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ミステリの祭典

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ロンドン・アイの謎
少年名探偵テッド・スパーク

作家 シヴォーン・ダウド
出版日2022年07月
平均点7.25点
書評数4人

No.4 8点 まだ中学生(仮)
(2024/09/09 21:13登録)
テッドとカットとサリムの三人は巨大観覧車「ロンドン・アイ」のチケット売り場の長い行列に並んでいると、見知らぬ男がチケットを一枚譲ってくれた。それを手にしたサリムだけが観覧車に乗り込み、テッドとカットは下で待つことに。ところが三十分後に下りてきたカプセルの中に、サリムの姿はなかった。
テッドとカットはサリムの消失の謎を検討しようとする。カットは勝気な性格で、パワフルな行動力の持ち主。それに対し、テッドは観察力と思考力に秀でた頭脳派だ。
テッドは複数の仮説を立て真相に迫るが、それらの中に人体自然発火やタイムワープといった、到底あり得そうにないものも混じっている辺りが子供らしく微笑ましい。とはいえ、それらをひとつずつ外しながら、最もあり得そうな真相を絞り込む過程は理詰めである。推理と冒険によって到達した真相はなかなか意表を衝くものである。

No.3 7点 人並由真
(2023/01/17 17:21登録)
(ネタバレなし)
 過分に生臭い叙述や煽情的な描写がないという意味で、確かにジュブナイルではあろうが、ほとんど普通の成人向け作品だとも思う。英国のこの種の作品の、進化というか、ある種の成熟めいたものを感じた。

 伏線の回収を含めて全体的に丁寧な作りでホメるにやぶさかではないが、一方でそのあまりのソツの無さにどこか悪い意味で、実に優等生的な一冊、という感慨が生じてしまった。

 十分に佳作以上、いやたぶん秀作認定してよいのだろうが、素直に賞賛しきれない、こんな自分にいささか(以下略)。

No.2 8点 HORNET
(2023/01/14 19:56登録)
 12歳のテッドは、気象学に偏執的な興味を示し、人付き合いの機微が分からない、高機能自閉症傾向の少年。彼の叔母が、息子のサリムを連れて家にやってくることになった。サリムはテッドの特性を「かっこいい」と言ってくれた。だがそんなサリムが、ロンドン名所の観覧車「ロンドン・アイ」に乗った後、消えてしまった。サリムはどこに行ったのか?特性をもちながらも、天才的な頭脳を持つテッドが真相解明に乗り出す。

 本格ミステリとしての論理的な謎解き、障害的な特性をもつ少年とそれを取り巻く家族や周りの目の物語、そして思春期の姉弟の物語…さまざまな魅力を見事に編み込んだ名作。ヤングアダルト向けの作品かもしれないが、十分に魅力的な作品だった。
 特にサリムが消えた謎の解明後、終盤の「サリムはどこにいるのか?」の謎解きとそこに結びつけられていた物語の伏線には脱帽した。
 とても楽しめた!

No.1 6点 nukkam
(2022/09/24 23:28登録)
(ネタバレなしです) 英国の女性作家シヴォーン・ダウド(1960-2007)が生前に発表した小説はわずかに2作。しかしその実力は既に高く評価されていたようで、未発表作品も相次いで死後出版されただけでなく未完の作品までが他作家によって完成されて出版されました。それでも作品数は10作に満たないのですけど。2007年発表の本書は前述の2作の内の1作で、この作者としては珍しいミステリ作品とのことです。序文を寄せたロビン・スティーヴンスが、児童向けのミステリが華やかな黄金時代にあること(へー、そうなんだー)、本書はその先駆けで大胆で魅力に満ちたミステリ作品としていまなお並ぶものがほとんどないと大絶賛です。私は児童向けミステリをほとんど読んでないので比較はできませんけど、失踪事件というミステリのテーマとしては魅力に乏しいネタながら監視状態にあった大観覧車「ロンドン・アイ」からの消失という不可能事件要素を絡めて本格派推理小説としての謎解きを盛り上げます。個性豊かな登場人物たちによる起伏に富んだ人間ドラマもよくできており、大人読者の鑑賞にも耐えられる作品だと思います。

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