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ミステリの祭典

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悪の起源
エラリイ・クイーン

作家 エラリイ・クイーン
出版日1976年10月
平均点6.20点
書評数10人

No.10 6点 HORNET
(2023/01/06 14:23登録)
 宝石商を共同経営している2人の男のもとに、意味不明のメッセージが届けられる。共同経営者の一人、リアンダー・ヒルは、最初のメッセージを受け取った後に心労がたたって死んでしまった。残るもう一人・ロージャープライアムのもとには、次々怪メッセージが送り届けられる。致死量未満の砒素、大量のカエルの死骸、鰐皮の札入れ…果たして犯人は誰なのか?送り届けられるものにはどんな意味があるのか?

 傲慢な態度で警察の介入を拒みながらも、何かを隠しているロージャー。成熟した女性の魅力でエラリイを翻弄する、ロージャーの妻、デリア。殺人は起こらないものの、謎めいた状況が刻々と進行していく展開には魅せるものがあった。
 ただ、送られた各メッセージに隠されたミッシングリンクは、いまいちピンとこなかったなぁ。込められたメッセージも。
 最後の最後にあるどんでん返しは面白いとは思ったが、「意外」ではなかった。で、このあとエラリイはこの男をどう処したのだろう。含みをもたせる終わり方だが、坐りの悪さとなって残ってしまった。

No.9 7点 人並由真
(2022/01/28 05:15登録)
 思うところあって、ウン十年ぶりに再読。
 もしかしたら『十日間』も『九尾』も読み返さなきゃいけないのだが、少なくとも本作などは特に、ストーリーも犯人も完全に忘却の彼方だったので(そういう意味では『十日間』と『九尾』の方は、さすがにいろいろと忘れがたい。特に前者)。
 とはいえ物語のモチーフと、作中のいくつかの名場面(室内を埋め尽くすたくさんの×××のシーンとか)などは、しっかり覚えていた。
 今回は少年時代に購入したポケミスを書庫から引っ張り出して、当時と同じ本をまた読む。




(以下、ネタバレあり)








 事件のモチーフが進化論(「種の起源」)だということは後半のサプライズの一環なのだから、この題名はそもそも不適だろ、とも思う。
 まあソコは作者コンビ、少なからぬ数の読者にも早めに見破られるだろうと踏んで、先にアイデンティティ保護を図ったか。本当の勝負所は、モチーフが判明したあとにあるのだ、ということだね?

 ハリウッド映画産業の衰退を背景に、第三次世界大戦に怯える当時の世相と、実際の朝鮮戦争勃発をほぼリアルタイムで取り込んだ作劇は、独特な作品の個性を感じさせる。
(マックとローレルの恋人コンビ、いいキャラだなあ。特に、なんのかんのいっても最後に出征してゆく前者。)

 エラリイの事件簿としては、直前に刊行された『ダブル・ダブル』を作中時間の順列から外して、『十日間』『九尾』の流れを受けたその二作の直後の事件っぽい。そこで今回は、エラリイの人間味を美貌の人妻との関係性で語るのにちょっと驚いた。
 ポケミス版142ページの描写や、同156ページ目のウォレスとの対峙を経たあとのシーンとかなかなか鮮烈だな。1940~50年代のハードボイルド私立探偵小説(あれやこれや)との類似性を認める。

 謎解きに関しては、エラリイがさっさと、冒頭で毒殺された犬の犬種を調べようとしないのに苛立った(さすがに前半の内から、なんか意味があるだろと察しがついたので)。
 この辺は冴えてる時のエラリイの捜査法を、今回は筋運びのためにあえて作者たちがルーズにしている感じ。

 二転三転するラストはまったく失念していたので、個人的には大ウケであった。しかしこれって、うまいことロージャーが勝手に死んでくれたから良かったものの、そのロージャー当人が生前に、実はウォレスにあれこれ入れ知恵もしてもらったのだ、とわめいていたら、ウォレスも色々マズかったんじゃないかい? 都合よく事態が流れてくれたからいいものの、余裕もってエラリイの作戦に付合って、その後も悠長にほっかむりしてる心境って……ちょっと作劇的に、人物描写的に無理があるよね?
 
 でもまあ(最後に殺人犯を看過? するという決断をさせちゃうことで)『十日間』以降のエラリイをさらに、シリーズものの名探偵としてアンダーなポジションにおいてやれ、という、作者コンビの残酷な邪念が覗けたような気もする。
 自分が生み出した可愛い名探偵ヒーローだからこそ、さらにイジメてやりたいらしい、この時期の作者コンビの屈折がじわじわ感じられるようでとてもステキ。
(そんな評者の読みが当たっているかどうかは、しらんが・笑) 

No.8 7点 ことは
(2020/12/14 00:09登録)
ン十年ぶりの再読。
プロットは、このころのクイーン好み。構想は面白いが、事件のつなぎの調査が、どうも退屈で夢中になれない。最後の落とし所も、意外ではあるが、もう一度全体を振り返って考えてみると、どうもいろいろ腑に落ちないところがでてきて、傑作というわけにはいかない。
それでも、クイーン好みの構想は好きなので(ここが面白がれないと、そうとうこの話はつまらなく感じると思うが)、点数は甘めです。
また、クイーン作品では、かなりキャラクターが印象的な作品。個々の人物に際立った個性がある。
「災厄」などは、キャラクターは掘り下げてあるが現実にいそうなキャラクターだが(「災厄」それがよいのだが)、本作は現実にはいないようなキャラクターばかり。
(ここから、プロットの構造のネタばれ)
そこで、ふと気づいたのが、この作品「十日間の不思議」と似ていないか?
似ているところと、ちょうど相反するところがいろいろあり、表裏をなすようにみえる。
似ているところは「キャラクターの個性的なこと」「人間関係(二人の男と一人の女)」「不可解な事件が起こっていく構成」「解決編の構成」。ちょうど相反するところは「解決時の探偵の立ち位置」「犯人の扱い」「リンクの元が宗教的/科学的」「人間関係のパワーバランス」。
北村薫が、どこかで”「十日間」「九尾」「悪の起源」で探偵エラリイの挫折から復活を描いた”といったような記述をしていたと思うのだが、忘れてしまった。「十日間」との類似をふまえて改めて読み直したいのだが、どうにかわからないかなぁ。

No.7 6点 虫暮部
(2020/07/26 14:59登録)
 前回読んだのは中学校の頃。読み返す意義はあった。英語がそこそこ判るようになったので、あの手紙の部分をしっかり味わえたから。
 犬の死体と脅迫状で相手が死んだ。それは殺人罪に該当するのか、と言う問題が全然問題にされていない。
 もう一件。殺すつもりで空包を撃った、当人は実包だと思っていた、撃たれた側は空包だと承知の上で、敢えて撃たれる状況を作った。コレは殺人未遂罪? 不能犯? あの人が何罪で起訴されたかも明記されていない。そういう法律談義は作者の手に余ったのか。
 ところで“アボカド”を“西洋梨”としているのは変だね。

No.6 3点 レッドキング
(2020/03/15 17:39登録)
ホームズ長編風伝奇浪漫と操りネタの結合。ヤツメウナギ(なんじゃそれ)-マグロ-カエル-ワニ-鳥-犬猫・・・イマイチ切れ悪いな、この「環」。 でも殺人者を側近にしちゃう探偵ての素敵よ。子供の殺人鬼を毒殺しちゃう探偵てのもよかったが。

No.5 7点 クリスティ再読
(2017/05/17 22:47登録)
冒頭から「ハリウッドを殺したのは誰か?」なんて洒落た仕掛けをしてることからも窺われるように、本作リキはいってる。文章もかなりこってりと凝っているし、後期だとかなりの力作になると思うよ。
で、だけど、早い話タイトルがかなりのバレなので、見立てというか犯人の狙う絵の意味は、わりと見えやすいと思う。しかし、どっちか言うとネタがバレているからこそ、本来の事件の狙いが何なのか読めなくなる...というのがミステリとしての狙いのような気がする。絵が何なのかわかれば、事件が解る、というものではないんだな。なので、絵が「狙いは×だろ?」という感じでシラけることなく、殺人らしい殺人がなくても、サスペンスをうまく持続することに成功しているように思う。全部目くらましなのでは?という疑惑を最初から捨てれないので、どう展開するかを注視しつづけなくれはいけないからね。
後期クイーンらしく、二枚腰の真相のひっくり返し方とか手慣れた感じでもある。評者この真相(というかオチ)は結構気に入っている。幕が閉じてから、が気になるようなタイプの作品である。ロジャー・プライアムの性格を念入りに描写しているからこそ、ありそうでなさそうな、こういう犯罪が「それでもありか?」と思わせる。派手じゃなく分かりづらいが、狙いが成功している作品だ。

No.4 6点 青い車
(2016/09/27 20:02登録)
 『十日間の不思議』や『緋文字』と同じく、この『悪の起源』もまた殺人がだいぶ後半になるまで起きません。そこに至るまでの冗長さで評価を大きく落とす方もかなり多いですが、そこはクイーンも承知の上でやっているのでしょう。死体の数で面白くなるのなら、誰も苦労しないからです。本作は次々と送られてくる脅迫の謎で物語を引っ張ることで勝負しています。とはいえ、それが成功しているのかというと微妙なところです。終盤の鮮やかな推理、手紙のトリック、最後のどんでん返しと、感心するポイントも多々ある点はクイーンの矜持を感じさせるのですが。

No.3 7点 了然和尚
(2016/02/14 17:52登録)
この頃のクイーンの作風らしく、またもクイーンは真相とは別の結論を出します。言い方を変えると真犯人にまんまと利用されます。しかし、今回は承知の上であり探偵としてはかっこいいです。最初に指摘した犯人に対する疑問(こんな動機か?、頭良すぎないか?、証拠が都合良すぎないか?)はそのまま警部の疑問として示され、意外な真犯人が示されます。まあ、ちょっとお伽話的なんですが、本作では結末としてしっくりしていて、納得です。「十日間の不思議」、「九尾の猫」、「ダブル・ダブル」と連続して読んでいくと、今回のクイーンの判断が際立ちますので、この読む順番は守りたいですね。
悪の起源が種の起源をガチガチにモチーフにしているのも良かったですが、最初に死んだ犬の犬種(ビーグル)はもっと早く出しても良かったですね。(どうせわかりません)
ちなみに、結末までの展開と文体(アメリカン!)は4点もののつまらなさでした。読み終わってみれば(絵が完成すれば)高得点になるとは推理小説は奥が深いですね。

No.2 7点 Tetchy
(2010/11/05 22:23登録)
エラリイ、再びハリウッドの土を踏む。国名シリーズとライツヴィルシリーズの架け橋的な存在だったいわゆるハリウッドシリーズと云われている『悪魔の報酬』、『ハートの4』、『ドラゴンの歯』以来、実に約12年ぶりにハリウッドを舞台にしたのが本書。ロジックとパズルに徹した国名シリーズからの転換期で方向性を暗中模索していた頃の上の3作と違い、ライツヴィルを経た本作ではやはりロマンスやエンタテインメント性よりも人の心理に踏み込み、ドラマ性を重視した内容になっている。

今回も宝石商を営む裕福な家庭に隠された悪意について語るその内容はロスマクを思わせ、なかなか読ませる。半身不随の夫に美人の妻、そして好男子の秘書、そして裸で樹上に設えた小屋に住む巨人ほどの体躯を持つ息子に自然と戯れる妻の父と、明らかに何か含みがありそうな一家が登場する。しかしロスマクと違うのは、事件は毒殺未遂に蛙の死骸散布と、本格のコードを踏襲した奇想で、ぐいぐいと読者を引っ張っていくところだ。
特に今回は作者クイーンのなみなみならぬ謎に対する異常なまでの迫力を感じた。

人間の心理へ踏み込み、探偵が罪を裁くことに対する苦悩を描いてきたこの頃のクイーン。前作『ダブル・ダブル』では作品の軸がぶれて、殺人事件なのかどうか解らなかったところがあったが、本書では次々と起こる奇妙な出来事の連続技で読者をぐいぐい引っ張ってくれた。しかしその内容と明かされる真相および犯人の意図は現実的なレベルから云うとやはりまだ魅力的な謎の創出に重きを置き、犯行の必然性とマッチしないところがあって、手放しで賞賛できないところがある。
それでも次への期待感を持たせる内容だった。

No.1 6点
(2009/03/08 09:34登録)
久々にハリウッドを舞台にした本作は、しかし以前のハリウッド2作とはまた感じが変わり、やはり直前の『ダブル・ダブル』との共通点が感じられるミッシング・リンク系のプロットになっています。途中に手紙が原文のままが出てくるので、当然手がかりが隠されているはずだとはわかるのですが、英語に堪能でないと、どこがおかしいかには気づかないでしょうね。逆に手紙が英語で書かれているのが当然な英語圏の読者との違いです。
ラストのやりとりは、やはり妙に記憶に残ります。人によってこの部分に対する感じ方はかなり変わってくると思いますが、個人的には意外にすんなり受け入れられました。

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