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ミステリの祭典

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HORNETさんの登録情報
平均点:6.33点 書評数:1177件

プロフィール| 書評

No.997 8点 だからダスティンは死んだ
ピーター・スワンソン
(2023/04/30 21:57登録)
 ボストン郊外に越してきたヘンと夫のロイドは、隣の夫婦マシューとマイラの家に招待された。マシューの書斎に入ったとき、ヘンは二年半前に起きた殺人事件で、犯人が被害者宅から持ち去ったとされる置き物を目にする。マシューは殺人犯にちがいない。そう思ったヘンは彼について調べ、跡をつけるが。複数視点で進む物語は読者を幻惑し、衝撃の結末へなだれ込む。超絶サスペンス!(「BOOK」データベースより)

 「隣人が殺人犯ではないか?」というサスペンスや、たどり着く真相はこれまでに何度もされてきた手あかのついたネタのはずなのだが、筆者の巧みな物語設定とストーリーテーリングでそう感じさせない(訳者もうまいのだろう)。いろんなミステリを読んできているゆえに、「まさかそのまま単純にいくものではないだろう」という見方が、一周回って面白くさせているような感じもある。
 何にせよ、期待を裏切らない出来。今後も読み続けたい、お気に入りの作家。


No.996 6点 森の中に埋めた
ネレ・ノイハウス
(2023/04/30 21:42登録)
 キャンプ場でキャンピングトレーラーが炎上し、大爆発が起きた。放火の痕跡があり、男の焼死体が見つかる。刑事オリヴァーとピアは捜査を始め、車の持ち主がオリヴァーの知人の母親だと判明するが、余命わずかな彼女が何者かに窒息死させられてしまう。さらに新たな殺人が続くが、関係者はオリヴァーの知り合いばかりで…。(「BOOK」データベースより)

 オリヴァーの故郷であるルッペルツハインで起きる謎の連続殺人事件は、オリヴァー自身の少年時代の出来事、そして友達たちに深く関係していた。40年前に行方不明となったままだったオリヴァーの親友が、白骨死体となって発見されたことから事件は深部に入っていく。4ページにも渡る多くの登場人物、さらには覚えにくいドイツの名前ということもあって何度もその登場人物表を確かめながら読む羽目にはなったが(笑)、700ページにも及ぶ厚みでありながら持続する動的で飽きさせない展開は健在。
 複雑な人間関係に混乱してきているので、良くも悪くも、真相にたどり着く過程が精緻なものだったかどうかはもう気にならなくなっている。よくよく考えれば「そんなこと、もっと早く気づけたのでは?」ということでもあるような気はするが。
 まぁ高いリーダビリティで楽しさを最後まで持続できたので〇。


No.995 7点 此の世の果ての殺人
荒木あかね
(2023/03/31 21:38登録)
 日本に小惑星が衝突することが発表され、その衝突を2か月後に控えた世界。社会は、何とか生き延びようと必死になる人、滅亡を受け入れて残りを過ごす人、絶望して自死する人らでパニックになっていた。そんななか小春は、淡々と自動車の教習を受け続けていたが、ある日教習者のトランクに入った女性の死体を発見。自動車学校の教官で元刑事のイサガワとともに、地球最後の謎解きを始める2人だった――。
 上記のような特殊世界設定でなかなか惹かれる冒頭だったが、結果的にこの設定が生きたのは「大量殺人の煙幕」という点だけに感じる。ちゃんとしたフーダニットのミステリで面白かったが、特殊な世界を舞台としたことがそのミステリに寄与している感じはあまりなかった。
 むしろ主人公と教官のイサガワ、それぞれのキャラ立てが物語の面白さを支えている。なかなかに意外な犯人だったが、謎解き以外の部分を飾り立てて面白く仕上げている作品という印象ではあった。


No.994 7点 希望の糸
東野圭吾
(2023/03/31 21:23登録)
 2人の我が子を災害で亡くしたのち、新たに授かった娘を育てるシングルファーザー・汐見行伸。夫と離婚後、一人で喫茶店を営んでいた女性・花塚弥生の殺人事件。離れた場所で起きている、全く関係のなさそうな事案が、加賀恭一郎らの捜査によって結び付けられていく―

 著者の作品群では、特に加賀恭一郎シリーズが好きで好んで読んでいるのだが、本作では加賀の従弟であり部下である松宮脩平が前面に出ている作品。その松宮自身の問題も複線的な物語となっており、厚みのある作品ではあったが「加賀の鋭い推理による事件解明譚」を期待して手を付けた身としてはちょっと肩透かしだった。
 ただ、喫茶店経営の女性殺害事件と、その裏にある父子家庭の家庭事情が結びついていく過程は予想できる類のものではなく、相変わらずの著者の多彩なアイデアには感嘆した。


No.993 6点 悪母
春口裕子
(2023/03/31 21:07登録)
 岸谷奈江と一人娘の真央は、入園を予定していた有名幼稚園へ見学に向かう。ところが、園長の元には一通の匿名メールが届いていた。奈江が属するママ友グループのいじめで家庭が崩壊したという告発だった。その後も、子どもたちの健やかな成長を呪うかのように、悪意に満ちた出来事が続く。追い詰められた奈江に待ち受けるのは救済か、破滅か。(「BOOK」データベースより)

 いわゆる「ママ友」のしがらみの中で、息苦しさや懊悩を抱えて生きる母親を描いた、昨今ちょくちょく見られるジャンル(?)。
 過去に、ママ友内で「いじめ」をしたとされている奈江を主人公とした連作短編の形で、一編一編を単作として読んでもなかなか面白い。第二話「毒の葉」、第四話「難転」あたりがミステリとしてもなかなかよかった。
 ラストは読者の見方が反転させられる仕掛けだが、こうした類に読み慣れている層もいるかと思われる。私もその一人だった。


No.992 7点 教誨
柚月裕子
(2023/03/19 17:12登録)
 吉沢香純と母の静江は、女児2人を殺害した罪で死刑となった親戚、三原響子から身柄引受人に指名された。刑は執行され、遺骨と遺品を受け取ることになった香純たちだったが、その納骨先がない。何とか三原響子の実家に引き取ってもらおうとお願いするがうまくいかず、そんな中香純は、響子が刑の執行前に遺した最後の言葉を知る。「約束は守ったよ、褒めて」―約束とは何なのか、響子の罪の裏には何があったのか。幼いころの響子を知る香純は、その真相を解明すべく動き出す―

 事件の背景にあった罪人の事情やいきさつを追求する、ホワイダニット的な物語。三原響子が子供時代に受けていたいじめや、田舎に根強く残る家柄差別など、さまざまな要素が絡んだ一人の女性の人生が浮き彫りになる。「約束」の中身を知ったとき、守りたかったもののあまりの小ささや、縛られた価値観に、身につまされる思いになる。
 柚月裕子らしい題材と描き方で、入り浸って読んでしまう一作。


No.991 6点 邪教の子
澤村伊智
(2023/03/19 16:55登録)
 ありがちなニュータウンに、そこにカルト教団「コスモフィールド」の信者の家族が引っ越してきた。その家の娘の茜は、信者である母親に虐待を受けているらしい。主人公の慧斗は、その現状を見かねて茜の救出に乗り出そうとする。

 ある意味昨今よく題材とされる「新興宗教」をめぐるお話なのだが、物語を読み進めていくうちに当初の予想とは違う展開に。仕組まれた物語の構造に読者の視点はひっくり返され、ミステリに読み慣れていなければなかなか意表を突かれると思われる。
 真の構造が明らかになってからの後半も、黒幕の正体に関しての謎が持続され、興趣が尽きることなくラストまで読み進められる。やや強引な仕掛けと感じるところもあるが、まずます楽しめた。


No.990 6点 時限感染
岩木一麻
(2023/03/19 16:45登録)
 ヘルペスウイルスの研究をしていた大学教授の首なし死体が発見された。現場には引きずり出された内臓のほかに、寒天状の謎の物質と、バイオテロを予告する犯行声明が残されていた。猟奇殺人にいきり立つ捜査陣であったが、彼らを嘲笑うように犯人からの声明文はテレビ局にも届けられる。事件に挑むのは、警視庁捜査一課のキレ者変人刑事・鎌木。首都圏全域が生物兵器の脅威に晒される中、早期解決を図るべく、鎌木は下谷署の女性刑事・桐生とともに犯人の手がかりを追いかける。しかしテロは水面下で静かに進行していて――。標的は三千万人! 果たして、史上最悪のバイオテロを止められるか? 読者を眩惑する、怒涛のどんでん返しに二度読み必至。その完全犯罪は、誰にも止められない――。

 ウイルスを武器としたバイオテロ。潜伏期間が長いため、犯人が仕掛けてから事が起きるのに年単位のラグがあることが物語のミソ。加えて犯人の真のねらい、つまり「動機」の真相がラストに開陳されるところもなかなか考えて仕組まれていた。疾走感のある展開で、リーダビリティは高い。まずます楽しんで読めた。


No.989 5点 濱地健三郎の呪える事件簿
有栖川有栖
(2023/02/23 20:39登録)
 霊視ができる心霊探偵・濱地健三郎シリーズ第三弾。
 著者の魅力は、探偵がフーダニットの事件を解決するというオーソドックスなスタイルへではあるので、これは変化球のシリーズ。やはり一番好きなのは著者の本格作品だが、これはこれで素直に楽しめる。
 「戸口で招くもの」は、光景を想像するとゾッとするものがあり、本作品集の中では一番良かったかな。「囚われて」なんかは完全なホラー。著者のファンは、上記のようなミステリを期待している人が多いと思うので、「こういうのもそれはそれで面白い」と思うか、「有栖川有栖に求めているのはこういうのじゃない」と思うか、きっと評価は分かれるだろう。
 私は前者なので、シリーズが続くのであれば読みたい。


No.988 7点 審議官
今野敏
(2023/02/23 20:24登録)
 大人気シリーズの登場人物を主人公としたスピンオフ第3弾。(法則を破って題名が「3文字」になってしまった 笑)
 長編の本シリーズでは、ついに竜崎伸也が本庁に復帰し、大森署長を退任して異動したところ。本作では、竜崎の異動後に大森署に残った面々(斎藤警務課長、貝沼副署長、関本刑事課長、板橋捜査一課長など)を主人公にした「その後」や、竜崎の家族(妻、娘、息子)を主人公とした短編が収められており、非常にバラエティに富んでいる。
 よって竜崎が直接登場して采配を振るう場面は皆無だが、竜崎の哲学に影響を受け、そして頼りにしているシリーズメンバーの日常が巧みに描かれておりとても面白い。
 つぎはいよいよ隠蔽捜査「10」。待ち遠しい。


No.987 7点 チェスナットマン
セーアン・スヴァイストロプ
(2023/02/12 16:24登録)
 コペンハーゲンで若い母親を狙った凄惨な連続殺人事件が発生。被害者は身体の一部を生きたまま切断され、現場には栗で作った小さな人形“チェスナットマン"が残されていた。人形に付着していた指紋が1年前に誘拐、殺害された少女のものと知った重大犯罪課の刑事トゥリーンとヘスは、服役中の犯人と少女の母親である政治家の周辺を調べ始めるが、捜査が混迷を極めるなか新たな殺人が起き――。(「BOOK」データベースより)

 700ページ近い厚みのある1作だが、途切れることのない動的な展開に引き込まれて苦なく読み進められる。1年前に起きた誘拐殺害事件はすでに犯人も捕らえられ、犯人自身が犯行を自供しているのに、なぜその被害少女の指紋が全く関係のない殺人現場から出てくるのか?1年前の事件を「解決済み」としているため、捜査を掘り返すことはご法度という警察上部、その捜査に疑念を挟む現場刑事、という構図はまぁよくある構図ではあるが、結局のところは面白い。真犯人の意外性もなかなかで、そちらから弾が跳んでくるとは正直思っていなかった。
 読み応えのあるデンマークの警察小説だった。


No.986 6点 悲鳴だけ聞こえない
織守きょうや
(2023/02/12 16:08登録)
 パワハラ相談、遺言、自己破産など、弁護士事務所に持ち込まれる庶民的な相談を題材にしたミステリ短編集。
 題材としての眼の付け所が面白く、純粋に話として面白い。特に後半は遺言・相続にまつわる話だが、依頼人の隠し事や、隠された家族関係を解き明かしていくさまはなかなか興味深いものがあった。
 収録作品中では「無意味な遺言状」と「上代礼司は鈴の音を胸に抱く」が印象的だった。「上代…」は中盤でほぼ真相が看破できたが、それでも最後まで面白かった。


No.985 7点 録音された誘拐
阿津川辰海
(2023/02/12 16:02登録)
 大野探偵事務所の所長・大野糺が誘拐された。驚異的な聴力をもつとされる助手・山口美々香は様々な手掛かりから、微妙な違和感を聞き逃さず真実に迫るが、その裏には15年前におこった大野家の隣人の誘拐致死事件の影があった。誘拐犯VS.探偵たちの息詰まる攻防、二転三転する真相の行方は……。

 とらわれた大野糺と誘拐犯とのやり取りと、警察・美々香側の捜査が交互に描写され、両者の攻防が臨場的に描かれている。複線として美々香の家族にまつわるストーリーもあり、物語に広がりをもたせている。
 終盤にはさまざまな事柄について裏の裏があり、ちょっと仕掛けに凝りすぎている感じもしないではないが、糺&美々香コンビに望田を加えた大野探偵事務所3人の温かな関係性は心地よく、よく作られた話だと思った。


No.984 6点 真夜中の密室
ジェフリー・ディーヴァー
(2023/01/29 20:52登録)
 就寝中の女性の部屋に侵入し、いくつかの物に触ったうえ、「因果応報―ロックスミス」という謎の書置きを残していくという侵入事件が連続する。家宅は厳重な錠で守られ、破られた跡もなく犯行後も閉まっているのに、侵入者はどうやって出入りしたのか?目的は何なのか?被害者たちを心から震え上がらせる犯行の解明に、リンカーン・ライムが乗り出す―

 久しぶりのライムシリーズ。意味深な声明を残した連続の犯行、という形は本シリーズのテンプレートでもあり、よくも悪くも安定している。今回は女性宅に侵入するも、危害は加えずに侵入の跡だけ残すという犯行で、殺人ではないが、「犯人の目的は何なのか?」という点では逆に興味をそそる。
 本筋の「ロックスミス事件」と並行して、ライムが手掛ける他事件の進捗も描かれるが、それが何らかの伏線となることはこれまでのパターンからも予想はついた。が、それでも最後の真相はそれなりに驚かされ、あくまでも「どんでん返し」を仕込むその腕は相変わらず健在だと感じた。
 シリーズ中では標準作と思うが、基本的な水準が安定しているので、今回も楽しめた。


No.983 5点 クイーン検察局
エラリイ・クイーン
(2023/01/29 20:39登録)
 アイデア一発のショートショート集。ちょっと紙幅のある「推理クイズ集」のような趣ともいえる。純粋な「謎解き」を主眼としているのでなかなかに面白い。
 他作品を読んでいるということもあるだろうけど、内容的にも「ライツヴィルの盗賊」がよかった。


No.982 6点 ミランダ殺し
マーガレット・ミラー
(2023/01/21 19:50登録)
 作品のほとんどは、若さに固執する美熟女と、それを取り巻く人たちの通俗的な人間模様を描いた物語。ラスト近くにやっと事件が起こる。そういう意味では、ミステリを求める読者には退屈に感じるかもしれない。
 私は、そんな前半も結構楽しめた。さまざまな思惑をもつ人たちの愛憎劇と、その調査を淡々と行う弁護士・アラゴンのキャラクターがよかった。
 長さの割にはそれほどの仕掛けでなかった気はするが、作者らしさは十分に出ている作品ではないかと思う。


No.981 6点 濱地健三郎の幽たる事件簿
有栖川有栖
(2023/01/21 19:42登録)
霊視能力がある男が探偵役を担う、特殊設定のシリーズ。とはいえ、推理の入る余地があるため、本格ミステリ好きの有栖川ファンも楽しめる。
 本短編集では、「姉は何処」「浴槽の花嫁」なんかがそんな感じで面白かった。「お家がだんだん遠くなる」はちょっと趣を異にしているけど、時間に追われる切迫感もあってよかった。
 ラストの「それは叫ぶ」は、完全なるホラー、心霊話。悪くはないんだけど、前半の方の短編の方が好みかな。


No.980 8点 ロンドン・アイの謎
シヴォーン・ダウド
(2023/01/14 19:56登録)
 12歳のテッドは、気象学に偏執的な興味を示し、人付き合いの機微が分からない、高機能自閉症傾向の少年。彼の叔母が、息子のサリムを連れて家にやってくることになった。サリムはテッドの特性を「かっこいい」と言ってくれた。だがそんなサリムが、ロンドン名所の観覧車「ロンドン・アイ」に乗った後、消えてしまった。サリムはどこに行ったのか?特性をもちながらも、天才的な頭脳を持つテッドが真相解明に乗り出す。

 本格ミステリとしての論理的な謎解き、障害的な特性をもつ少年とそれを取り巻く家族や周りの目の物語、そして思春期の姉弟の物語…さまざまな魅力を見事に編み込んだ名作。ヤングアダルト向けの作品かもしれないが、十分に魅力的な作品だった。
 特にサリムが消えた謎の解明後、終盤の「サリムはどこにいるのか?」の謎解きとそこに結びつけられていた物語の伏線には脱帽した。
 とても楽しめた!


No.979 7点 カーテンが降りて
ルース・レンデル
(2023/01/14 19:41登録)
 特別な舞台でもない、一般人の日常に潜む邪悪さや弱さ、あるいは他人の悪意を邪推した勘違いを、短編で端的に描き出している作品集。
 特に本短編集は、「悪い心臓」「要人の過ぎた女」「はえとり草」などの、他人の悪意を邪推した勘違いの悲劇が面白かった。主人公が、ある人物相手にさまざまに悪意を想像して怯えるのだが、その筋のサスペンスかと思って読んでいるとそれが「一方的な勘違い」で、却って悲劇を生んでしまうというパターン。ちょっとそれを予想しつつ読んでいても、結局面白い。
 その他、夫殺しを画策した妻の悲劇「コインの落ちる時」、殺し屋の意外な主義嗜好により展開に至る「人間に近いもの」など、短い展開でレンデルの魅力を堪能出来る粒ぞろいの作品集。
 面白かった。


No.978 8点 緑の檻
ルース・レンデル
(2023/01/14 19:25登録)
グレイ・ランストンは資産家の夫をもつドルシラと不倫関係にあったが、「夫を殺そう」というドルシラのそら恐ろしい持ちかけに応じることはできず、別れた。しかし、そんなことさえなければグレイは、ドルシラと関係を続けていたかった。ドルシラを思い悶々と過ごす日々の中、少しずつ事態は動いていく。

 女性に恋をし、別れたことがあれば誰しも経験するであろう男の未練、妄執を巧みに描いた、非常にレンデルらしい作品。別れた女性との過去を断ち切り、生活を送ろうとする男の日常が淡々と描かれているようで、物語は後半に一気に加速する。
 レンデルのノンシリーズをいくらか読んでいるので、ある程度行く先は予想ができたが、それを踏まえても面白い。
 普通の人間が誰しも抱えうる暗部を巧みにえぐり描き出す、著者の「らしさ」が出ている快作。

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