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ミステリの祭典

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灰かぶりの夕海

作家 市川憂人
出版日2022年08月
平均点6.00点
書評数5人

No.5 6点 八二一
(2023/11/06 19:10登録)
死んだはずの恋人と再会したという不可解な状況を中心にしつつ、殺人とその背後の事情を描く。
クライマックスで明かされる事実が物語を書き換えてしまうさまが鮮やかだ。コロナ禍という現実を巧妙に扱ったミステリとして忘れ難い。

No.4 7点 sophia
(2023/04/11 23:25登録)
ネタバレあり

「揺籠のアディポクル」と似通っていますが、どこが似通っているのか書くと致命的なネタバレになってしまうのでさすがに書けません。これはみんな騙されるのではないでしょうか。とは言え騙しを成立させるために主人公が情報をかなりの部分隠しているところが文句なしの高評価とはいかなかった所以です。プロローグで語られている前置きも限りなくアウトに近いですし。しかしながら、そのような難点もラストシーンの感動で許しちゃおうかなあと悩むところも「揺籠のアディポクル」と同じです。特に今作は新海誠監督の映画みたいですね、うん。
余談ですが、2021年時点で20歳の主人公が千円札のことを野口英世ではなく夏目漱石と表現することに違和感があったのですが、特に伏線ではなかったようですね。

No.3 5点 HORNET
(2022/11/21 22:33登録)
 2年前に恋人を失い、失意の中生きる大学生・千真(かずま)の前に現れたのは、失った恋人と「瓜二つ」で、名前も同じ「夕海」という少女だった。驚き戸惑いながらも、いきがかり上夕海と一緒に暮らすことになった千真だったが、そんな折、2人で殺人事件に遭遇する。死んでいたのは、千真が慕う恩師の亡き妻とこれまた「瓜二つ」な女性だった―いったいこの世界で、何が起きているのか?

 殺人犯を追うフーダニットと合わせて、それだけではない別の仕掛けが二重に仕組まれている手法は妙。ただ。今のこのコロナ禍という状況下での読者にこそ生きる仕掛けではあるが…。自分も結構騙されたが、一方で前半から一切「コロナ」という言葉が出されないことにも怪しさを感じていたので、「何かある」とは思っていた。
 ラストまでリーダビリティを保ち続ける力作ではあるが、物語の収束のさせ方はちょっとだけ陳腐な感じもした。

No.2 5点 虫暮部
(2022/10/06 15:36登録)
 世界設定に何かあるな~と言うのは文章から見当が付いたので、あまり驚けなかった(極端な可能性を色々考えちゃったし)。もう少し早めに明かして、設定込みで事件を眺める猶予を読者に与えた方が良かったのでは。
 自殺に見せかけるために密室トリックを用いたのなら、なぜ脇腹を刺したのか。この部分は要らなかったのではないか。

No.1 7点 人並由真
(2022/09/23 15:45登録)
(ネタバレなし)
 2021年の神奈川県。20歳の大学生で配送業のバイトに精を出す本好きの若者・波多野千真(かずま)は、ある日ひとりの少女と出会う。その少女「夕美(ゆうみ)」は、一年前に千真が喪った恋人と全く同じ顔、同じ名前だった!? 千真は記憶がないらしい「夕美」を、バイト先の上司で気の良い兄貴分の木下肇(はじめ)の了解を得て、同じ職場に雇い入れてもらい、体の関係のない共同生活を始める。だがそんな二人は、配達先のとある家屋で、すでに一年前に死んだはずの人間がまた殺害される? という、そして状況的にも不可解な殺人事件に遭遇する。

 作者は今年は2冊も長編を刊行。デビュー6年目にして、ますますギアが唸ってきた感じである。

 死んだはずの恋人の復活!?  というありえない異常な状況。作者が作者だけに何らかのその手を使ってくるのだろうことは読者の大半が読むだろうし、書き手の方もそういう受け手の心理を心得た上で、何やら思わせぶりな「インタールード」を本筋の間に挿入してくる。だがそこに何かがあるのは何となく察せられるものの、それが実際に具体的に何なのかは終盤までわからない(よし、これならネタバレになってないハズだ)。

 千真と「夕美」の青春ラブストーリー、ともに本好きという文芸も作品に独特の興趣を与えており、そしてよくある手ながら、作中で話題になる本の書名がその後の展開のイメージに繋がったり、あるいは……というギミックでも用いられる。その辺も楽しい。

 広義の密室といえる、情報を整理してゆくと顕在化する不可能状況は、いかにもこの作者らしい。その部分だけでも十分に面白いが、さらに今回は評者などはアア、ナルホド、なミスディレクションの相応に大技を用いていて、その辺も印象深いものだった。
 
 ラスト、ふたりの主人公(恋人たち)の関係がどのように結着するのかは、(ハッピーエンドに終わるのかそうでないビターエンドかも含めて)ここではもちろん書かないが、作者の思い入れを存分に感じさせたクロジーングであったことぐらいは、語ってもいいだろう。この終わり方への個人的な満足度は78%、あるいは92%くらいかなあ。数字の微妙さのニュアンスは、読んだ人になんとなく伝わってくれればうれしいが。 

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