ダミー・プロット 砧順之助シリーズ 旧題「砧自身の事件」 |
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作家 | 山沢晴雄 |
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出版日 | 2022年02月 |
平均点 | 5.75点 |
書評数 | 4人 |
No.4 | 4点 | 虫暮部 | |
(2024/02/02 14:31登録) 何か不自然な話。 読了後の総括として見返すと、(恐喝者殺しは別として)死んだ男と消息不明の女は、表向き主犯と直接のつながりは無い。重要なのはAの死体をBだと偽装することで、それ以外は余計なトリックを弄さないのが一番、のパターンだ。アリバイ工作とか、怪しいだけじゃないか。 擁護するなら、予めキッチリ計画された犯罪ではなく泥縄的に展開した観はある。その点をもっと強調すれば説得力が得られたかも。 “何故、手首を小包で送ったのか?” にまつわる部分には感心した。“被害妄想による殺意” も気持は判る。でもなぁ……過大評価は避けたい。 |
No.3 | 8点 | HORNET | |
(2022/12/31 17:41登録) 商社マンの風山秀樹の友人・小島逸夫の愛人が何者かに殺害された。無実を訴える小島に頼まれ、風山はアリバイの偽証工作を引き受ける。一方同じ夜、会社員の柴田初子は、有名デザイナーの岸浜涼子に、涼子の「替え玉」を務めてほしいという奇妙な依頼を受ける。面白半分に請け負った初子だったが、しばらくして、涼子の周辺で猟奇的な殺人事件が巻き起こる― 錯綜する人間関係と複数の殺人事件。一見無関係に見えるそれぞれの事柄が、どんな真相に結びついていくのか― 冒頭は場面や舞台が転々とする中複数の物事や事件が進行し、「いったいこれがどう絡まり合っていくのか?」という読者の期待を高める。ただの「いたずら」という動機で「替え玉遊び」を提案する岸浜涼子と、それを受け入れる初子の行動は現実離れしているとは思うが、ただそのことが事件の真相トリックにどう結びつくのかが簡単には分からないので陳腐な感じはしない。同様に、トリック重視で現実性を欠いている面はあると思うが、ある意味本格志向の作者の作風であると思うし、最終的にパズラーとして楽しめるので私としてはとても好きなタイプの作品。 |
No.2 | 6点 | 人並由真 | |
(2022/12/12 16:17登録) (ネタバレなし) 平成4年の秋。名探偵として活躍した砧順之介は、9年前の昭和58年に生じた事件の記憶を回顧する。それは彼自身も深く関わった、忘れじの出来事であった。 山沢作品は大昔に何か短編を一本読み、ミステリマニアの一部での高い評判の割に、そのかなり硬質なパズラー性のためか、あるいは外連味の少なさのためか、もしかしたら文章のまずさのためか? まるで面白さがわからなかった記憶がおぼろげにある。 とはいえ「手品小説」と自称・他称されるその諸作のこと、本来は楽しめるはずだ、またいつか挑戦してやろうと思っていたら、創元文庫から今年、新刊(商業出版としては初)でこの長編が出た。 そこでようやく一念発起して、年の瀬に読み出すが、いや、小説の文体としては会話も適度に多く、こなれた平明な文章で思っていた以上に読みやすい。 ただし(ネタバレにならないように言うが)三人称・多角視点のこの作中では、ほぼ同時並行で、複数のメインキャラクターのドラマが別個に進む。もちろん読者視点ではそれは俯瞰できるのだが、一方で次第に絡み合っていく劇中人物の視座では、それぞれ別個の流れの人物同士はおのおの初めて出会っていく。つまり読者はある意味、二重に事態の推移の情報の整理をしなければならない。いや、そんなのは普通のどんな小説でも、よほど一人称一視点を徹底した作品でない限りアタリマエではないか、と言われそうだが、この作品は作劇の構造上、その辺の読者の負担がかなり大きい。これで結構、疲れた。 またショッキングな事件が随時起きる一方で、文章は平明ながら書き方が地味というか堅実すぎて、叙述に抑揚がない。この辺の読みにくさはなるほど、記憶の中の山沢作品そのままではある。 あと難点として、ネームドキャラが過剰に多い。創元文庫の登場人物一覧には主要キャラ(ともいえない警察の一部の捜査官まで含めて)14名の名前が列記されてるが、自分が作成した登場人物メモでは名前のあるキャラだけで100人近くに及んだ! 書きなれた頃の清張あたりなら、この辺は読者の不要なストレスがないように名前を出すキャラを3分の1位に絞れるはずだ。この辺も実に読みにくい(汗)。 ただし、終盤のサプライズ、物語全体の随所の、あるいは大きな仕掛けなどは、確かになかなかのもの。すべては、ここに行きつくための作品である。 なんか歩きやすい、路面が舗装された薄暗い長いトンネルの中を延々と歩いていく、そして最後の出口の向こうには明るい温かい饗宴の場が待つ、といった趣の長編だ。 最後にわかる(というか改めて意識させられる)、砧自身にとってのこの事件の重み、というのも結構な余韻。 素直に楽しめた、というと微妙だが、それでも読んでおいて良かった、とはいえる作品ではあった。まあしばらく、山沢作品はいいけど。 (来年あたり、また何か一冊、初の商業出版として刊行されるみたいだが。) なお創元文庫巻末のボーナストラックの推理クイズ集は、なかなか地味に楽しめた。 |
No.1 | 5点 | nukkam | |
(2022/01/21 07:57登録) (ネタバレなしです) 力作中編の「離れた家」(1963年)が酷評され、第1長編である「悪の扉」(1964年に完成)が出版を拒否された山沢はミステリー作家としての道をあきらめて公務員として働きますが定年退職した1982年頃から作家の虫がうずきだして再び筆を執るようになります。当初は「砧自身の事件」のタイトルだった本書はこの時期(1983年頃)に書かれた砧順之助シリーズ第2作の本格派推理小説です。犯行が起きる前に容疑者たちの陰謀が紹介されるという変わったプロットで、トリックも色々ありますがタイトル通りこれはプロットで勝負した作品でしょう。終盤には作者による【陰の声】が挿入され、いかに読者に対してフェアプレーで臨んでいるかを説明してますがこれだけ複雑でしかも偶然に頼った部分も多いのでは読者が完全正解するのは無理な気もします。「砧自身の」という当初タイトルの割には「砧の登場が遅く、少ない」という天城一の指摘もごもっともと思います。しかしとにかく作家活動を再開したというだけでもファン読者は喜ぶべきでしょう。ちなみに本書もすぐには陽の目を見ず、ようやく「悪の扉」(1999年)に続いて2000年に同人誌での出版の運びとなり、単行本は2022年の創元推理文庫版まで待たなくてはなりませんでした。 |