| HORNETさんの登録情報 | |
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| 平均点:6.33点 | 書評数:1192件 |
| No.992 | 7点 | 教誨 柚月裕子 |
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(2023/03/19 17:12登録) 吉沢香純と母の静江は、女児2人を殺害した罪で死刑となった親戚、三原響子から身柄引受人に指名された。刑は執行され、遺骨と遺品を受け取ることになった香純たちだったが、その納骨先がない。何とか三原響子の実家に引き取ってもらおうとお願いするがうまくいかず、そんな中香純は、響子が刑の執行前に遺した最後の言葉を知る。「約束は守ったよ、褒めて」―約束とは何なのか、響子の罪の裏には何があったのか。幼いころの響子を知る香純は、その真相を解明すべく動き出す― 事件の背景にあった罪人の事情やいきさつを追求する、ホワイダニット的な物語。三原響子が子供時代に受けていたいじめや、田舎に根強く残る家柄差別など、さまざまな要素が絡んだ一人の女性の人生が浮き彫りになる。「約束」の中身を知ったとき、守りたかったもののあまりの小ささや、縛られた価値観に、身につまされる思いになる。 柚月裕子らしい題材と描き方で、入り浸って読んでしまう一作。 |
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| No.991 | 6点 | 邪教の子 澤村伊智 |
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(2023/03/19 16:55登録) ありがちなニュータウンに、そこにカルト教団「コスモフィールド」の信者の家族が引っ越してきた。その家の娘の茜は、信者である母親に虐待を受けているらしい。主人公の慧斗は、その現状を見かねて茜の救出に乗り出そうとする。 ある意味昨今よく題材とされる「新興宗教」をめぐるお話なのだが、物語を読み進めていくうちに当初の予想とは違う展開に。仕組まれた物語の構造に読者の視点はひっくり返され、ミステリに読み慣れていなければなかなか意表を突かれると思われる。 真の構造が明らかになってからの後半も、黒幕の正体に関しての謎が持続され、興趣が尽きることなくラストまで読み進められる。やや強引な仕掛けと感じるところもあるが、まずます楽しめた。 |
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| No.990 | 6点 | 時限感染 岩木一麻 |
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(2023/03/19 16:45登録) ヘルペスウイルスの研究をしていた大学教授の首なし死体が発見された。現場には引きずり出された内臓のほかに、寒天状の謎の物質と、バイオテロを予告する犯行声明が残されていた。猟奇殺人にいきり立つ捜査陣であったが、彼らを嘲笑うように犯人からの声明文はテレビ局にも届けられる。事件に挑むのは、警視庁捜査一課のキレ者変人刑事・鎌木。首都圏全域が生物兵器の脅威に晒される中、早期解決を図るべく、鎌木は下谷署の女性刑事・桐生とともに犯人の手がかりを追いかける。しかしテロは水面下で静かに進行していて――。標的は三千万人! 果たして、史上最悪のバイオテロを止められるか? 読者を眩惑する、怒涛のどんでん返しに二度読み必至。その完全犯罪は、誰にも止められない――。 ウイルスを武器としたバイオテロ。潜伏期間が長いため、犯人が仕掛けてから事が起きるのに年単位のラグがあることが物語のミソ。加えて犯人の真のねらい、つまり「動機」の真相がラストに開陳されるところもなかなか考えて仕組まれていた。疾走感のある展開で、リーダビリティは高い。まずます楽しんで読めた。 |
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| No.989 | 5点 | 濱地健三郎の呪える事件簿 有栖川有栖 |
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(2023/02/23 20:39登録) 霊視ができる心霊探偵・濱地健三郎シリーズ第三弾。 著者の魅力は、探偵がフーダニットの事件を解決するというオーソドックスなスタイルへではあるので、これは変化球のシリーズ。やはり一番好きなのは著者の本格作品だが、これはこれで素直に楽しめる。 「戸口で招くもの」は、光景を想像するとゾッとするものがあり、本作品集の中では一番良かったかな。「囚われて」なんかは完全なホラー。著者のファンは、上記のようなミステリを期待している人が多いと思うので、「こういうのもそれはそれで面白い」と思うか、「有栖川有栖に求めているのはこういうのじゃない」と思うか、きっと評価は分かれるだろう。 私は前者なので、シリーズが続くのであれば読みたい。 |
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| No.988 | 7点 | 審議官 今野敏 |
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(2023/02/23 20:24登録) 大人気シリーズの登場人物を主人公としたスピンオフ第3弾。(法則を破って題名が「3文字」になってしまった 笑) 長編の本シリーズでは、ついに竜崎伸也が本庁に復帰し、大森署長を退任して異動したところ。本作では、竜崎の異動後に大森署に残った面々(斎藤警務課長、貝沼副署長、関本刑事課長、板橋捜査一課長など)を主人公にした「その後」や、竜崎の家族(妻、娘、息子)を主人公とした短編が収められており、非常にバラエティに富んでいる。 よって竜崎が直接登場して采配を振るう場面は皆無だが、竜崎の哲学に影響を受け、そして頼りにしているシリーズメンバーの日常が巧みに描かれておりとても面白い。 つぎはいよいよ隠蔽捜査「10」。待ち遠しい。 |
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| No.987 | 7点 | チェスナットマン セーアン・スヴァイストロプ |
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(2023/02/12 16:24登録) コペンハーゲンで若い母親を狙った凄惨な連続殺人事件が発生。被害者は身体の一部を生きたまま切断され、現場には栗で作った小さな人形“チェスナットマン"が残されていた。人形に付着していた指紋が1年前に誘拐、殺害された少女のものと知った重大犯罪課の刑事トゥリーンとヘスは、服役中の犯人と少女の母親である政治家の周辺を調べ始めるが、捜査が混迷を極めるなか新たな殺人が起き――。(「BOOK」データベースより) 700ページ近い厚みのある1作だが、途切れることのない動的な展開に引き込まれて苦なく読み進められる。1年前に起きた誘拐殺害事件はすでに犯人も捕らえられ、犯人自身が犯行を自供しているのに、なぜその被害少女の指紋が全く関係のない殺人現場から出てくるのか?1年前の事件を「解決済み」としているため、捜査を掘り返すことはご法度という警察上部、その捜査に疑念を挟む現場刑事、という構図はまぁよくある構図ではあるが、結局のところは面白い。真犯人の意外性もなかなかで、そちらから弾が跳んでくるとは正直思っていなかった。 読み応えのあるデンマークの警察小説だった。 |
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| No.986 | 6点 | 悲鳴だけ聞こえない 織守きょうや |
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(2023/02/12 16:08登録) パワハラ相談、遺言、自己破産など、弁護士事務所に持ち込まれる庶民的な相談を題材にしたミステリ短編集。 題材としての眼の付け所が面白く、純粋に話として面白い。特に後半は遺言・相続にまつわる話だが、依頼人の隠し事や、隠された家族関係を解き明かしていくさまはなかなか興味深いものがあった。 収録作品中では「無意味な遺言状」と「上代礼司は鈴の音を胸に抱く」が印象的だった。「上代…」は中盤でほぼ真相が看破できたが、それでも最後まで面白かった。 |
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| No.985 | 7点 | 録音された誘拐 阿津川辰海 |
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(2023/02/12 16:02登録) 大野探偵事務所の所長・大野糺が誘拐された。驚異的な聴力をもつとされる助手・山口美々香は様々な手掛かりから、微妙な違和感を聞き逃さず真実に迫るが、その裏には15年前におこった大野家の隣人の誘拐致死事件の影があった。誘拐犯VS.探偵たちの息詰まる攻防、二転三転する真相の行方は……。 とらわれた大野糺と誘拐犯とのやり取りと、警察・美々香側の捜査が交互に描写され、両者の攻防が臨場的に描かれている。複線として美々香の家族にまつわるストーリーもあり、物語に広がりをもたせている。 終盤にはさまざまな事柄について裏の裏があり、ちょっと仕掛けに凝りすぎている感じもしないではないが、糺&美々香コンビに望田を加えた大野探偵事務所3人の温かな関係性は心地よく、よく作られた話だと思った。 |
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| No.984 | 6点 | 真夜中の密室 ジェフリー・ディーヴァー |
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(2023/01/29 20:52登録) 就寝中の女性の部屋に侵入し、いくつかの物に触ったうえ、「因果応報―ロックスミス」という謎の書置きを残していくという侵入事件が連続する。家宅は厳重な錠で守られ、破られた跡もなく犯行後も閉まっているのに、侵入者はどうやって出入りしたのか?目的は何なのか?被害者たちを心から震え上がらせる犯行の解明に、リンカーン・ライムが乗り出す― 久しぶりのライムシリーズ。意味深な声明を残した連続の犯行、という形は本シリーズのテンプレートでもあり、よくも悪くも安定している。今回は女性宅に侵入するも、危害は加えずに侵入の跡だけ残すという犯行で、殺人ではないが、「犯人の目的は何なのか?」という点では逆に興味をそそる。 本筋の「ロックスミス事件」と並行して、ライムが手掛ける他事件の進捗も描かれるが、それが何らかの伏線となることはこれまでのパターンからも予想はついた。が、それでも最後の真相はそれなりに驚かされ、あくまでも「どんでん返し」を仕込むその腕は相変わらず健在だと感じた。 シリーズ中では標準作と思うが、基本的な水準が安定しているので、今回も楽しめた。 |
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| No.983 | 5点 | クイーン検察局 エラリイ・クイーン |
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(2023/01/29 20:39登録) アイデア一発のショートショート集。ちょっと紙幅のある「推理クイズ集」のような趣ともいえる。純粋な「謎解き」を主眼としているのでなかなかに面白い。 他作品を読んでいるということもあるだろうけど、内容的にも「ライツヴィルの盗賊」がよかった。 |
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| No.982 | 6点 | ミランダ殺し マーガレット・ミラー |
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(2023/01/21 19:50登録) 作品のほとんどは、若さに固執する美熟女と、それを取り巻く人たちの通俗的な人間模様を描いた物語。ラスト近くにやっと事件が起こる。そういう意味では、ミステリを求める読者には退屈に感じるかもしれない。 私は、そんな前半も結構楽しめた。さまざまな思惑をもつ人たちの愛憎劇と、その調査を淡々と行う弁護士・アラゴンのキャラクターがよかった。 長さの割にはそれほどの仕掛けでなかった気はするが、作者らしさは十分に出ている作品ではないかと思う。 |
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| No.981 | 6点 | 濱地健三郎の幽たる事件簿 有栖川有栖 |
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(2023/01/21 19:42登録) 霊視能力がある男が探偵役を担う、特殊設定のシリーズ。とはいえ、推理の入る余地があるため、本格ミステリ好きの有栖川ファンも楽しめる。 本短編集では、「姉は何処」「浴槽の花嫁」なんかがそんな感じで面白かった。「お家がだんだん遠くなる」はちょっと趣を異にしているけど、時間に追われる切迫感もあってよかった。 ラストの「それは叫ぶ」は、完全なるホラー、心霊話。悪くはないんだけど、前半の方の短編の方が好みかな。 |
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| No.980 | 8点 | ロンドン・アイの謎 シヴォーン・ダウド |
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(2023/01/14 19:56登録) 12歳のテッドは、気象学に偏執的な興味を示し、人付き合いの機微が分からない、高機能自閉症傾向の少年。彼の叔母が、息子のサリムを連れて家にやってくることになった。サリムはテッドの特性を「かっこいい」と言ってくれた。だがそんなサリムが、ロンドン名所の観覧車「ロンドン・アイ」に乗った後、消えてしまった。サリムはどこに行ったのか?特性をもちながらも、天才的な頭脳を持つテッドが真相解明に乗り出す。 本格ミステリとしての論理的な謎解き、障害的な特性をもつ少年とそれを取り巻く家族や周りの目の物語、そして思春期の姉弟の物語…さまざまな魅力を見事に編み込んだ名作。ヤングアダルト向けの作品かもしれないが、十分に魅力的な作品だった。 特にサリムが消えた謎の解明後、終盤の「サリムはどこにいるのか?」の謎解きとそこに結びつけられていた物語の伏線には脱帽した。 とても楽しめた! |
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| No.979 | 7点 | カーテンが降りて ルース・レンデル |
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(2023/01/14 19:41登録) 特別な舞台でもない、一般人の日常に潜む邪悪さや弱さ、あるいは他人の悪意を邪推した勘違いを、短編で端的に描き出している作品集。 特に本短編集は、「悪い心臓」「要人の過ぎた女」「はえとり草」などの、他人の悪意を邪推した勘違いの悲劇が面白かった。主人公が、ある人物相手にさまざまに悪意を想像して怯えるのだが、その筋のサスペンスかと思って読んでいるとそれが「一方的な勘違い」で、却って悲劇を生んでしまうというパターン。ちょっとそれを予想しつつ読んでいても、結局面白い。 その他、夫殺しを画策した妻の悲劇「コインの落ちる時」、殺し屋の意外な主義嗜好により展開に至る「人間に近いもの」など、短い展開でレンデルの魅力を堪能出来る粒ぞろいの作品集。 面白かった。 |
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| No.978 | 8点 | 緑の檻 ルース・レンデル |
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(2023/01/14 19:25登録) グレイ・ランストンは資産家の夫をもつドルシラと不倫関係にあったが、「夫を殺そう」というドルシラのそら恐ろしい持ちかけに応じることはできず、別れた。しかし、そんなことさえなければグレイは、ドルシラと関係を続けていたかった。ドルシラを思い悶々と過ごす日々の中、少しずつ事態は動いていく。 女性に恋をし、別れたことがあれば誰しも経験するであろう男の未練、妄執を巧みに描いた、非常にレンデルらしい作品。別れた女性との過去を断ち切り、生活を送ろうとする男の日常が淡々と描かれているようで、物語は後半に一気に加速する。 レンデルのノンシリーズをいくらか読んでいるので、ある程度行く先は予想ができたが、それを踏まえても面白い。 普通の人間が誰しも抱えうる暗部を巧みにえぐり描き出す、著者の「らしさ」が出ている快作。 |
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| No.977 | 8点 | 救国ゲーム 結城真一郎 |
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(2023/01/08 12:08登録) 過疎集落に単身移住し、集落を見事復活させたことで一躍時の人となった美男子・神楽零士。しかし時を同じくしてYoutubeでは、能面を被った《パトリシア》なる人物が「国家存続のために、過疎地域は切り捨てて都市圏に集住するべし」との主張をし、神楽と論争に。ある時《パトリシア》は、「60日以内に政府は全ての過疎対策を撤廃せよ。さもないと次なる行動に出る」と言い残して姿を消す。何事もなく60日が過ぎた後、神楽零士が惨殺死体となって発見される― 能面を被った不気味な人物によるYoutubeでの予言、過疎化した集落を舞台に行われた不可能殺人、人口減少の一途をたどる日本のあるべき未来を問うという題材など、非常に魅力的な物語設定。 さらに、切断された首の謎、運搬方法の謎など、仕掛けも十重二十重に施され、謎解き主眼の本格ミステリとしての魅力も十分である。 地理的要素や時間軸の問題、さらにはドローンや自動運転技術など、謎解きに関わる要素が多くあり、ちょっと複雑に感じるところもあったが、一つ一つ丁寧に解きほぐして真相に迫っていく過程は読み応えがあった。 物語の前半で探偵役によって早々に真犯人が名指しされるため、ハウダニットの色合いが強かったが、読み進めるにつれ「そもそもなぜ、こんな犯行を?」という興味(ホワイダニット)も高まる。すべてが解き明かされるラストでは、作者の綿密な仕掛けに唸らされた。 |
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| No.976 | 7点 | 警官の道 アンソロジー(出版社編) |
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(2023/01/06 14:58登録) 「孤狼の血」の柚月裕子、「爆弾」呉勝浩、「コープス・ハント」下村敦史、御子柴シリーズの中山七里ほか、今を時めく豪華執筆陣による警察小説アンソロジー。 ・葉真中顕「上級国民」…葬式で出会う遺族という先入観を上手く逆手に取ったラストの仕掛けはなかなか〇 ・中山七里「許されざる者」…実際にあった東京オリンピック前のドタバタをネタにした、作者らしい作品。犬養隼人シリーズ新作。 ・呉 勝浩「Ⅴに捧げる行進」…本短編集の中では一番イロモノだったかな。 ・深町秋生「クローゼット」…タイトルからてっきり殺人現場の実際のクローゼットの話かと思ったら…LGBTの話。なかなか読ませた。 ・下村敦史「見えない刃」…「性犯罪のセカンドレイプ」というテーマ重視で、真犯人探しというミステリとしての興趣はどちらかというとそっちのけ。 ・長浦 京「シスター・レイ」…まさかのハードバイオレンス。現実離れしてるけどかっこいい。 ・柚月裕子「聖」…「男」の正体ははじめから感づいていた。ラストもうすうす予感できたが…それでもまぁいい話。 実力ある作家陣の、アラカルト的な警察小説集、堪能できた。「はじめに」も編集後記的な「あとがき」もまったくない、作品のみの質実剛健(?)な一冊。 |
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| No.975 | 4点 | 盤面の敵 エラリイ・クイーン |
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(2023/01/06 14:56登録) 先々代の遺産を受け継ぎ、「ヨーク・スクエア」と呼ばれる特異な城郭式の家屋に住む4人の親族。そこで働く下男・ウォルトのもとに、奇妙な手紙が届けられる。「わたしはきみを知っている。きみに大きな仕事をゆだねる」―手紙の指示に従順に従うウォルトの手によって、奇妙なカードで予告された連続殺人事件が幕を開ける― うーん… 読み進める分には苦はなかったのだが、最後がアレでは…。本作は、実行犯は始めから明らかなので、その実行犯ウォルトを操る「手紙の主・Yは誰か?」が必然的に作品の謎の中心になってくるのだが…この時代には衝撃的真相だったのかな?時代によって色あせてしまったともいえるが、やはり根本的にちゃんと別の人物がいることを期待していたので、かなり肩透かしを食った気持ち。 メッセージカードのJHWHの意味云々も、ピンとこない。欧米のキリスト教徒の人たちなら膝を打つ仕掛けなのかな。そもそも、建物の形にしたカードを送ること自体に最終的に意味を見出せない。(動機から考えると自己顕示欲ということになるのかもしれないが。) 実際はクイーンの作ではないとされる本作。エラリイのキャラクターにはブレがない感じがして気にせず読めたが、最終的にはイマイチだった。 |
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| No.974 | 6点 | 悪の起源 エラリイ・クイーン |
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(2023/01/06 14:23登録) 宝石商を共同経営している2人の男のもとに、意味不明のメッセージが届けられる。共同経営者の一人、リアンダー・ヒルは、最初のメッセージを受け取った後に心労がたたって死んでしまった。残るもう一人・ロージャープライアムのもとには、次々怪メッセージが送り届けられる。致死量未満の砒素、大量のカエルの死骸、鰐皮の札入れ…果たして犯人は誰なのか?送り届けられるものにはどんな意味があるのか? 傲慢な態度で警察の介入を拒みながらも、何かを隠しているロージャー。成熟した女性の魅力でエラリイを翻弄する、ロージャーの妻、デリア。殺人は起こらないものの、謎めいた状況が刻々と進行していく展開には魅せるものがあった。 ただ、送られた各メッセージに隠されたミッシングリンクは、いまいちピンとこなかったなぁ。込められたメッセージも。 最後の最後にあるどんでん返しは面白いとは思ったが、「意外」ではなかった。で、このあとエラリイはこの男をどう処したのだろう。含みをもたせる終わり方だが、坐りの悪さとなって残ってしまった。 |
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| No.973 | 6点 | ドグラ・マグラ 夢野久作 |
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(2023/01/02 22:03登録) これは「寄書」の名を冠するにふさわしい一作。 精神病棟から一時的に出された男と、男を研究対象としているという精神医学者の九州大教授・正木博士とのやりとりで本編のほとんどが形成された、上下巻計700ページ弱。仰々しい言動の描写などで冗長なところはあるが、決して読みづらくはない。強いて言うなら下巻の、文語体で書かれている「W氏の意見摘要」と寺に残されていた「青黛山如月寺縁起」のくだりぐらいかと思うが、一行一行を精緻に理解していこうとしなければ(大体の意味は分かるので)大丈夫かと思われる。 何が「謎」の中心なのか、読んでいるとほとんど分からなくなる(小生の読解力のなさによるのだろうが)のだが、その混迷具合もひっくるめてまぁ本作なのだろう。結末も、結局誰が、何を目的として何をしたのか、時系列も含めて正確なところに理解が及んでいるのか自信がない。 よって誰かに「どんな話だったのか」と聞かれても曖昧模糊とした印象しか語れないような読後感。 取り立てて「これはすごい」という感銘もないが、「理解できない」と断ずる気持ちもない、これが正直な感想かな。 |
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