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ミステリの祭典

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時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2
「美谷時計店」店主・美谷時乃

作家 大山誠一郎
出版日2022年03月
平均点5.20点
書評数5人

No.5 5点 E-BANKER
(2024/11/03 13:47登録)
「アリバイ崩し承ります2」ということで、地上波ドラマ化もされた前作に続く続編が早くも登場した感じ。
いつまでネタは続くのか、若干心配なところはありますが・・・
単行本は2022年の発表。

①「時計屋探偵と沈める車のアリバイ」=アリバイ崩しの常套手段といえば、それは「場所の錯誤」という訳で、これぞtheアリバイ崩しとでも評したくなる初っ端。このくらい警察も気づけよ!というのは野暮なのだろうな・・・
②「時計屋探偵と多すぎる証人のアリバイ」=今回の容疑者は、なんと政治資金パーティーに集まった500人もの証人がある、という設定。被害者の動きも大きなカギとなるのだが、ここの一工夫に作者の旨さを感じた次第。
③「時計屋探偵と一族のアリバイ」=今回は容疑者が従兄妹どうしの三人。いずれにも当然のようにアリバイありとの状況で、一度に三人のアリバイ崩しを依頼することに。逆転の発想が光るな。
④「時計屋探偵と二律背反のアリバイ」=これはなかなかのテクニックが光る一編。ひとりの有力容疑者にふたりの被害者。ひとりの容疑者は当然同じ時刻にふたりの人間は殺せないわけだが・・・でも、かなりリスキーなトリックでは?
⑤「時計屋探偵と夏休みのアリバイ」=最終話のみ書下ろし。時計屋探偵が高校生の頃の事件。いわば、エピソード・ゼロ的なもの。ただ、期待したほどの大した仕掛けはなかった。

シリーズ前作。『「時を戻そう byぺこぱ』ではなく、『時を戻すことができました』」と書評で書いていたわけだが、あっという間に消えたねえ・・・ペ〇パ
いやいや、そんなことはどうでもよくて、本作である。
全体的には前作よりもレベルアップしたような印象を持った。まあワンアイデアなのは同じなのだが、見せ方が旨くなったということだろうか。最近のお手軽な地上波ミステリー系ドラマっぽさはやむを得ないのかもしれない。
これなら次作も期待できるかな。
(個人的ベストは②かな。他もあまり差はない)

No.4 5点 パメル
(2023/06/19 06:45登録)
前作「アリバイ崩し承ります」に続く第二弾で、那野県警捜査一課の新人刑事「僕」が、美谷時計店の女性店主・時乃に捜査中の事件について相談し、容疑者のアリバイを崩して事件を解決に導くというスタイルが貫かれている5編からなる短編集。
「時計屋探偵と沈める車のアリバイ」一人の男性が自動車ごと湖に落ちて亡くなった。甥に容疑がかかったが、防犯カメラに残った画像からアリバイが確認される。
「時計屋探偵と多すぎる証人のアリバイ」県会議員のパーティーの最中、秘書が殺された。議員は秘書を殺す動機があったことが分かったが、彼には完璧のアリバイがあった。
「時計屋探偵と一族のアリバイ」資産家の男性が刺殺された。彼の甥と姪の三人が容疑者になるが、三人にはそれぞれアリバイがあった。
「時計屋探偵と二律背反のアリバイ」主婦が自宅で殺害され夫が容疑者として浮上するが、彼には同時刻に別の女性を殺害した容疑がかかっていた。片方の事件で彼が犯人と立証されれば、もう片方の犯行は出来ない。
「時計屋探偵と夏休みのアリバイ」祖父からアリバイ崩しを学んでいた時乃の高校時代の話。夏休みのある日、美術部員が作った石膏像が壊されていた。事件当時、茶道部の先輩が現場近くで目撃されていたが、犯行する時間はなくそのアリバイは時乃自身が確認していた。
凝った設定を駆使して、謎解きを提示している。だが毎回アリバイを崩して一件落着という流れでは単調になってしまう。これに対してアリバイを崩すことによって、さらに事件の様相が複雑になったり、状況の工夫によって展開の幅を広げてみせている。
白眉は、第75回日本推理作家協会賞短編部門を受賞した「時計屋探偵と二律背反のアリバイ」で、狡猾で周到なアリバイ工作の真相には驚かされた。最終話の「時計屋探偵の夏休みのアリバイ」も、犯人が用いたトリックが効果的に機能している。その上で、時乃や祖父が見抜くロジックが美しく、アリバイが崩れた先に心地よい温かさが優しく訪れる忘れ難い作品となった。

No.3 5点 HORNET
(2022/11/21 22:12登録)
 県警本部捜査一課の主人公は、アリバイ崩し「だけ」は優秀と買われている新米刑事。しかしその実は、美谷時計店の女性店主・美谷時乃に毎回「アリバイ崩し」を依頼している。今回も、難攻不落と思えるさまざまなアリバイを、「時を戻すことができました。――アリバイは、崩れました。」と瞬殺する時乃。人気作「アリバイ崩し承ります」の第2作。

 2件の殺人事件の両方の容疑者になることによって、片方の犯人となればもう片方の容疑が張れるという「二律背反のアリバイ」など、アイデアが面白い。警察の捜査をはじめから見込んで、こんな手の込んだトリックをするか?という常識はわきに置いておいて、人物像やドラマ性には重きを置かずただただパズラーとしての楽しみに特化した(と思っているが)、作者らしい連作短編集。

No.2 5点 まさむね
(2022/09/28 21:52登録)
 テレビドラマ化された「アリバイ崩し承ります」の続編。死亡推定時刻が都合よすぎるだろうとか、こねくり回しすぎではとか、なぜ犯人はそこまでするのかとか、突っ込みたくなる部分はあるものの、その辺りを割り切って、アリバイクイズものといった感覚で読めば、楽しめると思います。サクサク読めるのもいい。

No.1 6点 人並由真
(2022/09/06 15:33登録)
(ネタバレなし)
 テレビドラマ化までされて巷ではそれなり以上の人気シリーズの二冊目だと思うが、本サイトではいまだレビューもない。
 
 シリーズ前巻は、このサイトでは、どこかで読んだものが多いという主旨を軸に、ややきびしめの評価をされた感じであった。
 評者的には前巻の時点ではそんなに気にならなかったが、今回、そんなものかな? と改めて意識してみると、なるほど、既視感の漂う作品もいくつか。
 ただしこれは、具体的にどの作家のかの作品に似ているというより、21世紀の時代にこういうレベルのアリバイトリックで各作品をまとめられるなら、たぶんおそらくどこかに類作は存在していそうだというそんな気配というか観測、そういう感慨がおのずと生じるような作りだからである。

 とはいえ良い意味でクセのない愛らしい系の名探偵ヒロインと、彼女に秘めた思いを抱くワトスン役刑事との掛け合いは、ある種のトラディッショナルな連作謎解きミステリの空気をもたらして心地よい。
 もはやミステリの鬼(笑)たちからは見捨てられたシリーズかもしれないが、評者などはもうしばらく付き合っていきたい連作ミステリだ。

 今回は全5編の中短編が収録されているが、面白かったのは逆転の発想が生きる第1話と第3話(特に後者)。さらにヒロインの時乃の高校生時代の回想編で、先代名探偵のおじいちゃんの活躍編でもある第5話はクロージングまでの流れも含めてちょっと良い感じ。ほかの2本も悪い出来ではない。

 前巻とあわせて、正に良い意味でミステリ入門者に読ませるには最適のシリーズだと思う。
 そして自分のような冊数をそれなりに読んだ(実にいい加減な体系のミステリ読書歴だが)者でも、それなり以上の感興は得られるのではないか。
(キャラクターも謎の主題の絞り込み方もまるで違うが、赤川次郎の初期の佳作連作集『幽霊列車』あたりに通じるものもあるかもしれない。) 

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