」で主人公に共感できたせいか、読後感は少し悪くなりました。

No.11 6点 E-BANKER
(2023/08/13 13:22登録)
~山間の小さな集落「蓑石」。六年前に滅びたこの場所に人を呼び戻すため、Iターン支援プロジェクトが実施されることになった。業務に当たるのは「蓑石」地区を擁する南はかま市「甦り課」の三人・・・~
作者の”多芸多才さ?”を示すかのような、一風変わった連作ミステリー。単行本は2019年の発表。

①「軽い雨」=本格的な移住プロジェクト開始前に移住してきたふた家族。ひと家族はラジコンヘリマニア。ひと家族は夜中でも大音量の音楽をかけるアウトドア好き。で、当然にトラブルが発生する。結果は・・・最悪。
②「浅い池」=本格的な移住プロジェクトが開始され、意気揚々と移住してきた一人の若者。「蓑石」には夢と未来があると宣言したのもつかの間・・・。事業開始してすぐ、大きな失策をやらかしてしまう。結果は・・・最悪。
③「重い本」=移住者の熟年男性と別の一家の少年。ふたりは「本」を通して仲良くなったのだが、ある日それが大きな事件を引き起こしてしまう。結果は・・・最悪?(それほどではないか)
④「黒い網」=移住者の親睦のために開催されたBBQ。そこで焼かれていたキノコに当たってしまったのがある女性。この女性は「蓑石」で数々のトラブルの元となっていた。なので誰かが腹いせに彼女に毒キノコを食わせたのではという疑惑が持ち上がる。結果は・・・最悪(かな)?
⑤「深い沼」=この章では事件は何も起きない。ただし、作者の意図としては非常に重要な章なのだと思う。主人公である公務員の万願寺と東京で多忙な生活をおくる彼の弟との会話。それがなかなか深いのだ。
⑥「白い仏」=移住者が住む古い家屋に残されていた「円空」の彫り物。それが大きな事件の元凶となる。「円空」を観光資源にしようという移住者の男と、それを神懸かり的なものと捉える男のふたりがいざこざを起こしたとき・・・。結果は最悪(か?)
⑦「Iの喜劇」=連作の締め、カラクリが判明する最終章。そうか・・・「悲劇」ではなく「喜劇」というのが作者らしいアイロニーなのか?

以上7編。
うーーん。⑦でカラクリが判明した後の万願寺の姿にどうしようもない共感を覚えた。
確かにこの問題は実に複雑な要素を孕んでいる。コロナ禍を挟んで、この国の出生率は過去最悪を更新し続け、政府は「異次元のナニヤラ」といって、全く異次元とは程遠い小手先の政策を行おうとしている。
はっきりいって、10年後、この国の多数では「蓑石」と同じ状況になっていることは容易に想像できる。
国は言わずもがな、田舎の自治体は致命的な財源不足に陥り、正常な社会インフラを提供できなくなるのは時間の問題だ。
でも、だからといって西野課長のやり方が許容できるのかと問われれば、言葉に詰まる。万願寺の感じたどうしようもない空虚な感情・・・それがこの国の未来を表しているようで、直視できなくなる。
作者も罪な人だ。分かっていながら敢えて、こんなアイロニーに満ちた作品を出すなんて・・・。

No.10 7点 ALFA
(2023/08/02 08:06登録)
「限界」を超えて無人になってしまった集落の再生を図る南はかま市。
そこに移住してきたIターン組に起こる事件をテーマにした6+1編の連作短編集(風)。各章とも多少シリアスな日常の謎。
なるほどそれで表題が「Iの悲劇」か、シャレてるけどちょっと大げさな、と思っていたら最終章でひっくり返された。
ここをイヤミス風反転ととるか、重量級の社会派への変身ととるか。
私は後者。その方が面白い。人形浄瑠璃のガブ(姫がいきなり鬼になる)みたい。
ボンクラ課長が時折り見せる強面が気にはなっていたんだ・・・

No.9 5点 ボナンザ
(2023/05/01 23:08登録)
雑誌連載時に読んでいないが、作者のHPを見るにまとめるにあたって最後の仕掛けを入れた感じ?主人公の名前も変わっている。
読みやすさと納得いく展開、最後の悪趣味なオチと満足。

No.8 7点 ミステリーオタク
(2022/11/21 13:24登録)
 廃村の復興をテーマにした連作短編集。
 地味だがとても読みやすい「ヒューマンドラマ+ライトミステリ」が連ねられている。
 いくつか印象に残ったストーリーに触れると・・・

《第二章 浅い池》
 不可思議な現象が起きるが・・・・殆どバカミスで笑った。

《第四章 黒い網》
 マジシャンズセレクト。これは解ってしまった。

《第六章 白い仏》
  不可思議な現象が起きて、一応説明が付けられるがスッキリしない・・・・と思っていたら次の終章で・・・

《終章 Iの喜劇》
 まとめの章。回収の章とも言える。確かに多少驚いたが、結局地方の貧困行政の愚かな上層部がもたらした虚しい悲喜劇と言えよう。


 城塚翡翠もいいけど、こういう連作もTVドラマ化したら静かな人気を博するかも。

No.7 7点 makomako
(2022/10/09 08:10登録)
 本の題名から人里離れた村に新しい住人が移って来て連続殺人が起きて――、と思って読み始めましたが、全然違ったお話でした。


以下ちょっとだけネタバレ。
 一種の連作ものですが殺人などの血なまぐさい事件は全く起きません。
 まじめな役人とちょっととぼけた新人女性が主として動き回り、その上司はやる気がなさそうだが突然鋭いところを見せる。
 役人さんは本当に頑張って仕事をするが、どうしてもうまくいかず移住者は次々と去っていく。
 まさにそして誰もいなくなった風なのです。
 最終章はちょっとびっくり。完全にやられました。

No.6 6点 HORNET
(2021/06/20 19:56登録)
 南はかま市に吸収合併された山あいの小さな集落、簑石。6年前に滅びたこの場所に人を呼び戻すための「Iターンプロジェクト」を請け負うのは市役所「甦り課」。課に配属された万願寺邦和は、「出世街道から外されたのか…」とため息をつきながらも、成果を上げるために蓑石への定住者を増やそうと奔走する。しかし新しい居住者の間にはトラブルが絶えず…
 コージー以外の筆者の作風とタイトルから、重厚なミステリを想像していたが、雰囲気は違った。時折ユーモアを交えながらの連作短編。とはいえ、せっかく移住してきた住民が次々と離れていく過程で次第に不穏な空気は増していき、最後には全編を貫くどんでん返しが用意されている。
 想像していた雰囲気とは違ったが、十分に楽しめる一冊だった。

No.5 7点 文生
(2020/08/30 10:02登録)
古典部シリーズや小市民シリーズといった著者得意の連作学園ミステリーを公務員に置き換えたような作品です。
限界集落の問題をミステリーの謎に絡めいる点がよくできており、興味深く読むことができます。また、一つ一つの推理には粗を感じる部分があるものの、実はその粗が伏線となっていて最後にすべてがつながるところが見事です。著者ならではのビターな結末も印象深く、なかなかの佳品だといえるのではないでしょうか。

No.4 6点 パメル
(2020/04/06 08:59登録)
限界集落と化した場所が各地で増えている。なにも衰退した地方ばかりとは限らず、都市周辺でも起きているという。この作品は、そんな誰もいなくなった集落を復活させようと、ある地方の職員が奮闘する物語。
南はかま市の市役所に勤める万願寺は、市長肝入りのプロジェクトチーム「甦り課」の一員として、山あいの小さな集落である蓑石に新しい定住者を募り、その支援と推進を続けていた。
新たに集まったのは、癖の強い個性的な人たち。それだけに住民同士の人間関係がこじれがちとなり、さまざまな摩擦がもとで小さなトラブルが生まれ、謎を含む事件へと発展していく。しかも容易に原因は分からず、解決が難しい。
個性的な移住民の登場はもちろんのこと、共同体の中で次々に起こる不可解な事件が興味深く、加えて地方の行政や役人の日常の描写がリアルなため、ドラマの展開から目が離せない。
さらに物語の中には、いくつもの伏線があり、最後で、すべての事件の背後に隠されていた意外なたくらみが明かされる。
結末を受け、いったいどうすることが真の正解なのかと考えさせられた。

No.3 6点 まさむね
(2020/03/30 23:10登録)
 合併で誕生した南はかま市。全住民が退去した山間の集落へのIターン支援プロジェクトを実施するのは、課長を含む3名の職員で組織される「甦り課」。選ばれた「移住者」は、それぞれ一癖ありそうで…という設定での連作短編集。
 限界集落の現実だとか、Iターンの実情だとか、地方公務員の日常だとか、現実味が有りそうで実は無さそうな、逆に無さそうで確かに有りそうな、そんな印象。ラストで印象がごちゃごちゃになった感もあります。新しい形の社会派作品、と言えるかもしれませんね。

No.2 7点 虫暮部
(2020/03/24 11:26登録)
 悪辣なユーモア小説としては好編。

No.1 8点 sophia
(2019/11/04 23:06登録)
山間部の廃村に人を呼び戻すプロジェクトに携わる公務員たちの話。雑誌掲載したものを軸にした連作短編集ですが、書き下ろしを挿入したり順番を変えたりして一つの壮大な作品に再構築しています。雑誌掲載分を読んでいた人たちは、まさかこんな話だったとは思っていなかったんじゃないでしょうか。考えさせられる一冊でした。

12レコード表示中です 書評